文庫 良心をもたない人たち (草思社文庫 ス 1-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (267ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794219299

作品紹介・あらすじ

平然と嘘をつき、涙で同情を誘い、都合が悪くなると逆ギレをする-本来、人間に備わるはずの良心をもたないがゆえに、他者への思いやりが絶対的に欠落し、手段を選ばずに自分の欲望を満たそうとする人たちがいる。25人に1人いるとされる"良心をもたないサイコパス"の実態を心理セラピストが明かす。彼らの被害者にならないための見分け方と対処法を教える一冊。

感想・レビュー・書評

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  • 何度目かの読了。今回はレビューも残しておこうと思う。
    原題は「となりのサイコパス」。
    タイトルだけ聞くと冷酷非情な犯罪者を想像しがちだが、実は良心を持たないひとの多くは家庭や社会の中に紛れ込んでおり、米国ではなんと25人に1人の割合で存在するという。
    ひとクラスに一人か二人はいるということだ。
    つまり、誰しもが出会っている可能性がかなり高い。
    この本は、良心の欠如した人間に傷つけられ、トラウマに悩む患者を25年に渡って治療してきた著者が、実体験をもとに、そのようなごく身近で目立たないサイコパスについて、良心ある人々に警告を発するためにまとめたものだ。

    まず最初に、良心を持たないひとというのは確実に存在するということからスタート。
    人は皆同じはずだとか、対話が大切だとかそういった妄想は捨て去ること。
    私自身、過去にそういう人に二度出会っていて、かなり長期間苦しめられた経験がある。
    まさか良心を持たないとは想像だにしなかったため、自分の接し方が悪いのかとずいぶん悩んだ。更に「まさか」なのは、その人は(ふたりとも)聖職者だった。
    後からよくよく考えれば違和感を抱いた瞬間というのは何度もあったのに、自らの感覚に蓋をしたのだ。まさか。そんなこと。悪いのはこちらに違いないと。

    彼らの共通点は、ひとが避けたがるような話題を非常に好むという点だった。
    残酷な犯罪の話や、身近なひとの悪い噂、誰かの失敗など、目を輝かせて嬉々として話す。
    嫌だという意思表示をしても通じないのは、自分が楽しいことは相手も楽しいと思うからだろう。
    だが、その同じ口で、神の愛を説くひとたちなのだ。
    実に口が上手く、笑顔を絶やさずジョークも上手く、外見に必要以上に気を遣うだけあって、とにかく魅力的だった。
    だがそれはサイコパスの特徴のひとつに過ぎなかったと、今では良く分かる。

    この本の中ではその他にもいくつかのサイコパスの特徴を述べているが、もちろん著者は、自分自身や身近にいる人を軽々しく診断してはならないと戒めてもいる。
    平然とひとを傷つける人は、魅力的で口が上手いことを利用して次々にゲームに勝ち、まわりを支配することを目指す。そして犠牲者を増やしていく。
    サイコパスが生まれるのは遺伝によるものか環境のせいか、そしてなぜひとは身近にいる危険な人間に気が付かないのか、現実にそういうひとに遭遇したらどのようにしたら良いのか。
    それらの点が、実に解りやすく書かれてる。

    見分け方のひとつとして括目したのは、サイコパスは「空涙を流す」という点。
    いわゆる「嘘泣き」をするのだ。これは私もこの眼で見たので、心底合点がいく。

    サイコパスに対する文化の影響も挙げられていて、個人主義が強い欧米諸国に比べて集団本位で人と人の相互間家が重んじられるアジアの国々(特に日本と中国)では
    サイコパスの割合が低いらしい。
    とは言え、連日のように報道される事件を聞くと、暗澹たる思いになる。
    良心が片隅に追いやられる現代に、この本の持つ意味は大きい。
    もう一度互いの絆を大切にすることを思い起こし、良心を持つことの大切さを考えたい。
    なまじ良心があるために、人生が思い通りに行かなかったり、損をしたり痛い目にあったりするかもしれない。
    だが、著者の言葉を借りれば「良心は母なる自然のよき贈り物」だ。
    他のひとたちといることから生まれる温かさをじゅうぶん享受して、それを伝えて行こう。

