飯田線ものがたり: 川村カネトがつないだレールに乗って

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  • Amazon.co.jp ・本 (300ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794810748

作品紹介・あらすじ

2017年、「全線開通80周年」を迎えるJR飯田線。94駅・総延長約200キロ、愛知・静岡・長野の三県にまたがり険しい山岳地帯を貫くこの路線は、どのようにしてつながったのでしょうか? 豊川鉄道・鳳来寺鉄道・三信鉄道・伊那電気鉄道という四つの私鉄が1943年に国有化・統合され現在にいたること。最難関区間とされた旧三信鉄道の測量・敷設において、測量技手だったアイヌの川村カネト氏が多大なる貢献をしたこと。これらの歴史は沿線に住む人々の間でさえ忘れ去られつつあります。
 本書の冒頭で、カネトの生涯を題材とした『合唱劇カネト』の公演風景を紹介しました。この紙上公演で読者のみなさんはきっとたちまち飯田線の車窓の人となり、新しい発見に魅了されるはずです。
 日本には「テツ」=鉄道ファンの方々が200万人いると言われます。そのなかでも「乗りテツ」のみなさんは、飯田線の「秘境号」に乗ることを切望しています。また、線路に沿って流れる天竜川などの渓谷美は多くの旅人を魅了しています。本書では、四季折々に様々な表情を見せる約6時間半の鉄路の旅の醍醐味を、川村カネトを主人公とする歴史物語とともに紹介していきます。第1部では、カネトとともに開通工事に携わった方々にお話をうかがいます。当時の貴重な写真も多数掲載しました。第2部では、豊橋駅から辰野駅までの全94駅の中から選りすぐりの文化・観光スポットを紹介します。沿線居住者だからこそ撮影できた写真もたくさん載せましたので、「撮りテツ」のみなさんにも十分楽しんでいただけると思います。
 全線開通80周年という記念の年に、ぜひ本書を手に飯田線に乗ってみてください。(おおた・ともこ)

