つけびの村  噂が5人を殺したのか?

  • 晶文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (292ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794971555

作品紹介・あらすじ

この村では誰もが、誰かの秘密を知っている。

2013年の夏、わずか12人が暮らす山口県の集落で、一夜にして5人の村人が殺害された。
犯人の家に貼られた川柳は〈戦慄の犯行予告〉として世間を騒がせたが……
それらはすべて〈うわさ話〉に過ぎなかった。
気鋭のノンフィクションライターが、ネットとマスコミによって拡散された〈うわさ話〉を一歩ずつ、
ひとつずつ地道に足でつぶし、閉ざされた村をゆく。
〈山口連続殺人放火事件〉の真相解明に挑んだ新世代〈調査ノンフィクション〉に、震えが止まらない!

つけびして 煙り喜ぶ 田舎者

感想・レビュー・書評

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  • 2013年、山口県周南市の限界集落で起こった、5人殺害と2軒の放火事件、その原因を追ったルポルタージュ。報道当初はセンセーショナルだったが、その後量刑が確定すると、あっと言う間に忘れ去られたこの事件の、背景がどういうものであったのか、が分かりやすく書かれている。"村社会"で生きて行くことの難しさが感じられた。

  • 【まとめ】
    1 まえがき
    2013年7月21日、山口県周南市、須金・金峰地区の郷集落には、この日も朝から強い日差しが降り注いでいた。そよ風すら吹いていないのはいつものことだ。わずか12人が暮らす小さな山村は、周南市街地から16キロほどしか離れていないが、半数以上が高齢者のいわゆる限界集落である。

    その日の21時ごろ、突如として貞森家と山本家から火の手が上がった。この火事で3名が亡くなった。家の間は70メートルほど離れており、燃え移るものはなかった。
    そして翌日、近所に住む2名が撲殺遺体で発見された。「2軒の火災による3人の死亡」が、「5人の連続殺人と放火」に姿を変えた瞬間だった。

    捜査の結果、容疑者として保見光成――通称「カラオケの男」が挙がった。男は事件直後に行方がわからなくなっていたが、4日後に山中で発見される。彼は抵抗することなく警察の任意同行に応じた。
    犯行動機は保見の被害妄想であり、近隣住民が保見に「うわさ」や「挑発行為」そして「嫌がらせ」を行っていたと思い込み、徐々に妄想を深めて村人たちを恨んだ結果、事件を起こしたと認定された。

    保見の家のガラス窓には次のような不気味な貼り紙が掲げられていた。

    つけびして 煙り喜ぶ 田舎者

    保見は事件後に発見されたICレコーダーに、「うわさ話ばかっし、うわさ話ばっかし。田舎には娯楽はないんだ、田舎には娯楽はないんだ。ただ悪口しかない」と残していた。

    いったい、この集落に何があったのか?


    2 異常な村
    金峰地区の郷集落で生まれ育った保見は中学卒業後に上京し、長らく関東で働いていたが、90年代にUターンしてきた。しかし村人たちの輪に溶け込めず「草刈機を燃やされる」「家の裏に除草剤を撒かれる」「『犬が臭い』と文句を言われる」など、村人たちとの間に摩擦があったことをうかがわせる出来事が起こっていたのだ、と大手女性週刊誌は報じていた。
    また被害者のひとりである貞森誠さんが、かつて保見を刺したことがあったらしいと週刊誌は報じていた。

    筆者の取材に対し、河村二次男さんはこう語る。
    「(つけびの貼り紙に対して)これ、うちのうしろ(家の風呂場)に火をつけられたことがあるんですよ。わしはそれじゃないかも思うんですよ。今回の事件とは犯人が違うと思うんや。保見以外にも悪いやつがおったんよ」
    他の村人たちも河村さんと同様のことを語る。つけ火貼り紙の発端となったのは河村邸放火事件だったが、それは保見の犯行ではない。さらに、郷集落での火災は一度ではなく、窃盗も日常茶飯事だったことがわかった。住人たちは「事件のおかげで村に平穏が訪れた」と安心したような口ぶりであった。


