世界の辺境とハードボイルド室町時代

  • 集英社インターナショナル
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784797673036

作品紹介・あらすじ

現代ソマリランドと室町日本は驚くほど似ていた! 世界観が覆される快感が味わえる、人気ノンフィクション作家と歴史家による“超時空"対談。世界の辺境を知れば、日本史の謎が解けてくる。

感想・レビュー・書評

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  • ソマリランドで知られるノンフィクション作家の高野さんと、日本中世史を専門とする歴史学者の清水さんの対談。異色の組み合わせではあるが、これが見事な化学反応を起こし、とても面白い内容となっている。

    時間と空間の違いこそあれ、ソマリ社会も中世日本も、現代日本から見ればどちらも遠い異文化世界。むしろソマリ社会と中世日本のほうにこそ共通点が多いかも、という気づきから始まったこの対談。豊かな経験と強い好奇心で高野さんが打ってくれば、該博な知識で清水さんが当意即妙に返してくる。何といっても、お2人が楽しんで対話しているのが伝わってくるのがいい。

    古米と新米の話などトリビア的な知識も得られるし、鎖国と現代日本、NGOやNPOと現代日本など社会科学的に考えさせられるトピックもあるが、体系的学術書というわけではない。肩肘はらず、楽しく学ぶとはどういうことかを感じて読みたい。

  • 「五代将軍徳川綱吉の犬を殺すな、捨て子をするなという政策は、都市治安対策、人心教科策として、ある程度成功した。秀吉のできなかった銃規制もやっている。」「平安時代あたりから、ミニ中華帝国化をあきらめて、中国との程よい距離感によって、文明から切り離され、中華文明圏の辺境になっていく。」「信長の規律化への志向は変。信長、秀吉、家康の力の論理による支配は、長く続かないので、論理や法による支配を考えないといけない。北条泰時の『御成敗式目』や綱吉の朱子学をベースにしたイデオロギーは、中世的な殺伐とした空気を断ち切った。」「中世から近世にかけては、炊くと増え方が大きい古米のほうが新米より高かった。タイ、ミャンマー、インドもそう」「タイでは、農民は所得税を払わない。取ろうとすると、いなくなってしまって別のところで田を作る。タイ人の離合集散は激しい。家族や親せきも、友人もすぐにどこかへ行ってしまう。日本の農民の定住性とは対照的」「戦国時代の宣教師の記録を見ると、武士は戦場までは馬を使って移動して、戦うときは馬から降りて徒歩で戦うとある。武田の騎馬隊は、瞬時に戦場に駆けつけるだけ」「日本の村は、年貢を村単位で取り立てるので、共同体の規制が厳しくなる。」「日本は中華文明の辺境なので、中華という基準と照らし合わせて気にしていないといけない。常にアイデンティティの不安にさらされている」「アジア・アフリカの辺境や室町時代のほうが世界史的に普遍性をもっている。江戸時代という特殊な時代を経たのが今の日本。今生きている社会がすべてだと思わないでほしい。」

  • おもしろかった-! 読み終わるのがもったいないのに、ずんずん読んでしまった。このコンビでまた本を出してほしい。

    ソマリランドと室町時代? そりゃどういう取り合わせ? 当たり前と言えば当たり前の疑問は、高野さんによる「はじめに」でそっくり期待に変わる。ソマリ人をはじめ、アジア・アフリカの辺境全般に、中世を中心とした過去の日本と共通する部分が多々あるというのだ。ソマリの内戦は応仁の乱に似てるらしい。いやあ、これはおもしろそうじゃないですか!

    とにかく高野さんの嬉しそうなこと。ソマリについては日本ではほぼ唯一の専門家で、話の通じる人など皆無だったのが、思いもかけぬ所から「同好の士」が現れたわけだ(「青い鳥がすぐ近くにいた上に、実は黄色かった」とあって、笑った)。中世史の研究者である清水克行氏との対談は、その心の弾みがベースになっていて、読んでいてとても楽しい。高野さんが「生徒役」というばっかりではなく、高野さんが語る世界の辺境について、清水先生が「なるほど~」と納得する場面もしばしばあり、そのバランスもとてもいい。

