- Amazon.co.jp ・本 (504ページ)
- / ISBN・EAN: 9784794221650
作品紹介・あらすじ
記憶はどう蓄えられているか。心の病気や障害はなぜ起こるか。「私」の心はどのように形作られているのか――。現在の脳科学は、このような素朴な疑問にほとんど何も答えることができない。その主な原因は、脳神経の全ネットワークの地図が作成されていないことにある。全遺伝情報=ゲノムの解読が生物学に革命を起こしつつあるように、脳科学を進展させる確実な方法として提案されている全脳のネットワーク地図=コネクトームの解読。脳科学に革命を起こす壮大な試みを解説する、初めての本。
感想・レビュー・書評
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生物としての情報を遺伝子ではなくゲノムとしてとらえるように、人間の心や記憶や意志をニューロンのネットワーク全体であるコネクトームとして捉えるというもの。
脳神経のネットワークは徐々に積み上げられて多くなっていくのではなく、2歳くらいで最大となり、それから形成と消失を繰り返しながらそのネットワークの太さ(強さ)を変えることにより個々人それぞれの形が形成されていくらしい。
自分にとって大事な接続は太くしっかりとそうでないものは消えていく。
それは各自にとっての感じ方、捉え方の違いによって接続の強さの違いがあらわれ、それがいわゆる自分という情報(個性、意識)となっていく。
心の原点に記憶を持ってきているのはよく言われていることだが、神経ネットワークにどうして記憶が残るのか、それはここでも説明できていないようだ。
著者も言っているがこれは新たな2元論である。心は物質やその構成要素だけには還元できない、ただ実体のないなにかでもない、コネクトームこそ心なのではないかと。
一歩進めてこのコネクトームを何かしらの形で再現できれば、肉体をもたない(情報ネットワークだけの)心としても存在しうるとまで語っている。
それが生きていることになるかどうかはともかく、そのコネクトームがその人自身であるとの仮説。
ゲノム解析が技術の進歩で予想以上に早く完了したことを考えると、コネクトームの解析も可能となる日は夢の話ではないのかもしれない。
それを確立してコネクトームに手を加えられることができれば精神疾患治療にも役立つのではないかと語っているが、記憶や人格の操作も可能であることを意味している。
夢というより悪夢のような気もするが…。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
DNA内の遺伝子情報を解読したものを「ゲノム」と呼ぶのに対して、脳内のニューロン間接続情報を解読したものを「コネクトーム」と呼ぶ。ゲノム(遺伝情報)は一卵性双生児以外であれば同一だが、コネクトームは一卵性双生児でも異なり、成人への成長過程やさらに成人した後であっても変わっていくものである。「コネクトーム」はある意味でまさにこの「わたし」を表すものである。著者は、このコネクトームを明らかにする新しい研究分野「コネクトミクス」を推進する科学者である。本書ではコネクトームの研究の多くの側面について説明されている。例えば、電子顕微鏡やfMRIを使った現時点での測定結果とその分析から線虫などのより単純な生物のコネクトームの解析状況まで多様な研究成果に触れられている。人間のコネクトームを知るには1,000億個ものニューロンからなる脳の接続情報を解析する必要があるが、測定技術やコンピュータ能力の指数関数的向上により、二十一世紀の終わりまでには人間のコネクトームがわかると著者は主張している。
コネクトームを追いかける著者の立場は、『コネクショニズム』ー ニューロンの機能は、主に他のニューロンとの接続によって定義される - というものである。「スパイクと分泌、そんな脳内の物質的出来事が、あなたの心のすべてなのだろうか?神経科学者はもちろんそれがすべてだと思っているが、わたしがこれまでに出会った人たちはたいてい、そうは考えたくはないようだった」という言葉で、自分の立場を明確化している。「魂の存在を裏付ける客観的な科学的証拠を、わたしはひとつも知らない。それなのになぜ、人は魂の存在を信じるのだろうか?」ー というのはアメリカではおそらくかなり踏み込んだ発言である。そして、自分が共感する科学的立場でもある。
