生き物の死にざま

著者 :
  • 草思社
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794224064

作品紹介・あらすじ

2019年8月4日「東洋経済オンライン」記事「タコの最期は涙なくしては語れないほどに尊い」、そして8月25日「セミの最期は澄んだ空を見ることさえできない」で大反響!

すべては「命のバトン」をつなぐために──

子に身を捧げる、交尾で力尽きる、仲間の死に涙する……
限られた命を懸命に生きる姿が胸を打つエッセイ!

生きものたちは、晩年をどう生き、どのようにこの世を去るのだろう──老体に鞭打って花の蜜を集めるミツバチ、地面に仰向けになり空を見ることなく死んでいくセミ、成虫としては1時間しか生きられないカゲロウ……生きものたちの奮闘と哀切を描く珠玉の29話。生きものイラスト30点以上収載。

感想・レビュー・書評

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  • 以前読んでとても面白かった『世界史を動かした植物』の稲垣栄洋さんの最新刊。
    姿形は知っていても、どういう生き物か問われるとわからない身近な生物や、海の底や砂漠に住む馴染みのない生き物までを“死に様”という視点でエモーショナルに描き出す。
    文章が映像的でまるで映画を見ているようだった。
    「アカイエカ」はスパイ映画のようだし、「兵隊アブラムシ」はラノベ原作のSF映画のよう。
    “人の人生は一編の映画だ”とよく言われるが、その言葉はヒトの専売特許ではないな、と思った。
    主人公の“死”を扱っているので読む毎にセンチメンタルな気分になる。

  • 本書は、稲垣栄洋先生の生き物の死をテーマとしたエッセイ集。先生の本は植物、動物をテーマとした学術書を素人にも分かりやすく、しかも面白く描いてくれているので、本当に読んでいて知的好奇心が刺激され楽しいのだが、本書はエッセイということで、そのあたりの詳細な部分があまりなくてちょっと残念。でもいろいろな生物の生態の不思議な部分を垣間見せてくれ非常に興味深かった。

    本書は、セミからゾウまで29種類の生物について、それぞれの章で一つずつエッセイが書かれているが、特に興味深かったのが
      ○卵から産まれたばかりの自分の子供に自分の身体を食べさせるハサミムシの母
      ○成虫になると口もなくなり、生殖機能しかないカゲロウ
      ○メスの皮膚に吸着し、栄養をメスの皮膚から吸い、メスの身体に精液を注入するチョウチンアンコウのオス
      ○子供の時から兵隊として役目だけを行う兵隊アブラムシ
    など。これらの生物については別に専門書を読んで勉強してみたくなった。

    いずれにせよ、生物はなぜ「死」という命のあり方を選ぶようになったのだろうか。
    古代の生物には「死」というものは存在しなかったそうだ。
    古代生物は身体の分裂を繰り返して命を永らえさせていた。命は新たに生まれるのではなく、分裂することによって命のリレーを繰り返していたのだ。
    しかし、ある時、生物は命を永らえさせる方法として、新しい命を生み出し、古い命を殺す(死ぬ)という方法を選んだ。この方法の方がより種族を存続させることができると考えたからだ。そこには、どのような意味があったのだろうか。

    「死」は生物にとって最後の一大ビッグイベントだ。
    僕もいずれ必ず死ぬ。僕はもう40年以上それなりの人生を生きてきたので、いつお迎えがきても何の悔いもない(笑)。
    ただ、最後に「死の意味」というものをしっかりと認識しながら死へ旅路に出発したいものである。

  • セミは必ず上を向いて死ぬ。脚が硬直して縮まるからだ。ついでに、目の構造から空を見て死ぬことはできない。それでも、自らの役割を全うすることが昆虫としての幸せに繋がるとしたならば、そういう死に方は、別に惨めでもなんでもなく、多くは繁殖行動を終えた後のプログラミングなのだ。

    というようなことを冒頭6pは書いていて、延々と29の生き物についての死にざまを説明してくれている。「幸せ」という言葉は、私が付け足した。レビュアーの多くは彼らの行動を「切ない」という。でも、それは1つの解釈に過ぎない。「メスに食われながらも交尾をやめないオス」カマキリとか、「生涯一度きりの交接と衰弱しながら子を守りきるメスの」タコとか、その行動原理は唯一だ。如何に種として生き延びるか。それに尽きる。

    ところが、「もしかして5億年の間不老不死だったかもしれない」ベニクラゲの章が登場する。それでも、個体はウミガメに食べられてあっさりと死ぬという。プランクトンなどの単細胞生物はどうだろう。ずっと分裂を繰り返し、コピーして行き、38億年、生きものに「死」はなかったのかもしれないという。でも、それだとコピーミスによる劣化も起きる。新しくもなれない。一度壊して作り直す。10億年前、「死」が生まれた。これは「生物自身が作り出した偉大な発明」であるらしい。さらには「オスとメスという仕組みを作り出し、死というシステムを作り出し(環境変化に対応し、「進化」する仕組みを作った)」。単細胞生物のプランクトンは、寿命はないが、わずかな水質変化で死んでしまう。知らなかったが、身近な石灰岩は、有孔虫というプランクトンの殻が堆積して出来た岩らしい。

