深呼吸の必要

著者 :
  • 晶文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (120ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794935267

感想・レビュー・書評

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  • 確かに、赤ちゃんから子どもになった時は分かるが(説明することができるという意味で)、子どもから大人になった時というのは、いつ、どんな瞬間だったのか、思い出せない。
    そういえば、いつの間にか、大人になっていたんだな、といった感じで。

    おそらく、身体的なことだけではなく、自分自身の心のあり方が変わった瞬間が、きっとあると思うのだが、やはり、それが思い出せない。

    しかし、長田さんの様々な視点から教えてくれた、その瞬間は、私の心の中の、懐かしくも切なく、素敵な記憶の扉を開けてくれた。

    本書は、子どもから大人になった時を連ねた、「あのときかもしれない」と、周りを見回すと、世界にはこんなに素敵なものがたくさんあることを教えてくれる、「おおきな木」の、二章で構成されており、タイトルの通り、忙しい日常に追われがちな日々の中でも、時には自分のためだけの時間を作り、深呼吸をして、心にちょっとゆとりを持ったときに読むと、胸にすっと入ってくるものがあると思います。

    (自分で楽しいルールを作ったり、ゲームのように)道を歩くこと自体を楽しみにしていた頃があったのに、いつの間にか、歩くということが、ここからそこにゆくという、ただそれだけのことにすぎなくなってしまったとき。

    「なぜ」と考えることが、すごく楽しかった頃があったのに、「そうなってるんだ」という退屈な答えで、どんな疑問もあっさり打ち消してしまうように、なってしまったとき。

    痛くなるのは身体だけではないことを、初めて知ったとき。

    上記を見ると、大人になることは悲しいことのようにも思え、以前読んだ、「幼い子は微笑む」を思い出したが、本書では、子どもに戻ることはできなくても、子どもの頃の感性を思い出して、今の人生に活かすことはできると言っているようにも感じられました。

    それから、長田さんの散文詩で思い出した、原っぱでの凧揚げに、鉄棒の逆上がり。

    鉄棒というのも、今考えると不思議なもので、ただ、逆手に持って地面を蹴り世界が回転したら、少しだけ高いところにいて、いつもと違った世界を眺めることができた。

    ただそれだけなのに、今現在の私がそれを思い出すと、何かあの頃の気分とは、また違った切ないものが込み上げてきて、久しぶりに逆上がりしたいなと思ってしまいました。

    そんな変化ひとつでも、人生は楽しくなるのかもしれない。

  • 歩くことを楽しむために歩くこと。それがなかなかできない。
    ただ海をみにきたのだ。
    物事を率直に見ること。

    「なぜ」と元気に考える代わりに「そうなっているんだ」と言う答えでどんな疑問もあっさり打ち消してしまうようになった時

  • 優しい言葉で判り易く語る。その手本のような1冊です。

  • 追悼読書。マイ本再読。
    読んで頷いて、頷いて読んで。
    うん、うん、と文章が心に染み込んできます。
    やはり絵本『最初の質問』も手元に欲しいな。

  • ゆっくりと深呼吸をするように、優しい言葉を体に取り入れる。長田弘氏の詩を読むと、大きな何かに包まれる安心感と、おおらかさを感じる。
    心の休息と、前に踏み出す活力に。散文詩二章三十三篇。

  • 長田弘はわたしが幼い頃からすきですきで仕方がない詩人でした。素朴であたたかく、少しだけきらきらしていて切ない散文や詩を書くのだと。この本の一番冒頭の作品は『あのときかもしれない』。ぱっと開いた時に、中学生の頃に読んだことがあるのをすぐに思い出しました。連作『あのときかもしれない』は誰もの心に響くなにかがきっとあるとおもう。誰しもの心に響くという普遍性を持つということはとても難しく、そういう本はとても少ない。詩の方がいくらか体現し易そうな雰囲気はありますが、どちらにしろ誰でもできるといった所業ではないでしょう。だからこそ、こういった本はとても大切で、とても貴重で、わたしは長い間、何十年という単位にわたって人生の隣に置いておきたい、そう思って、こういう本と一冊でも多くこれからの人生で出会いたい、そう感じます。
    あと、この本を読んで北村透谷の文章を読みたいと考えていたのを思い出した。長田弘が透谷について書いたものは、柘榴の鮮明な赤が印象的な、とても美しい散文。

