- 本 ・本 (184ページ)
- / ISBN・EAN: 9784794912602
感想・レビュー・書評
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(出版社の解説)ここはアフリカの底なしの森。やし酒を飲むことしか能のない男が酒づくりの名人をつれもどしに「死者の町」へ旅立つ。頭蓋骨だけの奇怪な生き物。地をはう巨大な赤い魚。指から生まれた凶暴な赤ん坊……。幽鬼が妖しく乱舞する恐怖の森を、まじないの力で変幻自在に姿を変えてさまよう、やし酒飲みの奇想天外な大冒険。魅惑の幻想譚。
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まあ、一言で言えばアフリカ版遠野物語かな。荒唐無稽・予想もつかないストーリーでなかなか楽しい。
しかし「です・ます調」と「である調」や長文と短文が混在したり、「これがxxxxの始末記です」と言った伝承の時に使われる締めの言葉が気まぐれに入ってくる。統一性が無く、何とも読みづらいのです。
解説によれば、ナイジェリア人の著者のチュツオーラは、現地語(ヨルバ語)の言い伝えを一言ずつ英単語に置き換えるようにして書いたもので、原文そのものが熟れ(こなれ)ていない英語らしい。それに加えて、訳者(東大卒の学者さん。アフリカ文学者)にも問題がありそう。150ページほどの本文に対し30ページ以上にわたる解説がついているのですが、これがいかにも学者さんの文章で、基礎知識に乏しい素人に対する配慮もなく、学問的正確性のためかやたらと面倒な単語を用いた複雑な構文になのです。読んでいて半分も理解できない。
結局のところ、この物語は現地語を重視してで英語化され、さらに学問的バイアスをかけて日本語訳した~つまり2段階の癖のある翻訳を通した結果らしい。どっちが問題なのか・・・。他の人の訳が読んでみたいなぁ。
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調べてみると、だいこくかずえさんという人がチュツオーラの別の物語を訳していました。それに合わせWeird Fiction Reviewという雑誌がチュツオーラの息子にインタビューした記事の翻訳もしているのですが、それによると
「父はヨルバの言葉、思想、使用法をそのまま英語に移し替えることを好んでいたんだなとわかりました。英語で同じ意味をもつ言い方を見つけたり、イギリス人がするような表現を選ぶよりも。(中略)たとえば「秒」という言葉は、ヨルバでは「目がキラリとする瞬間」のように言います。そういう表現を父は本の中で使っているのです。そのような表現はたくさんあり、多くの人は父が言葉をねつ造したり、文法の欠如からそうしているのだと考えましたが、このような表現は日々のヨルバの表現法であり、考え方や行動から来ているのです。」
と書かれています。また、だいこくさんの感想として
「今回訳してみて思ったのは、10年前に訳したときほど違和感を感じなかったということ。チュツオーラの英語は奇妙でおかしい、ということになっていますが、そう言うほどのこともないな、と。どちらかというと、生真面目な学校英語のような印象も。確かにいわゆる文学的表現というものはないし、でもそれは民話という性質からくるものでもあり、稚拙に見える表現も、民話や童話の手法と思えば特に言い立てるほどのこともない。」
と書いています。
実際だいこくさんが訳した「有害なお客・アジャンタラ、生まれる」を読んでみましたが、民話的な言い回しは有るものの読みづらさは感じられませんでした。
https://www.happano.org/tutuola-j詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
レーモン・クノーに認められ、ヨーロッパ社会へと紹介された快作。
10歳の頃から「やし酒飲み」だった主人公が、死んだ「やし酒作り」の代わりを探す冒険譚。冒険譚と聞けば成長小説を第一に考えるが、出だし早々、この小説はそんな先入観を破壊してくれる。
幽霊、化け物、精霊が代わる代わる登場する。やし酒「中毒」による幻覚なのか、アフリカ世界の世界観なのかは判断しかねるが、物語は荒唐無稽にあれよあれよと転びながら進む。アフリカの密林を舞台にしたアル中男による『不思議の国のアリス』といった感じだ。
