文庫 銃・病原菌・鉄 (下) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)
- 草思社 (2012年2月2日発売)


- Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
- / ISBN・EAN: 9784794218797
作品紹介・あらすじ
世界史の勢力地図は、侵略と淘汰が繰り返されるなかで幾度となく塗り替えられてきた。歴史の勝者と敗者を分けた要因とは、銃器や金属器技術の有無、農耕収穫物や家畜の種類、運搬・移動手段の差異、情報を伝達し保持する文字の存在など多岐にわたっている。だが、地域によるその差を生み出した真の要因とは何だったのか?文系・理系の枠を超えて最新の研究成果を編み上げ、まったく新しい人類史・文明史の視点を提示した知的興奮の書。ピュリッツァー賞・コスモス国際賞受賞作。朝日新聞「ゼロ年代の50冊」第1位。
感想・レビュー・書評
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なぜ中国では無かったのか。
環境に依存した発展が中東やアジアを置き去りにした。
人類史に対する考え方の一つである。
これからはどうか。
時間が経てばまた評価は変わる。
新たなことが解れば、思考は常に使い捨てだ。
そして、その踏襲が人類史を描くのだ。
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なぜ世界が今あるような力関係になっているのか、歴史的、生物的な視点で紐解いていく、ベストセラーの下巻。
全体的な話は上巻の感想と共通するので、下巻の中で興味深いと思ったところのメモ。第12章から始まる下巻は、まず「文字」の話で、どういう社会、状況で文字は生み出されたのか、という話。特に「セコイヤが考案したチェロキー語の音節文字」(p.39)が詳しく紹介されているが、まず「音節文字」はマヤの文字、ミケーネ文明の線文字Bなどもそうだ(p.28)というのが発見だった。文字の本も、マヤ文字の本も読んだことあるはずなのに、忘れている。あとはこのセコイヤという人はすごい。現代日本人は当たり前のように文字を見たら音声に変換してしまうし、逆に聞いた言葉は文字化できる訳だけれども、言葉があるから世界は分けられる、という考え方があるように、「セコイヤは、チェロキー語には有限個の音の要素があって、どの単語もそれらの要素の組み合わせて構成されていることに気づいた」(p.38)ということが、考えてみれば当たり前だけど新鮮だった。文字の話のつながりでは、「日本人が、効率のよいアルファベットやカナ文字ではなく、書くのがたいへんな漢字を優先して使うのも、漢字の社会的ステータスが高いから」(p.72)というのは、本当にそうなのだろうか。例えばこのレビューを全部分かち書きしないでカナで書いたらものすごい読みにくいと思うんだけど。表語文字のメリットは数の多さによって生まれるデメリットより大きい、と感じてしまうのは、おれが日本人だからなのだろうか。
あと、「『必要は発明の母』という錯覚」(p.62)の話が面白い。「実際の発明の多くは、人間の好奇心の産物であって、何か特定のものを作りだそうとして生みだされたわけではない。発明をどのように応用するかは、発明がなされたあとに考えだされている。」(p.62)ということと、そこに続く例(飛行機、自動車、内燃機関、電球、蓄音機、半導体)も、誰かが何か明確な意味や目的があって作り出したものではない、というのは目からうろこ。「発明好き」なおじいちゃんの訳分からん発明を面白がる番組があったが、ああいうことをしてみることが重要ということなのかもしれない。
オーストラリア先住民が「生きたディンゴを毛布代わりに使った」(p.181)ということから、「とても寒い夜」を意味するイディオムでfive-dog nightというのがある(同)らしい。手持ちの辞書にはなかったけど、どれくらい使えるイディオムなんだろう。
そして、「マダガスカル島からイースター島までをカバーする範囲に分布しているオーストロネシア語ファミリーの言語は、すべて台湾から広がり始めた人間集団の拡散がもたらしたもの」(p.243)だそうで、だとすれば台湾は人類の中の1つの大きなグループ発祥の地、というすごい土地という感じがする。
