現代の地政学 (犀の教室)

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  • 晶文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794968265

作品紹介・あらすじ

イギリスのEU離脱で揺れるヨーロッパ、泥沼化する中東情勢、「イスラム国」の脅威、世界に広がるテロ・難民問題、覇権国家の思惑、宗教・宗派間の対立……複雑に動く国際情勢を読み解くには、いま「地政学」の知見が欠かせない。各国インテリジェンスとのパイプを持ち、常に最新の情報を発信し続ける著者が、現代を生きるための基礎教養としての地政学をレクチャーする。世界を動かす「見えざる力の法則」の全貌を明らかにする、地政学テキストの決定版!

感想・レビュー・書評

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  • 今年(2016)になった新たに興味を持った分野に、この本の主題である「地政学」があります。大学では理系を勉強した私でしたが、高校時代は地理及び歴史が好きでした。特に、世界地図を見るのが好きで、漠然とした思いでしたが、自分が生まれついた場所によって、最初から「ハンデ」みたいなものがあるなと感じていました。

    各国がどのような場所に存在しているかが、歴史や政治にも影響すると思っていましたが、それらを踏まえて考えるのが「地政学」である、ということを今年(2016)になって初めて認識しました。

    そのような認識があるからかも知れませんが、「地政学」というタイトルの本を多く飛び込んでくるようになりました。この本の著者である、佐藤氏は地政学の本を何冊も書いています。この本も、地政学の講義という形で、5回に分けて現代起きている事件をどのように解釈できるかを解説しています。

    地政学を通した見方というものは、現在を解釈するだけではなく、将来何が起きるかを予測する上でも大事であることがよく理解できた一冊でした。

    以下は気になったポイントです。

    ・EU離脱派が勝利したのは、英国における「大衆の反逆」である。その底流に流れているのが「われわれは、欧州の大陸国家とは異なる海洋国家である」という地政学的な認識である(p7)

    ・翻訳になっているテキストは、極力翻訳を使うほうがいい。翻訳をミスを見つけるのは簡単で、翻訳をきちんとこなす語学力が10とすれば、1くらいの力でできる(p19)

    ・堀江氏が捕まった大きな理由は、彼の貨幣論にあるだろう。彼はライブドアの株を細かく分割した。これはライブドアという会社が貨幣を発行するのと同じことになり、国家の統制を超えることになる(p35)

    ・子供とは大人とはまったく別の生き物で何かにこだわる時期がある。生後10か月から6歳の間、その時期に本人がこだわることを徹底的にやらせて、そうでないことは強制しない、それが重要(p49)

    ・自分の能力を最大限に伸ばす教育と同時に、与える教育をする。その人たちは、社会で成功していくと言える(p45)

    ・成田経由で中南米に行くチケットを持っている場合、最終目的地がよその国の航空券を持っていれば、乗り継ぎの空港に降りるにビザは要らない(p49)

    ・東方見聞録には、誘拐して身代金をお互いに取るビジネスをしている。身代金を払わない場合、親戚一同を集めて窯茹でして食べると書いてある。マルコポーロは黄金は欲しかったけれど、食われるのが怖くて日本に来なかった(p55)

    ・サビエルが、食べられるのを覚悟してまで来たのは、トルデシリヤス条約(1494)により、ローマ教皇が世界を二つに分けて、日本がポルトガル領となり、カトリシズムを伝えようと思ってきた(p56)

    ・日本陸軍は地政学を勉強していたから、アメリカと戦う気はなかった。だから真珠湾攻撃よりもマレー半島上陸が6時間も早かった。本質的には、イギリスとの戦争であった、イギリスが握っていた東南アジアの資源に関心があった(p59)

    ・ホチキスの玉送りは、機関銃の弾送りの仕組みを使っている、弾をそのままホチキスの針に代えただけ(p61)

    ・殆ど同じ言語を話していた地域に5つの境界線を引いた、それが、タジキスタン・ウズベキスタン・キルギスタン・カザフスタン・トルクメニスタンである(p69)

    ・あのSTAP細胞をどうみるか、これは錬金術の歴史を考えないとわからない、参考書として「心理学と錬金術」(p79)

    ・リベラルアーツ(自由7科)とは、奴隷じゃない自由人の科目のこと。奴隷は役に立つ技術を勉強する、自由人は役に立たないことを勉強する(p82)

