文明崩壊 下: 滅亡と存続の命運を分けるもの (草思社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (560ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794219404

作品紹介・あらすじ

人類の歴史には、転げ落ちるように崩壊した社会がある一方、危機に適確に対処し、乗り越えた社会もある。問題解決に成功した社会例として、徳川幕府の育林政策で森林再生を果たした江戸時代の日本、過酷な人口制限で社会のバランスを保つティコピア島等を検証する。さらに現代の危機として、中国やオーストラリアの惨状を分析し、崩壊を免れる道をさぐる。資源、環境、人口、経済格差など複雑化する崩壊の因子を探り、現代人の目指すべき方向を呈示する。

感想・レビュー・書評

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  • 文明がどのように姿を消したのか、また生き残るために社会がすべき意志決定について興味をもち手に取る。


    あまり興味のなかった環境問題の本を読んで、重大な意志決定を行う(長期的な繁栄と存続のため)には多面的に捉えることが重要であることなどをはじめ、物事の見方に大きく影響を受けました。


    上巻の内容の総括もふまえると、

    世界で人口の増加が進む中で食糧消費が増大し、
    それをまかなうために有限な資源(森林、海洋生物、農地)から
    再生可能量を超える過剰な生産を行うことで資源が枯渇していく恐れがある。
    これからの未来を人類がどう歩むべきかについてを現在発生しているいくつかの問題を例に挙げて論じている。


    上巻を踏まえても、国家や人類が長期的に存続していくためには、抱える問題をしっかりを捉え、短期的な利益だけを追求することなく、長期的に安定した利益を得られるような意志決定をしていくことが必要であることがわかる。

    国家は政治、経済を豊かに保つために様々な問題や情勢を踏まえて短期的、長期的に政策決定をしていくのだが、国内が抱える問題の規模などから短期的利益をもたらす選択を高い優先順位にすることが多いだろう。

    また現在の社会はグローバルに結び付き、資源などを相互依存しているため
    一国の利害を考えるだけで意志決定を行うことは非常に難しい。

    依存しあっているからこそ、ひとつの国で起こった問題の影響は波及していくことは過去の金融危機などからも明らかであろう。
    これは環境問題でも同じである。
    一つの有限な資源が枯渇したり制限がかかることは、多くの国に影響を与えることにつながる。

    長期的な繁栄を考える上で、環境問題は様々な利害関係が複雑にからみあっており、有限な資源をめぐっては、場合によっては双方ないしは全員に利益をもたらす選択をする、またはそのような選択を準備することは難しいだろう。

    これらを成し遂げることは容易ではないが、対応するために2種類の選択があると筆者は述べる。

    ・政府の徹底したトップダウン型の対策措置の実施
    ・地域や人民によるボトムアップ型の対策措置の実施

    トップダウンには厳格な統制機構と、それを行う社会の風潮(適切な言葉がわからないです)、そして最低限の経済の発達があるように思う。
    個人的には共通の利害関係の認識をもった国民が自主的に問題を発見し、それを防止・解決するために活動をしていくボトムアップの方が望ましいと思われるが、
    それには国民に共通の認識が必要であるしどちらも組み合わせてこそだとも考える。

    日本は国土の70%以上を森林を持つ国であるが、国でつかわれる木材はオーストラリアから輸入し被害を他国に押し付けているとの記載があったがショックを受けた。
    このようなことからも、物事には一面的にみることができないことはたくさんあるということを気づかされました。

    複雑な問題を抱える現在の社会を生きる人にとって、解決策を考えるためのヒントになる本だと感じた。
    ぜひいろんな人に読んでほしいです。

  • 過去の事例を紐解き、現代に警鐘を鳴らす良書。かなりのボリュームで読むには根気がいるが、後世への負の遺産を残すことなく、この世の永続は環境との共存と人類の謙虚さ、慎ましやかさが必要だ。意思決定システムのエラーは人類の最も恥ずべき行為である。三人寄れば文殊の知恵ではない集団心理を構造的に抉るには様々な知見が必要だろう。

