骸骨の聖母サンタ・ムエルテ: 現代メキシコのスピリチュアル・アート

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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794808929

作品紹介・あらすじ

骸骨姿の聖母を信仰し、そこに癒しや救済を求めるメキシコの人々の新しい精神生活と、そこから溢れ出るように生まれている多彩な図像表現を日本で初めて詳しく紹介。写真200点収録、カラー口絵8ページ。

感想・レビュー・書評

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  • 近年メキシコにて広がりつつある民間信仰――サンタ・ムエルテ(「骸骨の聖母」)信仰について紹介する書。無名の民衆の中から生まれ、また現在進行形で新たなモードが生まれつつあるサンタ・ムエルテ信仰を概説すると共に、現代メキシコ社会におけるその意義を考察する。
    本書は、現代メキシコの新たなスピリチュアル・ムーブメント(或いは民衆美術)であるサンタ・ムエルテ信仰を解説したものである。骸骨の姿で表されるこの異形の聖母は、時に黒魔術や麻薬密売といったアングラなものと結び付けられつつも確実に人々の信仰を集めている。著者はサンタ・ムエルテ信仰の由来・図像形態・供物・儀式などを概要的に説明すると共に、実際の信仰の場におけるサンタ・ムエルテとその信者たちの姿を紹介している。
    サンタ・ムエルテ信仰は現在進行形で作られている信仰である。色や属徴といった図像学や儀式等の崇拝様式はある程度は定まってはいるものの、実際の信仰の場では各々の信者の事情に合わせたフレキシブルな形態を取っている。一方、その崇拝形態では化学工業製品は可能な限り忌避され、自然志向の様相がある。テピートといった都市貧困地区の人々の文化がサンタ・ムエルテ信仰に大きな影響を与えており、近年では麻薬密売人の守護者たる「麻薬の聖人」マルベルデとの結びつきも見られるようになった。
    それらを踏まえた上で、著者は最後にサンタ・ムエルテ信仰が現代のメキシコにおいて有する意義を考察する。サンタ・ムエルテ信仰は、単なる民衆文化・民衆芸術の新たな一モードに留まるものではない。広がる経済格差と「麻薬戦争」の傷跡が深い影を落とすメキシコ社会において、人々は骸骨の聖母を既存の共同体に代わる新たな魂の救済者として見出している。そこにおける「骸骨の聖母」サンタ・ムエルテとは人々の守護神であり、またその「生」の守護神でもある。サンタ・ムエルテ信仰とは死を生へと反転させる表象であり、現代メキシコの人々が見出した生と死の「接触領域」である、と。
    サンタ・ムエルテを概説的に扱った本は恐らく本書ぐらいしかなく、その意味でも貴重な情報をもたらしてくれる一冊である。

  • メキシコにおける「骸骨の聖母」サンタ・ムエルテ信仰を包括的に論じた一冊。

    サンタ・ムエルテ信仰とは、メキシコで近年活発化している、一種の聖人信仰です。ご本尊たるサンタ・ムエルテが、ローブをまとった骸骨聖母という何ともキャッチーな姿なのが特徴。新聞などでも取り上げられいるため名前を聞いたことがある方も多いでしょうが、日本語でのまとまった著述はほとんどありませんでした。その意味で本書の存在は貴重です。

    サンタ・ムエルテ信仰のルーツ、祭壇の構成、儀式や祈祷の文言など一通りのところは扱っています。また、著者が中南米美術の専門家ということもあり、図像学的な解説が多いのも読みどころですね。特に、サンタ・ムエルテ像に用いられた各色の意味するところの解説は興味深いです(赤は愛情問題を解決し、黒はサンタ・ムエルテの超越性を示しあらゆる負のエネルギーを阻止するなど)。

    入信儀式の体験レポートや祈祷の詳細な手順など、他ではあまり見られない記述も多いですね。手にとって損はないかと。

    なお、図版は充実してます。特にサンタ・ムエルテ像の写真が多いのが嬉しい。中でも本書119ページ、「眼窩に白い花を差した像」は素晴らしいですね。ドレスめいたレースの衣装をまとい、葉巻をくわえ、左の眼窩に白い花を差した骸骨聖母という絵面が素敵すぎます。必見。

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著者プロフィール

中南米・カリブ圏・ラティーノ美術史研究者。
1949年神奈川県鎌倉市生まれ。現在は静岡県御殿場市在住。
国際基督教大学卒。Bゼミ・スクール修了。ウニベルシダ・デ・ラス・アメリカス(メキシコ)大学大学院修了。
メキシコ国立美術研究所研究員などを経て現職は神奈川大学教授。
日本ラテンアメリカ学会会員、美術史学会会員、LASA会員、NALAC会員、スペイン・ラテンアメリカ美術史研究会会員、など。
主な著書
『メキシコ美術紀行』(新潮社)、『ラテンアメリカ美術史』(現代企画室)、『メキシコ壁画運動』(平凡社)、『ニューメキシコ 第四世界の多元文化』(新評論社)、『キューバ★現代美術の流れ』(スカイドア)、和英対峙『現代美術演習』vols.I〜V(現代企画室)など。ほか共著、共訳書、論文など多数。

「2007年 『21世紀のアメリカ美術 チカーノ・アート』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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