ギヴァー 記憶を注ぐ者

  • 新評論
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感想 : 85
  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794808264

作品紹介・あらすじ

いかなる不便もない。争いやもめごとは起こらない。飢餓も貧困もない-生活からすべての苦痛がとりのぞかれたコミュニティは、まさに理想郷に見えた。しかしその成立の秘密を知った時、少年は故郷を脱出し、世界を「より完全な姿」に戻すための旅に出る…緊密かつシンプルなプロット、とぎすまされた簡素な筆致、心ふるわせるストーリー展開、人間の生への深い洞察によって全世界を魅了しつづける近未来SFの傑作、待望の新訳!1994年度「ニューベリー賞」を受賞。

感想・レビュー・書評

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  • 談話室で「新世界より」の元ネタと紹介されていたのを見て興味を持った作品。
    確実な情報は見つけられず本当のところはわからないけれど、貴志さんがこの物語を読んでいるのなら、影響は受けていると思う。

    読みはじめて一番に出てきた感想は、「これ、児童書なの?!」。
    児童書ということで手に取らない人がいるかもしれないのがもったいない。
    長い間絶版になっていたということも惜しまれる。

    近未来らしき、〈同一化〉の進む画一的で完璧な管理社会。
    そのなかのコミュニティのひとつが舞台となっている。
    コミュニティを構成する人々の基本的な単位は家族ユニットで、父・母・男女各一人ずつの子どもたちから成る。

    彼らは、あらゆる感情(痛み・苦しみなどから愛まで)と、そこから生まれるもの(歌や芸術)などの、さまざまな記憶を持っていない。
    色彩まで差別の原因となるため認識できなくなっている。

    その記憶は世界から失われてしまったわけではなく、ただ一人〈記憶の器〉=レシーヴァーと呼ばれている人が管理している。
    新たなレシーヴァーが後継者として選出された時、現在のレシーヴァーは新たなレシーヴァーに自分の持っているすべての記憶を与える〈記憶を注ぐ者〉=ギヴァーにもなる。
    そして10年ぶりの後継者として選ばれたのが、主人公である12歳の少年ジョナス。

    ジョナスはギヴァーに少しずつ記憶を移され、色を判別できるようになり、美しい風景や楽しい感情・愛などを感じられるようになる。
    もちろん、ほどなくして辛い記憶もたくさん注がれるのだが。

    最初のほうからたびたび出てくる〈解放〉という儀式。
    規則違反を大きく犯したものに与えられる罰則であり、老年者には祝福とされる。
    多様な記憶を注がれるなかで、ジョナスに芽生える疑惑。
    〈解放〉とは何なのか。
    なぜ人々は記憶を共有せずに手放すことを選んだのか。
    やがて明らかになる真実。
    他者を愛しむ心や痛みや苦しみを覚えたてのジョナスのショックはいかほどだったか。
    予測がついたうえで読んでいても、ジョナスの感じたであろう恐ろしさと足元が崩れるような衝撃が凄まじい叫びとともに流れ込んでくる。

    コミュニティに意識の変革は訪れたのか。
    ジョナスが目指す〈よそ〉とは、どこなのか。
    絶望・希望、どちらともとれるラストにしばし放心。

    「新世界より」のように畳みかけるような奇禍が襲ってくるわけではないが、色もなく淡々と過ごされる世界は恐ろしく、想像すると薄ら寒くなる。

    幸いなことに続編が出たところなので、続けて読む予定。
    カッシアの物語(アリー・コンディ)も読んでみたい。

  • 傑作です。
    児童文学作家による近未来SF。
    男の子の一人称で、語り口は平易です。
    おだやかなようで特異な設定。

    少年ジョナスは、もうすぐ12歳。
    進路が決まるので、ちょっと緊張しています。
    仲良しの友人たちはこれまで仕事を手伝った経験から、適性がはっきりしているので、おそらくそう任命されると思うけれど、ジョナスにはこれといって向いている仕事が見つかっていないから。

    皆が決められた生活を送る町。
    職業は12歳の年末に、コミュニティの長老委員会が決めて、<任命>として発表されるのです。

    ジョナスの父は、ニューチャイルドの世話をする<養育係>をしていて、穏やかな性格。
    ジョナスの母は司法局の仕事をしている知性豊かな女性。
    組み合わせを考えて決められた結婚でした。
    かわいい妹も一人います。