    レビューに載せた自分自身の体験だが、その後私は全力を挙げて彼らと闘い離れた。
    人前で、これでもかと言うほど罵倒された。ストーカーまがいのこともされた。
    でもそんな脅しにはのらなかった。それで良かったのだ。
    入信しないからと言うだけで攻撃される覚えなどさらさら無かった。
    それに、良心ある人たちと結ぶ絆の方が、はるかに幸せをもたらすものだから。

  • アメリカでは、サイコパス(良心をもたない人たち)は、全人口の4%いるという。日本は、それほどではないとのことだが、表面に表れていないだけらしい。この本では、サイコパスの実例をいくつかあげ、そういう人の発見法、対処法が書かれている。うーん、なんだか恐ろしい話が現実のものとして書かれているが、怖いもの見たさの興味で読んでしまった。こんな人たちには、出会いたくないものである。最後に良心とは何かということを論じている。良心とは、感情的愛着による義務感だという。サイコパスは、良心がないのでやりたいことをやりたい放題で、人をゲーム感覚で支配し、悩みもなく、人生の勝者?いや、サイコパスは、愛を知らず、良心も知らず、慢性的な退屈感に苛まれ、最後には哀れな最期を迎えるという。自分では、哀れとは思わないかもしれないがね。

  • 良心をもたない人=サイコパス 本書はサイコパスと対峙するための書である。
    アメリカでは、25人に1人がサイコパスである。すなわち、人口の4%がサイコパスである

    サイコパスとはどのような人か
    サイコパスの被害は何か
    サイコパスを見分ける法とは
    サイコパスに対処するには

    これが本書の流れです。

    気になったのは、以下です。

    反社会性人格障害者は次の7つの問いに、3以上当てはまる人をいう
     ①社会的規範に順応できない
     ②人をだます、操作する
     ③衝動的である、計画性がない
     ④カッとしやすい。攻撃的である
     ⑤自分や他人の身の安全を配慮しない
     ⑥一貫した無責任さ
     ⑦人を傷つけても、良心の呵責を感じない

    フロイトが説く人間の精神構造は3層
     ①イド(原我) 持って生まれた性的本能、攻撃本能、生物的要求
     ②エゴ(自我) 精神的理性、論理性、計画
     ③スーパーエゴ(超自我) 離れなところから自分を見て、アドバイスをしてくる存在、心の見張り役

    ミルグラムの電気ショックを与える実験
    62%を超える被験者は限界を超えてショックを与え続けていた
    それは、男性でも、女性でも同様であった
    100人いれば、4人はサイコパス、62人は権威にしたがうもの、残りの36人が自分の行動の重荷を背負うことができる人である。つまり、3人に1人しかいない

    すべてのサイコパスが強欲ではないが、良心の欠如と強欲さが重なりあうと、恐ろしい存在ができあがる。
    人の貴重なもちもの、美しさ、知性、成功、強い個性は簡単に盗み出すことができないため、人から奪おうとする
    サイコパスが有罪になる確率は低い、囚人のなかで、サイコパスであるのは、20%にすぎない

    サイコパスの手口
     相手を魅了する
     相手はじっくりと観察する、だまされやすい人はだれか、性的な誘惑に弱い相手はだけかを良く見分ける
     ばれそうになると、空涙を使う
     あるいは、いなおって、逆恨みして怒り出し、相手を脅して遠ざけようとする
     人々をあおるのがうまい

    サイコパスの見分け方
     繰り返しあなたの同情を買おうとする
     自分の利益にのみ執着する
     最後に泣き落としにくる

    何がサイコパスを作り上げるのか
     愛ややさしさといった感情を理解できない
     ナルシストには感情がある、サイコパスには感情はない
     幼児虐待にて愛着障害と似ている
     サイコパスの50%は先天的、残りの50%の理由はよくわかっていない