  • 「きみはいつおとなになったんだろう」

    本のページを縦半分にも満たない
    長さの散文は、本に手をかけても
    なにも邪魔をしないかたちで目に
    うつる。文字をていねいに辿る毎に
    目の奥で、胸の奥でぎゅっと捉えて
    散文で深呼吸をしたような気持ちを
    とらえたのはおそらく初めてのこと
    だとおもった。クリーム色のページ
    に淡い青の教科書体の文字が写
    すのは、なにもあわてずに誰しもの
    思い出すとこに重ねて読める言葉。

    ああ、そういえばこうやってわたしは
    大人になったよね。それが、失うとも
    満たすとも書かない。ただ、私たちは
    まだ、大人になっていないとも、子供
    でいたいともおもわずにいられること
    長田弘さんがそばにいて語る言葉を
    ただ、耳を澄まして聞くことが深呼吸
    で、あって自然に涙をながしていた。

    ジャケットの大橋歩も「すてきだな」と
    おもっていたのだけれど、その内側で
    息をしていた、布の赤いカバーもいい。
    ああ、この本を大事にしようと、とても
    いい出会いができた気がした一日だ。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      一番好きな詩人の一番好きな詩集。
      でも持ち歩けないので、「長田弘詩集」や「記憶のつくり方」と言った文庫を鞄に入れています。。。
      一番好きな詩人の一番好きな詩集。
      でも持ち歩けないので、「長田弘詩集」や「記憶のつくり方」と言った文庫を鞄に入れています。。。
      2012/10/05
  • ことばの一つ一つが心に染み渡るようだった。とても静かな気持ちで読める。個人的には「おおきな木」や「驟雨」が好きかなあと感じた。「あのときかもしれない」は立ち止まって回想しながら、深呼吸をするような気持ちになった。またいつかふと思い出したときに手に取りたい。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「ことばの一つ一つが心に染み渡るようだった。」
      そうですよね!
      平易な言葉で、真実を語っている。優しいけどズシリとくる。素晴しい詩集です。。...
      「ことばの一つ一つが心に染み渡るようだった。」
      そうですよね!
      平易な言葉で、真実を語っている。優しいけどズシリとくる。素晴しい詩集です。。。
      2013/04/15
  • こどもからおとなになるということ。

    良い意味でこどもで居たいし
    良い意味でおとなで居たい。

    これからもずっと。

  • 毎日、寝る前にぱらぱらと読んだ詩集。

    寝る前、時々遠くで車の音が聞こえたり、虫の鳴き声、父母の寝息が聞こえ、ラジオをつけて、布団の中で読むのってサイコー。

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著者プロフィール

長田弘(おさだ・ひろし)
1939年、福島県福島市生まれ。早稲田大学第一文学部独文専修卒業。詩人。65年、詩集『われら新鮮な旅人』でデビュー。98年『記憶のつくり方』で桑原武夫学芸賞、2009年『幸いなるかな本を読む人』で詩歌文学館賞、10年『世界はうつくしいと』で三好達治賞、14年『奇跡―ミラクル―』で毎日芸術賞をそれぞれ受賞。また、詩のみならずエッセイ、評論、翻訳、児童文学等の分野においても幅広く活躍し、1982年エッセイ集『私の二十世紀書店』で毎日出版文化賞、2000年『森の絵本』で講談社出版文化賞を受賞。15年5月3日、逝去。

「2022年 『すべてきみに宛てた手紙』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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