経済人間: ネオリベラリズムの根底

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  • Amazon.co.jp ・本 (446ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794810076

作品紹介・あらすじ

われわれは今、どこへ向かおうとしているのか。格差がますます広がり、生きにくさを感じる人がどんどん増える状況の中で、誰しもそう考えるだろう。もちろん、これは日本だけの問題ではない。欧米のどの国も、同じ難問を抱えている。
 著者は、このような世界の現状に至った道筋を丹念に辿り、人類の歴史が市場優先を起点にしてネオリベラリズム(新自由主義)万能社会へと変貌していく過程を追って、問題の本質に迫る。
 古代西洋以来、利益というものは道徳的に忌み嫌われてきたが、一六世紀末、イタリア社会で人間にとっての利益の正当性が認められ、利子を取ることを禁じていた法王庁も自己都合で黙認するようになる。それまでキリスト教的道徳に則って生きてきた個人は、次第におのれの欲望を満たすために、合理的に計算して行動するようになっていく。ジョン・ロック、デイヴィッド・ヒューム、C・A・エルヴェシウス、アダム・スミス、ジェレミ・ベンサムなど、主に英仏の思想家、哲学者、経済学者の著書を援用して、著者は<経済人間>の生成の跡を明らかにする。そして、経済の発展につれて、<最大多数の最大幸福>というベンサムの原理から逸脱し、ネオリベ社会が形成されていく過程を丹念に辿る。
 著者によれば、人類は今大きな転換点にある。変化は単に経済面ではなく、社会、文化、政治、教育のあらゆる面にわたる。問われているのは、新たな行動の規範、生き方そのものである。新しい方向を見出すには、まず過去に歩んだ道をしっかりと見据える必要がある。
 明治以降、西洋の後を追い続けてきた日本は、世界的な困難の中にあって、今また、ひたすらアメリカに追随することしか考えていないが、それで良いのか。現代の核心に迫る本書の意味は大きい。

感想・レビュー・書評

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  • 原題:L’HOMOME ÉCONOMIQUE: Essai sur les racines du néolibéralisme
    著者:Christian Laval (1953-)
    訳者:菊地昌実(1938-)

    【内容紹介】
    発行年月日 2015年 7月 23日
    定価 4,104円
    ISBN 978-4-7948-1007-6 C1036
    判型 四六判上製
    頁数 448ページ

     われわれは今、どこへ向かおうとしているのか。格差がますます広がり、生きにくさを感じる人がどんどん増える状況の中で、誰しもそう考えるだろう。もちろん、これは日本だけの問題ではない。欧米のどの国も、同じ難問を抱えている。著者は、このような世界の現状に至った道筋を丹念に辿り、人類の歴史が市場優先を起点にしてネオリベラリズム(新自由主義)万能社会へと変貌していく過程を追って、問題の本質に迫る。古代西洋以来、利益というものは道徳的に忌み嫌われてきたが、一六世紀末、イタリア社会で人間にとっての利益の正当性が認められ、利子を取ることを禁じていた法王庁も自己都合で黙認するようになる。それまでキリスト教的道徳に則って生きてきた個人は、次第におのれの欲望を満たすために、合理的に計算して行動するようになっていく。ジョン・ロック、デイヴィッド・ヒューム、C・A・エルヴェシウス、アダム・スミス、ジェレミ・ベンサムなど、主に英仏の思想家、哲学者、経済学者の著書を援用して、著者は〈経済人間〉の生成の跡を明らかにする。そして、経済の発展につれて、〈最大多数の最大幸福〉というベンサムの原理から逸脱し、ネオリベ社会が形成されていく過程を丹念に辿る。著者によれば、人類は今大きな転換点にある。変化は単に経済面ではなく、社会、文化、政治、教育のあらゆる面にわたる。問われているのは、新たな行動の規範、生き方そのものである。新しい方向を見出すには、まず過去に歩んだ道をしっかりと見据える必要がある。明治以降、西洋の後を追い続けてきた日本は、世界的な困難の中にあって、今また、ひたすらアメリカに追随することしか考えていないが、それで良いのか。現代の核心に迫る本書の意味は大きい。
    http://www.shinhyoron.co.jp/978-4-7948-1007-6.html

    【目次】
    経済人間を超えて――日本の読者の皆さまへ(二〇一五年一月 パリにて クリスチャン・ラヴァル) [001-006]
    目次 [007-016]

    序論 019
    1 強固な信念 021
    2 人間の経済的生成 023
    3 人類学的変遷の根底 026
    4 ある社会的・歴史的事実 029
    5 新しい人類の規範的な土台 033
    6 徴候と抵抗 035

