怪獣使いと少年: ウルトラマンの作家たち 金城哲夫・佐々木守・上原正三・市川森一

著者 :
  • 宝島社
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784796606714

作品紹介・あらすじ

差別・犯罪・初恋・妄執…。四人の作家が怪獣に託したをとともに体験し直す渾身の力作。

感想・レビュー・書評

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  • よくまとめられている。引用は豊富で、社会問題の背景にまで及ぶ論述には膨大な量の取材の跡が見られる。そして作品への思い入れの強い感想というマニア的な展開にとどまらず、著者はオタクを自認するも独善的な論調に陥っていない。優秀な部類の論文だと思う。
    正直なところ、私は先行するウルトラ本同様に制作裏話を期待していた。だがこの本は必ずしも裏話の披露にとどまらなかった。その辺りの著者の思いは、本書冒頭の「はじめに」で告白される。

    著者の切通さんは幼少期、周りから“隔てられている”と感じ、学校が終わるとすぐに帰宅してテレビの再放送を見ることだけが楽しみな子どもだった。そして当初は私たちと同じように怪獣に興味を示したものの、次第に番組に登場する怪獣や登場人物が、自分の隔絶感とシンクロするような感覚を得ていく。
    つまり切通少年はウルトラシリーズのストーリーに、自分が外部と相容れない感覚と同じ波長を感じたのだ。さらに、そのような波長をストーリーに含ませた脚本家は、自分と同じように「周囲とのズレによって周囲と感覚が共有できないのでは?」とまで考えるようになった。(切通さんはその共有できない感覚について、「現実世界の生き難さ」と表現している。)

    そして、切通さんはウルトラシリーズで脚本を書いた4人への注目に至った。
    では4人の脚本家はどのような「生き難さ」を抱いていたというのか?詳しくは本書に書かれているとおりだが、「沖縄と本土」「戦争体験」「母の死」などを原因としてそれぞれの脚本家が抱える(と切通さんが考えた)外部からの疎外感に対して、切通さん自身は沖縄出身ではないし戦後世代であるものの、自分の体験との共通の要素を見い出そうと大胆に試みている。

    したがってこの本は怪獣論ではなく、他方で差別論でも戦争論でもない。
    では何かというと、切通さんが半生で体験した「生き難さ」が、自分自身の生き方が誤りだったからでは決してなく、名作と呼ばれる作品を残した脚本家たちと共有できる「希少」で「貴重」な体験によるものとして、切通さんの生き難かった生き方にウルトラシリーズの各場面をフィードバックさせることによる、自身の半生の再定義だと私は読んだ。

    この本のタイトルにもなった、帰ってきたウルトラマンのエピソードの1つ「怪獣使いと少年」のラストシーンでは、少年にとって唯一の“肉親”だったメイツ星人が斃れた後も、彼は地中深く埋められたとされる宇宙船を呼び出すために地面を掘り続ける。今まで外界と友好的な関係性を結べなかった切通さんは、このシーンの中に、自分が外界に対して取るべき態度が突然明瞭に見えたのだろう。それはつまり、この本がウルトラシリーズの解説本の名を借りた、切通さんの人生論であることをさし示している。

  • 息子とともに、もう一度ハマった昭和のウルトラシリーズを、立体的に理解しようと手に取った本。
    私は80年代後半の生まれで、ウルトラマンはVHSで見た世代。なので、80年代の特撮やドラマが次々と繰り出され、ちょっと読みづらさが出てしまった。

    他方、昭和のウルトラマンは、ここで取り上げられた4人の脚本家のように、しっかりとした思想(←その思想の良しあしは問わない)の持ち主によって作られた作品だからこそ、令和の時代でも充分に堪えうるのだと、認識させられた。