    3 村八分
    事件直前の保見は、関東に住んでいたときの人物像とはまるでかけ離れた攻撃的な村人として、集落で敬遠されていた。村人に暴力をふるい、毎日のようにカラオケを大音量で流して熱唱していた。集落の作業にも自治会の仕事にも参加していなかった。
    保見は村人との交流が上手く行っていなかった。保見は都会から戻ってきた若者――と言っても、すでにこのとき40代半ばだったが――なのに、年長者たちに礼を言わず、集落の仕事にも参加をしない。川崎・稲田堤に住んでいた時とは違う尊大な態度の保見に、集落の村人たちは距離を置いていった。
    郷に入りては、郷に従え。とくに人口の少ない集落においては重要かつ唯一ともいえる処世術を、保見は拒否し、村人たちもそんな態度の保見を苦々しく思っていた。もともと保見の父親は村人から泥棒として知られており、保見も最初から良い目では見られていなかった。

    しかし、当初報じられていた「草刈り機を燃やす」というような具体的ないじめ行為は確認できなかった。


    4 うわさが村人を殺したのか?
    では、つけびの貼り紙が指す放火事件は誰の犯行だったのか?村人によると「殺された5人のうちの一人」だったという。その一人(仮にAとする)は保見を憎んでおり、保見が昔飼っていた犬や猫を毒殺した犯人と周囲から思われていた。
    村人「Aはいい人じゃなかった。殺されて当たり前ぐらいの人だった」
    加えて、Aと仲が良かったとされるBにも同じく犬猫毒殺の噂が流れていた。

    金峰地区ではコープの共同購入をしており、保見の家の向かいに住んでいた吉本さんの家が受取場所となっていた。ここで毎週金曜日に集まってはうわさ話をし、それが村中に拡がるという流れができていたという。村人の一人は「あれは危険なグループだった」と証言している。

    携帯電話も使えず、すぐに手に入る娯楽はテレビとラジオ程度。スマホも持つものがいないこの郷集落で「うわさ話」は都会におけるインターネットと同じような、当たり前の娯楽のひとつだった。他にする楽しみがないがゆえに、爪の先ほどの小さな情報が数人の輪の中で増幅し、肥大化し拡散されてゆく。
    そんな環境のなか、犬や猫が次々と死に、ボヤ騒ぎが起こる。これらの犯罪は、コープの寄り合いとは無関係の村人に嫌疑がかかっているが、疑心暗鬼になる者がいてもおかしくはない。あそこの集まりで悪口を言われたら、恐ろしい目に遭うのではないか――。

    本当に、この村はうわさ話ばかりだった。
    保見とその父、風呂場を燃やされた河村さん、コープの寄り合いの家の吉村さん、別の村人……、誰もかれもに対するうわさ話、しかも良くないことばかりが色々な人の口から出てきた。表面上は何事もないようにコミュニケーションを取るが、いない場所では悪口を言う、この村は、そのような者たちの集まりだった。他の集落からはこの郷集落自体が、「仲の悪い人間たちの集まりだ」と思われていた。

    「ここの地域の特性じゃな、これは。特性ちゅうのは······貧乏人の揃い、ちゅうたら大変失礼じゃけど、ここは、そんなに裕福な人が少なかったために、自分中心にしかものが考えられんかったちゅうことじゃな。ここで生まれたものは皆、自分を中心にしかものを考えんじゃった。自分さえよければ相手はどうなってもいい、という考え方で生活をして来たから、そういうふうなのが、あっちもこっちも、すべて、やることなすことすべて出ていた。

    度重なる犬や猫の薬殺、ボヤ騒ぎ。それらの事件は、妄想を加速させる燃料となった。村人たちはそんな事件をネタに、また「うわさ話」をはじめる。そして保見がいなくなったいまも、村人たちは「うわさ話」を続けていた。
    あいつが保身の本命だった。あいつは恨まれていた。あの人は犬を殺していた――と。

    金峰地区の生き字引、田村さんは、事件の真相を「氏神様の祟り」だと語る。
    「『氏神様があっても同じことで神主もつまらんし、氏神様もつまらんし、わしはもう氏子でもなんでもない』と口々に皆言いよった。それを言った人はね、全部淘汰されたね、あの事件で。考えてみるとね、氏神様のことで喧嘩をしたり文句を言ったり、神主の悪口を言ったり、氏神様の氏子を外れるちゅうて駄々をこねたりするのは······すべてすべて、今回の事件で死んでる。今考えてみると氏神様ちゅうのは力が強かったんやなと思うよ。