    面白い話が山のように語られるが、みんなさらっと終わるので深められない。もともと著者は、植物の専門家なのだ。専門に必要な「ちょっとした」知識が惜しげもなく語られているのかもしれない。

  • この本もフォローしている方のレビューを読んで、興味が湧いて読んでみた。

    著者の稲垣さんは静岡大学大学院の農学研究科教授をされている。タイトルからすると固そうなイメージなのだが、エッセイというだけあって、超文系の私でも引き込まれるような柔らかな文章。
    身近な生き物から深海の聞いたこともないような生き物まで、著者の温かな愛情を感じずにはいられない。
    所々、小説や詩などからの引用もあり、感嘆。

    どんな生き物も生まれた瞬間、次世代を残すためのプログラミングにそって、その生を全うしようとする。
    そして、たいがいの生物が産卵とともに死を迎える。
    驚くほどシンプルな生命の潔さ。
    我々人間だけが、自然界のことわりから外れて存在している気がする。
    やがて、栄華を極めた恐竜が滅んだように、人間も自ら滅んでいくのではないだろうか…などと少々悲観的な気持ちになってしまった…著者は決して厳しい口調で書いているわけではないのに、人間の罪深さを噛みしてしまうのだ。

    以下気になった生き物たち。

    ベニクラゲ…不老不死のクラゲ。成体にやがて死が訪れたように見えるが、また小さく丸まって、幼体のプラヌラになる。ググってその可愛らしい姿に不老不死のイメージが合わずびっくり。

    ウミガメ…漁場に張り巡らされた定置網などに引っかかって溺死してしまう。網に引っかかって死んだウミガメの死骸をとらえた写真が賞を取ったとったと、先日新聞で読んだ。
    様々な困難を乗り越えて、産卵に至っても、海岸線が照明で照らされ明るくなり、また開発されて短くなってしまった昨今、ウミガメが戻れる砂浜は少ない。孵化したコガメたちも、自販機の灯りなどに惑わされ、海へなかなかたどり着けない。運良くたどり着けても、大抵は鳥や魚に食べられてしまう。

    イエティクラブ…雪男がどこかのクラブハウスで寛ぐ姿を思わず思い浮かべてしまうが、雪男のように毛深いハサミを持った深海に住むカニのこと。こちらも早速ググってそのマカ不思議な姿を確認。

    終盤は、人間と関わりが深いために、実験に使われたり、絶滅してしまった生き物について書かれていた。
    人間はどれだけ罪深い生き物なのだろうと嘆息。

    ゾウの墓場は根拠がないという話が最後にあり、昔子どもに読み聞かせた吉田遠志のアフリカの動物の絵本「おもいで」を思い出した。
    2020.2.10

  • 「生き物の死にざま」 稲垣栄洋(著)

    2019年 7/15 第1刷発行 (株)草思社
    2020年 3/4 第6刷

    生き物にとって死とは命のバトンを繋ぐ事。

    壮絶で神秘的な営みに感動します。

    生まれる事。
    命を繋ぐ事。
    死ぬ事。

    大きな輪廻の中で
    今日もぼくらは生きているんだねー。

    感謝。

  • 雑草生態学を専門とする著者が、さまざまな生き物の一生を叙情豊かに綴ったエッセイ。ただし本書で取り上げられているのは植物ではなく、昆虫や魚、動物たちの一生だ。

    昆虫や水中に住む生物たちに多いのが、オスは交尾をしたあとに、メスは卵や子を産んだ後に力尽きて死んでしまうことだ。また、それ以外の生物でも、生まれてから無事に子孫を残すまで常に死と隣り合わせだし、体が動かなくなればただちに死が待っている。

    人間の視点で見ると、なんと儚く切ない一生なのだろうと思う。しかし彼らは子孫を次の代に残す、という実にシンプルな目的で生きているのだ。逆に、自分の意志で生殖や出産をコントロールし、体が衰えても長生きする人間の方が生物としては異端なのだ。

    人間の都合でさらに死の危険が増している生物もいる。煌々と照らされる街の明りによって、孵化したあと海とは反対の方向に進んでしまい、海鳥に食べられるウミガメの赤ちゃん。川から森への大移動の道中を横切る自動車道路により、車にひき殺されるヒキガエル。人間に安定して肉を提供するために、狭く暗い小屋に閉じ込められ、生後40~50日で殺される鶏。我々が豊かな生活を送ろうとすればするほど、多くの生物の命が犠牲になっていくのだ。

    生物として異端であるとわかっても、自分の意志とは無関係に出産することはできないし、体が衰えたからといってすぐに死にたくない。鶏肉を食べることもやめられない。それでも、人間は地球上に生まれた生物の一つであること、自分たちの生活が多くの生物の命を脅かしていることについて、心に刻んでおかないといけないな、と思う。