近年の脳神経科学でわかってきた新しい事実のひとつは、脳の可塑性である。「1960年代にはほとんどの神経科学者が、子どもが成長して大人になってしまえば、もはやシナプスは生成されることも除去されることもないと考えていた。この考えは、経験的事実というよりもむしろ理論思い込みだった」。コネクトームは、四つのR - 再荷重(Reweighting)、再接続(Reconnection)、再配線(Rewiring)、再生(Regeneration)によって変わっていく。コネクトームは幼児から成人になる過程で大きく変化するが、成人になった後でも変化するのだ。劇的な例を挙げると、脳卒中によってニューロンが損傷を受けた場合でも、脳室下帯というところで元となる神経芽細胞が生成され、怪我をした部位にその細胞が向かうことで再生が行われるという。また著者は、自閉症や統合失調症は遺伝と強い相関がある神経発達障害であると考えているが、コネクトームがわかると直接コネクトームに働きかけてその根本原因となる変異を変更することで治療する可能性にも触れている。
議論の最後には、死後の人体冷凍保存やマインド・アップロード - コネクトーム全体をコンピュータシステムにアップしてシミュレートを行う ー といった生と死の定義に関わる話題に移る。実際にアメリカでは、死体から生き返らせる技術ができるようになる未来まで人体を冷凍保存する会社が存在している。これらの技術の実現について、著者は非常に懐疑的だが、コネクトームという概念が、生と死の概念や「私」という概念にも影響を与えるであろうと予想している。
コネクトームとゲノムとを比べた場合、ゲノムは完全にデジタルであるが、コネクトームは完全にデジタルとは言えないところが大きな違いのひとつである。また、ゲノムは静的であるが、コネクトームはある意味で動的なものである。これらの違いは科学的解明を進める面からは大きな違いで、自分としては二十一世紀の中で完全なる解読が達成されるのかは懐疑的だ。「完全なる解読」がどのようなものかもわからない。一方、シンギュラリティの議論でも前提となっているが、技術において指数関数的な向上が期待される場合には、想像を超える成果が、期待を超える早さで手に入るものではある。コネクトミクスの指数関数的成長は、現時点では解析技術、つまりコンピュータ技術、の向上にかかっているが、計算能力という点に限れば、クラウドベースや分散処理技術などを考慮するとまだ相当の向上が望めるであろう。
なお、コネクトームの議論、少なくとも本書の範囲における議論では、コネクトームのアウトプットとして意識がいかに生まれるくるのかについてはほとんど語られていない。ゲノムだけですべての生物の秘密がわかるわけではないのと同じなのかもしれないが、コネクトームがわかることで、意識についてもブレークスルーとなる知見が得られるのではないかと期待している。
本書の翻訳者は青木薫さん。青木さんの翻訳で、脳神経科学の最新動向となると読まざるを得ない。青木さんの息子は京大農学部の応用生命科学科の助教授であるらしく、この本の翻訳にも協力しているとのこと。専門家のサポートということで翻訳の質も上がっているのだろう。この流れで、脳神経科学の分野でも青木さんが翻訳する本が今後も出るのかもしれないと思うと期待大。 -
この記事を見て、この本を思い出した。また、一歩進むかな
1立方ミリメートルの脳の断片をハーバード大学とGoogleの研究者がナノメートル単位で3Dマッピングすることに成功
https://gigazine.net/news/20240510-human-brain-mapped-in-spectacular-detail/
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脳の配線図から捉える人間観
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【由来】
・ハヤカワNF関連のamazon。面白そうだと思ったら既に図書館で予約してた。が、全然そのことを覚えてなかった。
【期待したもの】
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※「それは何か」を意識する、つまり、とりあえずの速読用か、テーマに関連していて、何を掴みたいのか、などを明確にする習慣を身につける訓練。
