文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (上) (草思社文庫)

  • 草思社 (2012年12月4日発売)
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  • 本 ・本 (560ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794219398

作品紹介・あらすじ

盛者必衰の理は歴史が多くの事例によって証明するところである。
だがなぜ隆盛を極めた社会が、そのまま存続できずに崩壊し滅亡していくのか?
北米のアナサジ、中米のマヤ、東ポリネシアのイースター島、
ピトケアン島、グリーンランドのノルウェー人入植地など、
本書は多様な文明崩壊の実例を検証し、そこに共通するパターンを導き出していく。
前著『銃・病原菌・鉄』では、各大陸における文明発展を分析して環境的因子が
多様性を生み出したことを導き出したが、
本書では文明繁栄による環境負荷が崩壊の契機を生み出すという問題をクローズアップしている。
ピュリッツァー賞受賞者による待望の書。遂に文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • 私は、この作品を、歴史の本(=過去の話)だと思って購入した。タイトルも背面の概要もそう読めるからだ。イースター島、グリーンランド、マヤといった文明が崩壊していく様には単純に興味があった。
    だが、読み進めていくと、本書は歴史書では無く、環境問題の書籍であることが分かった。ただし、偽装されていたのではない。過去の大小様々な文明の崩壊要因と現代の環境問題、それに続く現代文明の崩壊が類似した現象であることがロジカルに展開されている。過去を学ぶことは未来を知ることと考えていながら、過去を学ぶことをただの楽しみとしていた私にはかなりハッとさせられる内容になっていた。

    特に下巻の16章では、私の思う「経済と環境のバランスを」や「科学技術の発展が問題を取り除く」に対して痛烈な反論がなされており、考えさせられる(というより痛いところを突かれたという)部分が大きい。
    私は環境保護論者が(狂信的で)嫌いだが、著者は本人が述べているとおり思想的には中道的であると感じたし、本書に取り上げた証拠から、それでも環境保護を優先すべきであるという態度をとっていることに共感できた。また、ただ企業が血を流して保護するのでは無く、経営的にポジティブな効果があることを述べていたり、環境保護団体もターゲットを購買層の目に見える相手(ex.ティファニー)にすることで市民から手の届かない多重構造(採掘元や製造業者)を変革する方法を挙げていたり、実例を挙げながら片方に寄りすぎない、双方の正義を理解した姿勢にも好感を抱く。
    15、16章あたりは論文で言えば議論のような感じで、著者の思想が強く見えるが、それまでの文明が衰退、崩壊していく実例の部分では、社会人講座の資料にしようかと思うほど論理的な文章展開がなされている。証拠を挙げ、そこから解釈をして意味づけをしていくことを繰り返しているのだ。
    この書き方(強く感じたのは3章)は、非常にスマートでわかりやすく、それでいて理系の報告書のように無味乾燥ではないため、驚きと感動を覚えた。これは訳者の技量に寄るところもあるかもしれない。

    上巻ではアメリカの片田舎から話が始まり、当初は「早く本題(歴史の話)に入らないかな?」という感想だった。
    現代と過去の比較、衰退していく社会の要因を系統的に明らかにするために(反例のようなものとして)現代社会ののどかな土地を引き合いに出しているのだと思っていた。
    だが、1章を見終わる頃にはその感想は全く変わり、衰退のメカニズムのようなものを捕らえたような、どこにでも衰退というものは潜んでいるんだというような気分になっていた。
    しかし、この感想や感覚も甘いもので、冒頭のモンタナの様子、衰退していく林業や鉱山業、農業の様子を惜しみ、富裕層の移住や観光業を新たな産業として好意的に見ていた自分が、本書を読み終わった今は全く異なる感覚を持ってこの様子を見ることになっている。本書を読み進めていくうちに環境破壊に対する感覚が変化(深化)していっているのだ。

    それまで敵か味方か、善か悪かで見ていた環境問題も、「お互いの正義があり、しかし、それでも極端な保護という結論を出さねばならない」というのは欧米流の二項対立・論理思考の神髄を見たと感じた。
    私はお互いの正義が分かった時点で情が移って極端な結論を出すことができないように感じる。