それから、おれが受けた比較言語学の授業は、ほとんど印欧祖語の再建の話だったけど、「バンツー祖語を話していた人びとの問題も、英語の祖語の発祥地を推論したのと同じ手法を使って言語学的に考えることができる。それによると、現在アフリカ全土に拡散している約二億人のバンツー族は、カメルーンやナイジェリアのあたりから広まっていったことがわかる。この結論は、言語学的な考察なしに求めることはできなかったと思われる。」(pp.332-3)だそうで、言語学の成果がこういう人類学に活かされるという例をもっと教えて欲しかった。(おれが勉強すべきだった。)
あとアフリカの話は意外なことがたくさんあったけど、その1つは「西アフリカの人びとは、そういう飲み物をコカコーラ社が売りはじめるはるか以前から、コーラナッツの実を口の中で噛みくだいて、成分のカフェインを一種の麻薬として使用していた」(p.337)らしい。コーラナッツというものも初耳。コーラっていかにも人工的な味、と思っていたのに。もう1つ、「銅の冶金技術が発展するかたちで鉄の冶金がアフリカで独自にはじまったとも考えられる。(略)十九世紀ヨーロッパやアメリカでベッセマー溶鉱炉が使われるようになる二〇〇〇年も前に村の鉱炉で高熱を発生させ、鋼鉄を製造する方法を知っていたのである。」(pp.352-3)ということで、事実だとすれば、これは本当に驚き。
最後に、色々な好条件がそろっている中国が、なぜヨーロッパにリードを奪われてしまったのか、という話で、「地域の地理的結びつきが強かったことがかえって逆に作用し、一人の支配者の決定が全国の技術革新の流れを再三再四止めてしまうようなことが起こった。」(pp.385-6)という、人口が多くて団結しているのは良いことだ、ということでも全くないらしい、ということで、謎解きの最後の最後まで面白さの味わえる本だった。
謎解きが終わって、「科学としての人類史」という部分では、科学としての歴史研究と、一般的に言われている科学との類似点や相違点を説明し、「歴史科学」の可能性について述べられている。文理問わず読むべき本、という感じがする。(20/03/31) -
アボリジニのような先住民に対して、少なからず自分は偏見を持っていたもしれない。でも読んでみて、彼らは厳しい環境の中で自分達の力で生きてきた、尊敬すべき人々であることに気づかされた。その一方で、自分の生活に目を向けたとき、自分の家の中には何一つ自分で一から作り出したものがないことに唖然とした。何一つとしてない。だからといって今から無人島で暮らせるような力をつけたいとは思わないけど、せめてこの満たされた生活ができることに感謝して過ごしたい。
この本の結論は、冒頭で既に述べてあったように、各国の貧富の差は、もとをたどれば人種の能力の差によるものでは決してなく、地形の違いによるもの。だったら今たまたま富める国で生活できる私たちは、苦しい生活を強いられている人々に対してできることを見つけなくてはならないと思う。探さなくちゃ。やらなくちゃ。 -
この本を読んでいる間に国内で新型コロナウイルスが蔓延し始めて、本書の内容とのリンクぶりに驚かされました。
上巻に比べると、難しいところも多く感じました。特に、文字、オーストロネシア人、アフリカ民族の章は、理解しきれていない部分もあるので、読み直します。
少し長めのエピローグが感動的な内容でした。
中国がなぜ、ヨーロッパのように他の大陸に進出していかなかったのか、私も読みながら、気になっていたのですが、エピローグに出てきました。
また、この本では考察しきれていない課題について書かれているので、さらに好奇心が増しました。 -
かなり難しい本で、この中の1割くらいしかちゃんとわかっていないかもしれない。でも、今さながらに衝撃を受けたのが、この地球上で1万3000年前から人類が始まっていたことだった。そしてその頃からヒトは侵略や殺戮を繰り返し、村や種族がなくなったり、多くの種類の動物も絶滅したそうだ。最初のあたりでこのような部分に触れ、絶望にも似たような感じを持った。そりゃあ、今も戦争はなくならないよな・・とか、地球温暖化って・・、とか。私たちはよく動物の行動を本能として語るが、ヒトの本能は動物の中でもあまり好ましいものではないなと思う。
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非常に興味深く読んだ。
上巻に比べ、下巻は言語の伝播がどのようにして大陸を移動していったかなどであった。上巻に比べ、下巻のほうがちょっと分かりにくかったかな。
いずれにせよ、土地の環境、気候や風土、土着の動植物などのコンディションの違いでそこに住む人間の発展が変わってきてしまうという。本当に興味深い。 -
なぜ持つ者と持たざる者の国があるのか。
