ギリシャ語の時間 (韓国文学のオクリモノ)

  • 晶文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794969774

作品紹介・あらすじ

ある日突然言葉を話せなくなった女。
すこしずつ視力を失っていく男。

女は失われた言葉を取り戻すため
古典ギリシャ語を習い始める。
ギリシャ語講師の男は
彼女の ”沈黙” に関心をよせていく。

ふたりの出会いと対話を通じて、
人間が失った本質とは何かを問いかける。

★『菜食主義者』でアジア人作家として初めて英国のブッカー国際賞を受賞したハン・ガンの長編小説

★「この本は、生きていくということに対する、私の最も明るい答え」――ハン・ガン

感想・レビュー・書評

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  • 雨の音、青色の夜明け、スプ(森)などの音や映像が浮かんでくる。
    静寂に包まれた物語。靴の音やものが壊れる音がよく響く。
    はじめての韓国文学。これは、ものすごいものに出会ってしまった。
    韓国文学ってこんなにレベル高いの??これは、映画に引き続き、流行りそう…。

    ソウルの古典ギリシア語のカルチャースクールが舞台。講師である男性は、視力を失いかけている。生徒である女性は、言葉に敏感なところがあり、そのためなのかはわからないが、言葉を失う。

    韓国とドイツ、見えると見えない。受動態と能動態、そして中動態。
    というように、なんとなく『どちらでもない』ものを意識させられる。

    定期的に開きたい本。
    言葉のスピードもこころなしかゆるやかに感じられ、詩的な文章にうっとりとする。
    空飛び猫たち、という文学ラジオpodcastの推薦本。

  • 言葉を発せない女と、視力を失いつつある男…孤独な男女の出会いという陳腐な物語に陥りがちな人物設定を、言葉や言語という視点で、このように描写するのかと感嘆。ちょっとこんな書き方の本は読んだこと無い。(ハン・ガン作品を読むたび抱く感想)

    読み易い本ではないが、この読みにくさこそが安易に理解したと言わせない孤独さを表していると感じる。

    孤独と孤独が出会っても孤独のままだし、何も解決してないが、孤独同士が響き合うところが心地よい。
    簡単に結論づけないことや、乗り越えるとか救いとか克服とかに着地しないことに作家の誠実さを感じるし、生きづらさを抱えている人に深く届くのは、こんな作品だと思う。
    読者を甘やかさない韓国文学…つくづく本当に信頼できると実感させてくれる。

  • 読みやすい物語ではない。語り手も時間も場面もあちこちにとぶ。散文詩とまでは言わないがそれに近いところもある。ただ、作者の語りたいことや思いは一貫しているので、それにのることができれば、読み心地は悪くない。
    ふたりの登場人物はどちらも、生々しい事物が言葉(不確かな意味)をまとった現実の世界との関わりに苦しんでいる。女は、生身の世界をゆがめながら増幅する自らの言葉を怖れている。心がハウリングを起こすことを怖れている。男は、形而上の言葉の世界に拠り所を求めるが、それと生身の世界との乖離に苦しむ。ふたりが抱える困難は、失明・失語症そのものというより、それを契機に向き合わざるをえなくなった、自分と他者、自分と世界との折り合いのつけ方だろう。
    その途上でふたりを結びつける役割を果たしているのが、今は誰も日常的に使うことのない、生身の世界をすでに失った、古典ギリシャ語だ。古典ギリシャ語とギリシャ哲学に関する挿話が、ふたりの世界との格闘の中に効果的に織り込まれている。

  • 著者の作品は三作目。
    静かだけど激しい、というのが共通した印象。
    そして、圧倒されて読んだ後に言葉を見つけられない、というのも共通。
    細かいガラスを体に浴びたような気持ち。
    そのガラスの一つ一つに問い掛けられているような気持ち。
    誰にも存在することに許しなど要らない、というのはとても大切な理想だけど、実際には存在を認めるかを傲慢に判断する者がいて、びくびく判断される者がいる。
    今は、そんなことを考えている。

