田中角栄 封じられた資源戦略

著者 :
  • 草思社
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794217356

作品紹介・あらすじ

アメリカの傘下を離れ独自に資源供給ルートを確保する-。七〇年代に宰相・角栄は自ら世界を駆け回って直接交渉する「資源外交」を大々的に展開した。石油ではメジャー支配を振り切ってインドネシアやソ連と交渉し、原子力ではフランス、オーストラリア等と独自に手を結ぼうとした。角栄の失脚はこの資源外交の報復だとも言われている。実際のところどうだったのだろうか。石油メジャーやウラン・カルテルを形成する「資源帝国」とアメリカや欧州各国の思惑、そこを突き破ろうと突進した角栄の資源戦略はいかに展開され、いかに潰えていったのか。日米関係の大幅な組み換えが始まるいまこそ再検証すべき「資源戦争」の全容を詳細に描いた力作。

感想・レビュー・書評

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  • ロッキード事件で知られる田中角栄元首相の、意外と知られていない「資源外交」にスポットライトを当てた一冊。「持たざる国」日本が、資源やエネルギーなど、実益絡み合う国際社会の中でいかなる外交を展開したか、アメリカをはじめとする大国、そしてメジャーと言われる大企業の視点を取り込みながら記したノンフィクション。

    石油・ウラン(原子力発電に必要)に焦点を特に合わせているけれど、現在のエネルギー問題を考える上でも、決して落とせない歴史が詰まっていたように思う。IT技術の発展の裏で忘れられがちだけど、日本は資源を持っていないという大前提(そしてそれに伴う困苦とも言える厳しさ)を改めて思い起こさせてくれる。

    本書冒頭にあるように、田中角栄氏が展開した資源外交は学ぶべき対象になるかと思う。資源やそれに伴う安保問題などは、どこかきな臭く、さらには忌避される向きもあるけれど、生活に責任を持つ立場にある場合、そういった問題から目をそらすことは許されないのだなと感じる。歴史的評価の分かれる田中角栄という人物評は、そういった点に対峙したところは改めて評価されるべきなのかなと。 それにしても米国の実利外交はスゴい。

  • ロッキード事件は田中角栄だけ受託収賄罪にとわれ、ロッキード社のコーチャンは贈賄罪にとわれなかったので片手落である、すなわち、日本の独立をおびやかすアメリカからの飛礫がロッキード事件であったと言われる。
    背景として田中が資源外交を通じてアメリカという虎の尾を踏んだことがこの本を読むとよく理解できる。世界、特に米国のエネルギー保障戦略と歴史を理解する上でも極めて有効な本だと思います。

    「満州太郎」「アラビア太郎」などと呼ばれた山下 太郎も記憶に残したい。

  • 1970年代原油やウランといった資源獲得のために動いた田中角栄の半生を紹介している。
    田中角栄といえば、「日本列島改造論」に代表される土建による国土開発や、「政治とカネ」にまつわるイメージが先行するが、日中国交正常化に代表されるように外交にも力を入れていたことが分かる。特に、敗戦を通じて持たざる国・日本のアキレス腱が資源であることを強烈に意識していたことは、ことあるごとに「石油の一滴は血の一滴」と話していたことからも分かる。特に石油とウランの安定供給先の確保に向けて、インドネシア、オーストラリア、ソ連、ヨーロッパなど文字通り世界中の各国と交渉に当たった角栄は、アメリカの不興を買うことになる。ロックフェラーなどの財閥につながる資源メジャーを背景にした圧力は、予想以外に強力だったようだ。

  • やったことの内容と結果はどうであれ、ともかくこういったタフ・ネゴーシエータの首領と、それを補佐する有能なスタッフというのが、今の日本にいればと思わせる。小泉さんがそうかとちょっと前には思ってたけど、全然違うということが良くわかる本。