チュツオーラは、ナイジェリアの作家であるが、この小説は英語で書かれている。英語とは言っても、アルファベットを用いてはいるものの、英語とはかけ離れた文法語法を駆使して書かれているらしく(意図的なものかどうかは不明)、翻訳作業はかなり厄介だったそうだが、原文の乱れっぷりが翻訳にも見事に再現されいる。
物語だけではなくテクストまで何でもありなのは、まさにアフリカ文学だ。
強めのお酒を片手にどうぞお読み下さい。 -
アフリカの大自然(に対する恐怖)のみが生み出し得るのかもしれぬ奇譚。
展開もキャラクターも能力も、すべてが相当にいい加減な思いつきに従って次々と生み出され、無理矢理編み込まれてゆく。その強引さが魅力であり、民話的でもある。桃太郎がそこらへんの適当な動物連れて行っただけで鬼を倒せちゃう、そんなご都合主義が炸裂。自然な展開など、最初から目指していない。リアリティは、そんな目の前の現実などにではなく、この世界の根底にふてぶてしく横たわっている。
だから、見たことのない食べ物や、未知の生物や、意味不明な状態が頻繁に出てきても、リアリティはまったく損なわれない。いやむしろ、それら遠いものの中にこそ、リアリティは揺るぎなく潜んでいるかのようだ。
ディテールの辻褄あわせを行わない物語展開のスピード感が、あらゆる違和感をすっ飛ばして見せる。各箇所に停車駅を設定してあるように見えて、すべて通過。苦労して駅を作っておいて、各駅停車は走らせない路線。その思いきりの良い駅の飛ばし方が痛快である。「書くべき部分」と、「書くとわかりやすくなるが書いても面白くならない部分」の違いを、非常に心得ている作家だと思った。つまり面白くならない部分は、必要であっても一切書いていない。その切り捨て具合もまたセンスだと思う。
しかし致命的な欠点がひとつ。前半は衝撃的だが後半は慣れる。スピード感も、目が慣れてくると速くは感じなくなるし、珍妙な展開もやがてパターン化してきて先が読めるようになってくる。
これはイントロでぶちかました場合に必ずつきまとうリスクであるように思うが、これほどまでにハイテンションを貫いて見える作品でさえ、後半の弛緩状態を避けられてはいない。
だがそれは、後半で小手先の変化球や構造のいじくりまわし等、読者を苦し紛れに繋ぎとめる手段に逃げず、終始正面から切り込んでいったという勇気の証でもあるだろう。その点は作風に合っていて潔い。 -
酒を飲むしか能がない主人公は、死んでしまった酒造りの名人を探す旅に出る。
神や精霊、奇妙な生物がたくさん登場する、アフリカ版『ゲゲゲの鬼太郎』のような作品。
日本もしくは欧米的常識が通用しない。
各町での滞在時間が長い(数ヵ月から一年)のも悠長でアフリカ的。
(結局、やし酒造りに会うまでに10年かかているというのに驚いた) -
死んだやし酒作りを探すために「死者の国」へと向かう奇想冒険譚。次々と起こる出来事に正月ボケの脳みそで読んだからか、テンポよく読めてるはずなのに何ひとつ訳のわからぬまま物語に流されていくような感覚でした。
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やし酒をアホみたいに飲みまくるしか能のないダメ人間(自称神)が
冒険の旅を通じてひとかどの人物になっていく
アフリカの神がどういうものなのかよくわからんのだけど
とにかく主人公は様々な術を駆使して障壁を退けてゆく
それにしても話の細部が支離滅裂で
これは単なる酔っ払いの与太話なんじゃないか?とも思わせられる
全体的にすっとぼけた感じで進んでいくが
油断してるとヒトデナシな展開がいきなり出て来るので注意
中盤ちょっと中だるみかも -
[ 内容 ]
ここはアフリカの底なしの森。
10歳の頃からやし酒を飲むことしか能のない男が、死んだやし酒づくりの名人をとりもどしに「死者の町」への旅に出る。
頭蓋骨だけの奇怪な生き物。
地をはう巨大な魚。
指から生まれた凶暴な赤ん坊。
後ろ向きに歩く死者の群れ…。
幽鬼が妖しくゆきかう森を、ジュジュの力で変幻自在に姿をかえてさまよう、やし酒飲みの奇想天外な大冒険。
[ 目次 ]
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ] -
日本人には比較的理解しやすい世界観。妖怪だか神様だかわからんモノがわんさか出て来て楽しい。