    サイコパスに対処する13のルール
     ①世の中には良心のない人もいるということを肝に銘じる
     ②自分の直観と、相手の肩書、違和感があれば、自分の直観を信じる
     ③3回の嘘、反故が重なったら相手を信じてはならない
     ④権威を疑う
     ⑤調子のいい言葉を疑う
     ⑥必要なときは、尊敬の意味を自分に問い直すこと
     ⑦ゲームに加わらない
     ⑧相手を避ける、連絡を絶つ
     ⑨人に同情しやすい自分の性格に、疑問をもつ
     ⑩なおらないものを、なおそうとしない
     ⑪サイコパスが素顔を隠す手伝いをしない
     ⑫自分の心を守る
     ⑬しあわせを生きる

    利他になれるのは、人間だけでない。自分を犠牲にして種をのがそうとする動物もいる

    道徳的成長は3段階
     ①強制による道徳、切迫した正義
     ②強調の道徳、相互性
     ③後習慣段階:自分の良心を満足するために行動する

    男性は、正義を重んじるが、女性は、思いやりを重んじる

    最後にサイコパスとは
     ・愛も道徳ももたず、慢性的に退屈している
     ・仕事をさぼるために心気症を使うこともある。
     ・努力をつづけることや、組織的に計画された仕事は嫌がる
     ・ひんぱんに休暇や休み時間をとるが、実際に何をしているかは謎である
     ・自分にしか関心がない
     ・人の心の動きを理解する能力が欠けている

    目次
    はじめに
    1 ジョーのジレンマ
    2 氷人間スキップ
    3 良心が眠るとき
    4 世界一、感じのいい人
    5 なぜ人は身近なサイコパスに気づかないのか
    6 良心をもたない人の見分け方
    7 なにが良心のない人をつくりあげるのか
    8 となりのサイコパス
    9 良心はいかに選択されてきたか
    10 なぜ良心はよいものなのか
    訳者あとがき
    文庫版のためのあとがき


    ISBN:9784794219299
    出版社:草思社
    判型:文庫
    ページ数:272ページ
    定価:760円(本体)
    発行年月日:2012年10月
    発売日:2012年10月10日第1刷
    発売日:2019年10月03日第13刷

  • いわゆるサイコパスやソシオパス、反社会性人格障害などと呼ばれ、分類される人たちがいます。本書の帯を写すと、「一見、魅力的だが、うそをついて人をあやつり、空涙をながして同情をひき、追いつめられると逆ギレする」ような人々です。本書はこのような人々を「良心のない人々」と定義し、その視座から彼らとはどういった人たちなのか、何者なのか、を明らかにしていきます。「良心をもたない人々」は良心がないがゆえに、この世界をゲームとしてとらえ、他者に勝利し支配する行動をとります。配偶者や子どもを支配する例が多いようです。

    僕は本書を読みながら、自分の親や自分自身がサイコパスに当てはまるかどうかを考えました。結論からいえば、まるまるすべてが当てはまりはしませんでした。ただ、部分部分で当てはまるものがあり、サイコパスの片鱗があるのかなと感じたりしました。しかしながら、その判断はとてもむずかしいです。いくつかの別角度で考えることを心がけたり、性格というものにたいしてズームイン・ズームアウトみたいに、近寄って考えたり鳥瞰的に考えたりなどして、かなり本気で向き合ってみても、霧がかかったまま明確に結論は出ません。

    90年代に発明されたサイコパス診断シートがあるのですが、むやみに自分自身や近しい人に用いてはならない、とされています。僕が「あるいは、」と考えたのは、本書の筆者が本書にあえてぼかしをいれることで、サイコパスの診断を素人がくだせないように仕向けたのではないか、というものでした。そういった仕掛けによって人権を保護したのかもしれない、と考えるのは、僕が「空想好きのお人好し」だからなのでしょうか?

