遣唐使全航海

著者 :
  • 草思社
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本棚登録 : 26
感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794215444

作品紹介・あらすじ

遣唐使についての盲点のいくつかを取り上げて、遣唐使の知られざる行き来の実態を描く。

感想・レビュー・書評

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  • 歴史はエンターテイメントと言い切ったのは作家の塩野七生。筆者はまさにその通りだと頷き、日頃の読書を通じて役には立たないが己の雑学圏の拡がりを楽しみの一つとしている。今号では、遣唐使について書いてみたい。
    遣唐使は、西暦で言えば7世紀から9世紀末にかけて諸説あるが15回から16回、平均して十数年に1回の割合で派遣された。司馬遼太郎の「空海の風景」を読んでいると、司馬は「(遣唐使)が行き来するのに使用した日本の遣唐使船やその航海術は、唐や新羅のそれに比べて格段に劣っている。だから遣唐使船はほとんどの航海で遭難して漂流し、高い風波に遭うと破壊され沈没し、多くの犠牲者を出した」と言い、さらに「信じがたいほどのことだが、この当時の日本の遠洋航海術は幼稚という以上に無知であった。逆風に遭遇すれば船は覆らざるを得ないのだ。迷信のように真夏をえらび、しばしば遭難した。」と書いている。
    果たしてそうだったのか?本書によると、200年余りの間に日本から発遣された遣唐使船は36隻に及ぶが、このうち26隻は無事日本に帰着している。これを人員数で見れば8割強が帰国を果たしている。著者は、150人もが乗船できる大型船を建造した造船技術、東シナ海を往復した航海術などは具体的な内容はわからないにしても、その功績は高く評価されなければならないと主張している。本書は4章で構成され、最後の第4章は「遣唐使の船と航海」と題し、前述の司馬遼太郎が書き込んだことに反証する形で、船の形と大きさ、網代の帆、横断日数と速度、また航海と季節風について解説をしている。また、巻末の遣唐使渡航陣容一覧、遣使・遣唐使関連年表や、九州と山東半島/江南地方の略図や唐の略図は理解を助ける。遣唐使とはいかなるものであったかを1冊で理解できる本だ。
    遣唐使船の大きさ
    本書で著者が遣唐使船の大きさについてまとめた推定値表は下表のとおり。著者によればCは当時唐や新羅で使われた60人乗り程度の実用的な航洋船、Bは前半期に120人程度が乗り組んだ遣唐使船、あるいは渤海使船、Aは遣唐使後半期の大型船と想定している。
    1989年に広島市で開催された「広島海と島の博覧会」で企画された復元船と模型
    木造船の建造技術を継承している船大工が多く残っている瀬戸内海の倉橋島で、実物大の復元船建造計画が企画された。建造着手段階になるといろいろな制約から大きさが制限されて、復元船は、全長25m、幅7m、船底から帆柱の頂までの高さ17m、総トン数は約200トンとなった。
    往時の遣唐使船は網代帆(あじろほ)をその推進力としたが、この復元船は海上では曳航されての航海となった。この復元船は、呉市の「長門の造船歴史館」に展示されており、ザ・ロープの有志が2015年11月に創立40周年記念行事の国内旅行で訪問している。
    また、2018年3月に東広島で開催されたザ・ロープヒロシマ第28回展で、同会会員の隋行さんが遣唐使船の大型模型(縮尺1/30、スクラッチ)を展示している。作者は製作に際して、数多くの資料を参考にしたり倉橋島も訪問している。製作時間1千時間を超える大作。

  • 遣唐使興味高まって手にしたのがこの本。
    遣唐使が回毎でまとまってるのすごく有難い。結構前に読了しましたが今でも確認の為に定期的に開く本です。
    とにかく「遣唐使船は季節風を知らず航海術も劣っていて多くが遭難漂流してしまうデッドオアアライブ」という漠然とした定説への疑問に対して各方面からの検証がわかりやすく丁寧。航海に関する専門的な話も比較的読み易いです。遣唐使関連の初読におススメ。
    言われるほど遣唐使船は遭難・水死してないよ!という念押しが何度も出てくる辺り根強い一般イメージがあるんだなという感じ。鑑真和上も5、6回海に出て失敗したような印象だけど実際航海チャレンジしたの2回ぐらいですね。
    終盤の平安期の遣唐使はあまり知らなかったけど、情報量も多くなってきてて、なかなかのgdgdっぷりがさすが終焉近づいてるなと思わせられる。

  • 今までの遣唐使研究の総括、批判と筆者による見直し。

    遣隋使、遣唐使遣唐使の派遣回数、時代区分、説の総括。
    全派遣の概観、遣唐使船の構造、気象学を踏まえた航海と季節風の関係。

    図表に遣隋使、遣唐使の派遣一覧、西高東低の冬型気圧配置と風向、1981年ポートピア博出で展示された遣唐使船復元模型の設計図、遣唐使船の船番号と乗船人員数一覧、遣唐使船の大きさ推定値表、航海速度想定表、日本周辺の夏、冬の気圧配置と風向、東シナ海の月別風向風速図、東シナ海海域の卓越風の風向と遣唐使船の渡海実績、遣唐使及びその後の日中間の航海の月別頻度、遣唐使・遣隋使渡航陣容一覧表、関連年表、遣唐使関連略地図

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著者プロフィール

1931年生まれ。日本海事史学会、日本暦学会共に理事。
著書に『日本渤海交渉史 増補版』(共著、彩流社)、『渤海国―東アジア古代王国の使者たち』(講談社学術文庫)、『遣唐使全航海』(草思社)などがある。

「2016年 『文科系のための暦(こよみ)読本』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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