【要約】
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【ノート】
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【目次】
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コネクトームっていう概念は脳の神経細胞による配線のことらしく、わりと新しい概念ということだ。
はじめのうちはニューロンとシナプスの区別がついていたのに、読み進めると「あれ?どう違うんだっけ?」となってくる。
いってみれば自分の頭が悪いだけなんだけど。
ちなみにニューロンが神経細胞で、ニューロンとニューロンの接続部がシナプスだそうだ。
脳をアップロードして、シミュレーションで生き続けるなんていう話になってくると、映画「マトリックス」やドラマ「エージェント・オブ・シールド」のシーズン4にでてくる『フレームワーク』みたいなSFが思い浮かぶが、理論的には確かにあり得るだろう。
また、死体の記憶を蘇らせるなんかは、映画「クリミナル、二人の記憶を持つ男」がいい例だ。
コネクトームの全貌を理解するには、ヒトゲノムの解析以上に時間がかかるそうだが、近い未来にそれが解明できることを願うばかりだ。 -
面白いかったけど専門書というよりかはコラムちっくな面があるなー
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借りたもの。
脳科学の発展をひも解きながら、人間の心を解き明かそうと、現在解っている事を解説した本。
著者は特に、コネクトーム――ニューロンの接続について言及。
脳科学に関する情報が充実している。
認知症、心理学・精神医学から人工知能に至るまで、その言及は多岐にわたる。
そこに何が「わたし」をつくり出しているかを明言はされていない。
ただ、あらゆる可能性と解っていることですら限られた統計の結果にすぎないということだけだ。
一般人が漠然としか解釈していない「脳科学」の原理を丁寧に解説している。
天才と呼ばれる人々は平均的な人間の脳と何が違うのか――質量か、ニューロンの数か、その配線が多岐に渡っているのか――?
脳科学の歴史、骨相学による脳を質量から読み解こうと試みたり(人相学みたいなもの?)、外傷性の精神疾患患者や幻肢という現象から大脳皮質の箇所によって身体の制御など司っている場所が違うこと……
表面的な人間の心身の現象から統計的に導き出された結果に始まり、現在の電子顕微鏡や医療機器の進歩により、生体脳の反応を見れるようになったが、未だに人間の脳の全容を解明することはできていない。
斎藤環『関係する女 所有する男』(http://booklog.jp/item/1/4062880083)でも、脳の構造に性別差が無いと言っていた。
脳が実に複雑な“森”であるということ――
たとえばニューロンの伝達は、電気信号だけでなく化学物質(アドレナリンとかドーパミンとか)も関わっていること、遺伝的な疾患があると懸念されても脳はそれを別の経路を用いて補おうとすること等……
そのメカニズムの多様さと人間が知っていることの少なさに驚愕する。
人工知能への言及には、それを通して人間の“心”――脳の成り立ちがどのようになっているのかを探求している側面がある事を強くする。
著者の文章には、神話のエピソードの引用や文学的な表現が多く、中世の学術書を読んでいるかのようだった。
それは後半の、コネクトミクスによる脳の拡張や、SFっぽい(むしろそれを目指している?)死・自我の定義など超越する可能性を仄めかす文脈にも繋がっている印象を受けた。 -
コネクトームとは神経系を構成するニューロン接続の全体を指す言葉であり、自分という存在(意識)はこのコネクトームそのものであるとして、それを探求する新しい科学分野が「コネクトミクス」と説明する。脳科学が未分化の時代の骨相学からの脳科学の歴史を紐解きながら、ニューロン接続を中心に現在の脳科学の状況を説く。冗長なメタファーが多い割には科学的な結果が乏しく、これから「コネクトミクス」の研究が重要だと自身を鼓舞しているような内容に感じられます。現状の「コネクトミクス」の状況は「訳者あとがき」が良くまとまっています。