口の立つやつが勝つってことでいいのか

  • 青土社 (2024年2月14日発売)
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  • 本 ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791775996

作品紹介・あらすじ

思いをうまく言葉にできないほうが、当然なのだ。本当なのだ。
どうしても理路整然とは話せない知人、酔うと後悔ばかり話し出す友人、洗面台で流されかけている小虫、授業中に夫の死を語りつづける先生……。弱いものたちのなかにこそ、陰影のある物語は生まれてくる。『絶望名人カフカの人生論』で知られる文学紹介者による、初のエッセイ集。

【目次】

はじめに 「言葉にしないとわからない」×「うまく言葉にできない」

【言葉にできない思いがありますか?】
口の立つやつが勝つってことでいいのか!
思わず口走った言葉は、本心なのか?
理路整然と話せるほうがいいのか?
好きすぎると、好きな理由は説明できない
「無敵の心理学」がこわい......
自伝がいちばん難しい
短いこと、未完であること、断片であること

【世の中こんなものとあきらめられますか?】
能力のある人がちゃんと評価されれば、それでいいのか?
金、銀、銅、釘のお尻
「感謝がたりない」は、なぜこわいのか?
「かわいそう」は貴い
どんな事情があるかわからない
愛をちょっぴり少なめに、ありふれた親切をちょっぴり多めに

【思いがけないことは好きですか?】
牛乳瓶でキスの練習
行き止まりツアー
思い出すだけで勇気の出る人
「カラスが来るよ!」と誰かが叫んだ
違和感を抱いている人に聞け!

【別の道を選んだことがありますか?】
後悔はしないほうがいいのか
8回、性格が変わった
人の話を本気で聞いたことがありますか?
意表をつく女性たち
もう嫌だと投げ出す爽快
迷惑をかける勇気

【あなただけの生きにくさがありますか?】
つらいときに思い出せるシーンがありますか?
倒れたままでいること
暗い道は暗いまま歩くほうがいい
失うことができないものを失ってしまったとき、どうしたらいいのか?
大好きな先生はいましたか?
とろ火の不幸
「死んだほうがまし」な人生を、どう生きていくか?
目を病んだときの父のにおい

【現実がすべてですか?】
永遠に生きられるつもりで生きる
神の矛盾
幻影三題
土葬か火葬か星か
人の青春、虫の青春
死んだ人からの意見
電話ボックスとともに消えた人間の身体
もうひとりの自分
誰かの恩人ではないか

おわりに エッセイという対話

初出一覧

感想・レビュー・書評

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  • 20歳で大病を患った頭木弘樹さんによるエッセイ集。昨日読んだ内田樹さんの「勇気論」にも、これから読もうと積んである勅使川原真衣さんの「働くということ」にも通じることが書いてあって、その偶然に嬉しくなりました。

  • 題名から勝手にハウツー本だと思い込んでいました。
    言葉にまつわる人間の感情や生き方についてのエッセイ集です。
    奥が深いのに、肩の力を抜いて読める、不思議な文章です

  • 『NHKラジオ深夜便 絶望名言』著者、頭木弘樹さんインタビュー。 「誰かの苦悩に救われる、という時もあります」 | アートとカルチャー | クロワッサン オンライン(2019年06月27日)
    https://croissant-online.jp/life/96905/

    頭木弘樹|音楽っていいなぁ、を毎日に。| Webマガジン「ONTOMO」
    https://ontomo-mag.com/people/hiroki-kashiragi/

    頭木弘樹|note
    https://note.com/kashiragi_box

    「絶望名人カフカ」頭木ブログ
    https://ameblo.jp/kafka-kashiragi/

    青土社 ||文学/小説/詩:口の立つやつが勝つってことでいいのか
    http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=3896
    --------------------------
    (yamanedoさん)本の やまね洞から

