要旨
プロローグ
著者の本編における問いと思いが宣言される。具体的には、①前著『精神医療に葬られた人びと 潜入ルポ 社会的入院』(光文社新書)の取材で出会った長期入院者が、震災後どこに流れ、何をしているかについて追跡取材すること、②ひた隠しにされてきた精神医療の暗部を、震災がどのように白日のもとに晒したかを明らかにすること、である。
第一章 3.11―そのとき、入院患者は
福島のF病院を「終の棲家」と考えていた長期入院者が、震災によって「安住の場」を失い、着の身着のまま病院を後にし、各地の病院を転々とする様子が主に描かれる。その過程で、長期入院者の特異な人生が浮き彫りになる。例えば、精神病院で人生の大半を過ごしてきたこと、家族が引き取りを拒否するためF病院が廃院になっても行き場所がないこと、などである。
また、震災がさらけ出した精神病院の暗部が示される。F病院の老人閉鎖病棟に4人の遺体が約1か月間放置され、同グループの介護老人保健施設の入所者を含む約50人の寝たきり高齢者が搬送途中や搬送後に死亡した事実が例示される。これらの杜撰な医療や患者主体でない医療は、日本の精神病院の体質であり、その体質が震災を期に露呈したものである、と著者は主張する。
第二章 精神医療の元凶「保護者制度」
「社会的入院」が日本ではびこる要因が3つ挙げられる。すなわち、①民間精神病院の経営問題、②保護者制度、③社会支援の不備、である。これらの3つが相互補完的に作用し、過剰な負担を背負う保護者と利益追求型病院経営の利害が一致した結果が、「社会入院」を引き起こす、と著者は主張する。
また、「社会的入院」は、とりわけ保護者制度が元凶であり、障害者本人の意思とは関係ないと著者は主張する。その根拠を、長期入院者の具体的な回想を用いて明らかにしている。
第三章 患者が病院の固定資産にされるカラクリ
第二章で述べられた「社会的入院」の3つの要因について、特に、民間精神病院の経営問題に焦点があてられる。それを、著者は「病院経営維持のための患者の固定資産化」と表現する。そして、その「固定資産化」がわが国の政策や制度によって側面的に支えられてきたことを示す。具体的には、診療報酬の安さと医師・看護師設置基準の「精神科特例」、作為的な入院形態の切り替え、社会的入院解消のカモフラージュとしての療養棟、などである。
また、治療を名目とした隔離収容の実態を「病院による強権支配体制」と呼び、その恐怖について具体的な証言が示される。また、ソーシャルワーカーやОTの存在が社会的入院を促進する面があることを、具体的な体験談を通じて示される。
第四章 抑圧された収容生活からの脱却
「社会の過剰な治安観念と精神病院の経営維持のために奪われてきた人生」を取り戻そうとする人びとの姿が描かれる。例えば、F病院の閉鎖によりノーマライゼーションへの機会が得られたが、閉ざされた入院期間があまりに長いため社会復帰に対して心が揺れ動く様子が示される。
また、日本の精神医療現場の不祥事を列挙する一方で、人権的なカラーの経営方針を持つ病院の主治医とPSWが社会復帰を目指す長期入院者の意思を尊重する場面も示される。