日米開戦の人種的側面アメリカの反省1944

  • 草思社
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  • Amazon.co.jp ・本 (437ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794219114

作品紹介・あらすじ

最も悪質かつ根本的な開戦原因。カリフォルニアにおける凄まじい日本人排斥の歴史と、それが国家間の戦いへと拡大していくプロセスをたどり、1944年の時点で米国人同胞に強い自省を促した著作。

感想・レビュー・書評

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  • 「移民をめぐる文学」より。
    https://note.com/michitani/n/nfbdfdc85303c?magazine_key=me352ff536670

     アメリカに移民した日本人に対して行われた排斥運動。始めは地方での差別がついには法律で国家ぐるみの差別となる。本書の出版は1944年でまだ強制収容所があった時期だ。著者も日本人をどう扱うかの公聴会にも参加している。(この公聴会でノーベル賞作家のパール・バックが発言したこともあったそうだ)著者は「民主主義であるアメリカが、国ぐるみの差別をしていることを反省とし、日本人強制収容プログラムは一刻も早く終了させなければいけない」と主張するものだ。アメリカが日本人移民に対して行った激しい差別運動や、新聞記事や公聴会の様子などの情報を収集して読み取って議論としている。
     著者は、アメリカのことも、日本のことも客観的に論じている。日本人の私としても、この著者の冷静な強さがわかりやすかった。

    1900年前後 カルフォルニア州で半日本人運動が盛んになる。
    1878年 アメリカ市民権を持てる者を「白人に限る」判決を出す。
    1900年 サンフランシスコでは、中国人、日本人の住居隔離が行われた。
    1906年 サンフランシスコ教育委員会が、東洋人児童隔離を実施する。

    1920年 外国人土地所有規制法
    1924年 移民規制法(国別に受け入れ移民数を設定する法律だが、日本人は完全に排除されたので「排日移民法」の要素がある)
     排日運動は最初はカルフォルニアをはじめとする西海岸の州で行われていた。政治スキャンダル隠しや、イギリスで差別にあったアイルランド系移民の扇動の背景がある。
      カルフォルニアはアメリカの中でも独立国家のような様相があった。日本はカルフォルニア州から石油を買っていたので、カルフォルニアとの「戦争」に備えて別の資源確保の土地を探さなければならなかった。そのことがアジアへの派兵に繋がった面も見える。
     そしてこの頃はまだカルフォルニア州と日本との関係の悪化と鎮静の繰り返しであり、アメリカ合衆国としては「日本とは強い友好関係にある」と表明していた。

    1941年 日系人の経済活動制限
    1942年 日本人、日系人(先祖に日本人種的の血を引いている者全て)の強制収容が始まる。
        カナダでも同様の措置が取られる。

     アメリカには多くの国からの移民がいたが、国ぐるみで差別法案が通ったのは日本人に対してだけだ。戦争の相手であるドイツやイタリアの移民に対しての法律的な差別はない。最初は中国人や韓国人も含めて東洋人への差別があったが、やがて日本だけに特化していった。

     著者は日本とアメリカ両国の政府やマスコミの報道についても論じている。両国とも、相手国への反感を煽ることにより自国民を戦争へと向かわせようとしていたのだ。そして「カルフォルニアで日本への差別が酷い時は日本の報道は沈黙し、カルフォルニアが態度を軟化させると日本国内で反米報道される」と疑問を呈している。…なんだがこれは日本がアメリカへの戦闘に向けての情報統制とかではなくてただ日本側が情報を得てなかったんじゃなかろうか…と思ってしまうんだが(-_-;)

     そしてアメリカが如何にして反日本キャンペーンを張ったのか、当時の記事や発言者と発言内容を集めて検証してゆく。政治的経済的な思惑の多々。そのためにいかに日本人が汚く卑しく劣りアメリカと共存できないか、本書に並べ立てられる当時行われた日本人への差別行為、差別用語には心が痛む。