感想・レビュー・書評

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  • 愛知県豊橋市から北上し、浜松市天竜区を抜けて長野県の南側に至る飯田線という鉄道路線が在る。この開通に向けて尽力した人物、その事績、そして沿線の紀行という内容である。地元に縁が在る2人の著者による共著である。大変に興味深く読了した。
    本書を手にした切っ掛けは、旭川で<川村カ子トアイヌ記念館>を訪ねたことであった。嘗て「近文コタン」と呼ばれた地区に在るアイヌの資料を展示する施設で、1916(大正5)年に起こっているが、そこを他界した父から受け継いで発展させたという川村カ子ト(かわむら かねと)の名が館名に冠せられている。館内にはこの川村カ子トに関する紹介も在った。
    「近文コタン」と呼ばれた地区に住むことになったアイヌだが、永く受継がれた伝統に則った暮らし方が否定され、割り当てられた農地での農業も直ぐに捗々しい成果が挙がるのでもない中、川村カ子トは就職することに決めた。子どもの頃に観て驚き、憧れるようになった鉄道に纏わる仕事を志し、鉄道建設に関係する測量の仕事に就く。各地で経験と実績を積み上げながら方々で活動しているが、現在の飯田線の一部である三信鉄道の難工事を成功に導く活躍は知られているのだそうだ。
    <川村カ子トアイヌ記念館>でそういうような川村カ子トを紹介する展示に触れ、その事績等をもう少し知りたいと思った時に本書に出会ったのだった。そして手にして紐解いたのだが、素晴らしい出会いということになったと思う。
    飯田線という鉄道路線は4つの民間会社による鉄道路線が国有化され、やがて戦後の国鉄の路線になり、国鉄民営化でJRの路線となったのである。豊川鉄道、鳳来寺鉄道、伊那電気鉄道と在って、これらを結び付ける天竜峡と三河川合との間が三信鉄道なのだが、この三信鉄道の区間がトンネルや橋が連続するような建設が困難な区間で、建設に向けた測量も大変なことであった。因みに三信鉄道の「三信」は「三河国と信濃国とを結ぶ」という意味合いなのだそうだ。
    そういう困難に立ち向かった川村カ子トの事績は沿線の街で伝えられているようだが、その物語の絵本が在り、物語の進行の中で合唱が披露されるというスタイルの演劇―合唱劇―も在るのだそうだ。本書の著者達は、その合唱劇の公演を催すべく活動し、その副産物として本書を上梓するに至ったということである。
    絵本や合唱劇の中、「川村カ子ト」は専ら「カネト」と呼ばれる。そこで著者達は親しみと敬意とを込めて、本書の中で専ら「カネト」というように彼の名を記している。
    本書は大きく2つの部分から成る。前半部で1人、後半部で1人と、2人による共著という体裁になっている。
    前半部は合唱劇の公演に向けた活動、「川村カ子ト」を知ろうと旭川を訪ねる等した経過、三信鉄道の仕事に懸命に取組んだ「カネト」の様子、そして嘗ての三信鉄道、現在の飯田線の一部を訪ねるというエッセイである。
    前半部は、著者が郷土に所縁の人物に出会う、または気付いて、その事績を色々な形で明らかにしようとしながら活動する様子が生き生きと綴られているように感じ、頁を繰る手が停め難くなっていた。
    後半部は、読み易い紀行文だ。大変な難工事を経て1937(昭和12)年に下内の飯田線は全通しているが、この飯田線の列車で各駅を訪ねてみれば如何いう様子になっているのかという、実際に訪ねた経過から綴るエッセイを集めた内容となっている。
    後半部は凄く夢中になった。豊橋(愛知県)と辰野(長野県)との間で列車を乗り通すだけでも6時間以上を要する。故に少し長い期間に亘って、様々な形で列車を利用して沿線の駅を訪ね、そして綴っている。非常に「臨場感」が溢れる内容である。「居合わせた方の経験談に耳を傾ける」というような感覚で、ドンドン読み進めた。
    結局、「縁が在る地域」という思い入れが在る著者達が「伝えたい!」という「熱い想い」を込めて綴っている一冊で、非常に面白い内容になっていると思う。こういうような感じでの、著者なりの思い入れに依拠した視点も交えて所縁の地域の話題を綴ろうというような内容は面白いと思う。
    実を言えば、飯田線の沿線は個人的には知らない。訪ねていない、通り過ぎてもいない場所だ。飯田線の駅でもある豊橋駅で列車を乗換えるようなことを何回かしたと思うが、それも東海道線を普通列車、快速列車で移動している流れでのことで、豊橋の街も然程歩き廻ってはいない。そういう「縁薄い地域」であっても、本書を読んで強い興味も抱くようになった。旭川の<川村カ子トアイヌ記念館>に関連した「カネト」こと「川村カ子ト」を介して、縁薄い飯田線の沿線を知るというようなことになった訳だ。
    色々な偶然で愉しい話題の一冊に出会ったが、こういう出会いには感謝すべきなのだと強く思う。本書は広く御薦めしたい一冊だ。

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著者プロフィール

1933年生まれ。国立遺伝学研究所名誉教授。Ph.D、理学博士。1956年東京大学農学部農学科卒業、1966年アメリカ・ノースカロライナ州立大学大学院博士課程修了。1967年から学術振興会奨励研究員として国立遺伝学研究所集団遺伝部で研究を開始、1969年より同研究所研究員となる。1973年、科学雑誌『ネイチャー』に発表した「分子進化のほぼ中立説」は、進化遺伝学の世界標準となる。2015年、スウェーデン王立アカデミーがノーベル賞が扱わない科学領域を対象として設立したクラフォード賞を受賞。2016年には文化勲章を受章。日本人女性研究者では唯一のアメリカ国立科学アカデミー外国人会員でもある。現在も、若い研究者の育成とともに世界へ向けて発信を続けている。
著書に『分子進化のほぼ中立説―偶然と淘汰の進化モデル』(講談社)がある。


「2020年 『信じた道の先に、花は咲く。 86歳女性科学者の日々幸せを実感する生き方』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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