たんぽぽのお酒 (ベスト版文学のおくりもの)

  • 晶文社
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本棚登録 : 723
感想 : 70
  • Amazon.co.jp ・本 (405ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794912411

感想・レビュー・書評

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  • この物語で起こることは、すべて祝福とみることができる。たんぽぽのお酒の瓶詰めから、ビル・フォレスターとヘレン・ルーミスの愛まで、人生には美しく壮大な出来事が常に起きている。だが、人生に悲しいことがないわけではない。悲劇的な状況であっても、その周りにはきらめく魔法が存在し、しあわせは自然に訪れるのだから。喚起される懐かしさと希望は、憂愁と絶望を打ち消し、老いも若きも一つになれることを教えてくれる。ブラッドベリは、現代の非人間的になりつつあるテクノロジーの世界の中で、人間であり続けることの重要性も説いている。

    《たんぽぽのお酒。この言葉を口にすると舌に夏の味がする。》

    たんぽぽのお酒は記憶の象徴であり、記憶は過去を旅するタイムマシンでもある。

  •  SFの作品が有名だけど、基本的にとても叙情的な文章を書く人なので、少年時代の思い出なんか題材にとったら、どんだけリリカルなものが上がってくるか。これである。
     自分が生きていることの喜びに気がついた12歳の少年の夏のはじまり。それを追体験できる本。そんな代物がこの世にあるというだけで、文学とは素晴らしいものだと思う。でも生きている喜びという強い光は、黒々しい影と隣り合わせだ。夏の終わりには少年は、自分も誰でもいつかは死なねばならないことを実感する。そこまで追体験できてしまう。
     中の短編たちには明確な番号もサブタイトルも振られていないが、「主人公の家の下宿人の青年が老婆とアイスクリームを食べて恋をする話」「高熱を出した主人公に夜、高原の空気を届けに来たガラクタ屋の話」がとても好き。

  • 1928年の夏。
    12歳の少年ダグラスとその家族、または彼の住む町の人びととの、濃密で不可思議で、かけがえのない出来事の数々。
    それは、21世紀に生きる私からすれば、単に『古き良きアメリカ』の暮らしなのだけど、その時代に生きている人々からすると、それは激動の時代の一瞬の夏なのだ。

    年寄りのおじいさんが庭の芝刈りをするのはいかにも大変だろうと、好意で新種の芝(ある程度蠅揃ったらそれ以上成長せず、芝刈りの必要がない)を買ってきて、植え替えようとしていた隣人の青年におじいさんが言う。

    ”ここにある味わいのいっさいを、あんたたちは取りのぞいてしまうんだ。時間を省け、仕事を省け、そういってな。(中略)ビル、あんたもわしの歳になれば、ささいな面白味や、ささいな物ごとこそが、大きなことよりも大事なのがわかることだろう。(中略)なぜだかわかるかね?なぜならそこには味わいがあふれているから、たくさんの成長するものがいっぱいあるからだよ。捜し求め、そして見いだす時間があるからなんだ。”

    年をとって、私もおじいさんの言うことがわかる。
    大事なのは効率ではなく、無駄に見える物の中にある余裕なのだということが。

    小説の感想としては大いに邪道なのは承知のうえで、この作品を内田善美の絵で見たいと思った。
    彼の緻密で繊細な絵が、きっとダグラスの喜びや不安や悲しみや希望を浮かび上がらせてくれると思うんだよなあ。
    たんぽぽのお酒が、その中に封じ込めたひと夏のあれこれ。
    それは毎年同じようであり、一生にたった一回しかない夏なのだ。

  • 実家の父の本で読む。二十年くらい読まなきゃと思いながら放置していた。
    父の本は、おそらく日本で最初に翻訳されたバージョン。
    晶文社 文学のおくりもの①1972年第八刷とある。
    オリジナルは1957年Dandelion wine

    長新太さんのイラストが可愛い。
    読みはじめてすぐは、ポエティックすぎて、最後までついていけるか不安になった。
    夏休みのはじまりと同時に、人生のきらめきを謳う、少年ダグラスの話。
    舞台は1928年。今から100年近くも前のことだ。