    そうは言うが、結局の原因は、保見の精神病であろう。
    両親が亡くなった。経済的にも安定しているとはいえない。村人たちとは距離がある。そういった状況下で妄想性障害を発症した保見は、もともとの性格が災いして、村人から助けられることもなく、ひとり症状を進行させていった。そうして貯金が底をつきかけたころ、凶行に手を染めた――。
    だが、保見の精神病を悪化させた村人の「うわさ」は、たしかに存在したのだった。

  • naonaonao16gさんの本棚で見つけました
    10年前、実際にあった事件のことは覚えていません

    限界集落での壮絶な事件
    それを執拗に追う作者
    その情熱に惹かれます
    作者はその集落に潜む「もの」を抉っていきます。
    事実だからこその重みでしょう

    ただ構成のまずさにちょっと引いてしまいました
    一冊の本として仕上げるには無理があったのでは……

    ≪ 「うわさ」って あっと広がる 村とSNS ≫

    • naonaonao16gさん
      はまだかよこさん

      なんと!
      ありがとうございます!!

      個人的に、途中で名前が伏せられている住人が、考えればわかってしまう部分はちょっと気...
      はまだかよこさん

      なんと!
      ありがとうございます!!

      個人的に、途中で名前が伏せられている住人が、考えればわかってしまう部分はちょっと気になりました…

      著者の情熱がとにかく凄かったですよね。
      2023/05/13
    • はまだかよこさん
      naonaonao16gさんへ

      この作者、すごいですよね
      noteとかで発信しておられたのですね
      (この辺りがホント分からないので...
      naonaonao16gさんへ

      この作者、すごいですよね
      noteとかで発信しておられたのですね
      (この辺りがホント分からないのです)
      紙の本のみですから(笑)
      コメントありがとうございました
      2023/05/13
    • naonaonao16gさん
      noteでの発信は、わたしも作品を読んで知りました。
      フォロワーを多く抱えるインスタグラマー?が発信することで、本当に多くの方の目に触れて書...
      noteでの発信は、わたしも作品を読んで知りました。
      フォロワーを多く抱えるインスタグラマー?が発信することで、本当に多くの方の目に触れて書籍化、という感じだったような…
      そんなこともあるんたなーと、ほぼnoteでの発信を辞めた身としては思いました笑
      2023/05/13
  • 7年前、テレビでの報道をよく覚えている。
    のどかな田舎で凄惨な殺人放火事件が起こったことの、そのセンセーショナルな部分だけが取り上げられ、連日ワイドショーに流れていた…そこに横たわる深い闇が怖くてほとんど見なかったけれど。

    この本のことを新聞の書評で読んだとき、テレビ報道とは違い、かなり深く取材していることが分かり、読んでみたいと思った。

    もともと、ノンフィクションの賞に応募するために書かれていた物に加筆されたらしく、少し重複するようなところがあったが、過疎の村の高齢者たち…口の重い人やとっつきにくい人もいる…に根気よく話を聴き、田舎=牧歌的と幻想を抱きがちな我々に、その真の姿を余すことなく伝えてくれている。

    日本の限界集落は1万3千以上あり、それは全体の21.3%を占めるらしい。
    そんなことも念頭に置きながら読むと、消滅を迎えようとしている村々の悲鳴のようにも思える。
    2020.11.18

  • 2013年7月、山口県の限界集落で起こった5人の殺害事件。
    その悲惨さから「平成の八ツ墓村事件」として騒がれた
    犯人はUターンしてきた1人の男性
    犯行の引き金となったのは「村八分」「噂話」だった…?
    この事件を追った高橋ユキさんのルポ

    なんだろう、読みながらこのじわじわくる恐ろしさ
    読んでいてモノクロでしか画が浮かばない
    最初にこの地区を訪れた時の入り口の家からして
    もう怖い。なぜ魔女の宅急便…

    事件を引き起こした保見光成は元々はこの地区出身
    Uターンで関東から帰ってきた
    彼を被害妄想的な精神異常に追い込んだのは村人の噂話だったという

    それがどういうものだったのか?本当なのか?
    を確かめるために著者の高橋さんは実際に何度も地区に足を運び、人々に話を聞くことから始める

    で、話を聞くうちに出てくるのは
    「誰もが知っている誰かの秘密」「噂」
    住民が少なすぎてお互いに知りすぎる色々
    そして娯楽のないなかでのウワサ話
    家族のようでいて他人という独特の近い距離感

    保見光成を狂わせたのは何だったのか?

