こわいもの知らずの病理学講義

著者 :
  • 晶文社
3.70
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本棚登録 : 1084
レビュー : 103
  • Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794969729

作品紹介・あらすじ

ひとは一生の間、一度も病気にならないことはありえません。ひとは必ず病気になって、死ぬんです。だとすれば、病気の成り立ちをよく知って、病気とぼちぼちつきあって生きるほうがいい。書評サイト「HONZ」でもおなじみ、大阪大学医学部で教鞭をとる著者が、学生相手に行っている「病理学総論」の内容を、「近所のおっちゃんやおばちゃん」に読ませるつもりで書き下ろした、おもしろ病理学講義。脱線に次ぐ脱線。しょもない雑談をかましながら病気のしくみを笑いとともに解説する、知的エンターテインメント。

感想・レビュー・書評

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  • この著者の『なかのとおるの生命科学者の伝記を読む』は面白かった。そして、この人の専門は病理学(大阪大学大学院・医学研究所・病理学教授)なのである。

    「ごく普通の人にも、ある程度は正しい病気の知識を身につけてほしいなぁ、誰かそんな本を書いてくれんかなぁ、と、長い間思っていました」という仲野さんが自らその役を任じて書き上げたのが本書になる。「できるだけやさしく、でも、おもしろく、書いていくつもり」とあるが、さらに短くコンパクトにまとめることも必要なので、なかなか難儀なことだ。確かに『なかのとおるの生命科学者の伝記を読む』のような自然に筆が進んでいるぞ、みたいな類の面白さはないのだけれど、「知識を身につける」ということについて言えば、一通りわかったかなぁ、という感じにはなれたと思う。

    そもそも病気の説明の前に「細胞」の話から入る。細胞の構造、種類、ATPなどエネルギー産出の仕組み、複製の仕組み、老化の仕組み、そしてその細胞が集まってできる体組織から説明される。そう細胞と組織の正常な機能がわからないと、その機能不全である病気の何たるかはわかるはずもないのだ。そして、核のない細胞でありもっとも数が多い細胞である赤血球を含む血液の話になる。残念がらここの説明がないと現代の死因の多くを占める虚血性疾患の話がまったくわからない。やはり難しい。
    さらにはDNA、染色体、ゲノムというセントラルドグマの話も出てくる。これがないと「病の皇帝」がんを正しく理解することはできない。がんは遺伝子のエラーから起こる病気だが、その発生メカニズムは意外に多い。タバコや紫外線の他に、煙突の煤や核兵器や原発からの放射能、肝がんを引き起こすウィルス(B型)、胃がんの原因になる細菌(ピロリ菌)などが挙げられる。この本では特にがんについての説明が詳しいのだが、もっと詳しく知りたい場合には、ときどき参照されるムカジーの『病の皇帝「がん」に挑む』がそれ以上に詳しい。この辺りはいまだに日進月歩なところがあり、今はやりのエピジェネティックスというこれまでの常識が覆る研究も盛んだ。そういえば仲野さんはエピジェネティックスに関する本も書いていた。

    仲野さんは、世界的な教科書のスタンダードで自身の講義でも使っているロビンスの『Basic Pathology』から「細胞の損傷、適応、死」「血行動態の異常、血栓症、ショック」「腫瘍」の3章を候補となる8章の中から選んで説明したという。他の5章は、「炎症と修復」「免疫異常による疾患」「遺伝性疾患と小児の疾患」「環境・栄養による疾患」「感染症の病理学総論」となっている。2018年に出版された本だが、今なら「感染症の病理学総論」はきっと外さないだろうな。この本が売れたら続編として出すと言っているけれど、売れなくったって、当然のごとくして残りも書き上げたいと思っているはず。こちらもこれは全体の一部ですよ、と言われると少々ストレスが残る。ということで、続編を待つ。

    『なかのとおるの生命科学者の伝記を読む』では、本の中でも大阪弁ばりばりだったが、出身地が大阪市旭区千林と同じ街の出身だったらしい。ダイエー生誕の地として(一部で)有名だが、その「主婦の店ダイエー」と同じ年に生まれたと書かれている。きっと中学校は同じなんではなかろうか。どこかですれちがっていたりもするのかもしれない。周りの商店街と一体となってひどくにぎわっていた、ダイエーもその後にできたトポスもなくなったあの場所は今どんな感じになっているんだろうか。全然関係ないけど。

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    『なかのとおるの生命科学者の伝記を読む』(仲野徹)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4780908485
    『エピジェネティクス――新しい生命像をえがく』(仲野徹)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4004314844
    『病の皇帝「がん」に挑む ― 人類4000年の苦闘 上』(シッダールタ・ムカジー)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4152093951
    『病の皇帝「がん」に挑む ― 人類4000年の苦闘 下』(シッダールタ・ムカジー)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/415209396X

