「らしい」建築批判

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  • 青土社
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  • Amazon.co.jp ・本 (340ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791768110

感想・レビュー・書評

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  •  近代・現代建築の潮流を把握する入門書としては面白いが、現代建築の前面否定に終止し、これからの未来に向けた展望が全く見えないのが残念。

     ヴェネチアビエンナーレのオープニングは、必ずアートバーゼルにくるコレクターのカレンダーに合わせて開催される。なぜなら、ヴェネチアで見たものが、バーゼルでは買えるから。
     石上純也の建築インスタレーションをまるで正規の「建築」のように見なしてしまう今日。建築家自身が、建築はアートと方を並べたと勘違いしている。これは、建築と建築家をブランドにしようとする資本主義の力学が、したたかにアート市場の背後で強く蠢いていることの現れ。
     このような「らしい」建築が特に顕著になったのは、1970年代から。その頃から、世界的なレベルで国家よりも資本の方が、権威と財力を持つようになった。それ以降、公共建築より、資産家のコレクションによる美術館やブランドブティックの店舗が、建築の重要な作品として目立つようになってきた。
     コルビュジエと「らしい」建築の違いは、前者は社会変革によって、多くの人に良質な建築を平等に、かつ安価に流布させるために、規格化と量産化をあえて試みた。それに対し、ザハに代表される今日の「らしい」建築家は、そのような革命精神、禁欲的精神をすっかり喪失している。そのようなイデオロギーが骨抜きにされた趣味的な建築が後者に相当する。
     MoMAテレンス・ライリーの目論んだ「ネオモダニズム建築」は、新しい概念の提示ではなく、結局のところ、20世紀前半の革命アヴィアンギャルド達、ウラジーミルタトリン、カジミールマレーヴィチ、コルビュジエ、ミースら、のリサイクル/リバイバルでしかなかった。

    ■メモ
    ・ロシア革命期前後のロシア構成主義、シュプレマティズム
    ・伊東豊雄が偏愛した建築家・篠原一男は、「社会から隔絶された小さな住宅内部にのみユートピアが宿る、住宅は芸術である」「自律した芸術としての建築」とし、社会性、他者性を一切無視して、自閉的で、自己だけが満足できる抽象性の美学に浸り、周囲の環境から自身を閉ざした。「直方体の森(1971)」作品至上主義。「直方体の森(1971)」
    ・1995MoMA「Light Construction」展 チーフ学芸員テレンスライリーによるキュレーション
     伊東豊雄、妹島和世、槙文彦、ジャンヌーベル、ベルナールチュミ、ヘルツォーク&ムーロン、ピーターズントー、レムコールハース、スティーヴンホール、フランクゲーリーらが出品
    ・ザハハディド「ヘイダル・アリエフ文化センター」「ギャラクシーSOHOプロジェクト(北京)」「広州オペラハウス」「ピエール・ヴィーブ(モンペリエ)」
    ・フランクゲーリー「ノヴァルティス社(スイス/バーゼル)」「エイト・スプルス・ストリート(NY)」「ルイヴィトン財団美術館(パリ)」「アレクサンダープラッツ・レジデンシャルタワー」
    ・コープ・ヒンメルプラウ「国際コンファレンスセンター(大連)」

  • 2015/11/16

  • 思うところがありすぎて、なかなか感想をUPできないでいる間に、本著でも痛烈な批判対象の口火だった新国立競技場の1件が白紙に戻った!(・o・)※
    決断できるんじゃん!と讃えたいところだけど、下心が下衆すぎてげんなりくるわ。
    …とはいえ、極めてバカみたいな無駄使いは無くなってよかったけどね。
    しかし、批判の骨子である「建築は芸術か?」と「ブランドとしての建築家」の批判が小気味いいくらい痛烈であるが、資本主義システムの中でいくらこんなことを言っていても徒労に終わるのだろう…という作中漂う諦観感にもなんともいえない共感を覚える。
    ネコも杓子も個人も「ブランディング」するのが売れるためには必要で、巷で流行るノウハウも「ブランディング」だ。
    こんな風潮から建築だけが実直な姿勢でものを作れるか?というとそうではないわけで。
    資本主義の外を、外からを、どう観るか?というところになるのだろうがそんな簡単にも観えず、難しい。
    誰もが無意識にも意識的にも苦しみ悩んでいるところなのではないかと思う。

    あと、参照引用資料が面白すぎて、私にとってはちょっとしたレファレンス本にもなりそうだ。
    一旦借りて読んだのだが、買いたい1冊。

    ※ 2015/07/17「白紙に戻す」首相が明言…新国立競技場計画 http://goo.gl/2jJmCp

  • 一貫した主張をもってポストモダン建築に対する痛烈な批判を展開する本書は建築史についても概観しているため、建築初心者でも分かりやすく、難解な引用が多いが分かりやすく読み解いているため非常に読みやすい。一方では単純化しすぎていると感じられる解釈もあるが、概ねズレは無いと思われる。

  • 貸し出し状況等、詳細情報の確認は下記URLへ
    http://libsrv02.iamas.ac.jp/jhkweb_JPN/service/open_search_ex.asp?ISBN=9784791768110

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著者プロフィール

1959年生まれ。建築評論家。多摩美術大学教授。

「2013年 『破局論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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