    そんな中、事件の秘密を知るという人物の
    「事件から10年経ったら話す」という謎の言葉

    そしてついに明かされた事件の真相
    多くの人が拍子抜けするような内容だったと思う
    だけど事件に向き合って一つの決着をつけた高橋さんにとっては大きな真相だったと思う。

    私はある意味それが事件の真相だったというのも納得してしまった。

    人が人を殺す
    それは肉体だけではなく精神を殺すことも意味する

    コロナ禍で田舎暮らしが注目を集めている
    都会でも田舎でも人なしで人は生きていけない
    ただ、田舎は人間関係が狭く、人と人との距離感が近すぎる

    妬み、貧富の差、嫉妬、歪んだ正義…
    噂は時に人を殺す
    ネットの世界でも噂が人を殺す

    それはどこに生きても同じだったのだろうか…

  • 少し興味があったので読んでみた。
    正直犯人は真実を言ってないので着地点はないけれど、
    田舎の山奥、限界集落という枠の中に、
    地元だったとはいえ都会に出て戻ってきたものの、
    根も葉もない噂ばかりが日常のようにはびこってる独特な土地柄に翻弄され、思い込みがどんどん強まってどこかで糸が切れてしまったのか。
    もともと変わり者だったようだが、あの土地が更に犯人を追い詰めたのか。

    最後の方では被害者たちが氏神様の信仰心の浅さが理由の1つとあげられてもいる・・・
    著者は何度も現地に足を運んでるし、よく取材されている。

  • Twitterで見て、noteに課金したくち。書籍化なったと知って即買いした。
    力作である。「結局何もわからん」と怒っている人が散見されるが、それは著者のせいではなく犯人——あるいは事件、あるいは…言ってしまうなら、「村」のせいである。「何がなんだかわからない」ものをありのまま精確に書いたのだから、「何がなんだかわからない」ものになってしまうのは当然だ。

    それに、著者はしっかりこの事件を「解決」している。
    この事件の経過が世間に言われている「Uターン→精神病→妄想→架空のいじめ→犯行声明(「つけびして〜」)→犯行」ではなく、「精神病→Uターン→(他人への)いじめ告発・批判(「つけび〜」)→(犯人への)いじめ→妄想→犯行」であることをつきとめたのだから。
    中でも特に重要な発見は、犯人の精神病が結果ではなく原因であったことだろう。四十歳を過ぎて精神病を発症し、それがために仕事ができなくなり、経済的に立ちいかなくなって故郷に帰った。そこでいじめに遭い、それに囚われ、ますます病を悪化させてしまった。
    そう、他に気晴らしや、あるいはいっそ新天地を求めることができなかったのは、犯人が病ゆえに経済的に困窮していたからだ。そして、彼を狂わせたいじめ——終わらない陰口やうわさ話——の原因もまた、往時を支えた林業や椎茸栽培、竹細工といった産業も廃れ、朽ち果てていく村の困窮が原因だった。
    「田舎はろくな娯楽もない」「いじめられている」。実のところ、「謎に満ちた」この事件のすべては、開巻すぐに紹介される犯人のメモ書きに集約されている。あえて言うなら「たったこれだけ」のことが、大勢の生命を奪い、数知れない人を不幸にした。

