あしたから出版社 (就職しないで生きるには21)

著者 :
  • 晶文社
4.12
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本棚登録 : 754
感想 : 104
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  • Amazon.co.jp ・本 (282ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794968517

作品紹介・あらすじ

みんなと同じ働き方はあきらめた。

30歳まで自分のためだけに生きてきたぼくは、

大切な人のために全力で本をつくってみようと思った――


「夏葉社」設立から5年。一冊一冊こだわりぬいた本づくりで多くの読書人に支持されるひとり出版社は、どのように生まれ、歩んできたのか。



アルバイトや派遣社員をしながら小説家をめざした20代。挫折し、失恋し、ヨーロッパとアフリカを旅した設立前の日々。編集未経験からの単身起業、ドタバタの本の編集と営業活動、忘れがたい人たちとの出会い……。

これまでのエピソードと発見を、心地よい筆致でユーモラスに綴る。

感想・レビュー・書評

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  • 今や「生きた伝説」の趣さえある夏葉社「ひとり出版社」島田潤一郎氏の初の著作「あしたから出版社」は明日から出版社を起業するためのハウツー本では一切なく、ある種の自伝とも信仰告白とも読める随筆ですが、氏のパーソナリティに追うところの腰の低い位置からポツポツと語られる島田氏=夏葉社のここまで歩みは、自己叱責と含羞の間くらいのスタンスで柔らかな声で語られつつ、開けっぴろげで実直です。またその足跡は不思議と大勢の魅力的な登場人物で彩られています。

    当たり前のことながら「ひとり」であることは「孤立」ではなく、様々な人に恵まれ、また様々な人に返答するかのように恵んでいける「力」を持っていない限り成り立たないわけですが、一見「弱さ」を語り続けているかに映る島田氏の「力」はけして表に出てくる分かりやすい「強さ」ではなく「不屈さ」「折れなさ」であり、勝手ながら本作読書中に名画「ロッキー」のテーマが頭の中に流れ、咬ませ犬の三流チンピラボクサーが世界チャンピオンの前でただただノックアウトされないことだけを恋人に誓って試合に臨んだロッキー・バルボアの姿を思い、一人目頭が熱くなったりした次第です。

    島田氏は体が許す限り人に会うため全国津々浦々を旅し続けていますが、これは営業であり社交ですが、ビジネスマン風のブラフとポジショントークのチャラついたものとは違い、己が信じるところで誠実に人に対し誠実に言葉を選んで誠実に物事を進めていく。単にそれだけのことが、この世で最も難しい部類あることは一般社会人になればよくわかるところで、それゆえに人が力強く島田氏を支え助けるのだろうということも分かります。

    また、その誠実さを実行していくためた頑強な身体以上にタフな精神が必要であろうと思われますが、その精神的タフネスは島田氏の倫理に深く根差しており、その倫理は身近な人の死をその背骨としているのだろうということも分かります。

    おそらく氏が埃を払いのけて復刊し編纂し編集してきた本の数々は「聖典」に等しいものであり、その「聖典」を家宝のように大事に抱えて全国の町の書店を旅する氏の姿を思うと、はたして自分はそれに敵う仕事が出来ているのかと猛省し、氏がこれから何十年先までも自らが信ずるところの道を歩み続け、夏葉社の本を全国の読者に届けていただけることを願ってやみません。

    終章で触れる「かなしみ」について、そして「その場所でのもの作り」について「間違わないだろう」という確信は島田氏だけにとどまらず読者にまでちゃんと共有されたに違いないと思います。

  • 夏葉社という出版社を、ひとりで立ち上げた島田潤一郎さんの自伝的エッセイ。
    これを読んだのはかなり前なのだけれど、本が好きでたまらない、という島田さんの気持ちにとても共感したし、ゼロから何かを作り上げていく強さに感動し、前向きな気持ちを与えてもらったことを憶えている。
    私の本棚に、大切に並べてある一冊。また読み返したい。

  • いま、読んでる途中なんだけど、この本はすごくいい。というか、自分のこころにすごく響く。
    誰のこころでも動かすという類の本じゃないだろうけど、本好きの人はなんらか感じるものがあるんじゃないかなと思う。
    読み進めていくのがほんとに楽しみ。

