転がる香港に苔は生えない

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  • 情報センター出版局
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レビュー : 30
  • Amazon.co.jp ・本 (582ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784795832220

作品紹介・あらすじ

バブル・返還・経済危機。激動する香港で丸2年、香港老若男女の生きざまを切り取った長編ノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • 1997年、香港返還。
    その前後2年間を香港で過ごした筆者が、激動の時期の香港社会を書き綴ったもの。
    談話室でのお勧めを受けて借りてきた。580頁という長編に、読めるかなと不安に思ったのも最初だけ、評価に違わず、これはすごい本だった。
    香港の熱気、匂い、情景、喧噪。香港人の必死さ、自己主張の強さ、タフさが、びしびしと伝わってくるのだ。

    “「権利はできるだけたくさん持ちたい。それが香港人というものよ。」”

    “「香港人は香港のことしか見てないし、香港の将来は自分が考えなきゃいけないという自意識がほとんどない。(略)ずばり、金をもうけて、自分と家族が生き延びること。香港人のいう『自由』は、経済活動が自由にできて、好きな所に行けて、食卓で好き勝手に言えること。」”

    “安くていい物を消費者のみなさんに提供する。そんなめでたい話はこの街では通用しない。安い物は悪くてかまわない。なぜなら安い物を買う以外には選択肢がないからである。金がない人間には正当な扱いを受ける資格はない。悔しかったら金を出せばいいだけなのだ。(略)人々が金を得ようと血眼になるのは、尊厳を買うためなのである。”

    “人脈―香港においてそれはあらゆるドアを開ける鍵であり、不可能を可能に近づける魔法である。彼らは何重にも交差する膨大な人脈の中で生き、人間関係を何よりも大切にする。”

    日本人が英語を苦手とするのは、言語的に英語が日本語から遠いということもあるだろうけれど、日本で生きていくうえでの必要性が乏しく、必死に勉強するモチベーションに欠ける、というのが本当のところだと思う。
    私も時折思い出して勉強するけれど、習熟までには届かない。
    日本国民で、日本国の庇護を当たり前に受けることができて、将来的にも日本という国で、似たような価値観の人たちと、当たり前に暮らしていけると思っている私たち…。

    そんな日本人からは、香港人の必死さというのはすぐにはわからない。
    現在でも、平均的な香港人は、3か国語を話す。香港人が日常的に使う広東語、中国の共通語である北京語、そして英語。(返還前の香港人は、あまり北京語を話せなかったというから、ここ15年で、多くの人が勉強をして学んだのだという。)
    そして大学でもう一つの言語を学び、四か国語を流暢に操る人も少なくない。
    でも気持ちは中国人ではなくて、北京語よりも英語を話すことを好む。
    ほとんど移民で成り立っているのに、大陸を見下す歪な形の自意識の高さ。
    香港返還を前にした空前の移民ブーム。
    人に先んじて自分の居場所を確保する。混沌とした香港での生存競争の激しさは日本の比ではない。
    彼らを駆り立てるのは、今いるところにいつまでいられるかわからないと常につきまとう不安だ。

    清貧という言葉がある日本では、貧乏でも工夫をして、気持ちは卑屈にならず、見下されずに生きていくことができる。
    でも、香港ではそうではない。
    日本でも貧乏だったけれど、香港にきてから貧乏くさくなった、という筆者と日本人の友人との会話が印象的だった。
    国は未来を保証してくれない。確かに信じられるのは自分自身の才覚、家族と人脈、そしてお金なのだ。

    “香港の特殊性は、元をたどればほとんどの人がここ以外の土地から流れて来た移民だったという点に尽きる、この場所は永遠ではない。土地も国家も信用に値しない。だからここでできるだけ多くのものを早く手に入れ、さっさと逃げていく。その切迫感が香港の混沌を生み、未曽有の活力を生み出し、土地に必要以上の執着を持たないフットワークの軽い香港人気質を形成した。”

    変化し続ける香港。この題名は本当に秀逸。
    私は10年前に初めて香港に行き、つい最近もまた香港に行く機会があった。
    香港的な街並みを残そうという機運はほとんどなかったのか、古い建物は新しい高層ビルへと生まれ変わり、私の思うところの「香港らしさ」は消えていた。
    でも、過去を引きずらず、常に今、そして未来のみを見続ける、変わり続けることこそ「香港らしさ」なのかもしれないと、この本を読んで思う。

    筆者は写真家だけれど、写真はほとんど出てこない。
    文章だけで、ここまで読ませる。ここまで香港に惹きつけさせる。
    筆者が全身全霊をこめて書き上げたこの一冊。香港に興味のある人みんなに読んでほしい。