    途中から、イリノイにあるグリーンタウンに暮らす人々のオムニバスだとわかり、だんだん読みやすくなりほっとした。

    弟のトムの性格が面白くて好き。
    さっぱりとしたなかに、ユーモアと寂しさがある。
    翻訳の文体が素敵で、おかげでラストまで読み通すことができた。
    タイムマシンのような老人の最後の長距離電話の話、高齢女性と若い新聞記者の交流、一家の精神的支柱であったおおおばちゃんの話、遠くへ引っ越す親友とダグラスの別れなど。
    物悲しいテーマもあるが、湿っぽくならず、それなのに強い寂しさを表していて、それがくっきりとした印象を残す。
    ブラッドベリといえばSF作家なのだろう。そちらの方面はとんと疎いので、今後もほかの代表作を手に取るかはあやしいが、本書のエッセンスは私の好きな部類だった。
    (何度か出てくる、タイコンデロガ鉛筆という名前が面白くて。はじめは大根?と見間違いしていた。ネットで見たら、今もこの鉛筆はあるらしい。ステッドラーやトンボの鉛筆みたいなかんじ。)

    きらきらした夏休みに乾杯。

  • 読み始めは、散文詩調の表現の字面を追うだけで一向に頭に入ってこず、なんと読みづらい小説だろうと読み進める意欲を挫かれそうになったんですが、そのうちにそれが心地よく響くようになってくるから不思議なもの。

    峡谷に向ったまま帰ってこないダグラスを母と弟が探しに行くエピソードや、自分にも若く美しい頃があったことを少女たちに信じてもらえない老婆のエピソード、また、通り魔に遭う危険を顧みず深夜歩きをする若い女性たちのエピソードなど、サスペンスある魅力的な挿話もあり。

    人生で唯一度しかない、十二歳の夏という刹那への郷愁。
    そして、身の回りで死や別離の香りを嗅ぎ、少年は人生を識る。
    人の生命の有限、そして無限を感じさせられる、心地よい読後感。

  • レイ・ブラッドベリの本は、10代で読んでおいた方がいい作品がたくさんあります。
    大人になってからでは、感性が固くなってしまうので、心が繊細で柔らかいにうちに
    ぜひ読んでください。

    【紙の本】金城学院大学図書館の検索はこちら↓
    https://opc.kinjo-u.ac.jp/

  • 2015年の神保町ブックフェスティバルで購入。
    少年時代の夏の思い出を描いたノスタルジー溢れる長編。良いことも悪いことも、些細なエピソードを細かく積み重ねていく手法は短編的でもある。
    ブックフェスティバルの晶文社ブースで買った時に、小冊子を一緒に貰った。丁度、亡くなってすぐのタイミングで作成されたようで、内容は追悼文が中心だが、邦訳書リストや経歴も充実している。恩田陸の『ブラッドベリは「死なない」』、何処かで読んだ記憶があるな……。

  • 社会人になって久しいので、何気なく過ぎていく日常というものに今更ながら憧れる。特に、夏休みは時間はたっぷりあるが別段しなければいけないことはないので、遊んでいた気がする。しかも真剣に。あの真剣さは今から思うと滑稽だ。けれど、もう二度とあの時間は戻ってこないとわかると切ない。そんなことを思い起こさせる物語。

  • 読み始めは独特な表現で読みにくかったけど、慣れてくると逆にとても素敵な表現だと思うようになって、話自体にもどんどん引き込まれていった。とてもおもしろかった。

  • 半年遅れのブラッドベリ追悼。この物語の舞台はイリノイ州グリーン・タウン。架空の街と思われるが、ブラッドベリが少年期を過ごした街がその背景にあるようだ。時は1928年の夏。翌年がウオール街に端を発する世界大恐慌の年だが、まだその影はない。こうして、場と時といったトポスだけが特定されるのだが、全体を貫流する明確なプロットといったものはない。主人公はしいて言えば、12歳の少年ダグラスだ。そして、この長編小説には全編にわたって死とその影がつきまとっている点に大きな特徴を持つ。夏の光の背後には深い闇があるのだ。

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著者プロフィール

1920年、アメリカ、イリノイ州生まれ。少年時代から魔術や芝居、コミックの世界に夢中になる。のちに、SFや幻想的手法をつかった短篇を次々に発表し、世界中の読者を魅了する。米国ナショナルブックアウォード(2000年)ほか多くの栄誉ある文芸賞を受賞。2012年他界。主な作品に『火星年代記』『華氏451度』『たんぽぽのお酒』『何かが道をやってくる』など。

「2015年 『たんぽぽのお酒 戯曲版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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