大火砕流に消ゆ: 雲仙普賢岳・報道陣20名の死が遺したもの (新風舎文庫 え 104)

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  • 新風舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784797495119

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  • 早さは時速100kmを超え、温度は100~700℃にもなる。火山から
    湧き上がって来るマグマが地上で生成した溶岩ドームが崩壊し、
    火山斜面を一気に流れ下って来る火砕流だ。

    1991年6月3日16時8分。雲仙普賢岳で発生した大火砕流は、3人の
    外国人火山学者、警察・消防団、報道関係者と報道機関がチャーター
    したタクシー運転手等、計43名の命を奪った。

    当時、普賢岳の噴火が始まって以降の、マスコミの姿勢が誘発した
    事故であるとの批判が大きくなって行ったのを覚えている。

    確かにモラルを欠いた行動を取っていた人たちがいたことも事実だ。
    避難して無人になった民家に勝手に入り込み、電源を使用する。

    いるんだよね、一部には。報道だからと言えばなんでも免罪符になると
    思っている人たちが。

    だが、火砕流に巻き込まれて犠牲となった報道関係者の死を、マスコ
    ミの自業自得だとか、報道に命を懸けた英雄だとか2極論で語るだけ
    で終わってしまっていいのか。

    そうではないだろう。何故、彼らは「定点」と呼ばれた取材場所に留まっ
    たのか。火山の噴火という自然災害を報道するという使命もあった。
    しかし、火砕流に対する正しい知識をほとんどの者が持っていなかった
    のも事実だ。

    福島第一原子力発電所の事故の際、放射能に対して「正しく怖がる」
    ことが大切だと言っていた科学者がいた。普賢岳の火砕流にしても
    同じことが言えやしないか。

    特に自然は人知を超えた力を持っている。美しいだけではない。容赦
    なく人命を奪うのもまた、私たちが愛する自然なのだ。

    本書は多くの問題を提起している。マスコミの危機管理は勿論のこと、
    多大な犠牲を出した後に一斉に足並みをそろえたような自主規制。
    そして、警戒区域に立ち入った取材者たちに対して行われたマスコミ
    側のバッシング。

    報道と安全。ジレンマなのだと思う。戦争や内戦の報道も同じだろう。
    危険と隣り合わせであえて現場へ行くか。遠く離れた安全な場所で
    他のメディアから伝わって来ることを垂れ流すだけか。

    犠牲者を出した報道機関・自衛隊等に丹念に取材hした、渾身の作品
    であろう。

    著者は「喉元過ぎれば熱さ忘れる」というようなマスコミの姿勢を疑問
    視している。だが、それは伝える側だけの問題ではないのだ。受け取
    る側の問題でもある。

    大きな事故や災害が起きた時、私たちは発生直後は多大な興味を
    寄せる。しかし、時間が経過するごとに事故・災害は既に終わった
    ことになっていやしないか。普賢岳の噴火も収束宣言が出るまでに
    5年の月日があったのだもの。

    伝えて欲しいよね、すべてが終わるまで。だから東日本大震災や
    福島第一の事故だって、今でももっと報道されていいと思うのだけ
    れど。

  • 雲仙普賢岳の火砕流災害に関してのルポタージュ。前半部分は主に災害の様子や背景が書かれているが、全体的な論調は災害などの事件現場でのジャーナリズムはどうあるべきか、問題提起がされている。
    メディアスクラムは決して最近だけの問題ではないことがよく分かる。

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著者プロフィール

江川紹子(えがわ・しょうこ) ジャーナリスト。神奈川大学国際日本学部特任教授。新宗教、災害、冤罪のほか、若者の悩みや生き方の問題に取り組む。著書に『オウム事件はなぜ起きたか』『「オウム真理教」裁判傍聴記』『「カルト」はすぐ隣に』など多数。

「2023年 『みんなの宗教2世問題』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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