     当事者となってしまった日本人(日系人)にとって強制収容はあまりにも衝撃だった。ファシストに対して戦っているはずのアメリカで、こんなファシスト行為の典型を見せつけられるとは。自由を実現するために戦う”私達の”アメリカが、私達から自由を奪うとは。
    <自由とはいったいなんなのだろうか。いま、ぼくらは真剣に考え始めた。単なる一個人として考えているのではない。一億三千万アメリカ国民の一人として思いを巡らせている。P268>

     そんな日本人たちは、逆らうこともなく収容所に向かう。そしてあれほどの反日本キャンペーンの割には一般アメリカ市民の日本人に向ける目は厳しいものではなくごく普通の隣人として親しみを感じている。著者は「新聞の言葉では95%ほどのアメリカ人が日本人に反感を持っているかのように思えるが、実際には30%程度だろう」と分析している。

     「アメリカで日系人強制収容所があった」ことは語られるが、具体的にどんな生活をしていたのか、私はこの本で初めて知った。
     アメリカの各所に造られた収容所内は粗末なバラックだった。収容者たちは自分たちで修繕したり収容所内での商売を行っていた。
     学校もあったが真面目に通う子どもたちは少ない。食事は供給されるので飢えることはないいし、内部での信仰の自由は認められ、手紙の検閲もされない。つまり監視付きで物資も足りなかったが、中での生活での制限は少なかったようだ。だが食事の提供や受ける意義のない教育のため、そして「アメリカに忠義を誓うか」のアンケートにより、日本人からは「家庭」の意義がなくなった。収容所内では「個人」がない。親は子どもを教育できない。日本に帰る選択肢もある一世の世代と、アメリカで生まれて英語しか話せない二世の世代の隔たりも増すばかりだった。

     国家による反日本政策だが勢いで進んでいったところもあり、多くの矛盾や目論見違いが起こる。
     戦時中のため敵国の日本語をわかる人物を必要としていたが、日系人への日本語教育は禁止となっていた。
     収容所を運営する費用も嵩んでゆく。
     日本人がいなくなった地域では労働者不足が起こったり、黒人が退去して押し寄せ日本人のように安くは雇えなかった。
     収容者たちは戦争捕虜なのか?隔離されているだけなのか?それならいつ出所させるのか?強制収容の際に取り上げられた資産の補償はされるのか?
     そしてあまりの反日本対策のため、日本とのそれならアメリカ兵戦争捕虜との交換計画も反故になった。

    1943年 アメリカに忠誠を誓う収容者の仮出所開始
    1944年 本書が出版される。
    1945年 終戦(日本降伏)、日本人収容所撤廃

     収容所での「アメリカに忠義を誓うか。アメリカのために戦うか」のアンケートで収容所は振り分けられた。そして出所した日系人たちはアメリカ国民として(アメリカで生まれて英語しか話せず友達はアメリカ人なんだからそうだろう)「人種により戦う権利を奪われることはおかしい」と出征してゆく。
     出征しない人たちはどこへ向かわせるのか。受け入れに猛反対する州もあった。だが戻ってみたら近所の人達は昔のように歓迎してくれたという証言もある。政策としての差別だったので綻びが見られるようだ。
     
     移民の性質として「初代は移住の世代。定着するのは二世以降」という言葉には改めて気付かされた。この『移民をめぐる文学』を読んでいても、祖国から移民してきた初代と、移民先の国で生まれた二世には大きな隔たりがある。日系人の場合は、まだ二世が完全に定着する前にアメリカが反日本キャンペンーンを張ったこと、日米関係が悪くなったことに重なってしまったことが不幸だった。これにより、ただでさえ隔たりのある親の代と二世は「家族」の意義を失ってしまった。
     二世たちの言葉も収録されているのだが、「日本は臭いし狭いし不味いし貧しいし女の身分は低いし見張られてるようだし、日本とアメリカ両国を知る人だったら全員がアメリカを選ぶに決まっているだろう」と口々に語る言葉は日本人としては耳が痛いと言うか心が苦しいと言うか。(そう発言することにより「移民は本当のアメリカ人」ということを主張したかったのかもしれないけど)

