妻を帽子とまちがえた男 (サックス・コレクション)

制作 : 高見 幸郎  金沢 泰子 
  • 晶文社
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本棚登録 : 381
レビュー : 53
  • Amazon.co.jp ・本 (408ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794925220

作品紹介・あらすじ

病気について語ること、それは人間について語ることだ-。妻の頭を帽子とまちがえてかぶろうとする男。日々青春のただなかに生きる90歳のおばあさん。記憶が25年まえにぴたりと止まった船乗り。頭がオルゴールになった女性…。脳神経に障害をもち、不思議な症状があらわれる患者たち。正常な機能をこわされても、かれらは人間としてのアイデンティティをとりもどそうと生きている。心の質は少しも損なわれることがない。24人の患者たち一人一人の豊かな世界に深くふみこみ、世界の読書界に大きな衝撃をあたえた優れたメディカル・エッセイ。

感想・レビュー・書評

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  • 脳が壊れてやられるのは精神だけではない。身体も壊れる。
    自分の身体が自分のものと認識できない。感覚が消えた手足。
    ファンタジーSFだと思うが、SFではない。
    本当にいた患者たちだ。

  • 神経科の医師が実際出あって経験した驚くべき症例を紹介する。
    それらはあまりにも我々の想像を超えているため、読者は人間に対して畏敬と不信を同時に覚えることとなる。

    ■「妻を帽子とまちがえた男」
    音楽学校で教鞭を振るう男。彼は、人の顔を見分けることができない。バラの花をバラの花と認識できない。手袋が何をするためのものかわからない。自分の妻を帽子とまちがえて被ろうとさえする!
    ……視覚情報が不足しているのか、視覚情報を形成するにあたって正常さが欠けているのか、あるいはその両方か。信じがたい視覚失認症のケース。

    ■「ただよう船乗り」
    ある初老の男は19歳の時に病気になり、その後遺症から記憶が一分も持たなくなってしまっていた。だから、19歳以降の記憶の積み重ねはゼロ。男の中では自分はまだ若いまま。会話などの連続した行為は一分を過ぎたら破綻してしまう。しかしなぜだか、チャペルでミサに参加している時だけ一連の行動にいそしむことができる。「芸術や聖体拝領や魂のふれあいなどによって人間らしさは回復されうる」。
    ……アルコール起因の乳頭体変性によるコルサコフ症候群が原因と思われる。

    ■「からだのないクリスチーナ」
    健康で知的なある女性が固有感覚を喪失してしまい、自分の体一切を認知できなくなる。
    ……脳脊髄全体の感覚性の神経根が炎症、ダメージを負っていた。非常にまれなケース。

    ■「幻の足」
    悪いファントムは病的、否定的なイメージ。良いファントムは運動的、有益なイメージ。良いファントムを利用しなければ義肢を使いこなせない。”イメージ”というと精神科のように思われるが、これは神経生理学上の問題。
    ……四肢欠損のあと患者が体験するという不思議な感覚の例。

    ■「水平に」
    ひとりの老人が来院。ずいぶん傾いて立っているのだが、自分ではそのことに気づいていない。
    ……パーキンソン病により固有感覚・視覚・内耳感覚が失われることがあるが、互いにフォローしながらなんとか”傾斜反応”を保とうとする。

    ■「大統領の演説」
    テレビに映るレーガン大統領の演説に、言葉がわからないはずの失語病棟から笑いが起こる。
    ……言葉を失った失語病患者たちは逆に、話者の表情、身振り、姿勢にたいし非常に敏感になる。健常者にとって大統領はもっともらしいことを言っているが、失語病患者は健常者が気付いていない大統領の仕草や顔つきに嘘を感じとって笑っていたのである。
    ……一方、単語を理解できるが、声の表情や調子にたいする感覚を失った音感失認症の患者も同じように大統領を笑った。彼女は、大統領の純然たる言葉遣いの不自然さから、失語症患者とは違うアプローチで、そこに含まれるやはり嘘を見破り笑ったのである。

    ■「機知あふれるチック症のレイ」
    レイはチック症を利用したともいえる過激なドラムプレイで有名でもある。が、病気が原因の激烈な性格で何度かトラブルを起こしてきている。レイは薬とほどよく付き合うことを学ぶ。
    ……ハルドールを服用するとチック症は抑えられる。この点、Lドーパと脳炎後遺症の関係と逆である。

    ■「キューピッド病」
    88歳の老婆が医者を訪れ、最近自分が生き生きとして若返ったみたいだという”悩み”を告白する。
    ……70年間の潜伏期をおいて発症した神経梅毒(脊髄癆)による症状。「ペニシリンはスピロヘータを殺すことはできるが、いったん生じた脳の変化や脱抑制をもとにもどしはしない」。よってペニシリン投与で、老婆は病気を抑えながら、若い気持ちのままいられることになった!