    それにしても、著者ははるばる山口県まで取材に行くたびに、こまごまとしたお世話の要領を夫に「申し送りして」、子供を見て「もらって」いる。そうして書いた原稿が陽の目を見なかったことで、「夫も少し怒っている。取材のたびに大きな負担をかけたのだから、当然だ」…。
    ほとんどあきらめかけていた本作が思いがけずTwitterでバズり、各社からオファーが殺到しだした時、「私は子供の卒園・入学準備に追われていた。いまどきの園では卒園にあたり、親が企画運営する大がかりな謝恩会がある。それの役員に当たっていて心身ともに疲労困憊しており、何を考える余裕もなかった」…。
    いずれも男性なら、また女性でも日本以外なら、ありえないことだろう。これだけの枷でがんじがらめにしておいて、「男ほど残業できないからオンナは無能www」とは。男の卑怯卑劣姑息ぶりは、こんなところにも浮き彫りにされている。

    2019/10/1読了

  • noteで購入して読んではいたが、追加取材による加筆部分もあり、パラパラとめくってみて読みたいと思ったので改めて購入。

    内容は…背筋が凍ります。事件そのものというより、閉鎖的な集落の〈うわさ話〉に。それがものすごく気持ち悪い。
    都会の人にはピンとこないかもしれないが、田舎のうわさ話の広がる早さったら想像以上だ。ネットより早いかもしれない。百歩譲って真実ならいいが、そうじゃないことの方が多いから始末が悪い。皆が皆、味方であり敵。目立ったことをすればすぐヤられる。よそ者や成功者は恰好のマト。だから「上手いこと」やらないといけないのだ。妄想性障害を発症していたワタルには、その辺のやりくりが困難だっただろうと推測する。

    読んでいて諸星大二郎の『黒石島殺人事件』というマンガを思い出してしまった。村人たちの共同幻想や、殺人事件だというのにどこか他人事で曖昧な感想しか口にしない点など。刃物で人を刺しても、酔った席でのことじゃけんで済ませちゃうような?

    小さい子供さんがいたのに遠くまで足を運び渾身のルポを完成させた著者に敬意を表します。

  • 山口県にある、住人わずか12人の限界集落。
    ある男の手によって5人の男女が撲殺され、家を焼かれたという実際の事件を追ったルポ作品。
    彼の手によって残された、不可解な俳句や、著者にあてた手紙、周辺人物の話を通して、郷に存在していた「うわさ話」と彼の凶行の間に存在する、確かな関係性に焦点を当ててゆく。
    このルポでは、犯行に及んだ原因を、郷の住人がしていた「うわさ話」だとしている。妄想性障害を患う犯人は、そのうわさ話が、自分への中傷だと思い込んでしまい、近隣住民を次々と殺害。下着姿で山中に佇むところを、警察に発見される。
    もともとの疾患があるかは別として、最近、うわさ話が驚くほど人を簡単に闇に引き摺り込み、時には命が失われてしまうといった、悲しい場面を沢山目にする。学校や、ママ友、そしてSNS。
    実際にはたった数行の文章というとても少ない情報量をもとに、人は簡単に善悪や要否を判断し、自分とは無関係の個人を激しく攻撃してゆく。
    犯人が人を殺めてしまった事実は決して許されることではないが、そういった殺意は、なんの前触れもなく自然と個人の中に生まれるものではなく、周囲の無自覚かつ、無遠慮な干渉が、それを引き起こしうる要因として確かに存在しているのだということを、改めて思い知らされる。

    と、色々考えることはあったものの、この作品の半分くらいの内容は、事件を考察する上で蛇足と感じた。
    事件内容や犯人の思考、様子に関してはとても興味深かったのだが、著者がこの郷を訪ねた際の、家々などを表す描写に「不気味」といったような主観が入ってしまったり、犯人からの手紙に対して「妄想」と切り捨てず、もう少し冷静な考察があっても良かったのではないかという、残念な感じがあった。
    時間の空いたときに淡々と、一気に読み進めてしまうと良いかも。

  • このルポの怖さは「結局何なのか分からない」事にある。都会暮らしから見ると信じられない程閉ざされた小さなコミュニティにおける噂話が殺人にまで発展する。ネット社会とはまた違う、郷土の怨念みたいなものを感じる不気味な事例。

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著者プロフィール

高橋 ユキ (たかはし ゆき)
1974年生まれ、福岡県出身。
2005年、女性4人で構成された裁判傍聴グループ「霞っ子クラブ」を結成。現在はフリーライターとして、裁判傍聴のほか、様々なメディアで活躍中。

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