    ・経済学部で使う数学と、理学部の数学とは本質的に違う。理学部の数学は、芸術学部に近い。誰も考えていないようなことを思いつくことに価値がある(p85)

    ・生まれた瞬間における星の配置によって、基本的にその人の運命が決まる。そのあと星がどういうふうに動いていくかで運命が変わっていく、これは天動説(p89)

    ・上智大学はカトリック・イエズス会、イングランド国教会系は立教大学、スコットランド国境会の系統は明治学院、スコットランド国教会は長老派、カルバン派である(p94)

    ・沿岸地帯は、世界から大きく見ると2つしかない。中国からインドまで、あるいはカムチャッカ半島までの沿岸で、モンスーンの影響を受ける。もう一つが、欧州の沿岸で、暖流の影響を受けて食物がよくとれる。このような場所に世界の中心がある。(p107)

    ・イスラム国は、ロシア本国やイラン本国ではテロをやる力がない、だからロシアやイランに引っかかるところの弱い環でテロをやった(p139)

    ・1916年のサイクス・ピコ協定は、当時のオスマン帝国が敗れるだろうという予測のもとに、オスマン帝国解体後の領土の分け方を決めたもの。シリア・レバノンはフランス、イラクはイギリス、トルコのイスタンブール・2海峡はロシアであった。ロシア革命によりロシア分の取り分を除いてその通りになった(p145)

    ・アゼルバイジャンの後ろにはトルコ、アルメニアの後ろにはロシアがついている。だから、ロシアとトルコの間で何か衝突が起きると、代理戦争の様相を呈してくる(p154)

    ・日本で現実に実証できる歴史は、文献的に可能なのは室町時代までである(p159)

    ・イランは高台にある、それだから高いところからアラビア湾を見下ろす形になる。外部から誰かが侵入して攻撃してきても、上から簡単に防衛できる、という地理的な優位性をイランは持っている(p169)

    ・イラン人の自己意識においてはローマ帝国と対等、現在の欧州もアメリカも、西ローマ帝国の末裔、ロシアは東ローマ帝国の末裔。それに匹敵するのが、イランやペルシアである(p177)

    ・日本は鎖国時代、長崎以外にも外国との窓を三か所開けていた、松前口:松前藩を通じて北海道全域から樺太、東シベリアまで。二つ目が対馬口、対馬藩を通じて朝鮮半島を通じて、明・清と連絡していた。三つ目が琉球、同様に明・清と貿易をしていた(p206まで)

    ・間宮海峡は一番深いところで8メートル程度、平均は2メートル、冬場は凍結する。ロシア人は樺太とロシアの大陸は陸続きと思っていた。大型船の航行は不可能(p203)

    ・オランダの宗教はプロテスタンティズム(カルバン派)である、ここには世界をこのカルバビニズムの考え方で統一して以降という発想がない。カルバビニズムでは、人間は生まれる前から「救われる人」とそうでない人(永遠に滅びに定められている人)がすでに決まっていて、地上人にはわからない。カトリシズムの神父は今でも聖なる普遍語であるラテン語を知らないといけない(p205)

    ・アメリカが日本に来た目的は、蒸気船の燃料である、石炭を確保するためがポイント。それまではイギリスのマンチェスターから帆船に積んで運んでいた(p207、208)

    ・東京にはいたるところに川があった、物資を運搬するために川と運河を掘っていたから。江戸時代までの日本人は一生の間に自分の村から18キロしか動かなかった(p212)

    ・船は旗が建っている国の管轄が重要、現在でも、船の中で何等かの被害にあったら同様、なので今では便宜船籍は少なくなった(p215、216)

    ・ロシア正教とカトリックの決定的な違いは、正教は、その土地の土着した言葉で典礼を行い、その国の風俗習慣に合わせる(p218)

    ・1855年に日露通好条約を結ぶが、そこには治外法権規定はない。政治的には平等条約(p220)

    ・琉米修好条約という、日米和親条約のような条約は、米国と琉球で結ばれて米国議会でも批准されて公布されているので、国際的に有効な条約である。これは中国語と英語で書かれている。同様の条約が、1855琉仏修好条約、1859琉蘭修好条約がある(p222、223)

    ・アメリカが日本に来た目的は、蒸気船の燃料である、石炭を確保するためがポイント。それまではイギリスのマンチェスターから帆船に積んで運んでいた(p207、208)

