文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (上)

  • 草思社
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  • Amazon.co.jp ・本 (440ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794214645

作品紹介・あらすじ

盛者必衰の理は歴史が多くの事例によって証明するところである。だがなぜ隆盛を極めた社会が、そのまま存続できずに崩壊し滅亡していくのか?北米のアナサジ、中米のマヤ、東ポリネシアのイースター島、ピトケアン島、グリーンランドのノルウェー人入植地など、本書は多様な文明崩壊の実例を検証し、そこに共通するパターンを導き出していく。前著『銃・病原菌・鉄』では、各大陸における文明発展を分析して環境的因子が多様性を生み出したことを導き出したが、本書では文明繁栄による環境負荷が崩壊の契機を生み出すという問題をクローズアップしている。ピュリッツァー賞受賞者による待望の書。2005年度全米ベストセラーの全訳である。

感想・レビュー・書評

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  • ジャレドさんの2冊目。この本ではかつて文明があった地域がなぜ崩壊してしまったのかについていくつかの事例をもとに考察を重ねていくものです。

    まず、はじめは作者が住んでいたアメリカモンタナ州。もともとは自然が豊かで素晴らしい環境にあった。でも、鉱業会社が銅山を採掘する事業を進め、ずさんな運営により環境をこれでもかというほどに破壊した。水や土の中に有毒な物質がどんどん流れ込み、下流の水は飲むことができなくなった。また、豊かな森林は人々の生活に必要な木材や紙として次々に伐採されていき、大木は姿を消していった。その場に植えられた苗木は成長途上で山火事(雷などが原因)にあうと、すべて焼き尽くされてしまう。で、木々は育たず山は荒れたまま。

    次はイースター島。いまやあの大きな石像のほかには何もない寂寥とした空間だが、かつては緑もあり、農業が行われ12もの首長がそれぞれの領地を治めていたという。でも、木材として木々を伐採していった結果、林は再生せず、最終的に木材は無くなった。木材がなくなると、海へ出るカヌーも作れず摂取するたんぱく源は島にいる鳥や海辺の貝。でもそれも取りつくして無くなった。最後は亡くなった人を食べたりする、人肉食へと堕ちていった。なぜイースター島の人々は木々をすべて切り倒してしまうというような暴挙をしてしまったのだろう。それには、イースター島の自然環境の影響がある。植物の成長率と実生の定着率が悪かったのだ。乾燥していて低温な荒れ地だからだ。それから、近くに人の住む島がなく孤立していたことも影響した。

    あとはマヤ文明。文字や大きな遺跡もあり高度な文明を有していたマヤ文明だが、ヨーロッパ人がそこへ到着したとき、すでに誰も住んでおらず廃墟と化していた。文明が発展して人口が増える。その人口を支えるためだけの資源が無くなったと考えている。そこには強烈な干ばつなどの自然現象による影響もある。

    他にもいくつかの事例が書かれている。いずれも自然環境の崩壊が文明の崩壊につながっている。しかも高度な文明の人たちは現代の人々に比較にならないほど自然についての知識があったにもかかわらず根絶やしにしてしまった。自然の変化は1日、1か月、1年。人の生きている40年~50年の間はそれほど変わったようには思えなかったのかもしれない。でも、100年、200年経つとき、その変化はリカバリーできないほど大きなものになっていて、手の施しようが無かったのかもしれない。これは、何も大昔の出来事だけではなく、現代も十分に起こりうる。というか、現代は人が生きている人生の中でどんどん自然が変化していることを目の当たりにしている。あたりまえのように食べ物を食べ、あたりまえのように資源を使いまくる今の過ごし方を続けていれば、これまた当たり前のように資源は無くなり、気づいた時にはどうにもならず滅亡するしかなくなっているのかもしれない。

  • 過去の事例より、著者が述べる文明衰退の原因は大きく3つ。①環境破壊②資源枯渇③人口爆発。グローバル化、科学技術の発展により影響を局所化することが困難なため、世界は一蓮托生な状況になってます、との現状分析。「文明崩壊」に共感するのは、"大変だ~"で終わらず"具体的に何ができるの?"まで落とし込んでいる所。著者の本気度と危機意識を感じる。スタンスは現状の深刻さを認識しつつ、希望を失わない「慎重な楽観主義者」だそう。「まだ希望ありそうなので息子つくりました、テヘ」とか言うとるし w

    で、現状必要なことは2つ。1つ目は長期的な思考を実践する勇気。人間の病気でも同じやけど、定期的に検査して予防に力入れたほうが結果的に安上がりなことが多い。目先の問題に対処しつつ、将来に対する想像力を持てるか、てのが必要やと思います。政治家も私たちも。

    2つ目は既存の価値観を捨て去る勇気。マーケティング理論で「イノベーションのジレンマ」いうのがあります。過去の成功体験に足を引っ張られず、変化する状況をゼロベースで分析して残すものは残す、捨てるものは捨てる、その冷静な判断が大事。


    そして、環境破壊の主役、企業にも2つ申してました。1つ目は「環境保護的な経営方針を採らせたいなら、倫理とか良心に訴えず、環境保護が企業の利益になるよう仕向ける」。信用できる団体から認証された製品を購入する、など。団体の例としては、森林管理協議会(FSC)や海洋管理協議会(MSC)。家具のイケアや日本のイオンも参加してました。持続可能な林業、漁業になっているか、というところを見てるようです。余裕があれば少々高くても認証済みの製品を買ってみる、などはどうでしょう。

