生きる技術は名作に学べ (ソフトバンク新書 122)
- ソフトバンククリエイティブ (2010年1月19日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784797356915
感想・レビュー・書評
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著者は、映画評と書評中心の人気ブログ「空中キャンプ」の人。私も同ブログはいつも愛読しているので、本書も読んでみたしだい。
たぶん著者が決めたのではないと思うが、本書のタイトルはいただけない。これではまるで、名作をダシにして陳腐な人生論をかます安手の自己啓発書のようだ。実際には、本書に自己啓発書的要素は微塵もない。「生きる技術」を学ぶための本にはなっていないのだ。
ではどういう本かといえば、「エッセイ色の濃い、風変わりな名作案内」といったところ。
『異邦人』『車輪の下で』『赤と黒』『老人と海』『月と六ペンス』『初恋』『アンネの日記』『ハックルペリィ・フィンの冒険』『一九八四年』『魔の山』という問答無用の名作10編(『アンネの日記』のみフィクションではないが)を一章一作ずつ取り上げ、解題したものなのである。
この10編はどういうセレクトかといえば、“誰もがタイトルは知っているが、全部読んでる人は意外に少ないんじゃない?"という線だろうか。“本来なら10代の多感な時期に読んでおくべき本だが、読み損なうと、大人になってから改めて読む気にはなれない本"といってもよい。
そういうポジションにある名作を著者が改めて真正面から読んでみて、いまの時点ならではの視点から論じていく本なのである。
『異邦人』を取り上げた第1章はつまらなくて首をかしげたが(なぜこれを最初に持ってくるかなあ)、ほかはみな面白かった。
既成の名作案内のような“公式見解"から一歩離れて、名作に意外な角度から光を当てている。たとえば、『初恋』を取り上げた章では、ヒロインのジナイーダを『痴人の愛』のナオミと引き比べ、次のように述べる。
《わたしがかつて、『痴人の愛』を読んだときに感じたことは、ナオミは悪女なのではなく、悪女であることを求める男性の期待を無意識のうちに察知し、悪女という役割を彼女なりに解釈したうえで、それを演じているのではないかということだった。
(中略)
ジナイーダという女性に対する印象もこれに近いものがあり、彼女は周囲にたくさんの崇拝者をしたがえ、自分にひれふす男性たちの間できわめて尊大にふるまうのだが、こうした態度は崇拝者である男性たちにたいへん好評である。》
論文臭は皆無。淡いユーモアをにじませたエッセイに近いタッチで、名作の魅力が語られていく。「生きる技術」はまるで学べないが、名作案内としては楽しめる本だ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ブログからこうして一冊の新書になるなんてすごいと思いながら読む。本だけでなく映画などのサブカルも豊富で物知り。博識な人が本を出版できるんだなとも思った。いちばん面白かったのが『ハックルベリー・フィンの冒険』のハックと、『トム・ソーヤの冒険』のトムを比較した章。トムがいかにちゃっかりしているかの説明が明快で読んでて本を読みたくなった。10代の読書バカだった(本を貪るしかやることがなかったあの黄金時代)時期は人生のお宝タイムだったんだな…。もっと色々読めばよかった。
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文学
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文章力高めな著者。ここに出てくる作品を読みたいと思わせられる。だけど、タイトルに書かれた生きる技術は、あまり学べなかった気がする。
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名作のあらすじを知る、かつ他の人がそこから何を抜き取ったかを知るにはいい。だけれども名作の意味はあくまでその重厚な語り口を自ら体験し、自ら感じ、意味付けすることである。
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読んだことのある底本はもう一度読みたいと思ったし、読んだことのない底本は読んでみたいと思った。
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空中キャンプ
http://d.hatena.ne.jp/zoot32/
が好きなので読んだ。
年を取ってしまうと名作に手を出すのが気恥ずかしい感じになっちゃうけど、どんどん手を出していこうと思えた。