    ■「追想」
    突然頭の中で音楽が鳴り出す。耳を聾するほどで、人の声も聞き取れない。しかもそれは子どものとき聞いて以来完全に忘れていた曲である。「脳は、その人の生涯の記憶を完全といっていいほど保持し続けている。意識の流れすべては脳に保存され、生活のなかで必要なときにいつでも思い出すことができる。ところがてんかんや電気的刺激という異常な条件のもとでも、喚起され、呼び出されることがある。そのような発作性の記憶にあらわれる情景は、種々さまざまであり、たわいないもので、根本的には無意味で、いきあたりばったりのものである。」
    ……脳卒中の結果できた血栓が、側頭葉に発作を起こしていた。側頭葉発作は追想と経験的な幻覚の原因となる。

    ■「インドへの道」
    19歳のインド人女性が、子どもの頃見た故郷の景色を鮮明に幻として見るようになる。やがて幸福感に包まれながら彼女は病死する。
    ……脳腫瘍が原因のなんらかの脱抑制による症状。あるいはステロイド投与による幻覚か。

    ■「生き字引」
    並外れた記憶力を持つ知恵遅れの男。2千曲のオペラ、全9巻の『グローブ音楽・音楽家事典』を完全に暗記。バッハに傾倒。
    ……idiot savantの例。

    ■「双子の兄弟」
    自閉症、精神病、精神遅滞の男の双子。今から前後8万年間の任意の日にちを指定されるとそれが何曜日か言い当てられる。自分たちが4歳以降ならどの日を聞かれても、天気と出来事を答えられる。マッチ箱からこぼれたマッチを見て瞬時に「101本」だとわかる。20桁の素数を”頭の中からひねり出す”ことができる!
    ……idiot savantの例。

  • サイエンス
    文学

  • 吉野朔実『お父さんは時代小説が大好き』にて。

  • ラマチャンドランの「脳の中の幽霊」がおもしろかったので、その序文を書いたオリバー・サックスの本も読んでみようと思い、前から題名が気になっていたこの本を選んだ。全部で24の話のうち、第3章「からだのないクリスチーナ」が一番印象に残った。固有感覚(筋肉、腱、関節の感覚)を失い、通常の無意識的な姿勢制御ができなくなったせいで、立つことすらできなくなった女性が、視覚を駆使して意識的な姿勢制御を行い、再び動けるようになるなんて、驚異的としか言いようがない。著者が第15章「追憶」で「私は、H・G・ウェルズの感動的な物語『壁のなかの扉』を思い出した。」(235ページ)と言及している作品は、創元SF文庫の「タイム・マシン」に「塀についたドア」という題名で収録されているらしい。また、第23章「双子の兄弟」で「二人をモデルにしたサイエンス・フィクションまで書かれるありさまだった。」と紹介している作品は、注(362ページ)によればロバート・シルバーバーグの「ソームズ」だが、これはどうやら「いばらの旅路」"Thorns"のことのようだ。どちらも、機会があったら読んでみよう。

  • 1992年刊。著者は神経学専攻の医師。◆本書で触れられるのは脳の機能障害に由来する症例紹介が中心で、生理学、機能面、画像所見など高度の客観性ある事実摘示は少なく、症例の多様さはともかく、若干物足りない。◇疾病例として、幻肢、視覚的等失認症、逆行性健忘、チック等があげられている。これら症例の全体を通してみれば、脳が極めて絶妙なバランスで作用していることを示す書といえる。また、バランスの狂いが行動面での奇妙な事態を招来するが、これを奇異に感じる差別的目線に再考を促すものとも評し得るかも。

  • 脳、内なる人間の不思議

  • クリニカル・ライター、サックス博士の著書。メディカル・エッセイ。

  • 脳や神経にダメージを受けてしまった人たちの不思議な世界を語った本です。
    症例を集めた本ではあるんですが、患者さんたちの世界が物語になっています。
    モノが認識でない人、顔が認識できない人、記憶が飛んでしまっている人、記憶が過剰な人、記憶がリフレインする人、自分の体を認識でない人、サヴァンな人たち、自己がなく他を取り込み続ける人たち、などなど不思議で奇妙な世界の物語が展開されています。
    話の本数としては24篇で、結構な分量です。
    今では一部否定されてる医療情報(二次的な自閉症とか)もあるんだろうけど、いろいろと興味深い話ばかりでした。
    ちょっと難しいところもありましたが、なかなか面白かったです。

  • 色んな脳疾患がどのような影響を与えるのか。オリバー・サックスは、患者を病人、血管のある人間としてみるのではなく、人格を見て治療をしていく。

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