    さて。欧米では25人に1人(100人に4人)はサイコパスだというデータがあるようです。サイコパスって珍しいタイプなのかと思ってたけど、統合失調症(100人に1人)より多い症例なんです。しかしながら、そう思いながら読んでいたら、東アジアではもっとずっと少ないと載っていました。集団主義的な文化的な背景、世間とかのしがらみが、単独行動とセットのサイコパスを生みにくくしているのかもしれません。

    良心は、寝不足や歯痛などの身体的な不調によって弱くもなるもので、サイコパスのような「良心をもたない」行動へその人の行動を近かせるようです。また、恐怖や不安によっても良心は弱くなる。それと、権威に服従するというもともとの性向を人間は持っているのですが、権威からの働きかけやプレッシャー、服従によっても良心は弱くなり、サイコパスのような行動をとりがちになる。サイコパスは自意識が希薄なことが決定的な特徴だとあるのですが、こういった外的な要因のために自意識が弱まり良心も弱くなるのだろうと考えられます。強迫症で寝不足でという状態だったらほぼ間違いなくその人の行動はサイコパス同等のものになるのでしょう。サイコパスは周囲を支配し他者の人格を壊してしまいます。たとえば、ある人がもともとサイコパスではなくとも、寝不足や不安を原因としてサイコパスと同等の行動をしてしまうのなら、その被害はサイコパスからのものと同等のものを周囲の人は受けてしまい、迷惑そして問題です。ほんとうのサイコパス自体は精神症状と判断すべきものなのか難しいものですが、寝不足や不安を原因としてサイコパスと同じ行動をとっているとわかったとするならば、その源の精神の問題をきちんと治療したほうがいいです。

    <つねに悪事を働いたりひどく不適切な行動をする相手が、くり返しあなたの同情を買おうとしたら、警戒を要する>(『良心をもたない人たち』p145)
    妻に暴力をふるいながら、俺はなんてダメで情けないんだ、といいはじめ、殴られた妻が同情し始める。サイコパスの常套手段らしいです。どうして同情を買おうとするのか。他者から哀れんでもらうことで、サイコパスは他者を無防備にします。哀れんでいる人間は無防備になるからです。そうやって、好き勝手にできる力を得る。……というように説明がなされていたのだけど、納得がいきます。また、ちょっと想像を膨らませて考えてみると、サイコパスの者がサイコパスだとばれたとき、自分がサイコパスにならざるを得なかった後天的な理由があることを、サイコパスの者は同情を引くように述べだすと思うんです。サイコパスにそう語られた人たちは、そこがほんとうのような気がしてしまってわからなくなりがちではないでしょうか。いちばんのやっかいな点ではないかと。

    <サイコパスは完全に自己中心なため、体のあらゆる小さな痛みや痙攣にたいして自意識が猛烈に強い。頭や胸に一瞬感じる痛みがいちいち気になり、ラジオやテレビで聞きかじった話は、トコジラミやリシン(トウゴマに含まれる毒性アルブミン)にいたるまで、すべて自分の身に置きかえて心配になる。その不安と警戒心はつねに例外なく自分自身に向けられるため、サイコパスは自分の健康を病的に不安がる心気症患者のようにもなる。彼らにくらべれば重症の不安神経症患者でさえ、理性的に見えるほどだ。>(p253)

    <一般的に彼らは努力を続けることや、組織的に計画された仕事は嫌がる。現実世界で手っ取り早い成功を好み、自分の役割を最小限にする。>(p254)

    <なにかに真剣に没頭することや、毎日訓練を重ねて美術や音楽その他の創造的な力を磨くことは、サイコパスにはまったく向いていない。(中略)結局のところ良心のない者は、人にたいするときとおなじように、自分の才能と接する。才能の面倒をみようとしないのだ。>(p255)

    また、サイコパスはほとんどつねに単独で活動する。(ここは僕自身、単独行動ばかりなので誤解されるなあと気になったのですが、僕の場合は若いころから自分で自分を閉じなきゃいけない理由があったからなのでした。家族の問題が頭の大半を占めているのに、それを語っちゃいけない、ということで、他者から離れていってそれが板についたのでした)

    なかなかわからなくなってくるところもあると思います。現在の資本主義の競争社会だと、ある意味、サイコパスが勝者になりやすいように見えるし、こういった社会の側から、勝者になるためにはサイコパス的行動を、と奨励されるような気配すらあるように感じられるからです。

