朝鮮開国と日清戦争: アメリカはなぜ日本を支持し、朝鮮を見限ったか

著者 :
  • 草思社
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  • Amazon.co.jp ・本 (399ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794220981

作品紹介・あらすじ

なぜ「征韓論」を否定した僅か2年後に江華島事件が起きたのか。なぜ維新まもない日本が朝鮮開国の役割を担ったのか。なぜ日本は朝鮮の独立を承認させるために清国と戦ったのか――同時代のアメリカの動きを加えて韓国併合までの歴史の不思議を解き明かし、現代につながる日本と中国・朝鮮半島の〝対立の構図〟の原点となった「日清戦争」に斬新な解釈を加える。

感想・レビュー・書評

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  • 明治以降の激動の歴史を丁寧に読み解いていく。
    なぜ日本が朝鮮に開国を求めたのか、なぜ日清戦争が起こったのか。
    外国との衝突や協調などを二国間だけで捉えても、対外的な宣言を純粋に受け取っても、事実は正確に理解できないということがよく分かる一冊。
    リンカーン大統領が奴隷解放を宣言するに至った背景や、木戸孝允が朝鮮開国を決意したであろう背景。何もかも、一筋縄ではいかないなと。

  •  対立から協力へと移ろうとするアメリカとイギリスの関係を背景におくと、19世紀後半から20世紀初頭にかけての日韓交渉や日清戦争にはこれまで触れてこられなかった面が多々あることがよく分る。
     独立擁護の時代から愛想尽かしへと至る米韓関係の変化を関係各国の基本資料に基づいて跡付けた大変な労作。

  • 読んでると、この時代のアジアが西洋列強の支配する学校に転校してきたいじめられっ子に思えてくる。清国は前の学校では番長だったのに転校早々イギリスやフランスにボコられるが、一の子分の朝鮮には偉そうにしている。日本は清国の子分ではなかったが、元番長の惨めに虐められる姿に幻滅し、さっさと新しい学校の秩序に順応していく。朝鮮にとって迷惑な話なのだが、日本から清国に屈従せず自立心を持てとハッパをかけられるが、煮え切らない態度に終始して逆に怒らせてしまう。この日本のお節介の端緒となったものに朝鮮開国プロジェクトがある。

    この本は、その開国に際し日本が朝鮮に対して威圧的な砲艦外交で望んだとする従来の説の否定から始まっている。 著者の主張は次の通り。
    ・朝鮮開国は日本が軍事力で恫喝して開国させたのではなく、清国から朝鮮に対し開国を指導する指示があった。
    ・その当時の明治政府は朝鮮に対して驚くほどの気遣いを見せ、朝鮮開国プロジェクトも二国間外交ではなく多国間交渉によって成し遂げ、その裏には米人顧問の手ほどきがあった。
    ・清国は朝鮮にアメリカとも通商条約を結ばせるが、それは李鴻章が領土的野心の少ないアメリカを、朝鮮が西洋列強と問題を起こした時のバファーとして使おうとしたためだ。
    ・アメリカにとってみれば、それが清国の姑息な責任逃れであっても、外交常識上は朝鮮を独立国として扱おうと努力するが、清国への阿諛追従と二枚舌外交に嫌気がさし、見切りをつける。
    ・日清戦争は、朝鮮を独立国として扱った日本外交がもたらした必然の結果で、アメリカが日本を支持したのも当然の成り行き。

    この本ではアメリカ側の視点から朝鮮開国と日清戦争を取り上げているが、中でも朝鮮王朝を最後まで愛したアメリカ人外交官へのフォーカスが新鮮。宣教師にして医師であるにもかかわらず、朝鮮王室から悉く信頼され、最後にはアメリカの公使にまで上り詰めた男。清国から煙たがれ、イギリスから素人外交官と揶揄されながらも、高宗の思いを組んで四方八方で工作を行ない、最後には大統領から首を宣告された。

    往生際が悪く大統領や政府への批判を捲し立てるのだが、実は朝鮮王室の腐敗ぶりや改革が必要なことも理解していて、日露が戦った時に日本が勝つだろうとも見抜いている。それにもかかわらず朝鮮を見捨てないのは、彼の尽きせぬ愛の力で、日本による併合の未来を憂えて胸を痛める。彼の最期が知りたいが、それは書かれていない。ドラマ化されれば是非見たい。