  • 栄えていた文明が、どんな要因で崩壊に至ったのか?
    その要因を、過去の文献・地質調査などから事細かに洗い出していく。
    化学実験のように現象を再現はできないが、過去に起こった出来事をシミュレーションして法則を導き出す。
    本書では、気候変動・人口増加・環境破壊・外敵を要因と推測(まだあったかもしれない)。これらの要因はからみあって、次第に後戻りできないところまで崩壊が進んでいってしまう。
    何百年と続いた文明が崩壊した過去。その地続きである現代の文明も崩壊してもおかしくない。崩壊の要因となることは現代でも起こっている。むしろ科学技術の発展により、より加速している。
    こうすれば崩壊は防げる、というような銀の弾丸は示されない。環境破壊については、企業が長期的な利益を考えて環境負荷が低い行動をとるようにする流れがあること、消費者が環境に良い製品をより購買する傾向がみられること、などを上げている。(しかしまだまだ少数派)
    グローバル化は世界が繋がってひとつの世界となりつつあること。ひとつの国・企業の影響が他のところに連鎖的に影響を与える。
    過去の文明が滅びた時は、その地域だけで済んでいたことが、全世界規模で起こりうる可能性がある。
    世界で起きてることは他人事じゃあない。

  • ・成功・存続した社会
    ・アフリカの人口爆発
    ・ドミニカ共和国とハイチ
    ・中国
    ・搾取されるオーストラリア

    文明社会はその絶頂期に人口を大幅に増やし、周辺環境を破壊して滅亡に至るのか。
    環境が許容できる以上の人口を持ってしまった社会の結末は。
    環境問題解決の2つの道;トップダウンとボトムアップ
    中規模な社会はなぜ滅亡に至ったか。大規模な中央集権体制が鍵か?
    イースター島やマンガイア島などの中規模の社会は、島全体を治める中央主権的な政治組織を持てず、分裂した集落が互いの争いで環境破壊を促進した。

    景色健忘症:徐々に進む環境変化に要注意。
    変化は突然訪れない。はい進む常態なのだ。イースター島の樹木は徐々に少なくなり、重要性を失って行った。最後の一本が切り倒された時、木は、とうの昔に経済的な意義を失っていたのだ。

    当然ながら、それぞれの環境にはその環境が許容できる人口がある。環境が回復に必要な時間以上に消費が早いのであれば 、その文明は崩壊する運命にあると言える。

    翻って、現代社会はどうか。
    持続可能な社会保障な統一的な機構を現代社会は持っているのだろうか。それぞれの国家が互いの争いで環境破壊を促進してはいないだろうか。

    ルワンダの事例は、環境問題と社会的な構造が破滅的な結果を招いた事例だ。世界はこの方向に進んでしまわないか?

    ドミニカ共和国とハイチの例も、同じ環境でも社会が異なることで結果が大きく異なることを示している。

    中国はその巨大さから、その将来が人類の将来に大きな影響を及ぼす。そして中国は振り子というべき歴史的な特徴を備えている。
    中国はその統一された政治体制から、国民とその環境を大きく変更させることが可能なのだ。

    オーストラリアは絶望的なほど脆弱な環境状況で、今後改善する可能性はあるのかな?
    破壊される環境と環境を懸念する民間と政府の対抗措置の2頭だての競馬は果たしてどちらが勝つのだろうか。

  • 上巻に続き、下巻では近代以降の社会についての話が多く書かれていました。
    自らの環境を滅ぼし、滅亡する社会は現代にもつながっており、このままいくと世界で多くの社会が衰退すると警鐘が鳴らされています。