  • 晶文社のこのシリーズが好きだ。自分はいわゆるサラリーマンだけれども、どんな仕事もその原点、原型は個人で頑張っている人たちの仕事なのだと思う。会社はそれを大人数で徒党を組んでやっているだけのことだ。会社という傘の下に集まっているひとりすぎないことを強く意識させられた。以前から夏葉社とその刊行物には興味があったので、とても面白く読むことができた。

  • 大切な身近な人を亡くしたことがきっかけで、出版社を起業した著者が綴る日々。
    謙虚な著者の言葉の中に、本への愛と希望が込められている。
    願わくば、夏葉社や全国の町の本屋さんがずっと続いていってほしい。そして、現役の読者や未来の読者に、価値ある本を送り続けてほしい。

  • 繊細で、真面目で、実直な島田さんのお人柄が滲み出ているような本でした。とにかく"いい本"を作ることを軸として、色んな人と出会い、助けてもらいながら出版社をされている島田さんだけど、その人柄や熱い思いがあるからこそ協力してくれる人が集まるんだろうな。従兄へのメッセージには目頭が熱くなりました。島田さんの最近のSNSを見るとご結婚されてお子さんまでいるそうで、本書の上手くいかなかった恋愛の話を読んだあとだと温かい気持ちになりました。本の素晴らしさを代弁してくれている本。


  • 大切な人のために、本を作る。
    その一言で表される彼は、なんてやさしくてすてきなことだと、
    周りのひとは、言うと思いますし、私もそう思います。
    一方で、これは美談なのではなくて、彼が生きるために、したことなのだなと感じました。
    大切な人へ、自分がなにかをできること。
    それが、彼にとって生きる希望に、力になり、救われているのだというのが、印象です。
    『マカン・マラン』シリーズの、シャールさんにも、そんなところがありますよね。


    人に会って話して得るもの、自分で考えてたどり着くところ。
    きっかけは、人によって違うのでしょう。
    こうしたからうまくいく、というものはなくて、
    すべては、なにかのきっかけ。
    そして、それがやってきたときに、やってみようと思える気持ち。
    とりあえず、そろりと、足を伸ばしてみる。
    やってみる、怖くなったら止まる。
    それでいいんだな、というと、軽いことのようですが、
    それだけのことだけれど、動き出すのが怖かったりも、するのですよね。

    彼をすごい、と言うのなら、勇気を出して新しい自分になって、行動したこと。
    その勇気こそを、私は一番、眩しく思いました。
    不安な道中、分からないことだらけ、困ること、辛くなることもしばしば。
    それでももがいて、彼は本を作り続けて、だれか、ではなくて、その人のために、捧げている。
    やさしく、傷ついた心を持っている、でも、こんなにも強い人なんだなぁと。


    これは、増補のある、ちくま文庫本を、手元に持っていたいなぁ。

  • こんなにも素直で、真っ直ぐな本に出会ったことは今までなかった。
    正直今の就活が辛くて、苦しくて、どうしようもなくて「就職しないで生きていくには」という言葉に飛びつき逃げ場所を求め手を伸ばした本だった。
    でも、読めば読むほどに逃げてこんな情けない私を受け止めてくれる気がする。心に寄り添ってくれているような、包まれているような、そんな感覚に陥るのだ。
    この先何度も立ち還り読みたいと思った。また辛くなったら「どうしたの、また逃げてきたの、仕方ないなぁ」と言われんばかりの真っ直ぐな言葉に包まれ、胸に刻んで行きたい。そう思える本だった。

  • 何にもできないけどベストセラーだけがいい本じゃなくて読まれるのを待ってる本があるはずっていう根拠のない自信にはぐっと来た。

  • ありのままの気持ちが並んでいるようなまっすぐな本だった。
    本、本屋さん、好きだな〜。

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著者プロフィール

1976年高知県生まれ、東京育ち。日本大学商学部会計学科卒業。大学卒業後、アルバイトや派遣社員をしながら小説家を目指していたが、方向転換。2009年9月に出版社・夏葉社を東京の吉祥寺で創業した。著書に『古くてあたらしい仕事』(新潮社)、『父と子の絆』(アルテスパブリッシング)、『90年代の若者たち』『本屋さんしか行きたいとこがない』(岬書店)がある。

「2022年 『あしたから出版社』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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