癒える力

著者 :
  • 晶文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (181ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794963987

作品紹介・あらすじ

私たちの「からだ」はみずから癒える力をひめている。閉じこめられた「からだ」を目覚めさせ、新しい自分を見いだすには、どうすればよいか?出会う。聴く。触れあう。歌う。安らぐ。-からだの語ることばに耳を澄まし、人と人との響きあう関係をひらく。長年にわたり実践してきた「からだとことばのレッスン」の現場での生きた体験と洞察をもとに書かれた、いま孤立に苦しむひとにおくる本。

感想・レビュー・書評

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  • 著者の竹内氏は演劇家・演出家で、「声の産婆」との異名をとる人物です。

    竹内氏が「声の産婆」と呼ばれるのは、赤児を取り上げる産婆のよ
    うに、声が生まれる瞬間に立ち会ってきたからです。そのための方
    法論を、竹内氏は、「レッスン」と呼びます。レッスンでは、対人
    関係の中でこわばった身体をゆるめ、人と人が触れ合ったり、呼び
    合ったり、出会ったりするのはどういうことかと実際に身体と声を
    使いながら、試行錯誤を重ねていくのです。

    その中で、対人関係やコミュニケーションに困難を抱えた人が、自
    分自身の声を取り戻し、人と「じか」に触れ合えるようになる。自
    分や他人と真に出会い、共に生きることができるようになるのです。

    実は竹内氏自身が、幼時に、病気で聴力を失う経験をしています。
    以来、ずっと声とことばが不自由なまま生きていくのですが、40歳
    の頃のある日、自分の脳天を劈く(つんざく)ように、自らのうち
    から声が生まれ出てくる体験をします。それが彼の自分自身の声と
    ことばとの出会いでした。その体験を竹内氏は「ことばが劈(ひら)
    かれた」と表現します。

    以来、竹内氏は自身の体験を文章にまとめ世に問い続ける一方で、
    レッスンを通じて身体とことばの関係を研究し、声の産婆として、
    声の生まれる瞬間に立ち会っていくのです。

    本書は、数多い竹内氏の著作の中でも、看護婦向けに書かれた特異
    なものです。「手当て」というように、看護の本質が「ふれあい」
    にあること。そして、ふれあいの中でこそ、人は「癒え」に向って
    歩むことができるのではないか、という問いの中から生まれてきた
    タイトルだと思いますが、他の著作と同様、一貫したテーマは、コ
    ミュニケーションなので、一般の方が読んでも何ら違和感のないも
    のになっています。むしろ、平易な語り口の中に、竹内氏の思想が
    濃縮されている小著という点で、格好の入門書になっていると言え
    るでしょう。

    人生の転機になるような本との出会いというのがやはりあるもので
    すが、3年前に出会った竹内氏の著作は、自分自身にとって、まさ
    にそのようなものとなりました。対人関係に対する見方が変わりま
    す。是非、読んでみてください。

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    ▽ 心に残った文章達(本書からの引用文)

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    ことばあるものはことばに頼る。だが、生活上の情報処理のための
    ことばではまったく届かない世界がある。

    あなたにとっての「わたし」が生まれ出るか否かの瞬間こそ、愛と
    いうことの秘密であり、奇蹟だと言っていいのだろう。
    しかし、とわたしは思う。これは、実は、人が人と出会う、日常生
    活の一刻一刻に、ほとんど気付かれることなく、一瞬ごとに閃くよ
    うに生まれ、かつ消え、また生まれつつある奇蹟なのではないか、
    と。

    ことばをどう話しかけたらいいか、それは聞き手に学ぶことだとわ
    たしは思う。

    わたしはちは知らず知らずのうちにこのような、「距離を置きへり
    下る」文化伝統の中にいる。相手と平等である作法は、まだわたし
    たちの社会には成熟していない。(中略)これをもう一つ別の面か
    ら見れば、「相手に近づかない」文化と言っていい。

    「近づく」ということは、実は、自分が相手を、自分の世界に迎え
    入れることなのだ、と考えてみたらどうだろう?