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      <訪問>「口の立つやつが勝つってことでいいのか」を書いた 頭木弘樹(かしらぎ・ひろき)さん:北海道新聞デジタル
      https://www.h...
      <訪問>「口の立つやつが勝つってことでいいのか」を書いた 頭木弘樹(かしらぎ・ひろき)さん:北海道新聞デジタル
      https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1003192/
      2024/04/22
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      <著者は語る>言葉にできなくて当然 『口の立つやつが勝つってことでいいのか』 文学紹介者・頭木弘樹さん(59):東京新聞 TOKYO Web...
      <著者は語る>言葉にできなくて当然 『口の立つやつが勝つってことでいいのか』 文学紹介者・頭木弘樹さん(59):東京新聞 TOKYO Web
      https://www.tokyo-np.co.jp/article/325115?rct=shohyo
      2024/05/07
  • 哲学的?自分には全くない考えが述べられて、ハっと息を飲む。でも、共感してしまう。

    著者は、大学時代に難病を患い長い入院生活など不自由な生活をした。そこから得た発想の転換、天と地がひっくり返るような志向性、観察眼の鋭さに膝をうちながら感心した。

    人生に疲れた時、迷ってる時、自分の近くにおいて、眺める感じの短いエッセイ集で、心の救済所的本。

  • 評判通りの面白さで1日で一気読みした。1ページの字数が少ないのに付箋をつけて覚えておきたいところがたくさんあった。

    「思わず出てしまった言葉は意外と本心でない」というのは目から鱗。確かに勢いで言ったことは、妙に芝居がかって本心ではないことっていうのはあるなと思う。
    そこ見つけますか!と感心。

    ヴォガネットの「私が知る唯一のルールと言うのはだね。人に親切にしなさいってことだ」という言葉が紹介されているが、最近「親切」という言葉を聞く機会が多い。内田樹も親切について語っていたのを思い出した。
    「愛より軽い親切」。
    「親切」というのは、これからのキーワードだね。
    しかし、そんな親切に対して、必ずしも感謝は必要ではないという章もあり、そこもまた唸るほどの洞察力で読ませる。
    必ず「ありがとう」と言わねばならないホラーの映画のくだり。最もこの本の中で面白かったところだ。
    「ありがとう」言わなくてもいい宮古島。素敵だ!宮古島に行ってみたくなった。
    私の周りにもお礼を要求しないタイプの人がいる。淡々としているので何か物足りないような感じもするが、そういう人こそ確かに親切で誠実だ。

    「人は常に愛するものについて語り損なう」というロラン・バルトの言葉。しみじみします。本当に語りたいことというのはなかなか言葉にできないものであり、口ごもったり沈黙したりすることの中に真実があったりするものだ。理路整然の良さも否定しないが、語れないものにもやはり真実がある。確かに確かに。言葉にすることはすばらしいけれど、分節されてしまうので限定的になり矮小化されてしまうという側面もあるし。
    このもやもやのグレーゾーンもまた「ネガティブケイパビリティ」とも言えそう。
    「ネガティヴケイパビリティ」って現代の重要なキーワードですね。

    他にぜひ覚えておきたいなぁと思う事は、作者の中学生のときの友人の言葉「本気にしなきゃ面白くないだろう」中学生でこんな真理をつくとは!この子は今どんな人生を送っているのか。これから、使わせてもらおう(笑)

    山田太一を尊敬すると言うだけあって、山田太一の作品の引用が多いが、その引用がなかなか鋭く山田太一を読み直したいと思った。

  • だいたいは、ある物事からその逆だったら、を考えてゆくようなエッセイに感じました。

    そうかなぁと完全に同感とはいかなかったりするものもあったが、多くは関心したり、そういうものの考えかたもできるのかと、日頃の身のまわりの常識に注意する感覚を磨かれた気がします。

    また、著者が読書家(本を書く方はほぼそうだと思いますが)だからか、本の引用も少なくない。その紹介のしかたも読んでみたくさせるので、名著と呼ばれていてまだ読んでないものも読んでみたいなと思った。カフカとか。