  • 子孫を残す為、命を懸けてとんでもない距離を泳ぎ故郷の川へ戻るサケ。
    普段は花の蜜や草の汁で生きている蚊。一度身籠ると命を懸けて吸血大作戦に挑む母蚊。
    三年も幼虫として過ごし、子孫を残すためだけにたった一日成虫として生きる、はかない命の代名詞カゲロウ。
    子孫を残すためにメスに補食されながらも交尾を続ける雄カマキリ。ジョロウグモの雄も然り。
    生涯でたった一度繁殖をし、献身的な子育てをする母タコ。
    老化しない奇妙な哺乳類、ハダカデバネズミはアリや蜂と同じように繁殖行為をする個体としない個体が役割分担する真社会性という性質を持つ。
    働き蜂はたった一月という短いその一生を懸けてスプーン一杯の蜜を集める。。
    それぞれの尊い命と種を繋ぐための残酷な現実が虫や動物目線で描かれた面白いエッセイ。
    それら様々な生き物の決死の一生に、我々人間も多大な影響を与えている。生きるため、食べるために。しかし死を前に無力なのは命あるもの全てに等しく同じなんだなー。

  • セミから始まりゾウにいたるまで
    様々な生き物の「死」にざまについて書かれたエッセイ

    その死にざまはまるで映画のようにドラマチック
    「IN AND OUT!私に赤ちゃんを産ませて…命をかけた脱出」(アカイエカ)
    「SOLDIER!戦うために生まれしもの」(アブラムシ)
    「LOVE~たった一度の恋~」(タコ)
    「ETERNAL 命よ永遠に…」(クラゲ)
    「冬とともに死す」(ワタアブラムシ)
    「COUNTDOWN~あなたと私の残された40日」(ニワトリ)

    と、映画タイトルにもなるほど(ウソです)

    すみません。
    本書は感動的な内容です。

    生けとし生けるものは必ず死ぬ
    わかっちゃいるけど「死」は生き物にとって身近なこと
    それぞれの生き物は組み込まれた「死」という時限爆弾に向かって生きていく
    目的は「子孫を残す」「種を絶やさない」
    ある意味潔い

    人間もそこまで潔く生きることができればいいのに
    生きることに苦悩したり悩むことなく
    1つの目的に向かって…

    いや…
    それができないからこそ
    人間の人生はまた色んな意味でおもしろいんだろうな。

  • 生き物のカッコいい生き方に頭が上がらなくなりますm(_ _)m

  • ブクログでの前評判、内表紙の「限られた命を懸命に生きる姿が胸を打つエッセイ」という一文、草思社という初めて聞く社名。全てがときめきを加速させる。名作の予感を持ちながら、ページをめくり始めた。

    文章が無駄なく、それでいてみずみずしさを感じる。まさしく自然や動物のような文章。

    その中に、筆者の愛と好奇心を感じる。それは決して大いなる流れに逆らうこと無く、佇むような印象を与える。

    知識としては知っている生き物の死に様。セミの死体を何度見たか分からない。けれど、そこに心を向けたのは初めてだ。

    本を通じて世界認識を再構築できた時、読書家でよかったと思う。それは紛れもなく読書の醍醐味の1つ。それをさらりとやってのける作者の力量に感服。

    生き物の死にざまという切り口はとても変化球なのだけど、読書家をあっさりと満足させてしまう完成度だった。自信を持って人のオススメできる一冊。

    (各章の詳しいメモや感想などは、長くなってしまうので省略。続きは書評ブログでどうぞ)
    https://www.everyday-book-reviews.com/entry/%E3%81%8D%E3%81%A3%E3%81%A8%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%81%8C%E3%81%A1%E3%81%8C%E3%81%A3%E3%81%A6%E8%A6%8B%E3%81%88%E3%82%8B_%E7%94%9F%E3%81%8D%E7%89%A9%E3%81%AE%E6%AD%BB%E3%81%AB%E3%81%96%E3%81%BE_%E7%A8%B2

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著者プロフィール

稲垣 栄洋(いながき・ひでひろ):1968年静岡市生まれ。岡山大学大学院農学研究科修了。農学博士。専攻は雑草生態学。農林水産省、静岡県農林技術研究所等を経て、静岡大学大学院教授。農業研究に携わる傍ら、雑草や昆虫など身近な生き物に関する記述や講演を行っている。著書に、『身近な雑草の愉快な生きかた』『身近な野菜のなるほど観察録』『身近な虫たちの華麗な生きかた』『身近な野の草 日本のこころ』(ちくま文庫)、『植物はなぜ動かないのか』『雑草はなぜそこに生えているのか』『イネという不思議な植物』『はずれ者が進化をつくる』『ナマケモノは、なぜ怠けるのか』(ちくまプリマー新書)、『たたかう植物』(ちくま新書)など多数。

「2023年 『身近な植物の賢い生きかた』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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