- Amazon.co.jp ・本 (381ページ)
- / ISBN・EAN: 9784794210715
感想・レビュー・書評
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なんだかチープな邦題と装丁ですが、中身は客観的で淡々としており、大変読み応えのあるルポルタージュでした。
手軽で廉価な商品を提供するために犠牲になるものの大きさと、それを得る側の欲求の軽さ。
あまりにも釣り合わない欲望バランスが、世界規模に膨らんだ巨大産業のもとで歪に成立しているチグハグさにぞわぞわします。
作者が終盤で提示する、「この問題の端は悪意や憎悪ではない」といった意見と、弱々しいながらも踏み出さんとする一歩には頷かざるを得ないのですが、「悪意を一切持つことなく人間はここまでの事ができる」という事実がだからこそやるせない。
罪はどこにあって何から間違ったのか。読み終わった後にどう振舞うにしても、せめて自分の選択を自覚するくらいは読んだ側の責任かと思いました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
今日のファストフード・ハンバーガーの低価格は、真のコストを反映しておらず、
ファストフード・チェーンの利益は、社会全体に押しつけられた損害からもたらされていると著者は説く。
社会全体に押しつけられた損害とは、肥満、食中毒の多発、牧畜業や
精肉業の斜陽化、ファストフードチェーン従業員の劣悪な待遇である。
本書の内容としては、前半でファストフードの草創期を描き、
後半はファストフードの様々な現場(ジャガイモ畑や牧場、食肉処理場、学校等)
における現状を、徹底的な取材のもとに記している。
量が多く、読んでいて気持ち悪く・悲しくなるような描写がたくさんあったが、内容はとても濃い。
本書の発売から10年たった今日、それらの問題は少しは改善されているであろうが、
利益と効率性を徹底的に追求するという姿勢をファストフード・チェーンが改めない限り、
根本的な問題は解決しないと思う。
また、本書の最後にはこれらの問題を解決するビジョンも明示されていた。
以下、引用。
「われわれは誰一人、ファストフードを買うことを強制されてはいない。
意味ある変革への第一歩はあまりにたやすい、ただ買うのを止めれば良いのだ。
ファストフード業のお偉い方たちは、何も悪い人間ではない。彼らはビジネスマンだ。
もし我々消費者が要求すれば、放し飼い・草育ちの有機牛肉を使ってハンバーガーを作ってくれるだろう。
利益を得られるなら彼らは何でも売る。
消費者の持つ本当の力はまだ発揮されていない。数ではこちらが勝っているのだから。
購買拒否は言葉以上に語る力を持つ。最も抑えきれない力とは、時としてもっとも平凡であったりするのだ。」
私は、大好きなハンバーガーを買うのを止めない。
しかし、ファストフードを買うという行為一つ一つが、何を引き起こすのかを
考えて行動したい。
本書を読んで、私の大好きなIN and OUtだけは、従業員や顧客の健康を
真に考えている企業であるということを知れて嬉しかった。 -
フランチャイズビジネス,ハンバーガービジネスを知る上で有為な本。この本を読んだ上で,「キングコーン」という映画を見ると,完璧であり,強くおすすめしたい。
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現代の社会学、特にプログラミングされた社会性について考える際、ファストフードというジャンルは正に現代の社会性を映す上で最も分野だと思う。
第二次世界大戦後のアメリカでの工業化により如何に早くて大量に食料を作り販売するかを追求していく中でマクドナルドを初めとした異様なファストフードが台頭し、それまでの伝統的な食事や食べ物の倫理観というものが欠落していった。
このようなシステムやプログラミングに支配される現代において日常的に食べる食べ物にさえ無関心になり、溢れかえる広告という洗脳が正常な思考を阻害している。そして伝統や食物環境を破壊するファストフードに対して全世界各地で想像以上の反乱運動が起きていたのも初めて知った。
マクドナルドらファストフードや現代社会学に関して漠然とした疑問は存在するが、解釈する一つの手段として本書はなかなかの良書だ。
個人的に印象に残ったのはインアンドアウトのハンバーガー。一度アメリカに行く機会があればインアンドアウトに行ってみたい。 -
資本主義の側面
欲望増幅装置
メディア
無知 -
『はじめに』
・本書は,ファストフードについて,それが具現する価値観や,それが気付いてきた世界について述べた本である.