    単純な知識としても人肉食が飢餓状態では一般的であること(日本でも飢饉の時や兵糧攻めの時)や、年輪年代法の実用例や周辺環境との関係など既存の知識に実際の例を加えて肉付けできた。
    欧米(先進国?)人の人肉食の否定や先祖を信じたいがための事実の否定のような人文科学的、心理学的な部分にも臆さず触れており、人間を相手にする科学の難しさを感じる。
    グリーンランドで顕著だった価値観の変化を拒む姿勢も身につまされる。例えば昆虫食の拒絶が未来からは愚かに見えるような感覚かもしれない。
    読み進めていくうちに、著者は人文科学、文化人類学者だと思っていたが、鳥類の生態学を専門とする生物学者だったことに驚いた。自らの専門分野だけで無く、歴史や、年代測定法、人間の行動についても深い知識と考察を持っており、関心させられる。

  • アゲアゲの高揚感を伴う歴史物語では全くなく、極めて現実的であり、冷徹な目で社会を見つめた科学の成果である。ある時期には繁栄を誇った文明社会が、その後下降線を辿り、なぜ崩壊の憂き目に遭ったのか、考古学の証拠や文献調査を通じて、明らかにしている。従って、勧善懲悪のような、わかりやすい面白みはなく、ああそれが現実だよなという類の、ある種冷たい分析である。しかし、この研究を根底から支える思考法が私には興味をそそられた。つまり、専門用語で難解極まりないという欠点はなく、文体は流暢で長たらしいが、ストンと腑に落ちる説明のうまさがある。私も別に専門知識はないのに、議論の筋を追うのにさほど難儀しないのだ。この分野の研究をするつもりではないとはいえ、思考を革新する斬新さが感知された。

  • 邦題は少し大げさで、原題の「Collapse, How societies choose to fail or succeed」からも分かるように、人間社会(文化)が崩壊するのはなぜか、という内容だ。世界各地の文化が、対立や孤立、衰弱を経て滅びるのは、その社会に内在する本質なのか、あるいは、自然災害や外敵の侵入など偶発的なのかについて検証する。著者は、主な要因として、自然環境の悪化、気候変動、隣接する敵対集団、友好な取引先、環境問題に関する社会の対応(適応)という次の5つの要素を挙げる。ただし、たとえばイースター島では、森林皆伐が社会の崩壊の引き金ではない可能性があるというなど、最新の学説もある。しかし、史実がどのような内容であったにせよ、著者が訴えるのは、持続的な社会を維持するためには、環境に対する意識を変え、行動することだという。全体を占める整った学説に対し、締めくくりとして語られる「環境意識の訴え」は、必然的帰結と言うより、プロパガンダと言えなくもなく、その点は多くの読者に指摘されているようだ。しかしながら、社会を価値観的に表現するなら、そのような前提があっても良いのかもしれない。

  • 偉大なるダイアモンド先生の二作目に挑戦。

    っていうか、自分が最初に読んだ「銃•病原菌•鉄」より遥かにパワーアップしている気がする。
    元々は鳥類学者らしいが、数々の論拠を打ち立てる造詣の深さに圧倒され、もはやこの人は何が専門かわからなくなる。

    地質学?進化学??気候学???
    良くわからないけど、あらゆる学問に精通してるスーパーじーちゃん、といった感じ。苦笑


    さて、人類(文明)の発展に民族毎に差異が生じた理由を解き明かそうとしたのが「銃•病原菌•鉄」なら、本著はその対局とも言いえる数ある文明の中が滅び去った理由を解こうとしている。
    また、「銃•病原菌•鉄」は、その発展の歴史を地理的に追っていく様が旅行記みたいだったけど(長い時間を旅するという意味では時間旅行記とも言えるかな?)、本著はまるで物語の様。
    イースター島、マヤ文明等一カ所ずつに焦点を当て、その文明が誕生・発展してから滅びていく理由を解説している。


    そしてそれは、決して物語ではなく紛れもない真実。
    それだけに真に迫っており感動できる。
    必死に生き自らのコミュニティを発展させようとしたものの、それが叶わず滅び行く様を見ていると、やり切れなさや虚しさと共に泣きそうになる。
    まさかこの手の本でウルッと来るとは思わなんだが…