     著者は<文化の再が生み出す衝突が問題なのではない。文化の違いはそもそも「人種が違う」からだと考えそれで納得してしまうことが危険。P407>と訴え、人種問題解決のための組織作りにも尽力している。


     しかしここで紹介されている反日本人キャンペーンは、現在でも問題になる誹謗中傷や悪評の広がり方を見るようだった…。そんなところは昔から今で変わらないんだな。
     そして日本人強制収容については、日本側もあまり触れたくないように感じてしまう。終戦後はアメリカに占領されていたこともあり言えなかったのかもしれないが、今となってもほとんど振り返られない。しかしここで語られていることはなかったことにしてはいけないんじゃないかな、それは恨みを持つってことじゃなくて、差別された当事者の言葉として、国をあげて差別のやり方がどこに向かうかの見本として、もっと日の目にあたったほうが良いんじゃないかなと思う。

  • 戦間期から大戦中の日系アメリカ人排斥を指摘、糾弾するノンフィクション。
    著者は弁護士、カレイ・マックウィリアムス。
    彼は、この本を書くまでに搾取的な農場や、メキシコ移民に対する不平等を告発し、またカリフォルニア州移民・住宅局長の職務経験もある移民・労働問題のオーソリティ。
    カリフォルニア州の政界や農業マスコミ移民政策に関する豊富な知識を裏付けにして、勤勉な日本人の移民を擁護し、不当な移民排斥政策が日米関係を悪化させてきたかを非難する。
    日系移民がどのように仕事を奪われ、仲間はずれにされ、敵視されたかを詳細に描き、さらに海を隔てた日本側の憤激まで記載しているので、戦間期における日本の対米世論の硬化について考える上でとても興味深い本になっている。
    そして、日系アメリカ人の強制収容に関しても、その不当さ、不手際、それに耐える日本人の声を詳細に伝えている。

    さらに驚くべきは、この本の出版が二次大戦たけなわの1944年に行われていること。
    それも、マハンやリデル・ハート、チャーチル、キッシンジャーといった軍事・政治系の大物の本を出版しているリトル・ブラウンアンドカンパニーという大手出版社から出版されている。
    彼が非難するのは母国の政治家、ジャーナリズム、対日排斥を訴える政治結社や業界団体で、日系アメリカ人と日本人に関しては、一貫してその節度、勤勉さを讃えている。
    どの国でも、総力戦ともなればパトリオティズムが猛威を振るい、アメリカもまたその例外ではなかったはずだけれども、正義を押し通すその理性には感服させられる。

    単に勇気がある人間が一人いた、というだけでは、このような本は完成しない。
    著者が義侠心に応じて知識と経験を積む場、勇敢な主張を振るえる場がアメリカにはあったからこそ、この本は完成した。
    これこそアメリカの偉大さ。

    ちなみに、原著は電子図書館に収録されていて、Webページで読めるほか、テキストやKindle形式でダウンロードもできる。これもまた偉大。
    https://archive.org/details/prejudicejapanes008160mbp
    こんなアメリカの偉大さを、第45代アメリカ大統領は大事にしてほしいものだ。

  • カレイ・マックウィリアム『日米開戦の人種的側面 アメリカの反省1944』草思社、読了。悪名高い戦時下の日系人捕虜収容所の経緯と内実を実証的に語るドキュメント。日露戦争後に澎湃する排日世論から強制収容への道のりを必然と捉え、その人種主義的政策の臆断を指摘する。収容所での生活も詳しく紹介されており貴重な内容である。。

    著者は1938年から4年間、カリフォルニア州の移民・住宅局長を勤めた。日系人収容の経緯をつぶさに見た人物である。著者はアメリカ民主主義の未熟さ憂い、強く反省を促すが、これは他人事ではない。アメリカの懐の深さは、まさに反省できる点である。日本のそれとは対照的である。

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