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本 ・本 (397ページ) / ISBN・EAN: 9784791770052
作品紹介・あらすじ
米、小麦、砂糖、トウモロコシ、豆、ジャガイモ、ヤシ油、大麦、キャッサバ、ピーナッツ…人間が生きるうえで欠かすことのできない主食作物が、同時多発的な病原菌や害虫の猛威に襲われたとき、わたしたちの食卓はどうなってしまうのか。大規模なアグリビジネスがもたらした悲劇、作物壊滅の危機に立ち向かう科学者の軌跡をたどりながら、いまわたしたちにできることは何か、考える。
感想・レビュー・書評
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借りたもの。
世界中で単一の食物を生産することで起こる危機――植物、ひいては環境の多様性の消失と、単一故にある特定の病原に脆弱で壊滅してしまうこと――に警鐘を鳴らす。
今、商業目的で栽培されている農作物の品種以外には、疫病に強いものもある。にもかかわらず、そういったものが何故か栽培されずにいる。
現在の農作物の品種は、味の問題だけではなく「単に上手く持ち込めたから」という、偶然(それも必然だったのか?)からもたらされたものも多い。
多様性が失われると、品種改良で味も良く疫病に強い作物をつくることもできなくなってしまう可能性は、想像に難くない。
自然の猛威が原因で全滅する可能性だけでなく、人為的な農業テロの可能性、その実例の紹介があり、衝撃的だった。一部のリベラル派が小作人への富の再分配を求め、大地主のカカオプランテーションに打撃を与えることが目的だったようだが、それによって農業政策が立ち行かなくなり、何十万人という失業者を生む。結局、別の農作物にシフトしてしまうという結果に。
後半には、多様性を後世に残すための保護活動にも言及しているが、それは指揮者による研究、保存の視点からがベースで、はたしてどこまで人間の生活に密着し、活かすことはできるだろうか…?
文章はサスペンスっぽくて面白かった。
これら危機について解決策ではないが、そのための布石のようなものが提示されるに留まる。
人間の都合で失ったもののツケは、人間自身に還ってくる。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
2022/9/12読了。読み応えがあった。上橋直子著作『香君上下巻』を読後に参考図書として紹介されていた一冊。
当たり前に手に入れ口にしている食物が今後なくなってしまったら?先人の研究者達はその苦難と格闘しながら今日迄種を護り繋いで来た。
第15、16章を読むにつれ危機感を感ぜずにはいられなくなった。今また人類は地球温暖化や戦争と言う事態を引き起こしその危機を更に早めようとしている。まずはその一端を知る上での必読の好著。
世界の人口→2050年には97億に達し2015年時点より20億増加する。よって出現する害虫や病原体の数は増大し続けてる。それとは反対に害虫や病原体に対処するための訓練を積んだ専門家は輝かしい
世代の病理学者や昆虫学者が引退するにつれ減り続けている。彼らの仕事を引き継ぐ者はいない。心配である。 -
大量生産向けに品種改良されてきた野菜作物。
その一方で多様性が徐々になくなってきた、
今の農業に対する警鐘をならす一冊。
僕たちが普段口にしている作物がどのように栽培されてきたのか、その起源に遡る。
農業関係に携わるものとして読みたい一冊。久しぶりに読み応えのある本を読んだ気がした。 -
今、自分たちが口にしている作物の裏側、歴史、研究について。当たり前だけど、作物は栽培される環境・天候・害虫に、影響を受ける。当たり前のことなのに、読んでみて「そーだよね」と思う不思議さ。改めて農業酪農に関わる人・その研究に携わる人に、尊敬の念を抱きました。
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近代現代の農業が抱える問題点や今後の技術的な展望を、人間ドラマを通じてグイグイ読ませてくれる。ニコラス·ヴァヴィロフの人生との彼の種子コレクションを命懸けで守り抜いた人達の物語は特に胸に刺さった。あと毛沢東の雀狩り…中国は良くも悪くもつくづくスケールが大きいなと…。
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冒頭から真ん中あたりまでが、歴史大スペクタクルものとして面白かった。
ピサロが活躍した大航海時代に、どのようにしてジャガイモがインカ帝国から持ち帰られたのかについては、当時の航海の状況が仔細に描かれていて、どれほどの奇跡だったのかがうかがい知れた。
ブラジルチョコレートテロは、本来ならカカオ農園を支援するはずのCEPLACの数名のメンバーによって起こされたということにも衝撃を受けた。また、一度発生してしまった病原体は、コントロール不能になるのも、偏った品種に食料を依存していることを思うと恐怖を覚える。
そして何より、第9章の第二次世界大戦中のレニングラードで種子コレクションをナチスドイツから守った研究員の人々の部分がもの凄く熱かった。この章の7ページは特に必見。
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上橋菜穂子『香君』がこの本に影響されて書かれたことを知り読んでみた!人間の手が加わることによって、植物は弱くなる。殺虫剤が撒かれ、それを克服してくる虫たちがいたり、遺伝子を画一化したからこそ飢餓が一気に到来したアイルランドが取り上げられていたり。そしてそうしたことを研究する研究者が減っているという事実。人口は爆発するほど増えているのに、主食は安定して供給されなくなっている、危機感を掻き立てられた書。
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私たちが日常近くのスーパーで当たり前に入手できると信じて疑わない、バナナ、小麦、ジャガイモ。これらは大規模プランテーション、アグリビジネスの参入・支配によって効率化・単一化され、その結果たったひとつの害虫や疫病によって壊滅する脆弱性をはらんでおり、いつまた起きるとも知れない危機的状況にある。私達日本人はバナナが食べられなくても死なないが、単一バナナ栽培農家は害虫の発生で死ぬかもしれない。2050年には97億人に達する地球人口を、度重なる干ばつ、気候変動が起きている今養うことはできるのか。著者のロブ・ダン氏は進化生物学者としての知見から警鐘を鳴らすとともに、では私たちに何ができるのか?ということまで踏み込んでいる。曰く、『まず食物を無駄にしないこと。肉をあまり食べないこと。地元産の食材を消費し、先祖伝来の種子から育てた作物、生態系に配慮した農業システムで生産された食物を選ぼう。子どもの数を減らし、食物がだぶついている国に住む人は、食物システムが崩壊した国からやって来る難民を歓迎しよう。』
大変読み応えがあるが、その価値がある一冊。 -
上橋菜穂子著の「香君 下巻」でこの本が執筆のきっかけであったと記されていたため気になり読みました。
(香君も自分はかなり好きでした。)
特に生物学的コントロールの使用によって(珍しく)被害を食い止められることができた事例が面白かったです。せっかく収集した貴重な種子が戦火や資金や担い手不足による杜撰な管理によって失われつつある現状に憂いを覚えます。遺伝子組み換えやゲノム編集など技術がどんなに発展しても、(むしろ発展したことによってより一層)持続的に食料を供給し続けるには、自然保護は必要不可欠なのだそうです。何事においても、目先の利益ばかり追求しては遅かれ早かれ、破綻は確定的なのだと改めて思いました。
著者プロフィール
ロブ・ダンの作品