    かつては「怒る」の表現としては「ハラガタツ」しかなかった。戦
    後になって突然「アタマニクル」が出現したのは、明らかに、「か
    らだ」が変わった、感情を押さえるのではなくバクハツさせる若者
    が増えた証拠だった。

    わたしたちは、常に、呼びかけられているのではあるまいか。神に
    か、人にか、それを言うことは今できないが。ただ、わたしたちは、
    耳を澄ましていなければ、いやむしろ、からだを澄ましていなけれ
    ば、呼び声に気づくことがない。

    ひとりの人が他の人と、真に「じか」にふれることができるために
    は、どれほどの誠実と、身を澄ます身構えと、そして愚直さが、そ
    して年月が、要ることだろうか。

    呼びかけるとか、からだに触れるということは、人と人との、その
    時、ただ一回成り立つ「出会い」なのだ。言いかえれば、人が人と
    じかに触れること、それによって人が、人に対して、人になる、こ
    となのだ。

    「なんのためにでもなく」出会うことこそ、最も大切な最もありが
    たいことに間違いない。

    癒しようのないものの前に立ちつくすこと。人生も看護もそこから
    始まる、と言っていいだろうか。

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    ●[2]編集後記

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    昨年から、急速に疲れ目がひどくなりました。集中して仕事をして
    いると、次第に目かすんできて、視界がぼやけてしまうのです。い
    よいよメガネか?と覚悟しながら、先日、眼科に行ってきました。

    診察の結果は、ドライアイでした。オフィスワーカー、特に、コン
    タクトを入れた女性に多いそうですが、目が乾いてしまう結果、疲
    れ目になるのだそうで、要は目の砂漠化みたいなものでしょう。

    ドライアイの原因は空調やパソコンのモニターなど色々と言われて
    いるようですが、一番は、集中し過ぎて、まばたきを忘れることだ
    そうです。まばたきを忘れるほど、集中し過ぎた結果、ものが見え
    なくなってしまうというのは何とも皮肉なことです。

    つまり、「見よう」と身構えるほどに、実は見えなくなってしまう
    ということです。この逆説は、とても示唆的です。

    実は、先週は、声も出なくなってしまったのです。風邪をこじらせ
    た結果なのですが、声が出ない、咄嗟に言いたいことをことばにで
    きないというのは本当に不自由でつらいことだと思いました。

    そして、ドライアイのことがありましたから、声がかれた背景にも、
    「伝えよう」とか「話しかけよう」とかというこちらの過剰な身構
    えがあったのではないかと反省をしたのです。

    目が乾く。声がかれる。どちらも一方的に対象に向っていく身の構
    え方に原因があるのだと思います。それが水に関わる表現であるこ
    とに興味をそそられます。一方的な身構えは、「流れ」を滞らせ、
    自らの「潤い」を失わせてしまうのでしょう。まばたきをする余裕
    を持ちながら、相手のことを聴く。いつまでも「みずみずしい自分」
    あるためには、迎え入れる身構え、待つ姿勢が重要なのだというこ
    とを教えられた気がします。

  • 代ゼミ早大現代文講師酒井敏行先生の推薦図書。すごく読みやすいのに内容が濃いです。医療や教育に携わっている人は特におすすめです。

  • こころとからだ、からだと言葉のつながりのことと並んで、本書にある「客体としてのからだ」というのはまさに今の私の感心事。からだを扱う、からだに接する上でどんな姿勢でいるべきなのかが、現在の仕事に関わって以来私の中に芽生えてきた。

  • 分類=からだ・竹内敏晴。99年6月。

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著者プロフィール

1925年、東京に生まれる。東京大学文学部卒業。劇団ぶどうの会、代々木小劇場を経て、竹内演劇研究所を主宰。宮城教育大学、南山短期大学などで独自の人間教育に携わる。その後「からだとことばのレッスン」を創造・実践し現在に至る。著書に『ことばが劈かれるとき』(ちくま文庫)、『「からだ」と「ことば」のレッスン』(講談社現代新書)、『からだ・演劇・教育』(岩波新書)、『癒える力』(晶文社)、『竹内レッスン』(春風社)、『声が生まれる』(中公新書)などがある。

「2007年 『生きることのレッスン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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