- Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
- / ISBN・EAN: 9784794213532
作品紹介・あらすじ
中世大学図書館や王室文庫、イスラーム世界の「知恵の館」やユダヤ人の書物の墓場「ゲニーザ」など、多彩な図書館を紹介しながら波瀾の歴史を辿る。
感想・レビュー・書評
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アレキサンドリアから現代まで、図書館の変容とその節目、読者や著者、司書と図書館の関係やその意味を、宗教や政治、戦争などの歴史と絡めて紐解く。それぞれの時代の価値観によって尊ばれる書物は変わり、文字で伝わるという時間を越えた性質を持ち、人々の思想や行動に影響を及ぼす書物だからこそ、政治に利用され、焚書の憂き目に遭う図書館。逆に、利用を制限するという形で図書館が一定の人びとに対する抑圧の道具になることもある。
読みながら、日本はどうだったのだろうと思うことが多く、そのあたりを書いた本を探してみたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
子供の頃から図書館が大好きだった。今訪れるととても小さな地方の公共図書館だけど、当時は私にとっての世界の総てのようだった。読書好きな方には、そんな思いを持った経験が少なくないのではないかと思うが、本書は、「世界の総て」としてではなく、「世界の一部」として歴史的・文化的な観点からも図書館を俯瞰し、図書館がどのように世界の「一部」を構成しているのかについて思いを巡らせてくれる本。
古代から現代まで、支配者や大学、公共セクターの奉仕者たちはそれぞれどのように図書館を見てきたのだろうか? それは、あるべき文化を体現するものなのか、それとも、多様な世界への扉を開くべきものなのか? 出版物の数が天文学的数字になる一方、物理的な限界がある図書館にはどのような意味があるのだろうか?
読み終わって、書物というもののもつ力を改めて感じる。そして、自分たちで生み出したにも関わらず魔術的な書物を、どうにかコントロールしようと奮闘する人間の努力が、今ある図書館の中に見えてくるかのような思いにとらわれた。 -
「図書館だいすき」のはじめに書いたのは本書の「消えたアステカの絵文書」の一部だ。
どのようにして図書館が出来たか、どのように利用されたか。
どのような経緯で崩壊あるいは破壊されたのか。それらを歴史の中で語っていく。
著者はハーヴァード大学のワイドナー図書館やホートン図書館で長年司書を務めた方。
第一章 図書館は宇宙に似ている
第二章 アレクサンドリア炎上
第三章 知恵の館
第四章 書物合戦
第五章 みんなに本を
第六章 知的遺産の消失
第七章 書架の間をさ迷いつつ
いきなり「図書館は宇宙に似ている」という壮大な表現が出てきて面食らうが、話題にしているのはハーヴァード大学のワイドナー図書館とボルヘスの「バベルの図書館」のこと。
前者は全長90㎞もある書架に四百五十万冊もの蔵書が収まっているという建物で、後者は作家の想像の中の観念的なもの。
「宇宙」を感じるような図書館に一度は行ってみたいよね。
どんな図書館もいずれ崩壊し、のちの世代の人々がその歴史と謎解きにせまるもの。
ヴェスヴィオ山の噴火とともに焼けた「パピルスの館」の悲劇は、歴史の中で繰り返されてきた図書館の歴史でもある。
書物を一カ所に集めようとする限り、過ぎゆく歳月の犠牲になる。
本書ががぜん面白くなるのは、五章の「みんなに本を」から。
いかにして書物が閲覧者の手に効率よく届くかを目指したデューイは、「司書という職業から良書を選ぶ権限を奪い、能力を月並みな職業の世界に限定してしまった」と手厳しい。
良き司書とは、喜んで読んでもらえるような最上の本を差し出すこと。
だが現実は「司書は読者の初々しい衝動を高尚な文化的センスへと生まれ変わらせる手伝いをする時間も気持ちの余裕もない」らしい。
印刷技術の発展とともに書物の大量生産も可能になり、公共図書館が数多く建てられていった19世紀半ばからの話。この流れに抗った司書さんたちも存在したらしいが。
しかし20世紀はふたつの大戦をはさみ、ほぼ焚書の歴史となる。
「ナチスから図書館を守った人たち」に登場したゲットーの館長「ヘルマン・クルク」も登場する。遺された記録を読んでみたいがいまだ翻訳版がないのが残念。
日本人にとって勉強になるのは、1914年8月ドイツ軍によってベルギーのルーヴェンが徹底的に破壊されたということだ。
壮麗な図書館や建築物は国際法上の保護を受け、非武装都市宣言をしていた。
まさか敵の攻撃を受けることはあるまいと思い込んでいた都市が集中砲火を浴びる。
有事においては非武装=何をしてもOKという意味になることを理解しておいた方が良い。
「本を焼くところでは、やがて人を焼く」というのは歴史的事実なのだ。
それがかえって、失われたものたちへの好奇心をかきたてて、残された資料を探し求め、さらなる書物を求めていくことになる。
書かれた言葉には、時空を超えた人々の声がひそんでいるからだ。
書物の墓場と呼ばれるユダヤ人の「ゲニーザ」が一千年以上ももちこたえたことや、19世紀までは小説の価値は低くて軽蔑の対象だったことなど、知らなかったエピソードも満載。
いつの時代も人々は知への憧れがあり、後世に伝えようと努力してきたという事実に、小さな勇気がわいてくる読みやすい良書である。 -
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司書課程の図書館史の勉強のために読んだ本。
どんなテーマの歴史でも、ちゃんと西洋史とか日本史は把握しておいた方がいいなと痛感しました……。
戦争や迫害、人種差別といった大きな問題に、すごく図書館は関わっている。
全ての人のための図書館、誰をも受け入れる図書館が必要なのだと思う。 -
「図書館」の歴史が躍動的に記述されている好著。西洋世界が中心だが、書物を通してヨーロッパとイスラームが学問上つながっていた記述はもちろん、興味深いエピソードが多くあってじつにおもしろい。太古から、知識を編むドラマは連綿繰り返されてきたんだな…と静かな感動をおぼえた。
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読み応えあり。焚書の歴史等知りたい人にもいいかも。
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うーん。これは面白い。アレクサンドリアからボスニアの図書館破壊まで図書館をめぐる人間の歴史といとなみ。著者はワイドナー図書館等で長らく司書をつとめた方らしい。まあ、この著者紹介が『いったい何のことやら…』という方にはつまらない本かもしれません。【2005.11.5】
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ワイドナー図書館で司書をしていた著者による、図書館の過去〜未来の記述。
アレキサンドリア図書館やバチカン図書館なんかの話は、まさにファンタジーで好きなんだけど、
現代史のナチによる図書館破壊、焚書は読んでて非常にしんどい。
20世紀はこれと文革くらいかと思ってたら、
中国によるチベット侵攻、セルビアでも行われていて、何万もの稀覯本が灰燼に帰した。
なんと悲惨なこと。
また、現代の電子化も、本の破壊という点では同じ様なもの。
ネットとかでマンガの画像を大量に集める輩は、本が好きなわけじゃないんだろうなぁ。
その一方で、未来を起点に考えると、現在の電子BOOKやCD化は、いわば揺籃本であり、
未来の司書は決して無味乾燥ではなく、楽しく電子BOOKの目録化をするはずだ、
と言うのが、なるほどと頷いてしまった。
この手の本には必ず『バベルの図書館』が出てくんだけど、読んでないんだよなぁ。