生きる技術は名作に学べ (ソフトバンク新書 122)

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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784797356915

感想・レビュー・書評

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  •  著者は、映画評と書評中心の人気ブログ「空中キャンプ」の人。私も同ブログはいつも愛読しているので、本書も読んでみたしだい。

     たぶん著者が決めたのではないと思うが、本書のタイトルはいただけない。これではまるで、名作をダシにして陳腐な人生論をかます安手の自己啓発書のようだ。実際には、本書に自己啓発書的要素は微塵もない。「生きる技術」を学ぶための本にはなっていないのだ。

     ではどういう本かといえば、「エッセイ色の濃い、風変わりな名作案内」といったところ。
     『異邦人』『車輪の下で』『赤と黒』『老人と海』『月と六ペンス』『初恋』『アンネの日記』『ハックルペリィ・フィンの冒険』『一九八四年』『魔の山』という問答無用の名作10編(『アンネの日記』のみフィクションではないが)を一章一作ずつ取り上げ、解題したものなのである。

     この10編はどういうセレクトかといえば、“誰もがタイトルは知っているが、全部読んでる人は意外に少ないんじゃない?"という線だろうか。“本来なら10代の多感な時期に読んでおくべき本だが、読み損なうと、大人になってから改めて読む気にはなれない本"といってもよい。
     そういうポジションにある名作を著者が改めて真正面から読んでみて、いまの時点ならではの視点から論じていく本なのである。

     『異邦人』を取り上げた第1章はつまらなくて首をかしげたが(なぜこれを最初に持ってくるかなあ)、ほかはみな面白かった。
     既成の名作案内のような“公式見解"から一歩離れて、名作に意外な角度から光を当てている。たとえば、『初恋』を取り上げた章では、ヒロインのジナイーダを『痴人の愛』のナオミと引き比べ、次のように述べる。

    《わたしがかつて、『痴人の愛』を読んだときに感じたことは、ナオミは悪女なのではなく、悪女であることを求める男性の期待を無意識のうちに察知し、悪女という役割を彼女なりに解釈したうえで、それを演じているのではないかということだった。
    (中略)
     ジナイーダという女性に対する印象もこれに近いものがあり、彼女は周囲にたくさんの崇拝者をしたがえ、自分にひれふす男性たちの間できわめて尊大にふるまうのだが、こうした態度は崇拝者である男性たちにたいへん好評である。》

     論文臭は皆無。淡いユーモアをにじませたエッセイに近いタッチで、名作の魅力が語られていく。「生きる技術」はまるで学べないが、名作案内としては楽しめる本だ。

  • ブログからこうして一冊の新書になるなんてすごいと思いながら読む。本だけでなく映画などのサブカルも豊富で物知り。博識な人が本を出版できるんだなとも思った。いちばん面白かったのが『ハックルベリー・フィンの冒険』のハックと、『トム・ソーヤの冒険』のトムを比較した章。トムがいかにちゃっかりしているかの説明が明快で読んでて本を読みたくなった。10代の読書バカだった(本を貪るしかやることがなかったあの黄金時代)時期は人生のお宝タイムだったんだな…。もっと色々読めばよかった。

  • 生きる技術は学べないかもしれないが、(誰でも知っている)文学作品を著者の視点から、わかりやすく(面白く)解説。
    ●ヘミングウェイ 老人と海:ヘミングウェイは男性性を追求した作家といわれれ、本書の主題も主人公の男性性を示そうとするが、ふられることで、その呪縛から解放されるところにある。主人公の老人は恵みを与えてくれる海を女性と考えており、漁により対決しようとするが獲物が得られない日が続く。ようやく、海からの恵み(カジキマグロ)を持ち帰り、男をあげようとするが、サメに邪魔され、結局残骸のみとなり、海からの恵みを得ることは許されない。主人公はこれを機に男性性を得ることからの呪縛から解放され、満足であった。
    ●カミュ  異邦人:主人公は母親の葬儀の翌日、海水浴に出かけ、そこでトラブルに巻き込まれて殺人を犯し、太陽がまぶしいからと言う供述をする。主人公の人生の選択に対し、「どっちでもいい」という徹底的に自己の欠如を描いている。
    ●ツルゲーネフ 初恋:谷崎潤一郎の「痴人の愛」も引き合いに出して説明。主人公の年上女性への初恋を描いているが、その女性に翻弄される。その女性の相手として、自分の父親が現れる。本書では父親を乗り越えることをテーマに語られている。結局主人公は密会の現場から何も出来ずに立ち去り、父親を乗り越えられないが、差出人不明の告発文で父親の人生は狂い、死んでしまう。本文では差出人については分からないが主人公の可能性が高く、父親を倒そうとしたのではないか。

  • 文学

  • 最初に挙げられた本をメモってそっと閉じた本。
    挙げられている本の内容がようやくされて書かれている模様。余計な先入観を持ちたくないので全部読んでから再読しよう。

  • 文章力高めな著者。ここに出てくる作品を読みたいと思わせられる。だけど、タイトルに書かれた生きる技術は、あまり学べなかった気がする。

  • 名作のあらすじを知る、かつ他の人がそこから何を抜き取ったかを知るにはいい。だけれども名作の意味はあくまでその重厚な語り口を自ら体験し、自ら感じ、意味付けすることである。

  • 読んだことのある底本はもう一度読みたいと思ったし、読んだことのない底本は読んでみたいと思った。

  • [ 内容 ]
    『魔の山』『赤と黒』『異邦人』…教科書などで名前だけは目にしたけど、読んだことはないという人も多い世界の名作の数々。
    だが、そんな古めかしい小説でも読み方ひとつで、笑えて生きる活力になりもする。
    人気ブロガーがそれらの世界の名作を軽妙に読み解き、そこから意外なエッセンスを抽出した本書を読めば、人生がちょっと楽になるはず。

    [ 目次 ]
    第1章 ママンってなんだ―カミュ『異邦人』
    第2章 もっと上手に甘えなさい―ヘッセ『車輪の下で』
    第3章 さよなら、父さん―トゥルゲーネフ『初恋』
    第4章 かわいそうだけじゃかわいそう―アンネ・フランク『アンネの日記』
    第5章 男らしさはつらいよ―ヘミングウェイ『老人と海』
    第6章 でた、悪人―モーム『月と六ペンス』
    第7章 ミシシッピー川でつかまえて―マーク・トウェイン『ハックルベリイ・フィンの冒険』
    第8章 欲しいものが、欲しいわ―スタンダール『赤と黒』
    第9章 世界が終わる日―ジョージ・オーウェル『一九八四年』
    第10章 二一世紀の読者たちへ―トーマス・マン『魔の山』

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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 空中キャンプ
    http://d.hatena.ne.jp/zoot32/
    が好きなので読んだ。

    年を取ってしまうと名作に手を出すのが気恥ずかしい感じになっちゃうけど、どんどん手を出していこうと思えた。

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著者プロフィール

茨城大学人文社会科学部教授

「2021年 『神仏融合の東アジア史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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