    ・東京にはいたるところに川があった、物資を運搬するために川と運河を掘っていたから。江戸時代までの日本人は一生の間に自分の村から18キロしか動かなかった(p212)

    ・船は旗が建っている国の管轄が重要、現在でも、船の中で何等かの被害にあったら同様、なので今では便宜船籍は少なくなった(p215、216)

    ・ロシア正教とカトリックの決定的な違いは、正教は、その土地の土着した言葉で典礼を行い、その国の風俗習慣に合わせる(p218)

    ・1855年に日露通好条約を結ぶが、そこには治外法権規定はない。政治的には平等条約(p220)

    ・琉米修好条約という、日米和親条約のような条約は、米国と琉球で結ばれて米国議会でも批准されて公布されているので、国際的に有効な条約である。これは中国語と英語で書かれている。同様の条約が、1855琉仏修好条約、1859琉蘭修好条約がある(p222、223)


    ・地政学のポイントは、長い時間がたっても動かないもの(特に山が重要)、なので民族のような近代的なものは入らない、資源も入らない。また海は温暖化により広がっていることも注意が必要(p250、258、259)

    ・東アジア:モンゴロイド、欧州:コーカソイド、アフリカ:ネグロイドであるが、ネグロイドとそれ以外は大きな断絶がある。モンゴロイドとコーカソイドには、ネアンデルタール人の遺伝子が入っている。ネアンデルタール人には「人食い」の習慣があった(p262)

    ・アメリカは南スーダンという国を独立させた、あれはアメリカがつくった満州国であり、だから南スーダンは豊かになり、北スーダンとの格差ができた(p282)

    ・死刑制度がない国では、犯罪が行われた現場ですぐに犯人を殺してしまう。裁判にかけて終身刑にしておくと仲間をつくったりして面倒くさい(p285)

    ・カトリック教会は本店と支店の関係だが、正教会は「のれん分け方式」である、1964年に世界総主教とローマ教皇との会談は、「1054年の相互破門は解こう」といったものだが、物別れに終わった、それが2016年2月に手を打った(p290)

    ・教育で使っている言語の水準が下がらない限りにおいては、言語問題はそれほど心配することは不要(p302)

    2016年9月4日作成

  • 中近東における宗教戦争,ロシアとウクライナの対立要因など、新聞では分かりにくい断片的なベタ記事が多い中、非常に分かりやすい記述で説明されている。知的好奇心を刺激される好著。

  • 感想☆
     どこかの社会人向けの講座の内容をまとめたもののようです。前提としてマッキンダーの地政学の本を読んでいないといけないようなのですが、なかなか手に入りません。それがないせいか、佐藤氏の語る各現象が、頭のなかでつながっていかない感が残りました。

     印象に残ったことをまとめます。

    ☆教育論
     ドイツ人は基礎教育として、地図の読み方を徹底的に叩き込まれる。地図を三次元で解析できるように成長する。
     ロシア人は基礎教育として、暗記を重要視する。分厚い教科書を徹底的に暗記させて試験をする。レジのお姉さんもプーシキンの詩を岩波文庫一冊分くらい暗唱できる。

     情報部としては、その国の基礎教育で使われている教科書を徹底分析するのが基本だということです。

    マリア・モンテッソーリの教育理念
    「一人は万人のために、万人は一人のために」一見よさそうなスローガンに見えますが、実はファシズムと深い関係がある。

    ☆現代の地政学において重要なこと
     飛行機のおかげで地政学には意味がなくなったといわれるが、それは間違いである。
    ○地球温暖化により、北氷洋が通行可能になった。
    ○宗教
    ○シベリア鉄道のトンネル改削により、運搬量が飛躍的に増える。日本のトンネル技術がカギを握っているらしい(笑)。

  • 一人は万人のために、万人は一人のためにというのはファシズムのスローガン。

    日本で出てくる地政学の本はほとんどダメ。一番ダメなのが船橋洋一氏の本らしい。

    ドイツ人は異常に働くけど、それでいて生活は質素。商品を作っても国内で消費できないから海外に出ていかないといけない。機能美をドイツ人は素晴らしいと思っている。

    アルメニア人は武器商人が多い。ヤンとつくのはアルメニア人。

    地政学とは地理。

    これからは欧州では反ユダヤ主義が最大の危機。イスラムのテロが起きて、反イスラム感情が起きる。それによって抑圧されたムスリムは、これはユダヤ人の仕業だと思う。それでムスリムが反ユダヤ主義運動をする。欧州社会はユダヤが嫌いだから無関心。同胞と思っていないので、守る対象にユダヤ人は入っていない。地政学には地理の要素だけでなく人種要素も宗教も含まれているが、そこはタブー。

