銃・病原菌・鉄〈下巻〉―1万3000年にわたる人類史の謎

  • 草思社
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  • Amazon.co.jp ・本 (332ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794210067

感想・レビュー・書評

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  • ようやく下巻読み終わりました。
    上巻は家畜を飼うことによって感染症が多く発生し、その感染症の耐性を持つヨーロッパ人(スペイン人)が南北アメリカのインカ、アステカ帝国に渡ったとき、多くの現地人が感染症で命を落としたところまで書いて終わっていました。

    下巻は文字が生まれた地域とそうでない地域の話しから始まります。そもそも文字が必要にならなかった地域。つまりは狩猟採集で暮らしている人が住む地域では文字は必要にならなかったので、文字は生まれなかった。農耕が早くにいきわたった地域では人口が増え、上下の差が生まれ、人々を支配する階級が出てくると支配するルールを広く浸透させるために文字が必要になり、文字が生まれてきた。メソポタミアのシュメール人、エジプト人、メキシコの先住民が作り出した文字は独自に作り出されたものとされている。

    という話しから始まって、その後地球上の大きな大陸(ユーラシア、アフリカ、アメリカ、オーストラリア)ごとに発展の違いがどこから生まれたか、についての考察が進む。

    結論としては、第二次大戦下のナチスドイツのような人種による優劣というのはみとめられず、ただただその地域の環境によるものだ、というのが著者の考え。

    環境といっているのは、まず栽培化できる作物がそもそもあったかどうか。もちろんその地域の気候にも左右される。それから、家畜にできる動物がいたかどうか。南北アメリカには家畜にできるような動物がほとんどいなかったため、先住民(インディアン)はヨーロッパから来た人たちに侵略されてしまったという。インディアンは、馬に乗って雄々しく戦っているイメージだが、もともとは馬を家畜として飼ってはおらず、ヨーロッパから馬が入ってきてから、それを使いこなすようになったとのこと。栽培化できる作物があって、家畜がいるってことは農業しながら豊富な栄養素をとることができたということ。そうすると、狩猟採集していた時代より人口が増える。人口が増えるとやがて集団を形成する。形成した集団が大きくなるとやがて国家を形成する。国家ほどの大きさになると多くの人民を使って灌漑を作ったりすることができ、より発展する。そして文字も浸透し、さらに発展する。

    発展した技術は人が移動することによって伝播する。アフリカ大陸や南北アメリカ大陸は南北に長い。しかも途中で行く手を阻む障壁がある。アフリカ大陸は中央部にいたツェツェバエがそれより南に行くことを阻み、アメリカ大陸はそもそも地形的に中央できゅっとすぼんでいて南に行けない。でも、ユーラシア大陸は東西に長くいく手を阻むものが少ないため、農業やその他の技術が伝播してそこここの地域が発展した。

    そうして一足早く発展した地域の人たちが、その時点で遅れを取った地域を侵略し、またたくまに原住民を駆逐してしまった。結局は環境の差なんだ、と。駆逐された地域には「銃」も「病原菌」も「鉄」も無かったんです。

    家畜がいることで感染症の耐性が遺伝子に書き込まれたってのには驚かされました。でも、確かにそうかも。ユヴァル・ノア・ハラリからジャレド・ダイヤモンドにやってきましたが、とっても興味深く読めました。訳も読みやすかったと思います。

  • ・何故世界はかくも不均衡な状態(ヨーロッパとアメリカを中心とした先進国と発展途上国)にあるのだろうか?スペイン人はインカ帝国・アステカ帝国を滅ぼしたが何故、逆にインカ帝国・アステカ帝国がヨーロッパを滅ぼすようなことが起こらなかったのかを突き詰めた本。
    ・最終氷河期が終わった1万3000年前の地球は、食料採集民族しか存在せず似たりよったりであったはず。どこで差が生じたのか。
    ・着眼点を民族としての優劣ではなく、環境に当て根本原因から解き明かしている力作。
    ・多様な家畜、食料の野生→東西に伸びる大陸→食料生産の開始(容易性)→人口の増加・集中→疫病への発生・免疫性の獲得→政治組織・分業・道具・武器のイノベーション→文字の発明といった流れで全体が説明されている。
    ・中国も西アジアと同様の時期に食料生産を開始しながら、世界の覇権を取れなかった原因が、統一国家であるが故に唯一の王が間違った判断をしたためイノベーションが停滞した時期があったことによる(ヨーロッパは統一されたいたことは一度もない。)といった理論が面白かった。この部分はもっと掘り下げて考えてみたい。
    ・橘玲氏も「(日本人)」で、大陸が横に長いユーラシア大陸が、食料生産が伝わるという上では有利だった(気候帯が似ているから)と記述しており、本書を参考にしていると思われる。

  •  ようここまで広範囲のことを1人で書けるなと感心しながら読んだ。

  • 征服され植民地化してしまうところと、征服する側の差。
    環境要因によってつくられていく歴史。
    歴史ってつながってるんだな・・・と当たり前のことを理路整然と再認識させてくれる本。

