文庫 少年の日の思い出 (草思社文庫 ヘ 1-5)

  • 草思社
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  • Amazon.co.jp ・本 (218ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794221834

作品紹介・あらすじ

『車輪の下』と同時代の初期短編集。青春の心の動きを類い稀な描写で描いた独自の世界。表題作は蝶の標本を巡る話で昆虫好きの訳者がこれまでの誤訳を詳細に正す。

感想・レビュー・書評

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  • 青春時代を描いた短編集。『少年の日の思い出』『ラテン語学校生』『大旋風』『美しきかな青春』の4編が収録。『ラテン語学校生』と『美しきかな青春』は、新潮文庫『青春は美わし』にて高橋健二訳でも掲載されている。相変わらずどの作品においても、ヘッセの自然の観察力と表現力に感嘆させられる。

  • 学生時代、教科書の隅に「ヘルマン・ヘッセ『車輪の下』」とある字面を目にしたことがあったので、ヘッセの名前だけは知っていました。それを近所の塾の恩師(哲学家で面白い)に鴎外さんが好きだと笑って語ると、この短編集とかどうだ?と渡された本のなかにこれがありました。一番最初です。あまりに現実味があるようなお話で、ドキドキしながら読みました。ヘッセの幼い日の実体験だったりして?なんて。読み始めて直ぐ、〝彼が見せてほしいと言ったので、私は収集のはいっている軽い厚紙の箱を取りにいった。最初の箱をあけて見て初めて、もうすっかり暗くなっているのに気づき、私はランプを取ってマッチをすった。すると、たちまち外の景色は闇に沈んでしまい、窓いっぱいに不透明な青い夜色に閉ざされてしまった。〟この部分の表現が好きだなおもいました。〝外の景色は闇に沈んでしまい〟というところ。〝窓いっぱいに不透明な青い~〟というところも好きです。内容としては、自分も似たようなことを客人と同じように幼稚園の頃行ったことがあるので、なんともいえない苦い気持ちになりました。あー、こういうテーマの短編集か。と、少し苦笑い。続きも読みますけどね。幼い日の〝一度起きたことは、もう償いの出来ないこと〟ということを思い返し、酷くへこみました。うまいですね、ヘッセの書き方がとても。主人公が「私」だと思って居たら、「ぼく」だったんだんですから。で、聞いてくれるかね、ではじまり終わった台詞で物語は終わる。切なく苦い後味を残して。上手いです。非常に。こういう書き方をしてみたいなと思いました。『車輪の下』も読んでみたいと思います。★5つで。

  • 「少年の日の思い出」と聞けば、微かにストーリーの断片を思い出す人が多いのではないか。
    細かいエピソードでなくとも、友人から大切なクジャクヤママユを盗んでしまうときの暗い高揚感。そして、二度と戻らない失態を犯してしまった絶望感。
    そんな、「ぼく」の感情の原型とも言える諸々に、共感し、忘れられない作品として自分の中にそっと保存しているように思う。

    この一冊を手にとったのは、そのときの思いが、表紙や、一枚捲ったそこにある鮮やかな蝶と蛾から起こされたからである。

    教科書に掲載されている「少年の日の思い出」と、翻訳が違うとエーミールの道化ぶりが増しているように感じる。

    『するとエーミールは、たけり狂ってぼくをどなりつけるかわりに、ヒューと歯笛を吹いて、ぼくをしばらくのあいだじっと見つめ、それからこう言った。「そう、そう、きみって、そういう人なの?」』

    ただ、クジャクヤママユを潰した犯人と対峙したときのエーミールの気持ちも、分からないではないな、と思う。

    他に「ラテン語学校生」「大旋風」「美しきかな青春」が収録されている。
    これらは「少年の日の思い出」に比べ大人になっていて、宝物は女性や自分のキャリアに移り変わろうとしている。
    しかし、どの作品もすごい、と思うのは語りの美しさ。会話がなくても、細部まで世界を表現できるのは、ヘッセ自身が歩んだ時間だからか。
    けれど、在りし日を、こんなにつぶさに構築できることに感動する。

    「その後まもなく、一人前の男になるために、人生を、この数日はじめてその影が私をかすめた人生を乗り切るために、私はこの町を去った。」

    青春時代から離れた今の暗さが、ところどころに見える表現も、好きだ。
    最後に好きな情景を引用。

    「一番上の煙突からは、コーヒーをわかすかすかな青い煙が、あたたかい空中に立ちのぼり、小さな町の上を流れていた。」

  • 大人になってからヘッセが作者だと知り腑に落ちた感覚がある。奇妙でとても好きだった。

  • 醜いところをえぐりだされたくて読み返しました。
    短編集。収録されている『ラテン語学生』『大旋風』『美しきかな青春』も青春期の男子になりきればえぐられますが、やっぱり特にエグいのは『少年の日の思い出』。友情だけでなく、変なプライド、見栄、虚栄心、罪悪感、とか大人になっても捨てきれない負の部分と向き合いたかったのですごく良かった、これだけでいえば星5。

  • 作品全般を通じて、少年から大人に移り行く心の過程とか不器用さとかを表現するのがうまい作家と特に感じた。個人的には特に「大旋風」の冒頭にそれを感じた。読むまで忘れていたけれど、自分も思春期のときにそんな気持ちになったことを思い出させてくれた。

  • 読む度に考察が変わる物語

  • ヘルマンヘッセさんの独特な表現がすごい!

  • ヘルマンヘッセの作品は、人間の微妙なあるある感情を上手に表現していると思った。
    特に美しきかな青春は、女友達からどう恋人へと移り変ろうかという現代でもある感情で、故郷に帰り過去を懐かしみながらも、頭の中は思い人のことで頭がいっぱいになってしまうなど、思わず共感してしまう内容だった。

  • エーミールの正体が少しずつ明かされていくのが面白い。

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著者プロフィール

ドイツ生まれのスイスの作家。主に詩と小説によって知られる20世紀前半のドイツ文学を代表する文学者。南ドイツの風物のなかで、穏やかな人間の生き方を描いた作品が多い。また、風景や蝶々などの水彩画もよくしたため、自身の絵を添えた詩文集も刊行している。1946年に『ガラス玉演戯』などの作品が評価され、ノーベル文学賞を受賞した。

「2022年 『無伴奏男声合唱組曲 蒼穹の星』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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