医療の外れで: 看護師のわたしが考えたマイノリティと差別のこと

著者 :
  • 晶文社
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感想 : 37
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  • Amazon.co.jp ・本 (233ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794972422

作品紹介・あらすじ

「病院の世話になるくらいなら死んだほうがまし」
そう言った彼に、わたしはどう答えたらよいのか?
若手看護師が描く、医療と社会の現実。

生活保護受給者、性風俗産業の従事者、セクシュアルマイノリティ、性暴力被害者などが、医療者からの心無い対応で傷ついたり、それがきっかけで医療を受ける機会を逸している現実がある。医療に携わる人間は、こうした社会や医療から排除されやすい人々と対峙するとき、どのようなケア的態度でのぞむべきなのか。看護師として働き、医療者と患者の間に生まれる齟齬を日々実感してきた著者が紡いだ、両者の分断を乗り越えるための物語。誰一人として医療から外さないために。

「白黒単純に塗り潰すのではなく、鮮明な解像度で描写する。
そうでしか伝えられない景色を、この本は示してくれた」
──帯文・荻上チキ

「社会から排除されやすい人々と医療従事者の間には、単なる快不快の問題でもなければ、一部の医療従事者にだけ差別心があるといった類の話でもない、もっと根深く、致命的なすれ違いがあるように思います。マイノリティや被差別的な属性の当事者が積み重ねてきた背景と、医療従事者が積み重ねてきた背景は、社会の中で生きているという意味では地続きのはずなのに、しかしどこかで分断されているような気がする。各々の生きる背景を繋げる言葉が必要だと感じ、書き始めたのが本書です」(「はじめに」より)

【目次】
1章 浩はどうして死んだのか──セクシュアルマイノリティの患者さん
2章 医療が果歩を無視できない理由──性風俗産業で働く患者さん
3章 殴られた私も、殴った山本さんも痛いのです──暴力を振るう患者さん
4章 千春の愛情は不器用で脆くて儚くて──自分の子どもを愛せない患者さん
5章 「看護師が母を殺した」と信じたい、高野さんの息子──医療不信の患者さん
6章 私は生活保護を受けようと思っていました──生活保護の患者さん
7章 飲みすぎてしまう葉子、食べられない私──依存症の患者さん
8章 性暴力被害を受けて、裁判を起こした──性暴力被害者の患者さん
9章 医療が差別に晒される時──医療現場で働く患者さん
終章 医療から誰も外さないために

感想・レビュー・書評

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  • 図書館の本棚で見かけるまで全く知らなかった、ノーマークの本書ですが、読むのが遅い私にしては非常に珍しく、1ページ目の1行目から集中して一気に読み終えました。
    医療従事者ではなくても1度も単語や文章に躓くことなく読める、そして読み物として非常に興味深い1冊で、そこにはセクシュアルマイノリティ、性風俗産業の従事者、暴力、子供を愛せない患者さん、医療不信者、生活保護受給者、依存性、性暴力被害、そしてCOVID-19の今に至る様々なエピソードに、裏付けとなるデータや考察が加えられた内容となっています。
    この1冊を読んでどんな背景、職業の人も差別されることなく平等に医療を受けられることが当たり前にあって欲しいと心から願う気持ちになりました。

    そこへCOVID-19によって医療従事者が差別されることになった現状、そこから医療従事者が辞めていき、1番初めのどんな人も平等に医療を、という当たり前であってほしいことが更に遠ざかってはいけないと強く思いました。

    本書の著者である木村映里さんは非常に聡明で繊細で、人情味に溢れ優しすぎるほど優しい、しかしそれと同じくらい強い気持ちを持った方という印象です。
    ご自身のこともかなり客観視して一見淡々と書かれているかのようでしたが、後書きにて苦しみながら、泣きながら、自らを削りながら書いてこられたと知り、本書に込められた思いを伝えたいという強い気持ちがより一層伝わりました。

    そして個人的には何よりも、最後の一文に涙が出そうなくらい感動しました。
    そして、1行目の台詞を語った彼がその時どうしていたのか、その後どうしているのか、そこも気になって仕方ありません。

  • 「呪い」を解くための祈りの書 木村映里『医療の外れで 看護師のわたしが考えたマイノリティと差別のこと』(晶文社)  - もしもし、そこの読者さま
    https://lucas-kq.hatenablog.com/entry/2020/11/13/180430

    「『医療の外れで 看護師のわたしが考えたマイノリティと差別のこと』」の記事一覧 | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)
    https://president.jp/category/c02828

    医療の外れで | 晶文社
    https://www.shobunsha.co.jp/?p=5910

  • 壮絶なバックグラウンドのある著者の、すごく説得力のある数々のエピソード。医療の真実のレポートだった。
    コロナに関する、医療従事者への差別の章が一番印象的でした。「医療従事者はこんなに頑張っているのだから差別してはいけない」は根本的に間違い。頑張っている、生産性がある、だから差別しない、というと、そうじゃないと判断された人たち(生活保護受給者、セクシャルマイノリティなど)への差別を後押しすることになってしまう。
    「差別はいけないから、差別しない」それでいい。

  • 看護の本で、納得というか医療現場の中で抱く違和感を言語化してくれているものと出会った。
    いつの間にか看護の世界に染まって偏った考え方になっているな、と思っていた時にこの本を読んだので本当に心抉られるようでした。
    この著者の素直な心、医療現場のおかしなところをはっきりとおかしいと言っていることに感銘を受けます。
    明日からまた看護師として、色々なことにぶち当たると思いますが、頑張ろうと思いました。