  • 田中角栄と言えば「日本列島改造論」「金権政治(ロッキード事件)」しか思い浮かばなかった。この本によると、かなり積極的にエネルギー問題に取り組んでいたことが窺える。いやーご立派。当時はダーティな政治家としての印象しか持ち得なかったが、半世紀社会にもまれた現在の自分の評価では、○ですね。政治家とは清濁併せ飲み込む器量がないと無理ですねというのが持論である。今の軽薄な現代において、なぜかクリーンな政治家絶対論みたいなところがある。で自分ら(国民)は、給食費不払いなどのモンスターペアレンツや国民保険料の不払いなどの義務を果たさないで権利ばかり主張する利己主義者ばかり。こんな矛盾のある社会ではあきれることばかり。田中角栄さん天国で怒ってるでしょうね。こんな国(国民)の為に、命を賭けて政治家として頑張っていたのかと。

  • 小沢一郎の問題につながる アメリカとのたたかい モノリスのスキャン不調

  • 永井陽之助氏の、現実を重々承知しつつ、理想へと着実に一歩ずつ進む理念の訴えを読んだあとに、現実のドロドロを知ると、すさまじいギャップを感じる。
    この現実を知りながら、「平和への道は険しく、忍耐と自制のいる迂路である。」と書けるということが、素晴らしい。

    この本、すんごいおもしろい。
    日本の高度経済成長期と、世界の財閥のからみ、資源をめぐる争いを田中角栄の戦略とともにたどっていける。

    田中角栄は汚職政治家の汚い面しか知らなかった。土建会社から政界に転身して、資源のない日本に、複数ルートでの資源供給を確保しようとした奔走の姿は、政治家としての一面に驚いた。鳩山さんと違って、押しも利くし、うるさいほどではあるが、やることはやってたんだな。

    外交はトップ同士がちょっと話し合った程度で決まるものじゃないから、裏での工作はあるんだろうと思っていたが、これが作者の推理部分も含むのだとしても、実際はもっと激しい攻防のもとに動いているんだろう。
    脅したり金使ったりが当たり前の世界に、自分の知る世界との差に、唖然とした。

    資源の争奪は、産出国から奪い取る形で先進国が侵出していて、問題になっている。
    中国、カナダあたりのやり方がアコギで有名だけど、アメリカの支配力はとんでもないな。ロスチャイルドやロックフェラーとか、血縁やコネと利権の絡み。



    p17
    「ウラン鉱石は、採掘から精錬、濃縮などの加工が行なわれて原発で燃やされる。使用済み核燃料は再処理してプルトニウムを取り出せば、ふたたび原発の燃料として使える。この過程の「濃縮」と「再処理」技術は、そのまま核兵器開発に転用できる」

    聞こえはいいが、原子力=核、という忘れがちな安全「神話」のエネルギー
    代替案を考え付いている状況ではないが

    p129要約
    『天然ウランは大部分が非核分裂性ウラン=ウラン238で、核分裂性ウラン=ウラン235は0.7%しか含まれていない。
    第二次大戦中に「マンハッタン計画」にて考案された、ウラン鉱石からの原爆作成方法二通り

    「ウラン濃縮」……核分裂を起こすウラン235を集める。「ガス拡散法」にてウラン235を分離し、濃縮する。広島に落とされた原爆「リトルボーイ」の製法

    「再処理法」?……ウラン238を核分裂性の「プルトニウム239」に、原子炉と再処理工場で変換する。長崎に落とされた「ファットマン」の製法』

    こんなのを聞くと、広島と長崎に原爆を投下したのは文化遺産としての京都を避けたのではなく、海や山などの地理的状況と、その日の天気が似ていることをわざわざ選んで、二種の原爆を試した、という話が、真実味を帯びて迫りますな……

    p130要約
    『アメリカは世界のウラン濃縮を独占して、原子力の核兵器への転用コントロールも考えていた。(P18国際核燃料銀行は、カーター政権時代の核不拡散政策より。エネルギー企業であるエクソンモービルを擁するロックフェラー財閥の宿願。こことキッシンジャーがつながってて、そこが今のオバマにつながる)

