復興文化論 日本的創造の系譜

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  • 青土社
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (420ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791767335

感想・レビュー・書評

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  • 2018/01/19 19:02:47

  • まだ第二章までだけど、普段読まない本なので時間掛かってしまうしでも面白いのでメモ的に。

    日本の文学というか、まず記録が中国の史記的な客観的総合的記録ではなくて結局「隙間をぬう」実用例集(データベース)になっていた、というのはおもしろい。
    そしてまた、「首都の雅び」を記録していた文芸が、戦災・災厄(地震雷火事)によってそれ自体を記録する「物語」に取って代わられる、というのも。
    文芸は不得意なので、自分の知ってるものに押しつけると、太平洋戦争とその終結から僅か10年弱で産み出された「ゴジラ」の存在を思ってしまう。
    まあこれは今まさに、東日本大震災を経験し、たったの5年で風化しつつある中「シン・ゴジラ」の公開を控えている現状を、なんとなくタイムリーに感じてしまうからかもしれないが。だってあれ「現実vs虚構」がメインテーマみたいだしなー。
    第1章の空海の話も面白かった。日本の文芸が基本的に「傍流へと零落していった」者たちへの視線で出来ていて、その「復興」においてどういう行動をするか、すでに予告されている、というのはカッコイイ、と思ってしまった。
    はたして、消化し切れていないので、もっとちゃんと考えながら読んでいかんといかんけど。

  • 戦争や大災害といった巨大な災厄の跡には、その文化圏に特有の性格をもった文化が立ち上がってくる。それを「復興文化」と位置付け、日本の復興文化の特徴を歴史を辿りながら解き明かしている。

    巨大な災厄によって大きな空隙がもたらされたとき、その傷跡を復旧というかたちでベースラインに戻す営みではなく、そこから新しい文化が立ち上がってくることが、日本の歴史を通じて繰り返されてきた。

    例えば、柿本人麻呂の和歌や空海の(書物ではなく)超人的な行動が生み出した新しい文化から、宮崎駿のアニメによる「工作人」としての職人文化の力まで、筆者は多種多様なものを柔らかな視点で見わたして、そのことを教えてくれている。

    このような文化の働きは、それ以前の文化を記憶すること(歴史)や、災厄によって失われた命を弔うこと(鎮魂)でもなく、また災厄そのものを見つめ、その結果を嘆いたり無常観を深めるといったものとは異なるものである。

    むしろ、災厄そのものやそれ以前の文化から離れ、新しい文化の主題や方法論が生まれ、文化そのものに活気をもたらすという営みである。

    無常や敗北といったテーマではなく、「復興」の事例が日本の文化史の中に数多くみられるということは、自分にとって新しい発見であり、また、文化の役割、文化の力というものについて、新しい視点から考えさせてくれた。

    「傷を美学的に鑑賞するのではなく、そこから新しい実践的哲学を育てなければならない。」という文に、筆者の文化の役割に対する強い思いが感じられた。

  • とても面白かった。なぜ自分は西洋の一時代の理屈を細かくつついているんだろうと思わせてくれるような、大胆ながら奥行きのある文化史の風景を見せてくれた。
    文体が新しい。21世紀的かつ癖がない。扱っている対象は古典的だし、論じる手段も文献を多く引きながらやっているのだろうが、あえてすぐに古臭くなりそうな文体で書いているのはわざとだろうか。どうしてもそこに現代的な何かを残したかったのか。

  • 重たい。が、「無常観」に逃げない日本文化への期待と叱咤。

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著者プロフィール

1981年京都市生まれ。文芸批評家。京都大学文学部博士後期課程修了。現在は立教大学文学部文芸思想専修准教授。文芸からサブカルチャーまで、東アジアの近世からポストモダンまでを横断する多角的な批評を試みている。著書に『復興文化論』(サントリー学芸賞受賞作)『厄介な遺産』(やまなし文学賞受賞作)『辺境の思想』(共著)『ウルトラマンと戦後サブカルチャーの風景』『百年の批評』『らせん状想像力 平成デモクラシー文学論』『ハロー、ユーラシア 21世紀「中華」圏の政治思想』『感染症としての文学と哲学』等がある。

「2022年 『書物というウイルス 21世紀思想の前線』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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