ブラックホールを見つけた男

制作 : 阪本 芳久 
  • 草思社
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本棚登録 : 68
レビュー : 6
  • Amazon.co.jp ・本 (544ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794217189

作品紹介・あらすじ

ブラックホールがこの宇宙に存在する-1930年にそれをはじめて理論的に指摘したのは、インドからきた19歳の天才少年、チャンドラセカールだった。しかし、学界の重鎮エディントンはこの発見を無根拠に否定、その結果、ブラックホールの研究は40年近くも停滞し、チャンドラセカールの人生にも大きな影を落とすことになる…。ブラックホール研究の草創期の科学者たちのドラマを中心に、冷戦時代の軍拡競争がもたらした意外な研究成果、最新の研究事情まで、天体物理学最大の発見がたどった数奇な歴史を描き出す。

感想・レビュー・書評

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  • 請求記号・443.5/Mi
    資料ID・100055460

  •  主人公は植民地インド出身の天体物理学者チャンドラセカール。彼の生涯(特に大御所エディントンとの確執)を軸に,ブラックホール研究の進展や,天体物理と水爆開発の関係などが描かれる。
     バラモン階級の恵まれた家庭で育ったチャンドラセカールは,19の時に,ケンブリッジで物理の研究をするため宗主国イギリスへ渡る。その船中で計算した結果が,もっとも有名な業績。白色矮星の上限質量「チャンドラセカール限界」を発見,これで後年ノーベル賞を受賞している。彼の叔父のラマンも有名な物理学者で,船上で海面を眺めているときにラマン効果を着想したというから,なかなかのエピソード。
     白色矮星は,恒星が燃え尽きた後に残る高密度の天体で,強い重力を電子の縮退圧が支えることによって安定している。この白色矮星の質量が大きくなると,電子の縮退圧が重力に負けて,際限なく内側へ崩壊してしまう。今でいうブラックホールが予言されたことになる。
     チャンドラセカールがこの結果を発表したのは1931年。当時ケンブリッジには天体物理の大御所エディントンがいた。彼はアインシュタインの相対性理論を英語圏ではじめに紹介し,さらに一般相対論を検証する1919年の日蝕観測をしたことで高名で,とても大きな影響力を持っていた。
     しかしエディントンは,チャンドラセカールの得た結果に反発。1935年1月11日の王立天文学会協会の会合で,チャンドラセカールの研究を執拗に攻撃。物理に無限大などありえない,星が無限に潰れるはずなどない,それを妨げる未発見の何かがあるはずで取るに足りない無駄な研究だ,と大勢の目の前で痛烈に批判した。根拠のない中傷であるが,重鎮エディントンの意見に周囲も流されてしまう。当時の社会状況を考えると,人種偏見があったのかもしれない。チャンドラセカールの人生に,この事件が長く尾を引くことになる。
     結局チャンドラセカールはその後アメリカで研究を続け,帰化する。理論と観測が進み,白色矮星より小さく高密度で,中性子の縮退圧で支えられる中性子星が予言され,パルサーが中性子星であることが分かり,さらに中性子星にも質量の上限があることが分かってくると,巨大な恒星が燃え尽きて超新星爆発を起こすと,中心に中性子の縮退圧でも支えきれないブラックホールができることがようやく受け入れられるようになってきた。頑迷なエディントンがブラックホール研究を遅らせたと評されることもあるようだが,ブラックホールが受け入れられるにいたったのは,コンピュータによる大量の計算を用いた多くの研究が積み重なった結果のような感じも受ける。チャンドラセカールは生涯根に持っていたようで,当事者である以上それは仕方がない。パラダイムが変わっていくのはやはり徐々になんだろう。
     本書には,20世紀の名だたる物理学者たちがたくさん登場してなかなか壮観。ハイゼンベルク,パウリ,ディラック,ボルン,フォン・ノイマン,オッペンハイマー,フェルミ,ランダウ,ガモフ…。チャンドラセカールはその中では無名なほうだろうが,ほかにX線観測衛星「チャンドラ」にもその名を残した。彼の死後4年,1999年に打ち上げられた。ブラックホールは周囲のガスを吸い込むときに強力なX線を出すがそれを観測できる。
     彼は19の時の着想がノーベル賞授賞理由になったことに不満だったそう。自伝的声明文で,星の構造のほかにも,放射伝達,電磁流体の力学的安定性,楕円形状の平衡,流体及び相対論と相対論的天体物理学,ブラックホールの数学理論についての業績を列挙したとか。とてもストイックな人で,難解な数学をこねくり回すのもあまり苦にしなかったし,ノーベル章受賞後も精力的に研究・執筆を続けた。高潔な生活が科学で偉業をなすのに不可欠と信じていたらしく,シュレディンガーに多くの愛人がいたことに衝撃を受けたという。愛すべき人物だ。

  • 図書館本。一気に読んでしまいました。エディントンの立場から書かれた本もさがそう。

  • ブラックホールの存在を証明したインドの数学者チャンドラセカールの伝記。
    インドは天才的な数学者を輩出する国として有名ですが、このチャンドラセカールもそのうちの一人です。
    偉大な先輩ラマヌジャンのようになりたいと考え、彼はイギリスに渡ります。その旅の中でブラックホールの存在を証明しましたが、その考えはイギリスの学会では受け入れられず放置されたままとなってしまいます。師匠であるエディントンは、最初は好意的に接していましたが、チャンドラが主張する考え方には反対し続け、遂に彼は居場所を失ってアメリカに渡り研究を続けます。学会の壁、人種の壁など幾多の困難を乗り越えた結果として、1983年「星の構造と進化にとって重要な物理的過程の理論的研究」でノーベル物理学賞を受賞し、彼の業績が報われることとなります。しかし、もしイギリスの学会が早い段階で彼の主張を認めていたら、宇宙物理学はもっと早く進歩していたかもしれないと言われています。
    偉大な業績を上げる人達の人生には困難が付きものですが、逆に言えば困難を解決していく人こそが、偉大な人間と言えるのかもしれません。

  • 面白かった。科学史の中で偉大な発見、発明をした天才と呼ばれた科学者たち。しかし、その天才たちの人間としてはあまりにも俗っぽいそのギャップが印象的でした。天才といえども人の子ということでしょうか。

    それにしても人類の知性が明らかにしてきたこの世界の驚くべき実体。空間の特異点のブラックホールもまたその一つなわけですが、いったいどうなっているんだこの世界は、と思わざるを得ない最新の宇宙科学の成果についてもわかりやすく書いてあり理解が深まりました。

  • 延々とエティントンがチャンドラの妨害をした,という話がつづき,ちょっと辟易とした.
    白色矮星の質量上限がどのように認められたかの歴史的な証言としては価値があるのかも知れないが,もう少し書き方があったのでは?と思った.
    後半はチャンドラとはあまり関係なく,中性子星とブラックホールの話.
    邦題タイトルはあまり適当とは思えなかった.「ブラックホールにつながる仕事をした男」というところ.原題もわかりにくいけど.

    全体としては白色矮星からブラックホールの発見,原子爆弾,水素爆弾などの発明の歴史や舞台裏を覗けた,という意味では役立ったが.

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