アレハンドリア アリス狩りV

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  • 青土社
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791769599

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  • 博覧強記の「学魔」による表象文化論集。
    サブタイトルは前口上によれば
    処女評論集『アリス狩り』から数えてシリーズ第五弾故。
    タイトルはアレクサンドリアのスペイン語表記で、
    紀元前300年頃、プトレマイオス一世によって建てられた
    アレクサンドリア図書館に由来するらしい。
    世界中の文献収集を目的として建設され、
    古代最大の図書館とも呼ばれたが焼失したという例のアレ。
    キーワードは「渦」「ピクチャレスク」
    そして何より「マニエリスム」。
    俎上にはメルヴィル、ボルヘス、漱石、乱歩から赤塚不二夫まで。
    うねり、回転し、解剖され、陳列される。
    この「めくるめく」知の収蔵庫は決して消滅しないだろう。

    ところで、文芸評論にて未読作が紹介されていたとき、
    知らないけれど惹き込まれる場合とそうでない場合があって
    「いつか読んでみたい」と思っているか「わりとどうでもいい」かの
    違いという気がするが、
    特に大切なのは既読作を再読したいと感じるか否か、かもしれない。

    以下、個人的なメモ。

    ++++++++++

    ■メルヴィル『白鯨』論(p.15-41)
     「白」と「鯨」は相関し合う円運動であり、
     作品全体が「世界」「宇宙」などの語源考である。
    ■ボルヘス論(p.43-65)
     マニエリスム←→メタフィクション。
     ボルヘス「『ドン・キホーテ』の著者ピエール・メナール」について。
     p.57 マニエリスムが独墺圏・東中欧圏から
     外に出ていかないのに業を煮やし
     ↑
     講談社学術文庫『近代文化史入門』p.44
     > 英文学史にマニエリスム観念を持ちこんだ[略]
     > アンタルはハンガリー人。[略]
     > アルノルト・ハウザーもハンガリー人。[略]
     > マニエリスム復興のいま一人の立役者
     > ドイツ人エルンスト・ロベルト・クルティウスの
     > 弟子が『迷宮としての世界』の
     > グスタフ・ルネ・ホッケである。
     > このホッケがブルガリア系、
     > あとは皆ハンガリーかポーランド。
     > これだけでも
     > 二十世紀後半の人文科学を考える際に、
     > 東・中欧を抜きにすることの無意味がよくわかる。
    ■英文学における悪魔(p.67-83)
     古代ケルト文化の影響、抑圧された混淆宗教→
     善悪二元論→悪魔の機能を取り出した
     演劇「モラリティ・プレイズ」→シェイクスピア
     →19世紀末、
     ブラム・ストーカー『ドラキュラ』=
     抑圧されたケルト文明の都市文化に対する復讐の形で
     出現した悪魔
     →悪魔文学のコミカル化→縮小問題。
    【中略】
    ■シャーロック・ホームズ(p.97-109)
     ローマ劫掠[※]に始まる約百年
     =「マニエリスム」=キーワードは沈滞、断片化、
     憂鬱、倒錯、狂気、過剰=
     パルミジャニーノら当時の画家たちの異形のアート。
     [※]1527年5月、
        神聖ローマ皇帝兼スペイン王
        カール五世の軍勢がイタリアに侵攻し、
        教皇領のローマで殺戮・破壊・強奪・
        強姦などを行った事件。
     ヘンリー・ジェイムズ(1843-1916)の生涯は
     ルネサンス・マニエリスム観念の生成史と重なる。
     ヘンリー・ジェイムズ‐ウォルター・ペイター
     ‐シャーロック・ホームズ
    ■不思議の国のアリス(p.111-135)
     マッド・ティーパーティのテーブルが
     円形でないのは何故か、そもそもテーブルとは何か。
    ■漱石『文学論』(p.139-150)
     隠れたキーワードは「理論」、
     あからさまなキーワードは「解剖(する)」。
    ■川端康成『浅草紅団』(p.151-168)
     浅草風物詩×メタフィクション「浅草紅団」。
     マニエリスティックなまでに
     抽象的に景観を把握するパノラマニア。
    ■世紀の六十路
     1760年代ヨーロッパ文芸のキーワードは
     specter=幽霊,亡霊。
     世界を二分し、
     一方を「他者」として外在化する構造は
     1760年代に絶頂に達した
     (バーバラ・M・スタフォード)。
     日本は宝暦明和の時代で
     平賀源内『根南志具佐』,上田秋成『雨月物語』。
    ■乱歩表象論
     英国ピクチャレスク文化への深甚な理解力。
    【中略】
    ■驚異の部屋
     物の横溢の原点である
     17世紀中葉オランダのチューリップ狂い、
     物が溢れ返ることから来るプレッシャーに対応する
     技術としてのマニエリスム、及び
     それが伴う眩暈の感覚について。
     それらを目で見て分類し、編集する快楽の誕生。
     遠近法とメタフィクショナルな意識の発生。
     迷宮、深淵、サブライムの美学。
     啓蒙主義の始まりとされる18世紀半ば、
     百科全書の登場。
     博物学の登場=
     「知るためには殺さなければならない」。
     うねる曲線美の風景から
     19世紀ロマン派の「めくるめき」への耽溺。
     商業におけるサブライム=デパートと万博と見世物。
     手書き文字と活字、反転する合理と非合理。
    【中略】
    ■澁澤龍彦と山口昌男
     表面上黙殺し合っていたかのような二者の共通点と
     相違。
     澁澤が学者に譲ると言って触れなかった仕事を
     引き受けたかのような山口によるシュルレアリスム/
     マニエリスムの定義。
    ■金子國義
     画家・金子國義のエッセイに見る配置‐構図の問題。
     春画×マニエリスム
    ■ヨーロッパのマニエリスムと
     江戸のエロティック美術=春画。
     春画の肝は描線すなわち直線と曲線それぞれの
     極限美にあり、曲線が曲線を呑み込む構図には、
     セックスを戦いに喩えてきた西欧ポルノグラフィとは
     異なる「なごみ」が存在する。
    ■赤塚不二夫
     『サザエさん』vs『バカボン』。
     バカボン一家の「家」――
     その内と外、heim ←→ unheimlich(異化)。
     昭和の小体(こてい)な家屋の内に広がる
     unheimlicheな異次元空間。
    ■ホッケの影の下に~文学におけるマニエリスム
     1970年前後のマニエリスム本邦紹介の勢い=
     一種のブーム。
     澁澤龍彦、種村季弘、由良君美らが
     雑誌に健筆を振るった。
     ホッケはマニエリスムを
     ヨーロッパ的人間の問題と見なしたが、
     江戸~大正‐昭和初年における日本の文学・美術界も
     相当なものである。
     ホッケが依拠した文献の大半は翻訳されて
     日本語で読める、これは相当に恵まれたことである。
    【後略】

  • 貸し出し状況等、詳細情報の確認は下記URLへ
    http://libsrv02.iamas.ac.jp/jhkweb_JPN/service/open_search_ex.asp?ISBN=9784791769599

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著者プロフィール

1947年岩手県生まれ。批評家、翻訳家。大妻女子大学名誉教授、副学長。著書に『アリス狩り』(青土社)、『近代文化史入門――超英文学講義』(講談社学術文庫)、『殺す・集める・読む――推理小説特殊講義』(創元ライブラリ)など多数。翻訳書にジョン・フィッシャー『キャロル大魔法館』(河出書房新社)、エリザベス・シューエル『ノンセンスの領域』(白水社)、『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』(共に佐々木マキ画、亜紀書房)など多数。

「2019年 『詳注アリス 完全決定版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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