    第一章が若干長く冗長に感じるが、それを超えると一気に読める。
    といってもハードカバーで450ページあるけど。

    印象に残り面白かったのはイースター島とポリネシア人の下り。


    まだまだ上巻が終わっただけで物語は続くが、とっても満足。
    やっぱりすげえな、この人は。


    【メモ】
    不適切な条件のもとで人々が頑迷にこだわる価値観というものは、過去に逆境に対する最も偉大な勝利を得たものでもあるのだ。

    →進化の過程で生き残るのは強い者ではなく、変化に対応できる者とはよく言ったものだね。

  • ジャレド・ダイアモンドによる時空を跨いだ壮大なスケールで描く歴史観。ただし、テーマは「滅亡」。
    まず最初に現代のアメリカの自然豊かなモンタナについて語られます。経済至上主義とは縁のないように見える
    自然豊かなこの地域にも避けがたい現代的な問題、特に環境破壊問題の波が押し寄せており、それによって
    限られた土地・水の争奪戦、それによる人間関係の問題があぶり出されます。ここから過去に滅びた文明に話がうつり、
    滅亡の原因について分析が始まりますが、それらには著者独自の崩壊パターンがあり、おおざっぱかもしれないけれども
    的を得た議論のように思えます。それは当然、現代文明にも当てはめることができ、過去の文明から未来の在り方を学ぶことが
    できるかもしれない。
    例えば環境破壊。製鉄、薪、放牧などによって森林伐採や草原の消失がそれらの回復力を上回ってしまうと、土壌が露出し、雨により
    養分が流され、ますます草木が育たない土地へと変わる。過去に栄えた文明では、もともと森林豊かだった場所が多いというのはよく聞く話。また、貿易相手国が環境破壊によって滅びたために、そのあおりを受けて 滅亡もしくは悲惨な目に遭ったというパターンもある。
    特にこのパターンはグローバル化がなにも現代初のシステムではなく、すでに過去において実践されているシステムであり、そのリスクも
    経験済みであることを意味しているが、 経済的なメリットばかりに焦点が行きがちなため、再び同じ轍を踏む可能性がある。
    上巻では滅亡の事例を挙げて終わっていますが、この先どのように展開していくのか。ジャレド・ダイアモンドは悲観論者ではなかった
    はずだったので、過去の事例をもとに将来どうあるべきか、その答えを聞くことができるのかが下巻の楽しみ方になりそうです。

  • イースター島、モンタナ州、マヤ文明、グリーンランドなどの何故そこにあった文明はなくなってしまったのかに関しての本。
    自然環境が非常に大きいんだけれど、思っていたよりちょっとした偶然で繁栄したり、簡単に滅んだりもするんだなって知った。

    グリーンランドやイースターに関しては特に人間の固定化した信念がもたらした崩壊って結構呆気ないというか。
    とりあえずヴァイキングに友好的と言う言葉はないんだなって思った。

  • 上下巻併せて約1000頁あるので、途中中だるみもしたが、とても楽しめた。
    「銃・病原菌・鉄」が文明興隆の条件について述べたものであるのに対して、本作品は反対の文明崩壊の条件を述べたもの。下巻でも作者が述べているが、単純に過去の文明崩壊を現在に当てはめることはできなくても、それから学び賢明な対応を考えることは可能なことである。
    単純な楽観主義にも悲観主義にも与しない、「慎重な楽観主義」という作者の主張には感銘を受けた。

  • 過去の文明崩壊を現代と絡ませながら語る。読ませる本だった。日本については、江戸時代の林業政策で褒めつつ、現代の途上国での森林開発で叩いてる。土壌流亡や森林伐採が文明崩壊に繋がるのがわかる。
    バイキングやアフリカ、マヤについて、ひいては世界史について、もっと知りたくなる。

  • あれだけ栄えていた文明がなぜ滅んだのか・・・環境、闘争、いろいろな観点に光を当て、解き明かしていく。現代文明への警鐘でもある。1,200円の分厚い文庫本。

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著者プロフィール

1937年生まれ。カリフォルニア大学ロサンゼルス校。専門は進化生物学、生理学、生物地理学。1961年にケンブリッジ大学でPh.D.取得。著書に『銃・病原菌・鉄:一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎』でピュリッツァー賞。『文明崩壊:滅亡と存続の命運をわけるもの』(以上、草思社)など著書多数。

「2018年 『歴史は実験できるのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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