  • 時節柄、新型コロナウイルスのPCR検査に関して、感染しているが陰性結果が出る人についての危険性が指摘されている.p321-323に検査の感度と特異性について的確な説明がされており、医学に携わる人にとっては常識なんだろう.闇雲に検査を、検査をの声が出ているが、このような説明が一般の人には理解できないのだろうか.3章、4章のがんの説明はテクニカルタームが頻出の割に理解しやすい記述だった.随所に脱線の記載があり、楽しみながら読めたのが良い.数々の医学者の実績を引用しているのも良かった.最後に出てくる分子標的薬、期待が持てそうです.

  • いろんな身近な病気を平易な言葉で分かりやすく説明されているのかと思ったらそうではありませんでした。本書の最初に説明があるのですが、「病理学」というのは、病気の理(ことわり)、原因を調べる学問とのこと。ということで本書で説明されていることはかなり研究より。50年ぐらいで急速に進歩した分子生物学的な解説がメインで、動物の体はを作る細胞の話しから始まり、その細胞の設計図たるDNAとその変異によって発生する「がん」の解説と進みます。病気とは結局は細胞の生死に還元できるようです。著者の大学での講義でもそうらしいのですが、ところどころ脱線して雑談がちりばめられているのが本書の面白いところだと思います。でも、肝心の「病理学」の解説は、分かりやすくはなっているものの専門用語が多くて1度読んだくらいで理解するのは門外漢には難しいと感じます。前半の知識を踏まえて後半はほとんど「ガン」についての説明。多くの「がん」は結局は「運」によるようです。DNAの複製の際に確率的に入ってしまう突然変異が積み重なって、それがたまたまガンをドライブする遺伝子のいくつかに入ると癌化するとのこと。だからいわゆる「がんもどき」はほっといても大丈夫なことがあるかもしれないけど、変異が積み重なれば悪性のガンとなる可能性は高いらしい。そういうことを理解して、自分で治療を選択できるようになるのことは必要だと感じました。

  • こちらを読了。
    色々な本を読んでいると「あまりにささっと作られた感じの本だなぁ…」というのも多い一方で、逆に「この本はとても丁寧に書かれた本だなぁ…」と感心する本というのに出会うことがありますが、こちらがまさにそのような本。
    とにかく内容が濃い。門外漢向けなのに手を抜いていない。よって、正直一度読んでイマイチ理解出来ない箇所もある。でも全体としては限られた書面の中で極力内容レベルを下げずにそれでいて専門外の人にも分かりやすく書かれており、ときにかなりのユーモアも盛り込まれていて読み手を飽きさせない。恐るべし。
    いや、とても勉強になりました。

  • 印象に残った言葉。「知らないことを学ぶときに大事なことが二つあります。ひとつは、大きな流れ - ものごとの原理とか大枠といってもいいかもしれません - をきちんととらえること。・・・細かいことは、後から必要に応じて、原理の幹とでもいったものに枝や葉としてくっつけて覚えていけばよいのです。・・・もう一つは、言葉の意味をきちんと理解しておくことです。・・・幹となる事柄や大事な用語はそれほど多くありませんので、きちんと理解して覚えてくださいね」。この言葉そのものを、病理学にあてはめるとどうなるかを示してくれた本。細胞の6割が赤血球というのはちょっとびっくりだった。

  • 30:病理医ヤンデル先生のヨンデル選書フェアにて購入。「病気」の基本的なことから、総論として広く楽しく学べる本。生物の授業でやったけど、というようなことも改めて説明されて腑に落ちたり、特にがん、分子標的薬について解説があるのが良かった。
    進歩目覚ましい分野だから、定期的に改訂を……というのは難しいかな。基礎の一冊として手元に置いておきたい。

  • 分かりやすくて楽しい本。
    お医者さんって細かいことが気になるタイプが多いのかな?言葉1つ1つに「これって?」と引っかかるので広辞苑を引くそうな。医学のロジックはとても単純。覚えると受診の時に役立つ。
    物事を統計的に考える能力は生きていく上で非常に重要。

    アデノシン三リン酸→細胞が生きていくためのエネルギー
    テロメア、テロメア短縮→老化
    テロメラーゼ
    テトラヒメナという生物で実験

    みんなが信じてる医学の「常識」と言うのは必ずしも正しいとは限りません。医学に限ったことではありませんが、先入観なしに物事を見つめると言うのはものすごく大事なことなのです。

