我もまた渚を枕?東京近郊ひとり旅

著者 :
  • 晶文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (265ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794966445

感想・レビュー・書評

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  • 東京近郊の町を求めて泊り歩いたひとり旅のエッセイ。
    行き先はといえば、船橋、鶴見、大宮などの、特にこれといったところのない、言っては悪いがあまり旅には似つかわしくなさそうなふつうの町が多い。永井荷風や林芙美子の本を書いた人だからか、陋巷趣味というのかあまり人が行きたがらないようなところをわざわざ探し歩いている。

    新奇な物を探しているわけではない。小さな駅舎を降りたところにある駅前食堂や昔からある地元の人の行きつけの居酒屋。飲み物はビールかホッピー(実はこれがどういう飲み物かよく知らなかった。この本で採り上げられている首都圏限定の酒類らしい)。肴は刺身でもポテトサラダでもかまわないが、品書きは豊富な方が嬉しい。店の構えは、小体な店と決めている。カウンターが中心で、テーブルがあっても一つか二つ。コの字のカウンターというのもお気に入り。そういう店はひとりの客を大事にするから。

    よさそうな店を見つけても、ふりの客が入りにくそうな店はさける。たとえそれが再度の訪問であっても、常連を気取ったり、取材で訪れたような素振りは見せない。話し好きの店主は歓迎だが、聞いた話はその場限りのこととしてあっさりふれるだけ。ルポルタージュをしているわけではない。あくまでも行きずりの旅人でありたい。

    それにしても、東京から電車で一時間くらいで行ける町ばかりだ。昼のうちに町に着き、遊郭の跡やら、ドヤ街を歩いて何が楽しいのかと思うのだが、ご当人、平成の荷風を気どっているのか、とんと平気である。化粧っ気のない昼下がりの悪所には夜の街にはない独特の風情があるのかもしれない。寂れた町も多いが、昔ながらの魚屋や八百屋、下駄屋が並ぶ商店街も残っている。そういう場所を好んで歩く。

    どうやら1944年生まれの作家の原風景がその辺にあるらしい。廃墟のような遺構を除けば名所旧跡にはまず行かない。こだわりがあるのは、文学作品や作家ゆかりの土地、映画のロケ地くらいか。それにしても、それが目的というほど入れ込みはしない。町に入ってゆくきっかけのようなものだ。めあてはあくまでも町歩き。

    昔ながらの商店街をぞめいたり、古本屋で掘り出し物を探したりしながら、楽しみにしている夜のビールを飲む居酒屋を物色しておく。ときには、開いたばかりの銭湯にも出かける。風呂上がりのビールを飲みながら、土地の人たちと世間話。昔の銀幕の女優の話などで盛り上がった後は、素泊まりのビジネスホテルに投宿。バッグに忍ばせてきた本や、古本屋の均一台で見つけたミステリなど読みながら床に就く。

    雨の日もまた佳し。白秋が姦通罪に問われた後、ひっそりと暮らしていた三崎を訪ね、城ヶ島で利休鼠の雨に降られる。雨に降られて冷えた体は銭湯で温める。だてにいつも銭湯グッズを持ち歩いているわけではない。行く先々で見つけるのは猫と文学碑。猫好きなのだ。捨て猫を地域の人が地域猫として飼っているのを見て、猫が元気でいる町はいい町だと呟いたりする。文学碑の多い町もお気に入りだ。文化が大事にされているから。芥川の『蜜柑』に、少女が見送りに来た弟たちに汽車の窓から蜜柑を投げる場面がある。見当をつけて行ってみると、何とそこにちゃんと『蜜柑』の碑があるのだ。

    下調べもしてあるのだろうが、知識の押し売りがないので、読んでいて気持ちがいい。映画好き、本好きの旅人という一線を越えない。どこに行っても、誰と会っても、自分のペースを守り、土地の人に深入りしすぎず、かといってつれなくもしない、君子の交わりは水の如しというが、絶妙の感覚が、読後さらりとした余韻を残す。
    ああ、こんな旅がしてみたいと思うのは私だけではないと思うが、どうだろうか。

  • 永井荷風になりたい川本三郎に自分はなりたい。心の中でたぶんずっとそう思っていてこのヒトの徘徊趣味にもエエかげん飽きたでとか思いつつ必ず新刊を買ってしまうのだった。東京近郊を阿部定のようにこのヒトのように泊まり歩きたいのだが、これがなかなかむずかしい。小さいけれど大きな夢。鶴見、銚子、川崎、寿町、日ノ出町、黄金町,藤沢、鵠沼、個人的な隠れ里のキーワードは「海」か。
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著者プロフィール

1944年東京生まれ。東京大学法学部卒業。評論家。1991年に『大正幻影』(新潮社、岩波現代文庫)でサントリー学芸賞、1997年に『荷風と東京』(都市出版、岩波現代文庫)で読売文学賞、2003年に『林芙美子の昭和』(新書館)で毎日出版文化賞、桑原武夫学芸賞、2012年『白秋望景』(新書館)で伊藤整文学賞を受賞。
著書に、『ロードショーが150円だった頃』(晶文社)、『ギャバンの帽子、アルヌールのコート』(春秋社)、『成瀬巳喜男 映画の面影』『「男はつらいよ」を旅する』(いずれも新潮選書)、『サスペンス映画 ここにあり』(平凡社)、『映画の戦後』(七つ森書館)、『我もまた渚を枕』(ちくま文庫)、『東京抒情』『物語の向こうに時代が見える』(いずれも春秋社)、『老いの荷風』(白水社)などがある。

「2018年 『「それでもなお」の文学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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