それを人種や能力ではなく、数万年規模の環境による影響の帰結というように考察した本書。
最初、すげー難しいのだろうな・・・と思っていたら全然そんなことなくて、ものすごい勢いで読まされた。
土地に農業に適した野生種が多数あり、家畜化できる動物がいて、それが非労働者階級を育めるだけの作物を作ることにつながり、人の集約が文化と発明を作り、他との交流がより一層の切磋琢磨を産む・・・
いやあ歴史だねえ。ロマンだねえ。 -
(無味なメモ・感想・雑記)
本書で繰り返されてきた生き残った文明の条件をざっくりながめてみると、よりたくさんの人数、面積、資源、余剰な富があったうえで、できるだけ自由・公平な一定ルール化での競争と交流(情報量の多さ、それを整理する構造やネットワーク)にどれぐらい恵まれたか、という条件だろうか。
自国ファースト、保護主義的な政策をその組織が取り始めたとしたら、延命措置を選択するしかない、滅びはじめのサイン。未来に時間とチャンスいう財産大量に持っている若者ならば、緩慢な死に付き合うべきではない。
高校までの世界史をなぞらえるような上巻よりも下巻の第三部(文字、発明と技術、集権社会)のほうがおもしろかった。エピローグの歴史科学が結果論に強く依拠しやすいことなどについて、歴史系の読み物を読むときに起こりがちな疑念を説明してくれていてよかった。歴史科学も定量的なデータを集積分析して仮説推論を裏付けしていく地道な作業が必要だという。仮説推論の時点で非科学的だ、とか、バカげていると決めることもないし、多く読まれている本だからといって、ほぼ確証があるわけでもない、という当たり前のことだけど、改めて物事を観る姿勢を確認しなおせた。
たくさんのデータを巨視的にまとめてみれば、古典物理的に解析できるけれど、細かな事象にいたっては、そういった手法では確実性を持たせることができないところは歴史も物理も同じ、…というか統計的処理なのだからそりゃそうなんだろう。
中世までの中国の技術や社会制度面における先進ぶりが印象深かった。
中国が先進的に発展した(ジャレド先生的な)地理的要因の一つとして、黄河と長江による物流や人、情報の交流が盛んであったことがあげられる。
(P378)鋳鉄、磁針、火薬、製紙技術、印刷術、政治制度、航海技術、海洋技術
中国がヨーロッパにリードを奪われた理由:敵対派との対立に因する 宦官主導 船団の派遣(1405~33)の中止 →造船所解体 外洋航海禁止
ヨーロッパはバスコダガマの航路発見一つにしても、アジアの船乗りの助けを得たものであり、歴史的記述が多いせいもあるけれどヨーロッパ以外の世界からの略奪や殺戮が目立つ、という印象。洗練されていたアジアや、多様なヨーロッパ以外の外部世界からの略奪により欧州近世の富がもたらされた。これは外部世界の開拓をその基本軸とし、現代に連なる資本主義のベースとなるものである。
P97 食料生産は人類史上初めて、農民に生活を支えられた、非生産民の専門職を擁する経済システムにもとづく社会の登場を可能としている。
ー 一次、二次産業に属さない、サービスや官僚システムに関わるものは、システムを維持する魔術に携わる呪術師のようなもの。
P285
- インカはテクノロジー発達に千年単位で、ユーラシアと差があったことなどから滅びた。資本主義末期のいま、世界システムは崖が近いのに誰にもとめられない坂道を転がる車輪のようだ。
ローマレポート以降ごろから、環境問題がクローズアップされ、サステナブルに生きることが求められている。しかし、競争やむことはないから、それはあくまでも、進化やブラッシュアップとしての選択肢。せーのでみんながスローになんかならないのは、CO2排出権取引ひとつとっても明らか。
けれど、コロナでバーチャルでつながることが主流になってきたら、熾烈な実力主義競争になるだろうか?その前に、中央集権的な国家や金融システムが死ぬか?ネット中心のバーチャルとなって、監視と極端な中央集権が進み多様性を失って、生物としては滅び機構として動くシステムになるか、もしくは、バーチャルトライブをゆるい中央集権で結ぶネットワークが可能になるだろうか? -
上巻読了からちょうど1か月かかり、ようやく下巻も読了した。ただの人類史の歴史書物ではなく、読み物、ミステリーとして、大変読み応えのある内容だった。
とても1度では全て理解できた訳ではないので、また時間を空けて挑戦したい。
次は、これもベストセラーのサピエンス全史、ホモデウスと読み進めたい。
著者プロフィール
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