ギャザリング・ブルー 青を蒐める者

  • 新評論
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794809308

作品紹介・あらすじ

*あらすじ…足の不自由な少女、キラ。唯一の庇護者であった母がある日、突然の病に倒れ亡くなってしまう。体の不自由な者にとって苛酷な「村」の環境のなかで、キラは自分が生き残れないかもしれないことを覚悟する。しかし彼女には、「村」の未来にかかわるある不思議な力がそなわっていた…
*読みどころ…前作『ギヴァー』と異なり、「少女」が主人公で、「糸」「布」にまつわる特殊技能がテーマです。登場人物たちのサバイバルは前作よりもかなり苛酷。しかし、ひきしまった文体と物語展開、「幸福」や「共生」の意味を深く考えさせるストーリーテリングの手腕は健在! つづく第3作の主人公となる型破りでキュートなキャラクターも登場します!
*海外レビューより…フィクションの達人ロイス・ローリーは、写実的な物語とファンタジーのいずれにも卓越している。そして、わたしたちの文明の将来の姿を写しとっているかもしれないこの物語は、作家の最高傑作のひとつだ。―『ブックリスト』誌
ローリーが、あのニューベリー受賞作『ギヴァー』で描いた象徴的な近未来の世界に戻ってきた…いつもながら思索と議論をよびさますたくさんの題材がちりばめられているだけでなく、今回は“魔法モノ”のタッチも加わっている。そして読者は、前作のあの謎めいたラストシーンを読み解くためのかすかなヒントをも見いだすことができるかもしれない。―『カーカス・レビュー』誌

感想・レビュー・書評

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  • 「ギヴァー」の続刊だが、ギヴァーとはお話に直接的な関わりはない。
    読み進めると同じ世界だと感じとれるが、舞台となる村の雰囲気や規律などもまったく違う。
    行き過ぎた文明を放棄したと思われるところは同じだが、閉鎖的かつ排他的な村で、ギヴァーと比べると、田舎で未発展・未開発であるぶん、人々は悪意や差別を隠さない。
    けれど、やはり恐ろしいのはギヴァーと同じく隠されている部分。
    守護者たち(ギヴァーではおとなたち)の行動原理は確信犯(本来の意味)的であるため、自分はもちろん周りにも悪意を感じさせないのだ。そこが非常に恐ろしい。

    印象に残ったのが、姿の見えぬ森の獣に怯えるキラにかけた
    「獣なんざ、いやしないよ。」という師匠アナベラのことば。
    では、「いる」のは「何」なのか。
    いつでも、どんな場所でも、一番恐ろしいのは人間なのかもしれない。

    自分が所属するコミュニティで特別な存在となり、その特権ゆえに真実を知ってしまい今まで足元を固めていたものが崩れる、という図式もギヴァーと共通する。
    すべてを知った後のジョナスと本作の主人公キラの選択は、真逆に見える。
    しかし、真実と闘おうとすること・コミュニティに変革をもたらそうとすることは、やはり同じだと思う。

    最後にギヴァーの誰かと思われる人に言及した一言があり、次作でふたつの物語が繋がりそうな予感をさせる。
    巻末の未翻訳巻の紹介文にもふたつの物語の「登場人物が出逢い」とある。
    「ギヴァー」は三部作といわれていたが、四作目が出版されて四部作になったらしい。
    三部でも四部でも、なんだったら五部作になってもよいけれど、続刊が無事に翻訳出版されることを切に願う。

  • 前作『ザ・ギヴァー』は個人的に一生心に残る作品であり、絶版になったときいたときは本当に悲しく、復刊には大いに喜びました。
    以前から続きがあるときいていたものの、おそらく邦訳はされないのだろうと諦めきっていましたので、今作の発売も嬉しくてたまりません。
    今作は同シリーズではあるのでしょうが、こちらだけ読んでも支障がない独立した物語でもあります。
    互いに助け合う、互いを思いやる、という概念の存在しない村で、体が不自由なために差別を受けていた少女キラが、その類稀な刺繍の才能を見出されて、徐々に村の重要な存在になっていきます。
    キラは村の集会で「歌手」が着るためのガウンの補修をしていくのですが、そのガウンには今までの世界の盛衰が描かれており、補修を通してキラは人類の歴史をひしひしと感じます。
    そんな日常の中で、キラは自分を保護している村の権力者たちの残酷な思惑に気付いていくことになります。

    前作は純粋なディストピア小説だと思っていましたが、今作は少々違うようです。
    少なくとも舞台となっている村は、不衛生で暴力的でどう見ても「完璧」とは程遠い環境です。
    作者はシリーズを通して人間というものを模索しているのでしょうか。
    この2作品だけではなんともいえませんが、シリーズを読破し、最後にすべての物語を俯瞰したくなる作品です。
    ぜひとも続きを日本でも出版していただきたいです。