    最後に。本書はサイコパス、つまり「良心をもたない人々」を詳しくみていくことで、反対に「良心」についても深く考えていく作りになっていました。良心とは、愛ゆえの義務感である、とされていました。さらに、良心は抑制を生みもします。僕は最近、自制心って実はとても大切なんじゃないか、と考えるようになりましたが、ここでいう良心による抑制は、僕の考える自制心とニアリーイコールなのでした。まあ、おそらく、サイコパスかどうかっていうところも、多くの人々にとっては0か1か、白か黒か、ではないのだと思います。きっとグラデーションの濃淡のある種類のものです。それも、その時々によっても変化しているのではないかな、と考えるところなのですが、実際、どうなんでしょう……。

  • お前には良心が無いとよく友達に言われたので読んでみました
    レベチで良心がない人について書かれていたので僕には良心があると自信がつきました

  • 米国の心理学者が著した、いわゆる「サイコパス」についての解説書である。サイコパスとは、一言で言えば「良心が欠如した人間」のこと。

    サイコパスは具体的にどのような人間なのか、サイコパスが生まれる原因は何か、どのようにサイコパスを見分けたらよいか……などの問いに、著者は実在のサイコパスを例に挙げながら、手際よく答えていく。

    なかなか目からウロコの本であった。人口の4%もサイコパスがいるという話(欧米の場合。日本はもっと低いそうだ)にも驚いたが、「サイコパス=犯罪者およびその予備軍」という先入観がくつがえされたことにも驚かされた。

    私は、貴志祐介のホラー小説『黒い家』で「サイコパス」という言葉を知った。映画版では大竹しのぶが怪演した、あの恐ろしい女。あれが「サイコパス」の一典型なのである。

    『黒い家』の強烈な印象のせいで、私は「サイコパスとは平気で殺人を犯したりする粗暴な人間のこと」というイメージを抱いていた。

    だが著者によれば、大半のサイコパスは非暴力的で、目立った法律違反も犯さず、社会に溶け込んで生きているという。

    一見ふつうの人間に見えながら、平気でウソをつき、人を陥れ、周囲に不幸をまき散らす「良心をもたない人たち」。その恐るべき実態が明かされていく。

    「一見ふつう」どころか、サイコパスには一見非常に魅力的で、カリスマ性さえ感じさせる人間も多いという。彼らは人の心をあやつる術に長け、総じて知能も高いからである。著者は、大企業のCEOにまでのぼりつめたサイコパスの例を、一章を割いて紹介している。

    本書は、たんなる解説本に終わらない深みをもった良書であった。「サイコパスとは何か?」という問いに答える過程で、著者は「良心とは何か?」「人間にとって幸福とは何か?」という大テーマにまで迫っていくのである。

    「良心はほかの人たちへの感情的愛着に基づく義務感である」と著者は定義し、「良心は愛する能力を欠いては存在しない」と言う。サイコパスの道徳観念の欠如の根源には、「愛情の欠如」があるのだ。

    良心をもたないサイコパスたちは、人を出し抜く能力に長けているため、一時期は社会的成功を収めることもある。しかし、彼らはけっして幸福にはなれないと著者は言う。

    それは、たんなる「因果応報」話ではない。感情的生活が欠落したサイコパスたちはつねに退屈しており、その退屈をまぎらすために強い刺激を必要とする。そのため、刺激を求めて危険な行為をくり返したり、アルコールや麻薬に依存したりして、自滅していく率が高いのだという。

    そもそも、他人を支配したり蹴落としたりして得られる勝利感など、刹那的なものにすぎない。それは幸福感とは似て非なるものだ。愛情が欠落したサイコパスたちは、一生涯本物の幸福感を味わうことができないのである。

    「サイコパスの見分け方」を説いた章も興味深く読んだ。
    著者によれば、サイコパスを見分ける「最高の目安」は「泣き落とし」だという。サイコパスたちが人をあやつるために最も頻繁に利用するのは、意外にも、恐怖心ではなく同情心だというのだ。