    イスラエルの行動分析はネーションステートだから難しくない。国内でどんなに激しい意見対立があっても、戦争になったら一致団結する

  • 地政学的視点は常に日本人の弱点だが、関心の低さから良書が少ないように思う。ただし、テクノロジーの進展に伴い、地政学的要素は大きく変化している。本書のような現代に沿った地政学の良書が更に望まれる。

  • 【由来】


    【期待したもの】

    ※「それは何か」を意識する、つまり、とりあえずの速読用か、テーマに関連していて、何を掴みたいのか、などを明確にする習慣を身につける訓練。

    【要約】


    【ノート】
    ・P134まで。

    【目次】

  • ・宗教は地政学的要因になる。今のサウジアラビアとイランの緊張や「イスラム国」の誕生は、まさに古代的・中世的なイスラム教の表象から出てきたものであり、それとポストモダン的な要素が結びついて起きたもの。地政学を考えていく場合は、長く変わらないような要素として何があるんだろうということと、変わり得る要素で何があるのかということをしっかり把握する必要がある。

  • 地政学について講義形式で扱った一冊。

    元外交官ならではの鋭い視点があるので、地政学をすでに知ってる人にも、そうでない人におすすめ。

  • 国際情勢分析で有名な佐藤優さんの著作
    初めて触れたが、テンポよく展開する流れで読みやすい
    流行りの地政学で現代の世界事情を読みとると、目からうろこな話も多く、興味深い

  • ウラル山脈 アジアとヨーロッパの境  900m

    早期教育 モンテッソーリ教育

    学力の経済学

    東方見聞録 チパング島 、偶像崇拝者、異教徒の間では、お互いに誘拐ビジネスが横行している。、人間の肉ほどうまいものはないと確信している恐るべき野蛮人だ

    上智 カトリック イエズス会
    立教大学 イングランド国教会
    明治学院 スコットランド国教会 長老派、カルバン派

    南北戦争のあとに明治維新
     カルバン派、長老教会、バプテスト派、メソジストはから宣教師が派遣される 南北でののしりあった

    神戸神学校は南長老教会

    明治維新のころ敗れた南軍から、程度のよくないアメリカ人がたくさんきていた。だれがこんなミッションの言うなりになるかと思ったという歴史の偶然のめぐり合わせがある

    明治維新が10年遅れていたら、南北分断の痛みはかなり克服されていたから、アメリカが一丸となってやってきたかもしれない

    民族を形成する上で決定的に重要なのは教育です。民族語で自分たちの教科書を作り、自分たちの民族から見た場合の歴史はどうなのか、地理はどうなのかを学ぶ。あるいは偉人伝などをつくって読み継がれるようにする。それによってわれわれは〇〇人だとうい意識を作り、常にそれを維持するためのメインテナンスをしつづけなければならない

    伝統的なイスラムの教育などに任せていては、それは普遍主義に流されてします。シリア、イラク、レバノン、リビアでは民族概念がほとんど育たず

    イスラエル ヘブライ語を公用語にして学校教育をした。

    日本語による情報伝達をおろそかにすることは、かえって社会の弱体化につながります。イスラエルとシリアの違いをみればよくわかることです。

    1054 東と西のキリスト教にわかれた

    ヤクザには2つの系譜 山口組のような博打打ちの系譜。縄張り有り。テキ屋の系譜。住吉連合や稲川会。これは庭場をもっている。本来稼業違いといって場所は重なっていても抗争は起こさないという建前。

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著者プロフィール

1960年1月18日、東京都生まれ。1985年同志社大学大学院神学研究科修了 (神学修士)。1985年に外務省入省。英国、ロシアなどに勤務。2002年5月に鈴木宗男事件に連座し、2009年6月に執行猶予付き有罪確定。2013年6月に執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失った。『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて―』(新潮社)、『自壊する帝国』(新潮社)、『交渉術』(文藝春秋)などの作品がある。

「2023年 『三人の女 二〇世紀の春 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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