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    【要約】


    【ノート】

  • 1993年刊。表題から著者が好きな脚本家が誰かは判ってしまいそう。第一期ウルトラシリーズで脚本を書いた4名(なお、上原は、二期シリーズの帰ってきたウルトラマン、市川は同ウルトラマンエースでのメインライター)について、彼らがウルトラシリーズで手がけた脚本から、その人物像、個性のみならず、これらが生まれた時代背景を解説する。類書が何冊かあるので、被る箇所も多いが、こう並べられると、当時のウルトラシリーズの持つ熱さ、メッセージ性を感得しない訳にはいかない。誰か、平成シリーズでこんな本を書いてもらえないかなあ。
    もっとも、本書はウルトラシリーズの脚本に限って評しているわけではない。市川森一の「問題意識高い監督山際永三がじわっとテレビ局からパージされていく」という談などは、確かに山際は「帰ってきたウルトラマン」の監督の一人ではあるものの、そこに止まるわけではなく、むしろ、本書の持つ、テレビ業界の持つ独特の事なかれ主義を告発する裏面が露わになっているよう。

  • よく「映画は監督で観ろ!」とかバカなこと言ってくる人がいますが、それはもちろん大切なことだけれど、ホンがなかったら結局ドラマも映画もできません。
    黒澤明が最も大事にしていたのは当然ホン、岡本喜八にも「とにかくホンを書け!」と言っていたそうです。

    この本は、初期ウルトラシリーズ(市川森一がメインライターのAまで)の、いわゆる名作回の代表的な脚本家4人のシナリオを取り上げて、彼らがどういう人生を送ってきたのかとともに解題したもの。
    よく言われてますが、ウルトラセブンにはベトナム戦争の影響が色濃く反映されている。ユートピア的未来展望が描かれていたウルトラマンからウルトラセブンへの変化。

    以下自分の思ったこと。

    ウルトラマン=在日米軍とよく言われていて、たしかにそうだけれど、セブンは葛藤する。ここにおいて気づいたけど、3つのメタファーが重層的になっているのではないかと。
    1.ウルトラマン=在日米軍、科特隊=自衛隊、地球=日本
    2.ウルトラセブン=冷戦下、ベトナム戦争の時代、東西陣営の狭間で迷える日本の若者(スチューデントパワー)
    3.ウルトラマンやセブン=沖縄と日本の架け橋になりたかった金城哲夫

    当時は子ども向け番組と普通のドラマでスタッフが分かれていなかった。
    のちに大河ドラマも手がけた市川森一、ATG系の佐々木守、取り上げられていないけどのちに金八先生を作り、やはり大河ドラマも手がけた小山内美江子。

    また、関連作品『泣いてたまるか』は寅さんシリーズを生み出した。
    やはり関連作品『コメットさん』はウルトラマンともどもメキシコで大人気、アルフォンソキュアロンやアレハンドロGイニャリトゥ、ギレルモデルトロらに大きな影響を与えたのではないか。

    市川森一の『悪魔と天使の間に…』の副読本として読んだのだが、(出来の悪い)グロンケンの回が取り上げられてないのには笑う。
    しかし、コメットさん72話『僕は挑戦者』とシルバー仮面15話『怪奇宇宙菩薩』の間にできたのがグロンケンの回、というのを調べた結果わかったのでよかった。

    高崎に空襲がなかったという記述は間違いじゃないのかな。昨年出た増補改訂版で確認してみたい。

  • 今年の抱負②:通勤読書の35冊目を読み終わりました。

    この人の本、別のも読んでみたくなった!

  • 20年前か。

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著者プロフィール

きりどおし・りさく
◉1964年東京生まれ。和光大学人文学部文学科卒業。
「民族差別論」を学ぶ。編集者を経て文筆業。
映画、コミック、音楽、文学、社会問題を
クロスオーバーした批評活動を行なう。
『宮崎駿の〈世界〉』で2001年サントリー学芸賞受賞。
主著『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』
『本多猪四郎 無冠の巨匠』(ともに洋泉社)、
『山田洋次の〈世界〉』(ちくま新書)、
『お前がセカイを殺したいなら』(フィルムアート社)、
『ある朝、セカイは死んでいた』(文藝春秋)他多数。

「2016年 『15歳の被爆者 歴史を消さないために』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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