  • リアルタイムというか、刊行直後に読んでいたら、もっと違った感触だったのかもしれない。

  • 米原万里にオススメされてはいたものの、その厚さにビビッて手が出ていなかった一冊。たまたま図書館で見掛けて、返却期限をモチベーションに読了。しかし、そのボリュームをまったく感じさせないほどの面白さで、ほとんど一気読みだった。

    文章自体は決っして巧くはないし、香港返還という世界史的大事件をテーマにしているにしては、背景の分析も歴史的事実の評価も甘く、資料的な価値は薄い。しかし、この本には、返還前もその後も、香港に恋して、香港の人々を愛した、率直で素朴な文章が詰められている。特に、喫茶店でたまたま見かけた美男子に対する想いと、ついにその想いを吐露する瞬間の描写は、女性らしいファンタジーと香港らしい風景が交差する素敵なシーンだ。香港で出会ったカップルを撮った表紙写真も素晴しい。

    まあ、本としては贔屓目に見て星 4つくらいではあるのだが、たまたま、今の自分の境遇と、転がり続ける香港の中でたくましく生き続ける人々の描写がマッチしてしまって星 5つ。どんな本にも出会うべき時期というものがあるものだが、もし、この本が自分の背中を押してくれたのだとしたら、自分にとって人生で最も大切な一冊になることだろう。

  • 返還前後の香港に2年ぐらい住んで書いた本。感想としてはとにかくナゲーという感じだが、庶民の中に入りこんで書くような仕事は、一生に何度もできるようなものではないだろう。時折出てくる美少年好きの側面がちょっと怖い感じがしたが、まあ力作だろうとは思う。

  • 香港の中国返還の瞬間(1997年7月1日)を体験するため、2年間香港の下町の古アパートで暮らした、香港滞在記。

  • これも弟がマーケットプレースでわざわざ取り寄せてくれた本。昔の香港好き熱が再び高まって、2晩徹夜で読了した。作者がちょうど私と同じ年代なので、友達の中の一人が書いたような気がした。

    大学を卒業する直前に香港と台湾に家族旅行をし、香港の活気に触発され、香港で就職したいと思った。今のように行動力がなかったので、実現しなかったけれど、香港で就職していたら、私の人生は180度違ったものになっていたはず。でも、この本を読んで、タイのチェンマイには住めるけれど、香港のすさまじい生存競争、厳しい住宅事情の中でやっていくのは無理だなと思う。

    香港は時々出かけて触発されたい所だ。中国文化も素晴らしいと思うし、
    中華料理なんて、日本料理より好きかもしれない、だけれど、私は日本人で本当に良かった。この夏からドラゴンエアーがチェンマイ香港直通を始めたというので、返還前に香港映画を見に足繁く?通った香港久しぶりに日本に帰国する途中で寄りたい。どんな風に変貌しているかとっても楽しみ。

  • うん。読み物としてはとてもおもしろい。やはり文章が上手だなーと。当時の香港の生活がにおうように伝わってきます。

  • 『のりたまと煙突』を読んだ時、久しぶりに文章のうまい人にであったと感じた。その前に書かれたもので、大宅壮一ノンフィクション賞を受賞されているというので読んでみた。
    文章的にはちょっと感傷的なきらいがあるけど、これから一時でも香港で生活しようと思う人の必読書といえるのではないかな。10年たってるから変わったところもたくさんあるだろうけど、変わらないものもあるだろうし、こういう歴史を経ていることは知っておく必要があると思う。香港人ってすごいエネルギッシュ。彼女は本当に好きなんだろうなぁ。人とのつながりが何より重要で、自己主張が強くて、いいたいことをいいあう。正直、自分にはついていけないと思う反面、憧れる面もある。
    阿彬の話は切ない。阿強も劉母子も。
    子俊の顔が見たいなぁ。

  • 2011.10.29読了。

    ずいぶん昔に読んでから、このたび再読。

  • 香港が中国に返還される年、確かに私は「香港へ行っておこう」と夢見たのだった。
    何かが動く、そんなドキドキワクワクがあった。

    良い時代だったなぁ・・・今、当時を振り返るとしみじみ思う。
    未来がある、変化を期待できる時代だったんだな。

    ずっしり重いこの本は返還前後の香港を十二分に伝えてくれる。
    香港に暮らす人々がたくさん登場し、想像が間に合っていなかったいろいろな事情を教えてくれた。アジアの大陸にありながらイギリスだという香港のどこかファンタジーめいた「租界」のロマン?など一撃で吹き飛ぶリアル香港。

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