    第01章 正当な生活の変貌 039
    1 利益をめぐる争点 041
    2 富裕化の欲望を抑える 044
    3 中世思想の変遷 047
    4 〈はみ出し階級〉の昇進 050
    5 計算と経理 052
    6 来世の経理 054
    7 儲けの再評価 056
    8 新世界 059

    第02章 政治的まとめ役としての効用 065
    1 共同体から個人へ 068
    2 国家の力、情念の強さ 071
    3 〈国家理性〉という契機 074
    4 経済的〈内政〉としての政治 078
    5 和解としての経済 083
    6 諸利益を操作して、人々を導く 086
    7 諸利益の一致と統治権力の限界 089
    8 組織化原理 092

    第03章 総取引所、道徳の大逆説 095
    1 ジャンセニスム的人類学 098
    2 人間の悲惨 101
    3 利益の正体を暴く 103
    4 公平無私の欺瞞 107
    5 貴族の倫理に対する批判 109
    6 評価の市場 111
    7 現世欲の秩序をどうのように得るのか 115
    8 貧欲を規制する 118
    9 宗教の不十分さ 123

    第04章 大逆転 126
    1 ならず者の支配 128
    2 マンデヴィルの寓話 130
    3 マンデヴィルの意図 132
    4 巧みな操作 136
    5 マンデヴィルに対する批判 138
    6 マンデヴィルにおける経済の役割 141
    7 マンデヴィル説の逆転、新しい経済道徳 144
    8 アウグスティヌス主義から功利主義へ 148

    第05章 行動の擁護、情念の礼賛 149
    1 西洋のロビンソン化 153
    2 欲望の力 155
    3 身体、情体、情念の源 159
    4 エルヴェシウス、強烈な情念の擁護者 162
    5 企画の時代 172
    6 最大化 174

    第06章 経済学の公理 177
    1 価値の一般公理 180
    2 数量の君臨 184
    3 価値と感覚 187
    4 学問的な概念としての効用 200
    5 道徳の抵抗 202
    6 限界計算と政治 204
    7 ホモ・エコノミクスの科学 207

    第07章 自己規律としての計算について 213
    1 チャンスとリスク 216
    2 道徳と科学的な政治 221
    3 快楽と苦痛の金銭的等価性 224
    4 諸状況の組み合わせ 227
    5 自己制御としての計算 229
    6 義務論 232
    7 規範的な形としての合理性 235

    第08章 利益の内発的秩序 241
    1 摂理と欠如 243
    2 自然の取り締まり 245
    3 スミスによる断絶 247
    4 動力因 249
    5 見えざる手と内在性 251
    6 神の慎み 254
    7 商人社会 257
    8 政府の制限 259
    9 教条主義の誕生 262

    第09章 相互監視社会 265
    1 相互是認社会と利益の意味 266
    2 相互依存 271
    3 全員による全員の制御 276
    4 つねに自己を観察する 279
    5 自分の行動について明言する 284
    6 政府を監視する 287

    第10章 幸福の道具 291
    1 効用と制度 293
    2 道具の遍在性 294
    3 思考の道具としての言語 296
    4 貨幣言語 305
    5 言語の効果 307
    6 ベンサムのフィクション理論 310
    7 言語と利益 314

    第11章 経済人間の政治的製造工場 322
    1 政治的方策と人間の行動 324
    2 エルヴェシウス、公的効用の哲学者 328
    3 個人的利益と公的効用 329
    4 公益の優位 333
    5 教育と立法の役割 336
    6 ベンサムと人間の統治 338
    7 統治するとは、私的利益と公的利益を合体させることである 342
    8 期待を安定化させる 344
    9 利害を導く 349
    10 計算が下手な者の利害を回復する 352

    結論 われわれは今どこにいるのか 357
    1 まだ生成中の経済人類 358
    2 新しい規範体制 361
    3 ネオリベラリズムの発作期 365
    4 歴史的な大揺れ 368
    5 自己自身という企業 370
    6 人間の行為の総評価 372
    7 ネオリベラリズムがわれわれに教えるもの 374
    8 社会批判の危機 377
    9 資本主義と社会的つながり 379
    10 もう一つの考え方と生き方 383

    原注 [387-433]
    訳者あとがき [435-439]
    事項索引 [440-441]
    人名・文献索引 [442-446]

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著者プロフィール

Christian LAVAL 1953年生まれ。パリ第10(ナンテール)大学社会学教授。ベンサム功利主義哲学の専門家。本書のみならず、ネオリベラリズムが個人を<経済人間>に変身させ、社会の本質、人間のあり方そのものを変えてきた歴史について論じる多くの書を著している。

「2015年 『経済人間 ネオリベラリズムの根底』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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