    本書は作者の意見に重点が置かれているけど、その反対もあるだろうと本の中で常に言っているので、全体的にフワッとした印象での読了でした。

    読んでいて楽しく視点を増やしてくれる1冊でした。

  • タイトルがいいと思って手に取った。
    たしかに暴力や腕力で物事を決めようとするよりは言葉で、話し合いで解決を望むことは絶対的に正しい。だけど口が立つヤツの方が勝つ世界も、力で優劣をつけるのと同じくらい理不尽だと、小学生時代の喧嘩から気付いた著者がすごい。

    言葉でしか伝わらないことと言葉にできないことの問題は、生きる上誰しも直面しうる。ビジネスの世界でなら言語化や理路整然であることが求められるのが当然なのかもしれないが、何でもハキハキとわかりやすく話せる人はどこか胡散臭いというのは同感。言葉にすることは確かに大事だけど、言葉にできないこともあるのは確かで、迷い、口ごもり、うまく話せない人は話せる人より劣るわけではないし、そういう人も尊重してほしいという思いに力づけられる。
    言葉にできない世界があることをスープに喩えられているのがわかりやすく、またMさんという人の魅力が伝わってきてよかった。

    他にも感謝という見返りがなくても親切が当たり前な世界もあること、お互いに迷惑をかけて当たり前な世界も成り立つことが実際に著者が移り住んだ宮古島での体験から綴られる。
    また20歳で難病を患った著者が普通に生活できないことで、周りから「自分だったら死んだ方がまし」と言われる人生をそれでも生きる価値があると言う。これだけは失ったら生きていけないというものを失ったときに「死んだほうがまし」は安易に口に上るかもしれないが、前向きでもなく、大いに嘆きながらでも、その後の人生を生きる。その生きることに価値があると言える強さというか尊さというかは、それこそ言葉になかなかできないけど、いろいろ考えさせられた。

  • 親切や愛ってなんだろうなと考えたり、話がくどくない理由を自分なりに思いついたりして、刺激的でした。

    不自由なことや理不尽なことがありますが、互いに寛容でありたいなと思いました。

  • 「その水になじめない魚だけが、その水について考えつづけるのだ」
    書評で紹介されていたこの言葉にうたれた。タイトルもいい(読み出したら、予想とは違って、「口の立つやつ」とは著者自身のことだったが)。難病による困難を抱えるなかで書かれたエッセイ。なるほどと思うところがいろいろあった。

    ・差別に関わる物語によくあるのが、能力があるのに差別ゆえにその力を発揮できない人が、その状況を克服していくというパターン。差別は理不尽だ。しかし、能力のあるなしで社会的評価が決まるのは、それでいいのか。そこにためらいがほしいと著者は書く。「ためらい」という言葉がやさしい。ファンであるメッシについてふれながらこうも述べている。
    「能力は美しいし、人を惹きつける。それはたしかだ。しかし、綺麗事ではなく、実際に、人は人を能力だけで評価しているわけではない。それもまた、たしかだと思うのだ」

    ・「『感謝が足りない』は、なぜこわいのか?」と題された章には、我が意を得たりという思いだった。今の世の中、感謝感謝という言葉があふれている。それ自体は美しい言葉であり感情であるのは間違いないけど、どうにも気持ち悪くて仕方がない。他者を思いやり親切にするのが当たり前であったら、過剰な感謝はいらないだろう。特に子供に感謝させようというのは、はっきりおかしいと思う。二分の一成人式とやらで、親や周囲に感謝させる。「育ててくれてありがとう」とか。いやそれは当然の権利でしょう。ことあらためてありがたがらせようというのは、何を狙っているのか。

    ・「『かわいそう』は尊い」という章でも、モヤモヤと思っていたことが言葉にされていた。「かわいそう」という言い方が、高みから見下ろしている感じがするのは間違いないけど、だからといって、その感情自体を否定したくはないと思うのだ。
    「『障碍者はかわいそうではない』という認識は大切だし、社会を変えていかなければならないのはもちろんだ。しかし、まだ変わっていない社会にあって、同情してくれる人の存在はとても尊い。 『かわいそう』や同情をよくないこととしてしまっては、そういう人たちの気持ちも行動も萎縮してしまうのではないだろうか」