・人々の食べるものは,どのような時代であれ,社会的要因,経済的要因,技術的要因の複雑な相互作用によって決定される.数多くの女性が労働人口に加わったことで,それまで専業主婦がおこなってきた労働への需要が高まった.その結果,食費の半分に当たる額が,外食店に-それも主にファストフード店に-支払われている.
・わたしが本書を著したのは,ファストフードを買うという晴れやかで楽しい行為の裏側に潜むものを,人々は知っておくべきだと考えたからだ.
『創始者たち』
・マクドナルド兄弟は,従来の店舗形態をやめ,まったく新しい調理方式を採り入れた.スピードの向上,価格の低減,売上高の増大を主眼とした方式だ.また,史上初めて,向上の組み立てラインの原理が,飲食店の調理場に持ち込まれた.工程を分けたことで,ひとりの人間にたったひとつの作業を教えるだけですんだ.
『信頼に足る友』
・マクドナルド社とウォルト・ディズニー社の間には,多くの類似点がある.クロック(マクドナルド兄弟からフランチャイズの権利を買った)とディズニーという二人の創始者の間にも.
・二人はじつに優秀な販売員だった.子どもたちにものを売りつける技法を完成させた.その成功をきっかけに,幼い子どもたちは,世界の大企業に標的にされる人口統計集団になった.
・マクドナルドは,単に食事をする場所以上の様相を表し始めた.マクドナルドは,販促の対象である幼児たちの空想世界を大きく占めるようになり,実態のない何かを子どもたちに売ることに成功したのだ.
『効率優先の代償』
・アメリカで,ファストフードほど若者が職場を占有する業界はない.分厚いマニュアルによって,何事も細かく定められている.ファストフードは徹底的な管理をおこない,製品を規格化している.ファストフード各社が労働問題に関して意見が一致したことは,調理場の設備を改良し,従業員教育にかかる費用を削減すること.ファストフード店のざっと90%が時給で支払いを受け,手当てはなく,必要とされるときだけ働く.会社は若手に「チームスピリット」を教え込んだり,「おだて」戦略をとる.また,従業員が組合をつくることを拒む.(元)従業員による犯罪も多い.
『フランチャイズという名の甘い誘惑』
・マクドナルドは,会社の利益を上げながら加盟店への管理をより強固にするための戦略を考えた.多額の使用量を要求したり,消耗品を売ったりして儲けるかわりに,マクドナルド社はほぼすべての店の地主になった.会社は地所を取得し,加盟店に貸し,賃料を取った.この新しい戦略は,莫大な利益をもたらすことが分かり,アメリカ中の小売業界が真似をするようになった.
『フライドポテトはなぜうまい』
・今日のじゃがいも市場は,少数の買い手が多数の売り手を牛耳っている.農家が生産性を高めれば,価格は押し下げられ,利益の配分はますますファストフード寄りにかたよる.その加工業者をつかさどるものは,じゃがいもが木になるのか土の中で育つのかもご存じない連中です.
・ほとんど認められていないことだが,香りを渇望する人間の本能は,香料貿易など,歴史を動かす原動力となってきた.今日,香料が世界の市場-清涼飲料メーカや,スナック食品メーカ,ファストフードメーカ-に及ぼす影響は,かつてに劣らず大きい.
『専属契約が破壊したもの』
・多くの牧場主の見方では,いまや一握りの大企業が完全に市場の支配権を握り,不正な手口で肉牛価格を引き下げている.
『巨大な機械の歯車』
・ファストフード・チェーンの需要に応え,大手食肉業者は,賃金を削ることでコストを抑えてきた.結果的に,安い収入で働く移民からなる階層が作られ,高い障害率が放置され,アメリカ中央部の農業地帯にスラム街が広がる.
・今日,IBPなど精肉会社の離職率は年100%になる.「わが社では,離職率と収益性の間に相関はほとんどない.保険,有給がいらないことから…」.また,精肉会社の労働者のうち,四分の一は不法移民である.食肉会社は,地域に根ざすつもりはない.
『最も危険な職業』
・食肉処理場では,数百人の従業員が,膝を突き合わせて,一時も休まず肉を切り続ける.撃ち屋,刺し屋,脱骨屋など,現代の食肉業者は,アメリカでもっとも危険な職業となった.障害率は工場平均の3倍に達する.
・熟練がいらないため,怪我をした労働者は,辞めるように仕向けられる.
・怪我をして次の日に短時間でも出勤させる,大怪我をたししたことがないと言う,怪我を少なく申告すると看護士に恩賞が与えられるなど,食肉会社はひどいやり方をとってきた.
