- Amazon.co.jp ・本 (218ページ)
- / ISBN・EAN: 9784794221834
作品紹介・あらすじ
『車輪の下』と同時代の初期短編集。青春の心の動きを類い稀な描写で描いた独自の世界。表題作は蝶の標本を巡る話で昆虫好きの訳者がこれまでの誤訳を詳細に正す。
感想・レビュー・書評
-
青春時代を描いた短編集。『少年の日の思い出』『ラテン語学校生』『大旋風』『美しきかな青春』の4編が収録。『ラテン語学校生』と『美しきかな青春』は、新潮文庫『青春は美わし』にて高橋健二訳でも掲載されている。相変わらずどの作品においても、ヘッセの自然の観察力と表現力に感嘆させられる。
詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「少年の日の思い出」と聞けば、微かにストーリーの断片を思い出す人が多いのではないか。
細かいエピソードでなくとも、友人から大切なクジャクヤママユを盗んでしまうときの暗い高揚感。そして、二度と戻らない失態を犯してしまった絶望感。
そんな、「ぼく」の感情の原型とも言える諸々に、共感し、忘れられない作品として自分の中にそっと保存しているように思う。
この一冊を手にとったのは、そのときの思いが、表紙や、一枚捲ったそこにある鮮やかな蝶と蛾から起こされたからである。
教科書に掲載されている「少年の日の思い出」と、翻訳が違うとエーミールの道化ぶりが増しているように感じる。
『するとエーミールは、たけり狂ってぼくをどなりつけるかわりに、ヒューと歯笛を吹いて、ぼくをしばらくのあいだじっと見つめ、それからこう言った。「そう、そう、きみって、そういう人なの?」』
ただ、クジャクヤママユを潰した犯人と対峙したときのエーミールの気持ちも、分からないではないな、と思う。
他に「ラテン語学校生」「大旋風」「美しきかな青春」が収録されている。
これらは「少年の日の思い出」に比べ大人になっていて、宝物は女性や自分のキャリアに移り変わろうとしている。
しかし、どの作品もすごい、と思うのは語りの美しさ。会話がなくても、細部まで世界を表現できるのは、ヘッセ自身が歩んだ時間だからか。
けれど、在りし日を、こんなにつぶさに構築できることに感動する。
「その後まもなく、一人前の男になるために、人生を、この数日はじめてその影が私をかすめた人生を乗り切るために、私はこの町を去った。」
青春時代から離れた今の暗さが、ところどころに見える表現も、好きだ。
最後に好きな情景を引用。
「一番上の煙突からは、コーヒーをわかすかすかな青い煙が、あたたかい空中に立ちのぼり、小さな町の上を流れていた。」 -
大人になってからヘッセが作者だと知り腑に落ちた感覚がある。奇妙でとても好きだった。
-
作品全般を通じて、少年から大人に移り行く心の過程とか不器用さとかを表現するのがうまい作家と特に感じた。個人的には特に「大旋風」の冒頭にそれを感じた。読むまで忘れていたけれど、自分も思春期のときにそんな気持ちになったことを思い出させてくれた。
-
読む度に考察が変わる物語
-
ヘルマンヘッセさんの独特な表現がすごい!
-
ヘルマンヘッセの作品は、人間の微妙なあるある感情を上手に表現していると思った。
特に美しきかな青春は、女友達からどう恋人へと移り変ろうかという現代でもある感情で、故郷に帰り過去を懐かしみながらも、頭の中は思い人のことで頭がいっぱいになってしまうなど、思わず共感してしまう内容だった。 -
エーミールの正体が少しずつ明かされていくのが面白い。