    《だれを信じるべきかを判断するとき、忘れてはならない。つねに悪事を働いたりひどく不適切な行動をする相手が、くり返しあなたの同情を買おうとしたら、警戒を要する》

    また、平気でウソをつけるのもサイコパスの特徴だから、つきあいの中で3回ウソが重なったら、その相手からすぐに逃げ出すべきだと著者は言う。

    もう一つ、印象に残った一節を引こう。

    《(戦場において)サイコパスは悩むことなく相手を殺すことができる。良心なき人びとは、感情をもたない優秀な戦士になれるのだ。(中略)サイコパスがつくりだされ、社会から除外されないのは、ひとつには、国家が冷血な殺人者を必要としているからかもしれない。そのような兵卒から征服者までが、人間の歴史をつくりつづけてきたのだ》

  • わかりやすい。
    自分の感じた恐怖を論理的に理解できた。

    自己愛との違いもわかりやすかった。

    ——

    サイコパシ ーとの比較において 、ナルシシズムはとりわけ興味深く示唆にとんでいる 。
    ナルシシズムは 、言ってみれば 、サイコパシ ーを半分にしたようなものだ 。
    病的な自己愛者も 、罪悪感から悲しみ 、絶望的な愛情から情熱まで 、ほかの人とおなじように強い感情をもつ 。
    欠けているのは 、ほかの人の気持ちを理解する能力である 。
    ナルシシズムには良心ではなく 、感情移入の能力 、つまり他人の気持ちを感じとって適切に反応する能力が欠けているのだ 。

    ナルシシストは感情的に自分以外のものは目に入らず 、ピルズベリ ー社のキャラクタ ー 、ドゥ ーボ ーイのように 、外からのものはすべて跳ね返して受けつけない 。
    そしてサイコパスとちがってナルシシストは心理的に苦痛を負い 、セラピ ーを求めることが多い 。
    ナルシシストが抱える問題の一つは 、感情移入の能力を欠いているため 、本人の知らないあいだに人との関係がこじれ 、見捨てられて困惑し 、孤独を感じることだ 。
    愛する相手がいなくなったのを嘆くが 、どうすれば取りもどせるかわからない 。
    ———

    同居していた祖母はサイコパスで、それに家族は苦しめられていたなと思う。
    過去のひどい目にあわせられた上司やクライアントは自己愛だな。

    良心につけこまれないように、気をつけよう。
    はじめは気づけない、被害にあった人以外気づけないのがやっかいなんだよね…。

    彼らに罪悪感は感じなくていい、そう再認識しました。

  • 「サイコパス」について臨床心理学者が書いた一冊なのだが、その病的な面ではなく良心という道具立てで「社会道徳とサイコパスの関係」を探りつつ「良心の正体」を明らかにしていく。
    内容が良いだけではなく、とにかく書籍としての出来が抜群にいい。多くの記載がされたナイスな一冊でした。中野信子『サイコパス』やロバートヘアの書籍では物足りないのが正直なところ。

    サイコパスを単にモンスターとして捉えるのではなく「自分がサイコパスだったら?」という問いかけと答えとしての考察が素晴らしい。そしてサイコパスに自由意志はあるのか?(=我々に自由意志はあるのか)の問いへの答えもこの本にあると感じた。

  • 1 ジョーのジレンマ

    打ち合わせをとるか、犬をとるか
    ジョーは良心にしたがったのか?
    良心は愛着から生まれる義務感
    良心の歴史
    判断のまちがいが悪しき行動のもと?
    自分の行動を見張るスーパーエゴ
    愛にもとづく良心、恐怖にもとづくスーパーエゴ
    2 氷人間スキップ

    カエルの虐殺を楽しむ
    スーパースキップの大出世
    リスクをものともせずにのしあがる
    きずなが結べずゲームに走る
    切手を盗みつづけたポストマン
    彼らは自分にむなしさを感じるか?
    3 良心が眠るとき

