- 本 ・本 (268ページ)
- / ISBN・EAN: 9784794221179
感想・レビュー・書評
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表紙のふわふわとした柔らかいイメージとは違い、内容は古典文学や研究資料などを用いての、現実的な目線での語り口で書かれている。
子どもや孫に囲まれた幸せな老後イメージは多くの人が持っているのではないだろうか。
現代人の荒んだ心とは違い、昔の人は老人を大切に扱ったはずだと、半ば無意識に思い込んでいたのは私だけではないはずだ。
しかし本書にある、それとはかけ離れた老人たちの現実に打ちのめされた。
縄文時代という大昔、埋葬の仕方が他の若い人に比べて簡素である。
という下りから始まり、結婚できると言うこと自体がステータスであること。
平均寿命は低くい時代であっても長命な人も多かったこと。
運良く結婚できたとしても、歳を取れば家庭の中で孤立し、老人遺棄も当然の事としてありえた社会であったこと。そして殺されることも。
一番ショックだったのは自殺率。
老後問題は何も今に始まった事ではないのだ。
社会的弱者で被害者になりやすく、また加害者にもなる老人。
なのに、そういう老人がなぜ物語に多く登場することになるのか。
それは厳しい現実から出た希望であったり、または老人の持つ特殊性(知性や醜さ)により話を展開させる者として使われたり。
パターンとしては幾つか挙げられているが、やはり弱者であるが故という感は拭えない。
私のように、表紙だけ見て何も考えずフワフワした気持ちで読み始めると痛いめに合う。表紙のと中身のギャップは激しい本。
もちろんそれだけではなくて、面白いところや笑えるところもあった、私にはショックなところがより心に残ったというだけだろう。
ただ、読んで良かったと思う。
日本という国の歴史を見る上での、違った視点を教えてもらった。そして今のこの社会のありがたさも。
そして、そんな厳しい社会の中でもたくましく生きていた老人ももちろんいて、最終章の「イカス老人」では心が救われる思いがした。
厳しい社会であるが故の潔さというか、美しいものはより美しく見えるのかもしれないなどと思う。
時代を物語を老人に注目して見てみる。
そういう今までにない面白い視点をこの本はくれる。 -
#63奈良県立図書情報館ビブリオバトル「アニバーサリー」で紹介された本です。
2016.2.20
https://m.facebook.com/events/783944221739603?view=permalink&id=791610527639639 -
388.1
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そういえば、なんで昔話ってたいてい「むかしむかしあるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました」って定型文で始まるの?という、わりと誰でも一度は思いそうな疑問を突っ込んでくれている本。おじいさんってなんで「山へ芝刈り」に行ったりするの?とかね。
平安後期とか江戸盛期とか、女性の持参金が多額になる時代なんかに特に、そもそも男女とも結婚できる比率がぐっと下がることとか(英国のヴィクトリア時代を思い出す)、姥捨てとか、老人の社会的地位とか、色々面白い話が載っていた。
現代の日本のように子供より老人のほうがずっと多くなる時代には、どんな話が生まれたり、残っていくんだろうとふと思った。 -
物語の中には、その時の一般人の生活がよくあらわされている、という基本姿勢から、様々な「文学」として残る古典やおとぎ話の中から、当時の老人の地位を読み解いていくものです。
今日のような社会保障のない時代、老人の地位は危ういものでした。
現代でこそ、望めば結婚ができる環境にはありますが、かつては、「結婚できる」ということ自体がステータスで、独居老人も多く、また、結婚していても、子がいない、子がいても、若い夫婦から無駄飯ぐいと疎まれることも多いのが実情です。
そんなわけで、現代なら退職しているような歳でも、生きるために働いているのが当然で、そうした人たちのサクセスストーリーであれば、大どんでん返しといえるのだそうです。
「姥捨て」の話については、物語にはあるにせよ、日本で実際に行われていたという確証はないものの、他国にはその事実があるようですし、そこから伝来した可能性や、あるいは、無文字であった縄文時代の生活を引きずった口伝である可能性もあり、そこまでさせる過酷な状況がうかがい知れます。
異国の地では、老人を宝と考えるところもあるようですが、どうも、日本はお荷物のように考え、その地位は低かったようです。老人の性や様を笑ったり、嘲ったりするものも多く、しかし、昔語りの語り手となることで、老人たちは、自分たちの様々を伝えていくことの中で、若い人たちとのつながりを持っていたといえるようでもあります。
それで、多く、おじいさん、おばあさんを主人公とした物語が語られていくこととなったようです。
口伝のおとぎ話は、「昔々あるところに」と語るニュースの役割もあったと、以前、習ったことがあります。イキイキとした老人の話は、誰もの行く末として、興味のあるものになったことでしょう。
現在も、死に方に多く関心が寄せられ、死ぬ前に持ち物を減らしたり、年金の額に頭を悩ませたり、痴呆や介護におびえるなど、悩みは尽きません。
しかし、もっと貪欲に生きてもいいかな、そんな希望を持つのが健全だなぁ、なんて、少し気が軽くなりました。 -
「むかしむかし、あるところにお爺さんとお婆さんがいました」で始まるのがほとんどの昔話。なぜ昔話では、老人がこんなにも活躍するのか?
昔話や古典文学を読み解くと、「老人」知られざる実態が見えてくる。
年老いてなおあくせくと働き、時には厄介者として山に捨てられてしまう・・・決してお話の中だけではなかったようで。お年寄りは敬い大事にするものとした考えが割と新しいものだと知り愕然としました。さらに、老いは醜いと蔑まれバカにされていたとは・・・日本人は昔から若い女性(男性も)の方がもてはやされていたんですね。
ただちょっと、私の思ってた内容とは違いました。もっとお伽噺をメインに考察するのかと思っていたのですが、源氏物語とかの方が多かったです。 -
なぜ昔話に老人が多いのか。著者は、社会的地位の低い老人が、知恵や体力の無さ、鈍感さといった老人ならではの特徴により成功を収めるギャップや逆転の面白さから来ていると分析。加え、語り手が老人である事が多かったからだとも。
昔話は、語る方も聞く方も極貧の事が多く、夢物語りたいが故、老人が一発逆転する話が多いのだと納得した。老いた人は捨てられてきた社会、だからこそ庶民の夢が昔話には詰まっている。
子ども達に昔話をたくさん聞かせよう!という風潮が学校図書館では盛んだが、本当の昔話は学校では語れないものが多いな。。
本当は怖いグリム童話なんかより、日本の昔話の方が怖いな。。
最終章で、イカす老人達を紹介してくれた所に救いがあった。
面白く読めた。
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