    ・著者には「絶望名人カフカの人生論」というヒット作がある。
    「カフカによって救われたというのは、病気でも平気になったとか、いわゆる『病気を受け入れる』ということができたわけでも、まして『病気になってよかった』と思えるようになったわけでもない。今でも、病気は受け入れられないし、こんな人生はいやだし、嘆き続けている。しかし、ともかくも、生きている。立ち直ってはいないが、倒れたままで生きている」
    この言葉には実にリアリティがあると思う。とても納得したし、うまく言えないが、救われたような気もした。誰の人生にも痛苦に満ちたことが起こりうる。それを受け入れよ乗り越えよというメッセージは多いが、自分はそんなに力強く生きていけるような気がしない。「倒れたまま」生きることならできそうだ。

    ・「あなたは本当はこう思っている」というよくある指摘を、著者は「無敵の心理学」と名付けていた。深層心理のことは本人にもわからないので、そう言われたら否定のしようがない。一種の暴力では?と常々思っていた。ほんと、無敵。

    ・「言葉とがめ」は無益だと述べているくだり。
    「『こういう言葉は使わないようにしましょう』と言われて、『気をつけなきゃ!』と思うような人は、そもそもひどいことは言っていない。ひどいことを言っている人は、どう注意されようと、それが自分のことだと思わないし、直すことはない」
    これは言葉の他にも当てはまることが結構ありそうだ。人権啓発とか交通安全のスローガンなどを見るたびに、誰に向かって言ってるんだろうと思う。

    ・覚えておこうと思った文二つ。
    「弱さとは、より敏感に世界を感じとることでもある」
    「どうか - 愛をちょっぴり少なめに、ありふれた親切をちょっぴり多めに」
        (ヴォネガット「スラップスティック」から)


  • 本屋さんでタイトルに惹かれて少しだけ読んでみたのを皮切りに、どんどん読み進めてました。

    最近トーク力の本を何冊か読んでいたので、同じような内容かな?と思ってましたが、中身は身近なことを綴った溶け込みやすい内容です。

    なんとなく、あ~これ分かるなぁとか、そういう考え方もあるんだなぁとか、人に話したくなるような小さなことがたくさん詰まった素敵なエッセイでした。

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著者プロフィール

頭木 弘樹(かしらぎ・ひろき):文学紹介者。筑波大学卒。大学三年の二十歳のときに難病になり、十三年間の闘病生活を送る。そのときにカフカの言葉が救いとなった経験から、2011年『絶望名人カフカの人生論』(飛鳥新社/新潮文庫)を編訳、10万部以上のヒットとなる。さらに『絶望名人カフカ×希望名人ゲーテ 文豪の名言対決』(草思社文庫)、『ミステリー・カット版 カラマーゾフの兄弟』(春秋社)を編訳。著書に『食べることと出すこと』(医学書院)、『落語を聴いてみたけど面白くなかった人へ』(ちくま文庫)、『絶望読書』(河出文庫)、『カフカはなぜ自殺しなかったのか?』(春秋社)、『自分疲れ』(創元社)。ラジオ番組の書籍化に『NHKラジオ深夜便 絶望名言』(飛鳥新社)。名言集に『366日 文学の名言』(共著、三才ブックス)。編者を務めたアンソロジーに『絶望図書館』『トラウマ文学館』(共にちくま文庫)、『絶望書店 夢をあきらめた9人が出会った物語』(河出書房新社)、『ひきこもり図書館』(毎日新聞出版)がある。NHK「ラジオ深夜便」の『絶望名言』のコーナーに出演中。日本文藝家協会、日本うんこ文化学会会員。

「2023年 『うんこ文学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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