〈うた〉起源考

著者 :
  • 青土社
5.00
  • (2)
  • (0)
  • (0)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 40
感想 : 4
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (500ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791772827

作品紹介・あらすじ

「うた」は、そして「ことば」はどこから来るのか
神話、祝詞、和歌、歌謡、昔話、短歌……。はるかなる古より詠まれ続ける「ことば」たち。なぜ人は「うた」を詠むのか。そもそも「うた」とは何なのか。研究者としてだけではなく詩人としても一線で活躍し続ける著者が、これまでのあらゆる考究とその成果から、この大きな問題に迫る記念碑的著作。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  •  全30章に、序章と終章を加えた、厚み3センチの大冊。前著「日本文学源流史」(2016年)で提示した独自の文学史構想を、具体的な歌の訳出で肉付けた、〈うた〉民俗学創出の書である。

     訳出されているのは、古代歌謡から万葉歌、平安和歌、そして前衛短歌など現代短歌まで。読み進めるうちに、前作で著者が時代区分した神話紀からポスト物語紀までの数千年の〈うた〉の、地下水脈を探り当てる旅に同行できたような至福を感じた。

    「うた」の語源としては、これまで「うつたへ(訴へ)」説が主流であったが、本書では、「うたた(いよいよ)」「うたがふ(疑ふ)」「うたげ(宴)」も視野に入れた〈うた状態〉への着目が提案されている。

     また、本来、神々に呼びかけるための歌謡類が、説明体系の内部に取りこまれ、その「説明体系の精髄」として〈うた〉がある、という記述にも首肯させられる。

     とはいえ、〈うた〉が日本語表現に限定されるものではないことは、前著でも強調された重要な見解であろう。琉歌や「おもろさうし」、アイヌのユカラ、加えて本書ではインド南部の「サンガム詩」の韻律が注目されており、視野がさらに広がる。

     ところで、本書の特徴の一つに、女性の歌が多く引用されていることがある。そこには著者の「歌には性を超える平等性があるはずなのに、どうして女歌の話題が尽きないのだろうか」という問いがあるのだ。

     著者はこれまでも、折口信夫の文学発生論をつねに参照し、ときに批評的に論じてきた。折口が定義する〈女歌〉には、歌垣で男性からの贈歌を切り返したり、言葉の上で「人をたらす」ような特徴がある。けれども本書では、「古事記」の歌謡や「万葉集」から、そうではない歌が例証され、折口説の限界が指摘されている。〈うた〉は、古代でも現代でも性差を超える器なのだ。

     終章のタイトル「人はどのような時に絶唱を詠むのか」が、ふいに屹立する。本書自体が、詩人でもある著者の、「絶唱」の一つであるのかもしれない。
    (2020年9月6日掲載)

  • ふむ

  • がらにもなく大きな本を読み終えた。
    当然一度で読める本ではない。
    著者の肉声を追いながら終わりまでたどり着いた。

全4件中 1 - 4件を表示

著者プロフィール

1942年(昭和17)、東京都文京区の生まれ。疎開先は奈良市内。その後、都杉並区に移る。東京大学文学部国文学科を卒業する。『物語文学成立史』(東京大学出版会、1987)、『源氏物語論』(岩波書店、2000、角川源義賞)、『平安物語叙述論』(東京大学出版会、2001)が物語三部作。詩作品書『地名は地面へ帰れ』(永井出版企画、1972)、詩集『乱暴な大洪水』(思潮社、1976)以下、詩作と研究・評論とが半ばする。1992〜93年、ニューヨークに滞在する。『湾岸戦争論』(河出書房新社、1994)、『言葉と戦争』(大月書店、2007、日本詩人クラブ詩界賞)、『非戦へ』(編集室水平線、2018)が戦争三部作。『水素よ、炉心露出の詩』(大月書店、2013)は副題「三月十一日のために」。2011.3.11のあと、『日本文学源流史』(青土社)、『〈うた〉起源考』(同、毎日出版文化賞)、『物語史の起動』(同)の三部作、『文法的詩学』(笠間書院)ほか古典文法論に打ち込む。沖縄文学論の『甦る詩学』(まろうど社)は伊波普猷賞。最近の詩集では『よく聞きなさい、すぐにここを出るのです。』(思潮社、2022)が読売文学賞、日本芸術院賞。『物語論』(講談社学術文庫、2022)、『日本近代詩語』(文化科学高等研究院出版局、2023)、『〈うた〉の空間、詩の時間』(三弥井書店、2023)は新しい。

「2024年 『増補新版 言葉と戦争』 で使われていた紹介文から引用しています。」

藤井貞和の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×