    身体的なものが良心にあたえる影響
    ”もの”として見られる人たち
    良心は権威に弱い?
    権威の大きさが服従心に影響する
    良心を目覚めさせておく
    4 世界一、感じのいい人

    患者を打ちのめす医師
    強欲なサイコパス
    サイコパスが有罪になる率は低い
    5 なぜ人は身近なサイコパスに気づかないのか

    良心のない人たちが使うさまざまなテクニック
    魅力を武器にする
    ぼくと君とは似た者同士だ
    得意わざは空涙
    人びとをあおるのがうまい
    ねらわれた人は自分を責める
    「善い人たちって、いつも自分が正しいと思ってるのね」
    6 良心をもたない人の見分け方

    善良な人は目をつぶりがち
    人はついサイコパスに同情する
    かわいそうなルーク
    人に依存するタイプのサイコパス
    最後は泣き落としにでる
    7 なにが良心のない人をつくりあげるのか

    サイコパスは遺伝によるもの?
    「愛」にも「椅子」にもおなじ反応をする
    愛を感じられない
    ナルシシズムとのちがい
    幼児期の虐待はサイコパシーに影響するか
    愛着障害がサイコパスをつくりだす?
    サイコパシーにたいする文化の影響
    きずなの大切さを教える東洋の国々
    優秀な戦士になれる
    8 となりのサイコパス

    ”だれにも好かれる”高校の校長
    浮かびあがる卑劣な人物像
    はがれた仮面
    良心のない人に対処する13のルール
    1 世の中には文字通り良心のない人たちもいるという、苦い薬を飲み込むこと。
    2 自分の直感と、相手の肩書き―教育者、医師、指導者、動物愛好家、人道主義者、親―が伝えるものとのあいだで判断が分かれたら、自分の直感にしたがうこと。
    3 どんな種類の関係であれ、新たなつきあいがはじまったときは、相手の言葉、約束、責任について、「3回の原則」をあてはめてみること。
    4 権威を疑うこと。
    5 調子のいい言葉を疑うこと。
    6 必要なときは、尊敬の意味を自分に問いなおすこと。
    7 ゲームに加わらないこと。
    8 サイコパスから身を守る最良の方法は、相手を避けること、いかなる種類の連絡も絶つこと。
    9 人に同情しやすい自分の性格に、疑問をもつこと。
    10 治らないものを、治そうとしないこと。
    11 同情からであれ、その他どんな理由からであれ、サイコパスが素顔を隠す手伝いは絶対にしないこと。
    12 自分の心を守ること。
    13 しあわせに生きること。
    9 良心はいかに選択されてきたか

    弱肉強食の世界で良心は役に立つか
    利他的行動はなぜ進化したのか
    自分の遺伝子を多く残すために血縁を守る
    自然淘汰は良心をもたない少数派もつくりだした
    子どもの成長と良心の発達
    女性は正義より思いやりを重んじる
    道徳的判断は文化圏によってもちがう
    時間と距離を超えるきずな
    10 なぜ良心はよいものなのか

    サイコパスはしあわせになれるか
    哀れな末路をたどりがち
    死ぬほどの退屈を味わう
    最後は敗者に
    良心が人一倍大きい人はしあわせか

    • fotovisionさん
      避け方をまとめてくださってありがとうございます。とても役に立ちます。
      避け方をまとめてくださってありがとうございます。とても役に立ちます。
      2016/05/05
  • この本が昨今のサイコパスのことをわかってもらうのに一番よい本だと思います。

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著者プロフィール

マーサ・スタウト(Martha Stout)
1953年生まれ。米国のマクリーン精神病院で研修、ストーニーブルック大学で博士号取得。ハーバード・メディカルスクール精神医学部で、心理セラピストとして25年以上患者の治療続ける。現在はボストンで開業、臨床心理学者として心的外傷、心的外傷後ストレス障害、自殺念慮を専門にカウンセリングを行っている。前著『良心をもたない人たち』(草思社)は「ベターライフ・アワード」を受賞

「2020年 『良心をもたない人たちへの対処法』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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