  •  愛読書「ザ・ギバー」の続編がようやく邦訳されたとのことで、大慌てで入手。
     児童文学という括りになっているが、ディストピアもののSF小説。「崩壊」後の荒涼たる風景、文明の衰退した世界のコミュニティでは、多くの法と徳が忘れられてしまっている。身体の障害などによってじゅうぶんな役に立たない人間はコミュニティの掟によってすみやかに殺され、親は子をただ労働力と考え、邪魔になれば殴る、ときには殺してしまう。ほとんどの人が貧しい暮らしをしている中、一部の特権を持つ人々だけが、清潔で豊かな暮らしを送っている……
     生まれつき足が曲がってゆっくりとしか歩けない少女・キラ。親を病で亡くして孤児になった時点で役立たずとして「処分」されそうになった彼女は、しかし、裁縫によって美しい模様を編みだすという才を持っていたことから、指導者たちに拾われて、大きな役目を与えられる。
     痛みを知ることで、人は優しくも強くもなれる。人間の在り方、社会の形を問うストーリーもよかったのだけれど、このシリーズの妙は描かれる世界観にあると思う。絶望に息の詰まりそうな、閉塞的な世界の中で、少女はそれでも己の役割を見出し、何かを変えようと闘うことを決意する。
     前作「ザ・ギバー」をはじめて読んだときほどの衝撃はなかったが、これはどちらかというと十数年を経て自分のほうがスレ、感受性が鈍くなってしまったためかと思われる。できることならもっと早くに読みたかった。シリーズの3、4作目も翻訳されることを切に願う。

  • 新評論版「ギヴァー 記憶を注ぐ者」https://booklog.jp/item/1/4794808267の続編、第2巻です。
    前著とは大きく異なる世界観、足に障害を持つ少女キラの物語です。
    議事堂の守護者により統治される村で暮らすキラは、両親を失ったことで人生に変化が訪れます。
    以前の暮らしよりも良くなりますが、徐々に見えてくる恐ろしい真実。
    文化レベルは低いコミュニティですが、ここもまたディストピアなのです。
    ギヴァーのジョナスのその後が気になりますが、今作では触れられていません。
    3巻にも期待します。

  • あれ? ギヴァーの続きの社会のお話だと思ったのに、全然違った。

  • 実はシリーズ2作目。でもそれを感じさせるものはないし、多分この先も読んでいかないと流れは分らないでしょうね。
    何が正しいかは自分の目と心で判断しよう。
    でも、相手はその心すらコントロールしようとしてくるのだ。

  • SL 2022.4.14-2022.4.16
    ギヴァーに比べるとインパクトが弱い。
    この世界がどういうものなのか、すっかり明らかになっていないけど、争うことが奨励されるような世界らしい。
    次作でギヴァーとつながるらしいので楽しみ。

  • 物語のここかしこに伏線があり、途中からもつれた糸が解けて一つにまとまるかのように読み進め、また次作への期待感が高まった。

  • 『ギヴァー』の続編。といっても、繋がりは最後にチラッと出てくるだけで、別の物語。
    『ギヴァー』は近未来SFという感じだったが、こちらはもっと原始的社会である。
    男は狩りをし、女は家事、子育て、織物などをする。政治と法律を担う議会は全て男性で、その命令には従うしかない。
    社会は貧しく余裕がないため、子どもたちは虐待され、社会の役に立たない者、害をなすと判断された者は「フィールド」に連れて行かれ、獣のエサとなることになっているが、これはギヴァーの「解放」と同じシステムである。
    主人公は縫い物に特殊能力を持つ少女で、この少女キラが、木彫りの特殊能力を持つ少年トマスと、成長しながら共同体の成り立ちを探って行き、自分達に課せられた仕事と向き合う。
    ここに抜け目がなくやんちゃだが、思いやりのある幼い子どもマットが加わり、ちょっとジブリアニメみたいな感じ。
    次の作品で、キラがギヴァーのジョナスと関わることが暗示されるが、物語はそこで終わる。
    小説単体としての完成度で言えば、ギヴァーが上だが、これはこれで面白かった。
    読んで色々な謎は残るが、四部作のうちに分かるに違いないと信じる。

  • ギヴァーの続編。でも本作は、同作とはほぼ独立した物語。次で交差するみたいだけど、本作は本作で面白かった。最後で再会を果たしたとはいえ、実際に何が起こっているのかなどは殆ど明かされず、ずいぶん含みを持たせた終わり方。文学としてはこれで成り立ちそうだけど、エンタメとしてはもう少し謎を明かして欲しいところ。次回作やいかに。

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著者プロフィール

1937年ハワイ生まれの児童文学作家。アメリカ陸軍の歯科医だった父について各地を転々とし、11才から13才までを日本で過ごした。現在はメイン州在住。1990年に『ふたりの星(Number the Stars)』(童話館出版)、1994年に『ギヴァー 記憶を注ぐ者(The Giver)』(新評論)で、ニューベリー賞を二度受賞する。「ギヴァー」は大人気シリーズとなり、世界累計1200万部を超える。他にも『モリーのアルバム (A Summer to Die)』『Windeby Puzzle』など多数。

「2023年 『水平線のかなたに 真珠湾とヒロシマ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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