    謎として残ったのは次の2点。
    1.清国にとって朝鮮は、実質は属国であるが国際法上は属国ではないという立場から、李鴻章は朝鮮に対して日本への開国指導を行ない、いったんはアメリカともども朝鮮を独立国として扱うよう腐心させたのはなぜか? そもそも彼は最終的には朝鮮を直轄領化する腹案を胸に秘めていた。案の定、それが将来の直轄領化の障害となり、やがては日本に軍事介入の口実を与えてしまう。

    著者は、李鴻章がわざわざ嫌がる朝鮮を説得して開国するように指導した背景には、フランスへの恐怖があり、朝鮮の西洋列強への蛮行の責任を清国がとらされるのはたまらないからと解説するが、そうなったら対外的に厳しく処分を下す一方で、賠償金などが発生した場合は朝鮮に詰め腹を切らせばいい話で、首肯しがたい。

    速やかに朝鮮を属領化しても列強から異議が出るとは思えず、自らの手で変革を進めず清国に頼りきる朝鮮王朝を見ていれば、彼の国を独立国として積極的に扱っていたのは条約を結んだ日本とアメリカくらいのもので、その両国もやがて気力が失せ清国の宗主国としての立場を内心では認めるようにはなる。とはいえ、この条約が朝鮮に対して独立国への期待を抱かせ、日本には朝鮮を清国と奪い合う口実を与えたのは確か。

    2.なぜイギリスは、「清国に代わって、ロシアの南下を防止させる国は日本である」とする心変わりをしたのか? 従来からイギリスの極東戦略の根幹は、ロシアの海洋進出を押さえ込むことであり、朝鮮の安定が実現されるのであれば、清国による属領化も構わないという立場だった。著者はそれが、どのタイミングでかわからないが、清国ではロシアの南下を防げないと判断して日本に鞍替えしたと解説するが、苦しい。

    それまで李鴻章はロシアの介入を巧みに排除していたし、イギリスはそもそも清国に同情的であったのではなかったか? むしろこの心変わりが、それまで西洋列強の思惑をくんで、清国に対し腰が引け気味な日本を後押しし、日清戦争への道を開かせ、やがて清国の敗北によってロシアに南下の口実を与えることにつながった。

    著者も「イギリスは、朝鮮半島で日清が揉めてほしくないと思っていた」と書いている。戦争で日本に軍事支援をしたわけではないが、日本側に開戦の暗黙の了解を与えたことは確か。ここではイギリスお得意の勢力を均衡させ超大国を出現させないようにするバランス外交はどこかに行ってしまっている。

  • 明治維新以降の日本の歩みは、韓国併合・日清戦争と列強を見習った植民地主義による侵略の歴史という文脈で語られますが、果たして、その実相はいかがでしょう。渡辺氏は、近隣国との国交の樹立にあたって、どれだけ列強の軋轢を避けるよう腐心したか、どれだけ抑制的な外交をしてきたかを読み解いていきます。それにしても、清国・朝鮮・ロシアと、その振る舞い方は120余年経った現在も代わり映えしません。DNAのなせる技でしょうか?とすると、日本も同じDNAの影響下にあることは変わりません。だからこそ、歴史に学ぶことは重要ですね。

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著者プロフィール

日米近現代史研究家。北米在住。1954年静岡県下田市出身。77年東京大学経済学部卒業。30年にわたり米国・カナダでビジネスに従事。米英史料を広く渉猟し、日本開国以来の日米関係を新たな視点でとらえた著作が高く評価される。著書に『日本開国』『日米衝突の萌芽1898-1918』(第22回山本七平賞奨励賞受賞)(以上、草思社)、『アメリカ民主党の欺瞞2020-2024』(PHP研究所)、『英国の闇チャーチル』『ネオコンの残党との最終戦争』『教科書に書けないグローバリストの近現代史(茂木誠氏との共著)』(以上、ビジネス社)など。訳書にハーバート・フーバー『裏切られた自由(上・下)』(草思社)など。

「2023年 『オトナのこだわり歴史旅 伊豆半島編』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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