    日本の妊産婦死亡数は年間40人程度。分娩数は100万人。これ以上下げるのは不可能。

    梗塞は主として虚血による酸素不足によって壊死になるという状態。虚血に耐えられる時間は神経細胞は3〜4分、心筋細胞は20〜30分。

    アナフィラキシーが1913年に発見されていたとは…

    p53はゲノムの守護神、傷ついた細胞をアポトーシス(自殺)に導く。

    C型肝炎は95%治癒する病気。だが治療薬は一錠5万5千円。1日1錠12週間服用で治るが総計400万円強かかる。保険負担額は月1〜2万円。日本全体で2兆円かかる計算。

    胃がんの原因はヘリコバクターピロリ菌。原因のあるがんばかりではない。
    人生に運があるのと同じでどの様な病気にかかりどのような死に方をするか運に左右される。運を味方にするには正しい知識を持って自分の頭で判断する事が重要。がんは多様で時間をかけて進化するもの。どの細胞からでき、どんな変異を起こしたのか知る事が大切。
    がんを撲滅する事は不可能。

  • 前半を基礎とした後半のがんについての解説からは著者の熱意が伝わってくる。

    がんの発生要素とそれぞれに着目した治療方法は分子生物学が存在する現在ならではのものだが、体内で進化し続けるというがん細胞の性質を考えれば、万能の治療法がないというのも残念ながら事実だろう。

  • HONZでいつもお世話になっている仲野さん。いつか著書を拝読したいものだと思っていた。
    で、大願叶って初仲野。結果は想像以上でもあり、以下でもあり。

    内容は、間違いなくめちゃくちゃ面白く、かつためになるものである。
    ただ、ターゲット層とアプローチ法が間違っている。間違っているというか、読み誤っている。著者は本書を「一般のおっちゃんおばちゃん向け」に書いたらしいが、それとしては明らかに不適当だ。書かれている内容が高度にして煩瑣すぎるし、それを「一般のおっちゃんおばちゃん」にとってわかりやすく書くこともできていない。
    喩えて言うなら「易しいレシピ」とかいう本で、「砂糖をほんの少し、かくし味に入れます」だけでなく、「なぜ砂糖を入れるかというと、塩味と対照的な甘味という味を足すことで〜」などと、長々と説明を加える感じ。それは確かに事実だし重要な情報ではあるけれど、とにかくメシが作れりゃいいという「易しい」レシピに必須の記述ではないだろう。
    ここらへんの齟齬は、著者の知識レベルが一般人に比してあまりに高度であることと、それに対して著者の「作家力」が低いことに原因がある。著者はプロの作家ではなく医者なのでもちろんかまわないのだが、ちょっと筆致がとりとめもないし(合間に挿入される「雑談」を指しているのではない)、比喩が効果を上げていないところがある。ここはこういうふうに喩えてもらえたらもっとわかりやすくなるのになあ、というところがいくつかあった。
    読んでいて思ったのが、そのへんを指摘・調整するのが編集者ではないのか、ということだ。そういう意味では、理系テーマの本だからといって「理系の編集者を!」というのは、必ずしもいいことではないのかもしれない。

    長々と腐すみたいになってしまったが、個人的な感想としていちばん大きなものは「著者に申し訳ない」だった。私にもう少し知識があったらめちゃめちゃ面白く読めただろうに、バカですみません、と。
    何人か指摘している人がいたが、本書の最上のターゲット層は若い医学生だろう。こういう人たちにはめちゃめちゃ面白く、わかりやすく、ためになると思う。

    2018/5/7〜5/12読了

  • 前半でざっと病理学のおさらい。
    分子生物学の基礎のインターミッションを挟んで、先生の専門のガンの話に。

    先生の講義と同じく、雑談がちょいちょい挟まって来るのですが、むしろそっちのがおもろい!
    この本のおかげで授業中の雑談の効用がよく分かりました。
    無味乾燥になりがちな学術的な講義も、内容に関連のある雑談によって、奥行と彩りが加わります。
    結果、雑談のない講義よりも格段に記憶の定着率が良いはずです。

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著者プロフィール

仲野徹(なかの とおる)
1957年、「主婦の店ダイエー」と同じ年に同じ街(大阪市旭区千林)に生まれる。大阪大学医学部医学科卒業後、内科医から研究の道へ。ドイツ留学、京都大学・医学部講師、大阪大学・微生物病研究所教授を経て、2004年から大阪大学大学院・医学系研究科・病理学の教授。専門は「いろんな細胞がどうやってできてくるのだろうか」学。2012年には日本医師会医学賞を受賞。著書に、『幹細胞とクローン』(羊土社)、『なかのとおるの生命科学者の伝記を読む』(学研メディカル秀潤社)、『エピジェネティクス』(岩波新書)、『こわいもの知らずの病理学講義』(晶文社)など。趣味は、ノンフィクション読書、僻地旅行、義太夫語り。

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