・読み書きができない労働者は,労災の申請もできず,傷害の補償をまともに受けていない.
『肉の中身』
・食肉処理場の中でも特に肉の汚染が起きやすいのは,牛の外皮と,消化器官を取り除く工程だ.泥や糞の塊が肉の上に落ちるかもしれない.中身をこぼさずに胃袋を取り出し,張を結ぶには,六ヶ月の慣れが必要となる.作業者はときに,この肉が誰かの口に入ることを忘れてしまい,洗浄や除菌を怠る.また,病気やストレスのある乳牛も使われる.
『世界的実現』 -
2月13日読了。ハンバーガーをはじめとするファストフードが生まれ、やがて世界を席巻するまでの歴史や語られざるファストフード業界の衝撃的な実態を丹念な取材結果から暴きだすノンフィクション。「安い」「うまい」「はやい」というファストフードのシステムが、発生すべきコストをいったい何に転嫁しているのか。当然持つべき疑問を、喜んでマックに通う我々はむしろ意図的に見ないフリをしているのかもしれない・・・。書き方はスキャンダラスではあるが、ここに描かれるファストフード業界の施策はまさに「利益追求」、むしろ株主や献金先の政府からは熱狂的に支持されてしかるべきものなのかもしれない、彼ら(と、その子供たち)がファストフードを口にしない限りは・・・。我々にできる唯一の抵抗は「ファストフードを口にしないこと」とあるが、何がファストフードで何がそうでないのかを判断すること・与えられた情報の真偽を情報提供もとの善意によらずに確認することなど可能なのだろうか?と空恐ろしくもなる。映画よりは数倍コワイ本だ。
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単にファストフード単体のの問題だけでなく、それを取り巻く多国籍企業や子供向けマーケティング、更には移民労働者の劣悪な労働環境といった問題にまで敷衍して論じられている点が秀逸。
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ファーストフードが生み出す
終わりのない負の連鎖。
大げさに都合のいい情報だけを
並べているだけなのかもしれないけれど
この本はわたしに考えるきっかけを与えてくれたので、星5つ。
食べ物だけじゃなくて、安いものはみんな、
どこかにしわ寄せがあって、そういう値段になっている。
何にも考えずにただ商品を選んじゃいけない。
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一緒に読んだ同居人は、コレ読んだらファーストフードに行けなくなりました。私は無性にマックのハンバーガーを食べたくなって、数年ぶりにマック入り&初めての100円マックをセットで食べてきました。
――本に書いてあった牛香料たっぷりのポテチとか、原価コストゼロに近いコーヒーとか、有害で危険度MAXのぺらぺらパテを、身をもって体感したくなったのです。マックの戦略や薄っこいパテを実感しながら食べた久しぶりのハンバーガーは、――ジャンクで嘘っこくてぺらぺらで、でも美味しいと感じてしまった。ああ私の味覚って末期だなぁと。
マックを食べて私は何を確認したかったんだろう。本に書いてあった香料の破壊力か、安いけれどあこぎな値段設定か、ウイルス危険性の高い肉のにくにくしさか……とにかく、何かをかみしめたかったんだと思います。本の内容を胸に、マックを噛みしめるという作業によって。
いかにファーストフードというジャンルが、人道的に間違えたことをして莫大な利益を上げ続け、人道に外れたことをすればするほど支持者が増えていくかという過程を丹念に丹念に記したルポルタージュ本。
取材という形で、事実を書き連ねているだけっぽいのに、見事に一方向に議論を誘導しており、著者の“書きたいこと”が“事実”を通して書かれていることがすごい。サクセスストーリーがサクセスストーリーに見えないよ。いかに人として間違えているか、っていう図にしか見えない。
子どもにマック至上主義を植え付けていく過程とか、学校とファーストフードの癒着ぶりとか、政治をする人がファーストフードでめりけんの人を削り取っていく様子とか――牛の解体光景とか、働く人の姿とか。何から何までショッキングで、かつショッキングだけで終わらない明確なメッセージ性があり、読み応えのある本でした。じゃがいも農家も牛農家も悲惨すぎます……もうアイダホ直視できないよ。
我が家の今年の流行語、『キルフロア』。(使用例:今、台所がキルフロアなので、こっち来ない方がいいですよ)
技術を必要としない職場環境っていいものなのか、よくないのか。長期的に見ればもの凄く悪いことだっていうのが、印象深かった。人が道具になったら、いろんな意味でおしまいなのですね。