    以下、発電用原子炉の各国開発状況
    ソ連……天然ウランが原料の「重水炉」
    イギリス……天然ウランが原料の「黒鉛炉」
    フランス……後述。ガス拡散法 ここは官民あげて、アメリカの原子力支配に抵抗
    アメリカ……軽水炉(世界の原発8割が軽水炉)』

    p153要約
    『アメリカが採用しているガス拡散法は、ばかでかい規模と途方もない電力が必要。工場オークリッジの敷地は200万平方フィート(約5.6万坪)、濃縮工場は年間にニューヨーク市とほぼ同じ量の電力を消費』

    西ドイツ、イギリス、オランダが共同研究していた「遠心分離法」は施設も小さく、電力消費量がガス拡散法の5%におさまる。第二次大戦中のドイツ原爆開発チームの発見による。
    しかしアメリカは、ウラン濃縮と原子炉の支配体制崩壊を恐れて、西ドイツに圧力。西ドイツは遠心分離法を政府管轄下におく。しかし、極秘に西ドイツ、イギリス、オランダで、共同の研究開発会社「ウレンコ」設立。

    フランスはドイツに欧州の主導権をとられないため、ウレンコに対抗して、ガス拡散法。スペイン、イタリア、ベルギーと共同会社「ユーロディフ」設立。

    今は、遠心分離法はアメリカ、フランス以外のドイツ、イギリス、オランダ、ロシア、中国、日本、パキスタンなどが取り入れ。』

    p163要約 これは1973あたりの話かな
    『資源ナショナリズムが昂揚するアラブ勢 対 アメリカの支持を受けるイスラエル
    イスラエルは軍事力で有利だったが、アラブ諸国から武器と資金の援助を受けたエジプトとシリアは戦端を開く。石油が、アラブの後ろ盾になっている』

  • 今、中国がアフリカや南太平洋や中央アジアへ借款と引き換えに資源採掘権を買いあさっていることに対して、警戒する日本人は多いと思います。もちろん欧米の資源カルテルも警戒しているでしょうが、にしては、うまくやっているように感じます。本書に書かれた日本の70年代の資源戦略と今の中国のそれは何が違うのでしょう?

    小沢一郎民主党幹事長を検察が執拗に攻撃していましたが、元をただせば、旧田中派・経世会の政治家への攻撃の歴史を無視してはポイントがずれてしまうのではないかと考えていた頃に、この本を店頭で見つけました。日本の政権交代にあわせた良いタイミングで世に出されたと思います。

  • ビッグスリー スタンダード、シェル、アングロペルシア (BP)
    セブンシスターズ 上記、モービル、ガルフ、テキサコ、シェブロン
    現在 エクソンモービル、ロイヤルダッチシエル、BP、シェブロン
    その他にサウジアラムコ、ペトロナス(マレーシア)、ペトロブラス(ブラジル),ペトロチャイナ、ガスプロム、イラン国営石油、ベネズエラ国営石油 が新セブンシスターズ
    松根宗一 興銀ー理研ピストンリングー東電顧問 柏崎市に原発誘致を勧めている
    早坂茂三 田中角栄回想録
    アラビア石油 カフジ油田の権益失効

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著者プロフィール

1959年愛媛県生まれ。ノンフィクション作家。「人と時代」「公と私」を共通テーマに政治・経済、医療、近現代史、建築など分野を超えて執筆。時事番組の司会、コメンテーターも務める。一般社団デモクラシータイムス同人。著書に『ルポ 副反応疑い死』(ちくま新書)、『コロナ戦記 医療現場と政治の700日』(岩波書店)、『後藤新平 日本の羅針盤となった男』『田中角栄の資源戦争』(ともに草思社文庫)、『ゴッドドクター 徳田虎雄』(小学館文庫)ほか多数。

「2023年 『暴言市長奮戦記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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