    どこの家もそうで、両親と子どもが二人。
    血が繋がっているわけではありません。
    子供を産むのは、職業の一つなのです。
    ニューチャイルドは、出産をする仕事に就いている女性から生まれる。
    子どもは、希望を出しておけば、いずれは貰えることになっている。

    ジョナスは、コミュニティの記憶の器<レシーヴァー>に任命されます。
    過去の歴史の中で、今は一般の人が知らない物事や感覚をすべて覚えておくのが職務。
    コミュニティにただ一人いるだけの孤独な仕事です。
    これまでのレシーヴァーは老人で、次のレシーヴァーが決まった今はギヴァー<記憶を注ぐ者>でもあります。
    ギヴァーは、ジョナスに、さまざまな記憶を注ぎ込むのが役目なのです。
    最初は知らなかった楽しい記憶を注ぎ込まれますが、やがて苦痛や寒さ、戦争など、痛みを知ることが増えていきます。
    そして、コミュニティがこれまでとは違った姿に見えてくるのでした。
    このあたりの描写が何とも言えず凄いのです。
    淡々と書かれてはいますが、管理社会の様相とそれに気づいていく感じが。
    今の体制に疑問を感じるジョナス。
    ギヴァーもまた…

    不安と切なさがしだいに高まります。
    決死の行動を選ぶジョナス。
    どちらとも決められない余韻のある終わり方。
    枠にとらわれない品格がある作品です。

    著者は1937年ハワイに生まれる。
    少女時代を日本で過ごす。異なる世界の設定はこの時期が発想の元になっているそう。
    世界的に名高い児童文学賞を2度受賞している。
    「ギヴァー」は日本での絶版後、「『ギヴァー』を全国の読者に届ける会」によって、再版にこぎつけたそうです。

  • 時は近未来―。飢餓も貧困もなく、全ての苦痛が排除され、平等世界の"コミュニティー"が確立されていた。過去の記憶を持たない住人たちは、指定服の着用と感情を抑制する投薬、そして職業までもが長老委員会に指定されていた。少年ジョナスは、血のつながりのない父と母、妹の4人で家

  • 「不自由と叫んでいる自由がここにある」

    色も記憶も感情も失った近未来の世界の中で、人間は幸せに暮らせるのだろうか。いわゆる「納得解」というものを作り出す努力を諦めてしまうことを選んだ一つの世界の結末。
    この世界は「よそ」なのか。それとも「ここ」なのか。

  • シリーズ①
    絶版になり企画を経て復刊された本。
    (『ドリーム・ギバー』はこのシリーズとは別物)

    貴志さんの『新世界より』の着想の基となった作品。一見ファンタジーだと思う。
    妙にカクカクした翻訳に戸惑いながら読み始めましたが、そういうカクついた訳には、きちんと理由があるということが後半になるにしたがって理解できるようになりました。

    すべてが予測可能で安全に守られたコミュニティ。
    そこは悲しみや不安、恐怖、痛み、愛などの感情が排除され、色彩、天候までもがが同一化によりコントロール管理、監視されている。安全に満ちた閉鎖的なディストピア。

    十二歳になると〈任命〉により一生の仕事が決定される。主人公のジョナスに与えられたのは、コミュニティの「記憶の器」(レシーヴァ―)という特別に名誉な任だった。

    ぼくを愛してる?(177ページ)
    かれらは何も知らないのだから(214ページ)
    きみと私だけなんだよ、感情を持っているのは。(216ページ)

    無意識。知らない。ということは
    悪気がなかったとしても、どこかで誰かを傷つけているかもしれない。そして傷つくということにさえ気がつかない。本当のそれを知っているのは、読者を含めて四人。与える者・記憶を注ぐ者(ギヴァ―)と、記憶の器(レシーヴァ―)と……。

    現代とも似ているのかもしれない…、そんなことをついつい考えさせられてしまう児童書でした。次は『ギャザリング・ブルー 青を蒐める者』を。

    負のすべてを二人だけに押しつけて調和している世界。あまりにも酷くないかい?このコミュニティのシステムは理不尽だ…とか思ってしまった。ゲイブは感覚を麻痺させること、異常な世界に順応することが出来なくって、本能的に危険を感じて泣いていたのかもしれない。