    それを防ぐには、個人一人ひとりが、そういう意識を持って政治や社会に対して、行動を起こすことだと書かれていました。
    普段の生活の中で、なかなか意識にのぼらないことですが、こうして知ることによって、少しでも行動を変えることができる気がします。
    一般市民の強い意志によって、持続可能な社会を選択することができるはずです(具体的には政治の政策や企業を選別すること)。

  • イースター島 森林伐採 砂漠化

  • 下巻では以下の内容が紹介されていました。まず環境問題を解決した事例を、トップダウン型、ボトムアップ型の2類型にして、前者の例としては江戸時代の日本(徳川幕府)、後者の例としてはニューギニア高地、ティコピア島を挙げています。トップダウン型とは、要は時の権力者が環境保護的な策を上から強制的に執行するということであるのに対して、ボトムアップ型とは、島民全員が環境問題の長期的な危険性を認識して全員で行動するというパターンです。
    そして、現代の社会の事例としてルワンダ、ドミニカ共和国とハイチ(同じ島の東西をわけあっているが社会経済状況に大きな差異がある)、中国、オーストラリアが紹介されています(中国、オーストラリアはともに環境面での深刻な問題が主題としてとりあげられている)。

     個々の章で書かれていることは、事象説明としては極めて面白いのですが、ダイアモンド氏が、社会の崩壊を招く要因としてあげている5つの条件、つまり1)環境被害、2)気候変動、3)近隣の敵対集団、4)友好的な取引相手、5)環境問題への社会の対応、ですが、この5つにあてはめて説明されている箇所はどうにも最後まで腹落ちしませんでした。おそらく心のどこかに「本当にこの5つだけなのか?」という疑問や「この5つはMECE(Mutually Exclusive, Comprehensively Exhaustive)なのか?」という疑念が晴れていないからだと思います。ですから私個人の感想は、「個々の章に書かれていることは面白いが、著者が挙げている文明崩壊の5要因については何かモヤモヤしている」という感じです。


  •  結局のところ、過去の文明が崩壊した理由を極端に単純化するならば、それは其処に"住めなくなった"からということになろう。住めなくなる理由は色々あるのだろうが、兎も角結論的にはこれに尽きる。

     然しながら人間がもといた場所から撤退(或いはそれが不可能な場合には全滅)せざるを得ない理由の最たるものが環境破壊だという事は疑いようの無い事実である。
     SDGsが叫ばれる今日を本書は二十年前から予見していた。今こそ再び繙かれる可き本なのだろう。


     嘗てのマヤやイースター島も、或いは孤立無援の絶海の孤島も、限りある資源を食い潰した為に滅ばざるを得なかった。


     翻ってグローバリゼーションの極致に在る現代は如何。いま我々は地球という大きなひとつの孤島の資源を食い潰しているに過ぎない。その結果、地球は軈て"住めない孤島"に変わって行く。



     若しも何処か一つの大国が滅んだとして、他の多くの国々が無関係ではいられないだろう。幾つかの小国は共倒れになって滅び、また、他方では別の大国はその他の大国と激しい競争を始めるだろう。或いはそれは武力による抗争に発展し、また幾つもの小国が巻き添えに滅んでいくだろう。
     而してそれは現に行われている。
     グローバリゼーションの紐帯と資本主義社会は豊かさと滅びを等しく世界に齎すだろう。




     仮に世界の勢力図が書き換わった時、最早世界中何処にいても我関せずを決め込む事は出来ない。誰もが絶滅の危機に瀕した当事者なのだ。そのことを個人のレベルで自覚することこそが文明崩壊を回避する第一歩なのである。

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著者プロフィール

1937年生まれ。カリフォルニア大学ロサンゼルス校。専門は進化生物学、生理学、生物地理学。1961年にケンブリッジ大学でPh.D.取得。著書に『銃・病原菌・鉄:一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎』でピュリッツァー賞。『文明崩壊:滅亡と存続の命運をわけるもの』(以上、草思社)など著書多数。

「2018年 『歴史は実験できるのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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