  • 英国ブッカー賞をアジア人で初めて受賞したハン・ガンの新作は、カルチャースクールで古典ギリシャ語を教える男性と、そこにギリシャ語を学びに来ている女性の物語。視力を徐々に失う男性と、言葉を発せない女性。そのすれ違いと邂逅の物語は、とても映画的で凛とした空気を醸し出しています。静かな名作。

  • 少しづつ視力を失っていく古典ギリシャ語の講師の男と言葉をしゃべることが出来なくなった女。カルチャー・センターの教室で二人は出会う。そして、男の世界の話と女の世界の話が彼らの来し方を教えてくれる。二人の世界は出会うのだろうか。女の口から言葉が漏れるのだろうか。ギリシャ哲学の話もでたり、男のドイツでの出来事や女の子供のことも語られる。言葉の地位を再び確かめたくなるような小説だった。

  • なんと重いテーマに挑んでいるんだ…というのが一番の感想です。古代から使われ続ける言葉というものが、その使い手であるはずの「私」を超えてしまった現代において、自分が存在するはずの世界との結節点を見出せなくなった女性(古井由吉の『杳子』を思い出しました)。そして、視力を失いつつある中で、やはり世界との結節点を失いつつある男性。それぞれの自意識が内にこもったまま膨らんで膨らんで、読んでいて息苦しくなりました。最後はパーンといってしまうかと思いきや、意外とそうでもなく、針の穴から少しずつ息苦しさが抜けていきそうな余韻で終わります。言葉が持つ難しい命題を言葉で表現しようとする、作者の繊細さと懸命さを強く感じました。

  • 3年ほど前、韓国文学にハマるきっかけになった一冊。主要登場人物のこれまでの人生やエピソードひとつひとつの場面が映像のように目に浮かび、(ギリシャ語はもちろん)韓国語の知識などまったくないのに、ふたりの切実な“声”が聞こえてくるようで、心が震えた。翻訳の斎藤美奈子さんによるあとがきも必読。読書会課題本のため再読。

  • 暮らしのそばにはない古典ギリシャ語を、光を失いつつある人が教え、言葉を失っている人が学ぶ。
    世界から隔たって、孤絶しているような2人の感じていることが静かに語られて、その言葉にうっとりする。ハン・ガンさんの言葉が美しくて、いつかハングルで読めるようになりたい…。
    内側へ内側へと閉塞していくような2人が、少しだけ緩むような、閉じこめようとしていたものがこぼれるような、終わらない終わり。先は見えないのに、なんだか曙の明るさを感じて、ほっとするような。

  • 次第に視力を失ってゆく男、言葉を発する事ができなくなった女。男は「数千年前に死んだ言語」である古典ギリシャ語を教え、女は「自分の意志で言語を取り戻」すためにその教室に通う…。深い静寂の中でささやくような文体が素晴らしい。作者は本作について「生きていくということに対する、私の最も明るい答え」と語ったという。ぬくもりや輝きといったものから取り残された者達の孤独は確かに悲痛だが、それを語る「声」は静かで親密さを帯び、二人の傷や悲しみを掬いあげるようだ。何重にもイメージが共鳴しとても濃密な読書時間を得た(2011)

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著者プロフィール

著者:ハン・ガン
1970年、韓国・光州生まれ。延世大学国文学科卒業。
1993年、季刊『文学と社会』に詩を発表し、翌年ソウル新聞の新春文芸に短編小説「赤い碇」が当選し作家としてデビューする。2005年、中編「蒙古斑」で韓国最高峰の文学賞である李箱文学賞を受賞、同作を含む3つの中編小説をまとめた『菜食主義者』で2016年にア
ジア人初のマン・ブッカー国際賞を受賞する。邦訳に『菜食主義者』(きむ ふな訳)、『少年が来る』(井手俊作訳)、『そっと 静かに』(古川綾子訳、以上クオン)、『ギリシャ語の時間』(斎藤真理子訳、晶文社)、『すべての、白いものたちの』(斎藤真理子訳、河出書房新社)、『回復する人間』(斎藤真理子訳、白水社)などがある。

「2022年 『引き出しに夕方をしまっておいた』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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