バットマンの死: ポスト9・11のアメリカ社会とスーパーヒーロー

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  • 新評論
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  • Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794810908

作品紹介・あらすじ

映画『バットマン ビギンズ』(クリストファー・ノーラン監督による〈ダークナイト・トリロジー〉の第一作)では、バットマンことブルース・ウェインが、幼いころ目の前で両親を殺された体験が描かれる。理不尽な暴力によって大切なものをいきなり奪われてしまったのである。この体験がもとでウェインは、突然両親がいなくなるという虚無感、犯人が別の事件で死亡したことによる怒りの対象の喪失といった、解消しようのない苦悩、あるいは衝動を抱え込むことになる。
 そうした内部に鬱積した「向けるべき対象」のない苦悩、あるいは衝動を解放する手段として選ばれたのが、かつて自分を恐怖させたコウモリという表象へと自らを置き換える、あるいは分裂させることだった。かくして“暗鬱なヒーロー”バットマンが誕生する。
 他の選択肢がなかったという意味で、バットマンは呪われているともいえる。だから、彼の物語にはスーパーマンのような能天気さはない。なぜなら、バットマンとは、内なる苦悩、あるいは衝動を解放するための経路にすぎないのであり、極端にいえば自分が「正義」を行っているかどうかはもはや関係ないからである。
 そのことは、ポスト9・11のアメリカ社会の状況とみごとにリンクしているのではないだろうか? 突如襲いかかってきた無差別テロという理不尽な暴力。これに対し、アメリカは即座に自らを「被害者」と位置付けた。そして、国民の抱えこんだ恐怖や苦悩、あるいは「向けるべき対象」の見えない衝動を、明確な「加害者」の幻像を捏造することによって解放した。それが対テロ戦争だったと読むこともできるように思われる。
 それは、苦悩せる呪われたヒーロー像が、苦悩せる呪われた国家の隠喩となった瞬間だったのではないだろうか。(えんどう・とおる)

感想・レビュー・書評

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  • クリストファー・ノーランの手によるダークナイト三部作に
    ついての解題・評論。著者の言うことはひとつひとつ納得
    できるものではあるし、読んでいて決して楽しくないわけ
    ではないのだが、読後の印象は正直「だからどうした」。
    いろいろ言いたいことが出来る映画なのは確かなのだが、
    素直に楽しめばいい、と私は思ってしまうのだな。

    まぁ元がアメコミであり映画であるのだから、この評論も
    ひとつの「遊び」ということであろう。

    といいつつスーパーマンの方も近々読みますよ(笑)。

  • スーパーマンの誕生は面白いが本作はヘーゲルとラカンでノーラン作品読み解く本に比べ退屈。資本主義を護持するバットマンvsアナキストジョーカーと言ってダークナイトを延々絶賛。ノーラン作品への過剰読込多い。気持ちはわかるが。

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著者プロフィール

遠藤 徹(えんどう とおる)
1961年神戸市生まれ。同志社大学グローバル地域文化学部教授。研究テーマはプラスチック、モンスター等多岐にわたり、以下のような評論・研究書を著している。『溶解論 ―不定形のエロス―』『プラスチックの文化史 ―可塑性物質の神話学―』(ともに水声社)、『ポスト・ヒューマン・ボディーズ』(青弓社)、『ケミカル・メタモルフォーシス』(河出書房新社)、『スーパーマンの誕生 ―KKK・自警主義・優生学―』『バットマンの死 ―ポスト9.11 のアメリカ社会とスーパーヒーロー―』(ともに新評論)など。
また小説家としても活躍し、「姉飼」で第10回日本ホラー小説大賞を受賞、「麝香猫」で第35回川端康成文学賞候補となる。主な作品集に以下のものがある。『姉飼』『壊れた少女を拾ったので』『おがみむし』『戦争大臣』(以上、角川ホラー文庫)、『ネル』(早川書房)、『むかでろりん』(集英社)、『贄の王』(未知谷)など。最新刊は本書と同時刊行の『七福神戦争』(五月書房新社)。

「2018年 『七福神戦争』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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