    貴志さんが言っていた「地続きの世界」
    前へ、前へ遡る。そうすると、私たちも登場するであろうこの世界にぐらぐらした。

  • 映画を先に見ました。良いお話だったんだけど、なんとなく釈然とせず、これは小説を読まなければ!と思って読みました。
    結果、釈然としない気持ちは残ったまま、解消されることはありませんでした(笑)
    レシーヴァーとか、ギヴァーとか、高揚とか、彼方を見る、とか、言葉の使い方はとても丁寧で素敵だったんだけれど、過去の教訓から「同一化」を目指した社会が、それでもなおレシーヴァーを作り上げて記憶を保持しようとした理由がわからなかったし、レシーヴァーを喪失するとその記憶が社会へ戻っていくというカラクリが理解できなかった。また、人間性を喪失した社会であるかのように描かれてはいるものの、偽善的ではあっても、この社会はこれはこれでうまくいっていたのではないか?変える必要なくない?ギヴァーとジョナスが「よそ」を目指して何をしようとしたのかもよくわからなかったし、この社会において記憶の解放が善なのかどうかも判断がつきかねた。この物語に唯一引き付けられるのは、ジョナスが色彩を取り戻す過程であり、愛を理解する過程である。そして、その先にあるものを自ら手にするために旅立つ決断に、かろうじて感動できるところがあったのではないかと思う。

  • なにか不思議な街の中で過ごす子どもたちの話。

    どの話題を話してもネタバレになってしまうので説明は控えますが、「小説という媒体で良かった」と、心から惹かれる描写シーンがあります。
    久々に文章を読んでびっくりしました。

    そうか、そういうことだったのか。
    気づいて、驚いて、その世界観に恐怖を覚える作品です。
    (発刊当初一部の国で販売禁止になっていたそうですね)

    児童文学と、子供に限定するにはもったいない。
    かといって映像化もしてほしくない。

    珠玉の1冊です。

  • 講談社の絶版「ザ・ギバー―記憶を伝える者」https://booklog.jp/item/1/4062616521の新訳第1巻です。
    現代の読者が捉えやすい言葉で訳され、固有名詞も少々変えられています。
    内容は同様、視覚や聴覚や感情を技術で抑制することで、極めて平等で機能的な社会が実現されたディストピアの物語です。
    講談社版とは違い、新評論版はギヴァーシリーズ全ての邦訳が出版されています。
    当初は3部作だったのですが、現在4部作となっています。
    2巻にも期待します。

  • すすめてもらって読んだ本。
    そうでなければ読もうと思わなかっただろうからすすめてもらって良かった。
    この本を読んで、傷つく事や苦しい事、試練が色々とあっても自由にものごとを選択できること、愛情や喜びを知っていること、めいっぱい笑える面白い日々、それらがなんて尊いものなんだろうとあらためて思った。
    何よりも、何が起こるかわからない、決められていない人生は楽しいものだ。そう思った。
    ラストが切ないままだったけれど続きがあるようなので読んでみたいと思った。

  • こうまで既成概念を打ち壊された作品に出会ったことがない。どんなファンタジー作品でも、感覚の受容器といった、生物として当たり前に備わっているものまで揺らぐ表現には出会わなかった。
    何もなかったところに記憶が注がれていく様は、不思議なくらい心を揺さぶる何かがある。ギヴァーがお気に入りという、おそらくはクリスマスの記憶とその光景に、涙が出た。
    ありそうでない、あり得なさそうなところが空想をかきたてる、近未来の姿。読み終わった後にすぐもう一度読み直したくなる一冊。キリスト教圏に生まれ育った人間ならまた別の角度から楽しめるのかもしれない。

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著者プロフィール

Lois LOWRY アメリカの児童文学作家。1937年ハワイに生まれ。11~13歳までの少女時代を東京・代々木で過ごす。ニューベリー賞受賞作『ふたりの星』『ギヴァー』のほか著書多数。なかでも本作を含む〈ギヴァー4部作〉は世界中にファンをもつ代表作。

「2018年 『ある子ども』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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