渥美清: 浅草・話芸・寅さん

著者 :
  • 晶文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (203ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794967121

感想・レビュー・書評

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  • 東洋館の前身はフランス座というストリップ劇場、ストリップの合間にコントなどをやっていた時に専属の芸人の一人となったのが寅さんで有名な渥美 清。一冊の本を読んで、渥美清はフランス座をはじめとした舞台で大活躍し、話芸の人ということを再認識した。また、映画「男はつらいよ」の寅さんは、渥美清のリアル人生がそのまま投影されていることを知り驚きもした。
    特にお笑い芸人時代の渥美清の「語り」は凄まじい芸だったらしく、多くの人々がしみじみと往年の姿について証言をしている。舞台芸だった故に、これらの記録がほとんど残っていないことが悔やまれる。
    また、超がつくほどの人気タレントのビートたけしは、今の活躍ぶりからは想像ができないほどの長く厳しい下積み時代と破天荒な青年時代が2冊の本から垣間見える。今の時代、これだけ人に恵まれて、本人の類い希な能力と努力で大成した人物も珍しいのではないだろうか。
    渥美清にしろ、ビートたけしにしろ、これらの本を読むと、夢とはわかりつつも彼らの浅草でのリアルな舞台を心底見たくなる。
    ● フランス座の命名者は永井荷風
    ● フランス座から羽ばたいた大スター 『渥美清―浅草・話芸・寅さん』 堀切 直人著を読む
    ● 大スターから眺めるフランス座 『フランス座』ビートたけし著 を読む

    「フランス座」というストリップ劇場が今の東洋館の前身。当時の劇場ではストリップの合間にコントなどをはさんでいた。その時、フランス座の専属の芸人となったのが寅さんで有名な渥美 清。

    この本で描かれる渥美さんの話術、特に「客いじり」の芸で話術のかぎりをつくし、それは凄まじかったらしい。フランス座に来るお客はストリップを見に来るのがメイン、だから幕間のお笑い芸人にはハードルが高い。それでも、渥美さんは客を客とも思わない怒られる寸前のいじり方、それを爆笑に昇華させる危険な芸をふんだんに披露したらしい。

    今の浅草の東洋館でも客いじりは多くみかけるが、やはり初見の人を相手に、しかも客のノリをコントロールするのは至難の業である。芸人の皆さんも苦労しており、客いじりでは、なかなか爆笑まで昇華しない。

    「客いじり」はいじられた客を他の観客が笑い飛ばすことになるので、上手な「語り」がないと、どうにもきまりが悪い。渥美さんは、これが得意だったというのだから、瞬発力が高く、相手を見極める力の高い人だったのだろう。なにせ客の服装や食べている弁当までこき下ろしたというのだから。

    渥美さんは、幼少の頃から貧乏かつ病弱で、病床でのラジオが慰めであり、ラジオの芸人の語りが話芸の先生であった。小学時代、お針子をする苦労人の母に、おもしろい話を聞かせるために話芸を磨いたともある。落ちこぼれで学校の勉強についていけないものの、授業で教室が白けた際に教師も渥美少年を指名し、その話芸に頼ったらしい。


    詳細はコチラ↓
    浅草フランス座 演芸場 東洋館 と縁深い2人の大芸人(大衆芸能の魅力 2) / 『渥美清―浅草・話芸・寅さん』 堀切 直人著 と 『フランス座』ビートたけし著 を読む
    https://jtaniguchi.com/%e3%83%95%e3%83%a9%e3%83%b3%e3%82%b9%e5%ba%a7-%e6%9d%b1%e6%b4%8b%e9%a4%a8-%e6%b8%a5%e7%be%8e%e6%b8%85-%e5%af%85%e3%81%95%e3%82%93-%e3%83%93%e3%83%bc%e3%83%88%e3%81%9f%e3%81%91%e3%81%97/

  • 渥美清ほど没後に沢山の評伝が書かれた芸能人はいないのではないでしょうか。

    あまりの人気と孤高の芸人としてのミステリアスな部分が、いろいろな掘り下げられ方をするのかもしれません。

    その割には同じ芸人で、この人は渥美清のフォロワーだな、と思える人がいないようにも思えます。

    まあ、比較されるのはやぶ蛇になるのでしょうが。

    沢山の渥美清本というか寅さん本がありますが、本書はなかなか読み応えがありました。

    渥美清の作られ方、育ちから語られます。

    学歴詐称(本書によると)。Wikipediaにも中央大学中退と書かれていますが、実は小学校しか出ていません(だそうです)。

    貧乏ではありますが、両親共インテリ層であり、夭折した実兄も秀才であったようです。

    そして、病気から学校の勉強について行けず、グレて本物のヤクザになったあと、テキ屋にもなります。

    任侠と新農の両方を経験しているのです。

    寅さんシリーズ珍しいシリアス路線(?)の「男はつらいよ 夜霧にむせぶ寅次郎」で、客演に東映ステゴロNo.1とも言われた渡瀬恒彦を向こうに回して格上の雰囲気を漂わせていたのもうなずけます。

    兄が秀才であった事実は、「男はつらいよ」第一作の冒頭ナレーションでも出てきます。

    渥美清はリアル寅さんであったようですね。
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    本書では渥美清の話芸の素晴らしさにスポットを当て、繰り返し称賛しています。

    もちろん、それはその通りで今更言うまでもないことなのですが、ボクは常々それに加えて渥美清一流の所作が加わると思っていました。

    これは軽演劇のキャリアから来ているものなのでしょう。

    軽演劇出身共演者の森川信や佐山俊二にも同じ匂いは感じるのですが、渥美清はとりわけ品が良く粋を感じます。

    例えば、何気ない所作なのですが、何かひらめいたような時に自分の右手の甲を左手の平に小気味よく打ち付けて「パチッ」と音を立てる。実はコレが好きでボクは密かに真似したりしてるのですが。

    こういう細かな動きを話芸と併せて行う所が比類なき渥美清の芝居だと思います。
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    イラストを南伸坊が担当しているのですが、控えめで良い感じです。

    普通、渥美清の似顔絵というと、自他共に下駄と形容する四角の輪郭なのですが、今回南伸坊は丸顔というか、曲線で書いています。でも、確かにこれは一番元気だった頃の寅さんだなあと感じさせる良い絵だと思いました。

  • 引用をつづり合わせた織物のような本なのだが、知らない話が特に浅草時代に結構出てくる。舞台のアドリブで、「俺の妹は美少女なんだぜ」と来たのに渥美が、「ほう、美少女というと美が少ない女と、つまりブスだと、こういうことですな」と切り返したというのに大笑い。今後、「美少女」という言葉が全部「美が少ない女」に見えてきそう。

  • もう11年になるのですね。この間、かなりのゆかりのある方々が亡くなりましたが、まだまだ渥美さんについて語ることができる方はいらっしゃるはず。文献の引用ばかりでなく、著者自身の取材で、新たな面も引き出してほしかったです。

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著者プロフィール

1948年、神奈川県生まれ。文芸評論家。著書『唐十郎ギャラクシー』(青弓社)、『浅草』(栞文庫)、『明治の精神史』(J&Jコーポレーション)、『本との出会い、人との遭遇』(右文書院)など。

「2004年 『唐十郎がいる唐組がある二十一世紀』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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