  •   なぜ、16世紀に南アメリカのインカ帝国を、そして中央アメリカのアステカ帝国をスペイン人が征服することができたのか、なぜ反対にインカの人たちがヨーロッパを征服することができなかったのか。なぜ、ヨーロッパの人間が 「銃・病原菌・鉄」でもってアメリカ大陸を征服することができたのか・・・・。人類の発祥はアフリカから始まったのに、なぜアフリカ人がユーラシアに覇権を持つことにならなかったのだろうか。なぜ、ヨーロッパ人とヨーロッパ人の子孫が世界の富と権力を握ることができたのだろうか・・・・・。
      現代のこの時代、当然のことと思っているこの事実はどうして導かれてきたのだろうか、というその原因を追っ掛けたこの 「銃・病原菌・鉄」、なんだか眼からウロコの感じさえする。要は、①農業に適応できる植物種と家畜化できる動物の存在、②農業・家畜の伝播を妨げる地形上の障壁の有無、③大陸や人口の大きさ、これらによって各大陸に住む人類のその後の展開が大きく変わってきたということになる。もともと農業と動物の家畜化は1万年以上前にメソポタミアから始まったものだが、それが西に進んでヨーロッパに定着。余剰食糧が人口を増大させ、競争を激化させ、次々と新しい発明・技術が生まれ、国家や政治体制が出来上がってきたという経緯を辿ったということだ。もし、アフリカに食料となる植物の原種が多くあって、シマウマやサイ、象などが家畜化できていたとしたら、アフリカ人がそれらの家畜を戦車のように使ってヨーロッパを征服していたかも知れないということになる。(ハンニバルが象を使ってローマを攻めたが、これは野生の象を飼いならしていただけということらしい。家畜化していたわけではない)
      この著者のジャレド・ダイアモンド は、ヨーロッパの人間が人種的に優れているということでは決してないとし、ただ地理的・気候的要因や生物学的な偶然によって導かれたに過ぎないと説く。場合によってはアフリカの黒人が世界を支配したかも知れないとの話は、にわかに信じられないものの、それが1万年の積み重ねの故だとしたら、納得するもしないもないということだ。我々日本人にはなんとなく白人の方が見た目もよく優秀だという意識が奥底にあるが、この話はそれをひっくり返しているわけで、ひとつ痛快な気分にもなろうというものだろう。なんとなく胸のつかえが降りるような感じもある。
      こんなことからしても、本を読むというのは、実に面白いものと云えるのだろうね。

  •      ―2008.03.20

    下巻ではとりわけ言語表記の問題を軸に人間の歴史における各大陸間のさまざまな差違とその成り立ちを明らかにしていく。

  •  下巻。
     上巻では、文明が興っていった原因をひとつひとつ探っていたが、下巻の第4部からは大陸ごとにその仮説を検証していく。
     文明がいち早く花開いたユーラシア大陸と比較して、オーストラリア大陸や南北アメリカ大陸、アフリカ大陸がなぜ出遅れたのかを考察している。結論から言うと、地理的特性によって食料となる植物の栽培や家畜の飼育がユーラシア大陸ほど進まなかったために人口が増えず、社会も未発達のままで、病原菌への抵抗性も持たなかったことが理由とされている。

     このあたりは上巻での考察とほぼ同じだが、興味深かったのは同じユーラシア大陸で古くから文明が興ったにもかかわらず、「中国」がヨーロッパを侵略して支配しなかったのはなぜかということだ。
     いまだに不統一なヨーローッパの国々と比較すると、中国は何度も興亡を繰り返してはいるが、長きにわたって政治的にも文化的にも言語的にもほぼ統一されているのはあらためて考えると特殊に見える。そして、この特殊性ゆえに徐々にヨーロッパにリードを許してしまったという。
     著者の考えでは、中国は政治的に統一され過ぎていたために競争が生まれにくく、内部の権力闘争の結果、ただひとつの決定によって技術開発が禁止されてしまったという。真相はわからないが、ひとつの仮説としては大変面白いと思った。

     上下巻を通して、多くのデータや考察をもとに導いた結論は、単なる居住環境の差によってその後の文明の発達スピードが異なったということであり、人種などの生物的な差でないのはわかった。
     歴史学や人類学的に考えるとまっとうで受け入れやすい結論なのだが、いま我々が生きている日々の生活を冷静に考えると、いわゆる”親ガチャ”ではないが、人は持って生まれた才能やその後の努力よりも、生まれ育った環境によって運命が決まってしまうということを示唆しているようで、少し引っかかる部分が残った。

  • ためになりました。

  • 世界史において征服する者とされる者の違いは食料だという事を理路整然と説明しているのが本著である。
    食料を持てる者が圧倒的優位に立って持てない者達を征服できると言うことと、なぜ食料を持てる者と持てない者に分かれたのかと言うことを1万3000年の歴史を通じてわかり易く説明している。
    この本を読み終わった時、この本で得た知識を誰かに話したくてウズウズする自分に出会えるだろう。

  • 文明の発展は人種の差ではなく、置かれた環境によって進展のスピードが変わってくるということが分かる。
    自然環境、他者との切磋琢磨、これは個人の成長に影響する外的要因も同じだと思う。この外的要因が人類の文明というマクロなモノに影響した場合、何千年というスパンで途方もない差ができてしまう。この事に改めてショックを感じてしまう。

著者プロフィール

1937年生まれ。カリフォルニア大学ロサンゼルス校。専門は進化生物学、生理学、生物地理学。1961年にケンブリッジ大学でPh.D.取得。著書に『銃・病原菌・鉄:一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎』でピュリッツァー賞。『文明崩壊:滅亡と存続の命運をわけるもの』(以上、草思社)など著書多数。

「2018年 『歴史は実験できるのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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