    で、2つ目は「ビジネスの鎖の中で、一番敏感な輪を狙って圧力をかけろ」。例としては、狂牛病対策に5年抵抗したアメリカの食肉業界が、売り上げ減に苦しむマクドナルドの圧力により数週間で対策受け入れ。金鉱山のシアン化物汚染対策を訴える環境団体がティファニーに圧力をかけ、環境対策に力を入れているリオ・ティントと契約を結んだ事例、などが挙げられてました。そういえば「ザ・コーポレーション」いう映画(本も)ありましたね。

  • 過去に消滅もしくは崩壊した社会の具体例を挙げて、何が崩壊の要因となったのかを検証していく。イースター島、ピトケアン島、アナサジ族、マヤ、ノルウェー領グリーンランドが例として挙げられ、各々の崩壊の要因として、環境被害、気候変動、近隣の敵対集団、友好的な取引相手、環境問題への社会の対応の五つを挙げている。
    環境がいかに脆いものであるか、そして過去に滅んだ文明の統治者がいかに近視眼的であり、危機を過小評価していたかがよくわかる。
    そして、これらの過去は、将来への警鐘となっている。

  • 「銃・病原菌・鉄」に続いて読了。読み始める前は、例えば「ローマ帝国の滅亡」のようなスケールの実例の考察かと勝手に想像していたが、本書で対象とされるのは現代のアメリカモンタナ州、西洋文明到達前のイースター島、1000年前のポリネシアの島々やネイティブアメリカン、マヤ文明、北大西洋のヴァイキング植民地等もっと限定された社会の盛衰の歴史だ。
    みずからの環境破壊、気候の変動、他社会との敵対関係/友好的な交易関係、文化的な姿勢の5つが滅亡に至る要因としてそれぞれの文明を分析、考察している。年代も規模も文化水準も様々だが、それぞれが現代のグローバル世界の縮図として描かれる。人口増加により期せずして脆弱な自然環境を破壊し滅亡にまで至ってしまう過酷さは、温暖湿潤、自然の恵み豊かな日本に住む我々の想像を超えているが、誰にも知られずにひっそりと滅亡していった文明の数々を現代に甦らせるロマンがある。
    そして、西洋化された価値観では測れない精神世界が確かに存在していたという事実。例えば、第三世界の多くで人肉食が存在していたそうだが、食べるという行為は文明化されていない土着の世界では娯楽や嗜好ではなくもっと神聖なものだったはずで非文化的とか野蛮だとか断罪してしまうのはやはり違和感がある。
    学者ならではの専門性、緻密さ、想像力で大変読み応えがある名著。相変わらず同じ記述が何度も出てきて冗長になるのはご愛敬。
    下巻に続く。

  • 2010初読。
    2020/4再読。
    原書の刊行が’05年なので、本書で度々述べられていた、世界が持続可能な社会への道筋を見つけるか、資源を消費し尽して社会崩壊へ至るかの分かれ目の数十年の、下手すりゃ半分が経過してしまった事になる。中国は形振り構わぬ大量消費社会となり、アメリカを始めとする自国第一主義の風潮が、新型コロナウイルス肺炎のパンデミックの影響で更に広がっているような時期での再読であった。

  • 金大生のための読書案内で展示していた図書です。
    ▼先生の推薦文はこちら
    https://library.kanazawa-u.ac.jp/?page_id=18348

    ▼金沢大学附属図書館の所蔵情報
    http://www1.lib.kanazawa-u.ac.jp/recordID/catalog.bib/BA74867096

  •  その土地でまかなえるカロリーの限度があること。森林資源の限度。
     限度を超えた時の、反応方法。トップダウンで逃れる。ボトムアップする。

    環境破壊
    気候変動
    近隣の敵対集団
    友好的な取引相手
    環境問題への社会の適応

  •  イースター島やマヤ文明も、そして現代のルワンダの大量虐殺も、基本は、人が、森を切り開いて食物を作り人口を増やし、同時にそこの土壌を流出させ数十年後には再生不可能になって食糧不足になって、食料の取り合いで殺し合って自滅するというパターンをとっている。崩壊は時間がかかるので、人は見ぬふりをして自滅する。当然、現代は環境を破壊する科学技術も桁外れだし、地球規模での崩壊が起こっても不思議ではない、いや起こりつつある。

  • ダイアモンド氏2巻目。
    人類史における文明の崩壊について、どの様な原因があったのか多面的に考察されている。
    崩壊には5つの要因があり、環境被害、気候変動、近隣の敵対集団、友好的な取引相手、環境問題への社会の対応だと言う。
    上巻では現代のモンタナ、イースター島、ビトケアン諸島、アナサジ遺跡、マヤ文明、グリーンランド領のバイキングが取り上げられているが、どの事例も漏れなく環境被害が要因の一つになっている。やはり人間が生活する事で自然に及ぼす影響が大きいのだろう。環境に気をつければ崩壊を免れた可能性が高い。

  • 比較研究
    第一部ではモンタナ州の問題について色々と論じている

    次はイースター島の話
    イースター島が孤立した地球のメタファー

    ピトケアン島とヘンダーソン島の人達がどう滅びたのか

    マヤ文明

    ヴァイキング

    ノルウェー領グリーンランド

    自然植生の破壊、土壌侵食

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著者プロフィール

1937年生まれ。カリフォルニア大学ロサンゼルス校。専門は進化生物学、生理学、生物地理学。1961年にケンブリッジ大学でPh.D.取得。著書に『銃・病原菌・鉄:一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎』でピュリッツァー賞。『文明崩壊:滅亡と存続の命運をわけるもの』(以上、草思社)など著書多数。

「2018年 『歴史は実験できるのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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