  • 看護師として、一人の生活者として、誰かの友人として、数々の体験をされている、そしてこんな風になって欲しい、こうしていきたい、と希望を持った展開を考えている。文句や苦言や諦観ではなくて、未来への希望があると感じた。この本にもたくさんの部分に付箋を貼って、フレーズにも入力した。私も少しでも応えていけたらと思う。

  • これだけ真摯に、これだけ複雑なのに単純化されやすい問題に向き合った著者の温かさと勇敢さに圧倒された

    とにかく、自分が思わぬところで無自覚に暴力性を発揮していることは、どれだけ意識しても意識しすぎることはないことだと強く感じた。
    特に、医療職に就く以上、その暴力性には特に自覚的でなければならない。その暴力性が導く医療不信が、その命までもを脅かすことになるから。
    とにかく命に真摯に向き合う姿勢こそが、あらゆる差別を乗り越える上で肝要だというありきたりな真実の重大性に改めて思いを馳せる。

    全ての医療関係者が読むべきだ

  • 私は文章を書くのが苦手で、うまく伝えられないのですが、読んでよかったと思う本です。
    なんなら、よく書いてくださいましたというような感じで、今看護師さんも大変ななかで、この木村にしか書けないであろうという内容でした。今、書いてくださったことが、多くの人に届いたり、理解したり、知ってもらえたらいいなと思いました。
    また、まさかの著者の木村さんは私と同い年で、のうのうと生活している私にとって、私も広い世界を見ていかなければならないような気になりました。

  • これから看護師になろうとしている人に読んで欲しいです。病棟でこんなことが起きるのか…とビックリしながら読んだし、色々なところでの「差別」の問題が取り上げられていて、かなり読みごたえのある本でした。

  • 『医療の外れで 看護師の私が考えたマイノリティと差別のこと』木村映里

    こんなにすーっと心に入ってくる文章、久しぶりに読んだ。物事をここまで自省的に、かつ鮮明に描けるのはすごいことだな。絶望するほど重いテーマなのに、前向きな願いに満ちている。


    noteやtwitterで色々と発信されている、現役看護師木村映里さんの初書籍。

    社会から排除されやすい人々と、医療との距離について。
    「セクシュアルマイノリティ」「性風俗」「院内暴力」「子どもを愛せない」「医療不信」「依存症」「性暴力」「医療従事者」の9つのテーマで、貧困や差別に対して医療従事者がどう向き合うべきか論じられている。
    筆者本人が当事者であったり、当事者とかなり近い位置での観察者である様々なケース。
    単なるナラティブとして現状を嘆くだけではなく、フラットで曇りない分析がなされている。そのうえで、医療従事者だけでなく、私達全員がどうあるべきか、まっすぐに問いかけてくる。

    6章、生活保護のお話が一番心に残った。
    「なんとなく努力しない人たちのような気がする」記号として、分かりやすい侮蔑の対象となっている人達。自分にもたらされる快・不快をその人の属性に帰結させてはならない。生活保護に限らず、人間に付随する属性や記号の扱いはいつだって難しい。


    木村映里さんの人柄が文章の端々からあふれでているように感じる。『「もうだめかもしれない」と思う度に日常の岸に引き戻してくれた大切な人達』が、誰にとっても存在するものであってほしい。愛に溢れた願い。

  • きっと筆者の評価しない姿勢が、これだけの言葉を彼女に託したんだろうなぁと思った。

    たぶんセクシャルマイノリティー、シングルマザー、水商売、生活保護、精神疾患など
    関わることがなければ他人事のように感じてしまう自分の周囲にあるものを身近に捉えてそれを文章に認めたことに感謝を覚えた。

    自分のことを語るにも勇気がいる。
    とても芯がある人だと思った。

    別の著書も読んでみたいと思った。


    著作の中で医療従事者の自分も心に留めておこうと再認識した箇所

    ***
    友人の医師は、生活保護受給者への医療従事者の目線に関して、「生活保護の受給者のごく一部に、どうしようもない性格で社会不適応であるがゆえに働くこともできず、病院に来てはクレーマーのような態度を繰り返す、こちらのモチベーションを根こそぎ奪っていく人がいて、少数だが複数いる上に同じような経過を辿っていく。医療従事者は超精鋭とでもいうべきそういった特殊な生活保護受給者の相手ばかりしているうちに、生活保護受給者全体に対する偏見が形成され、生活保護叩きに至る」と話します。その上で、「医師や看護師は彼ら彼女らを受け入れ治療することを強いられる。彼ら彼女らをつまはじきにしてきた社会からそれを要請される。生活保護の知識がなければ、生活保護受給者とはあまねく性格のゆがんだつまはじき者だというイメージが植え付けられかねない」と語っていました。

    ***

    自分も病院でその偏見を耳にしていたし、その偏見を信じていた時があった。けど、生活保護について知るうちに「生活保護」で括ることに違和感を覚えるようになった。今の自分なら同じようなことを後輩に言う気がする。

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著者プロフィール

木村映里(きむら・えり)
1992年生まれ。日本赤十字看護大学卒。2015年より看護師として急性期病棟に勤務。2017年に医学書院「看護教育」にて、看護における用語と現実の乖離について、「学生なら誰でも知っている看護コトバのダイバーシティ」というタイトルで1年間巻頭連載を行う。2018年より「note」での発信を開始し、反医療主義、生活保護、タトゥー、性暴力被害といったテーマについて執筆。本作が初の著書となる。

「2020年 『医療の外れで』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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