    中世・近世については近年研究が進んで、かつてのイメージとは違う姿が浮かび上がってきているようだが、こうして具体的な話を聞くと、そのことがよくわかって興味深い。読みながら「へぇ-」「そうなの」と言い通し。
    ・なぜ日本には「仇討ち」があっても「賠償」の発想がないのか。
    ・「刀狩り」後も農民たちは刀を持っていたが、一揆には鎌や鍬を持って行った。
    ・綱吉の「生類憐れみの令」は都市治安対策・人心教化策だった。
    ・軍事政権や独裁者は平和を指向する。
    などなど、もう挙げればキリがない。帯の中島京子さんの言葉通り、目から鱗がボロボロ落ちる。

    清水先生によると「中世史の古文書は適量」で、「トータルな時代イメージを作りやすい」らしい。また、若いときにインドへ行ったことが、中世の時代感覚をつかむのにとても役立ったとか。勝俣鎮夫という中世史研究者も「歴史学者は若いうちに発展途上国に行った方がいい」と言っていたそうだ。今の日本人には、「世界の辺境」と「昔の日本」は共に異文化だが、双方を照らし合わせることで思いがけない理解の道が開けてくる、というこの知見は素晴らしいと思う。

    終わりの方で清水先生が、決して平坦ではなかった研究者としての道のりを語っていて、これが心に残った。大学で出会った藤木久志先生は、生意気な質問をした自分に、校舎の周りを三周もしながら訥々と説明してくれた、「研究者とはこんなにも真摯で誠実なのかと思った」という。大学院を出ても就職先がなく、家族を抱えて講師で食いつないでいたときに、本にした博士論文を読んだ編集者が執筆を依頼してくれたことが「人生で一番嬉しかったかもしれない」とある。その博士論文「室町時代の騒擾と秩序」は九千円以上もし、部数六百部。講談社選書メチエの方だそうだが、すごい人がいるものだ。

    一方の高野さん、ノンフィクションを書くときのスタンスについて、いつもよりつっこんで語っている。「人としてこの問題は直視すべきだ」というような姿勢で書かれたノンフィクションは、人にストレスを感じさせ、かえってそこから遠ざける、という意見に同感。高野さんの書くものはいつも、笑わせながら新しい世界、新しいものの見方を差し出してくれる。そこがいい。

    装画はなんと、山口晃画伯の馬バイク。ナイスである。山口ファンの高野さん、さぞ嬉しかったであろう。

  • わたしは歴史が苦手で日本史なんてまったく興味がなくて大河ドラマも見ないのに、これはめちゃめちゃおもしろかった! 一気読み。
    室町時代、戦国大名たちが戦っていた時代は、戦闘のたえない今の世界の辺境地帯に似ている、っていうテーマ。それ以外にもあれこれいろいろなことが語られていく対談ならではのおもしろさ。高野さんがものすごくたくさん歴史の本を読まれていることや博学なことにまたしても感嘆。(どうでもいいけど高野さんの家柄というか、ご自分の血筋にも奥様の血筋にも学者とか先生とか知的な学究肌の方々多いのだなあ、とかミーハーファンとしては思ったり)。高野さんが、じゃあこういうのはどうですか?これは?とかどんどん質問していく感じが、すごく楽しそうで、読んでるほうもわくわくするような。
    とにかく、はじめて、歴史っておもしろいかも、と思った。教科書ではほんの一行ですまされることでも、それがすべてではなく、長い年月や、ものすごく大勢の人々の人生も毎日のこまごました日常もあって、教科書や歴史の本に書かれていることがそのまんま正しいわけでもない、っていうのをしみじみ感じたというか。
    歴史学者とはどういう感じか、どういう経歴でなるのか、っていうのもなんとなくわかって興味深かった。清水克行さんの著作も読んでみたい。歴史上の人物を、「あの人はおかしい」とか「ああ後醍醐は言いそうですね」とかって、今いる人みたいにいうところがすごくおかしかった。楽しい。
    もっともっと幅広く本を読みたいなあーというような刺激も受けた感じ。

    • たまもひさん
      そうそう、わたしもミーハーなファンとして、高野さんと奥様それぞれの親戚関係に興味津々でした。血筋は争えないなあという感じで。
      高野さんって...
      そうそう、わたしもミーハーなファンとして、高野さんと奥様それぞれの親戚関係に興味津々でした。血筋は争えないなあという感じで。
      高野さんってほんと学者肌ですよね。そこに後先考えない行動力とスットコ感がくっつくところが唯一無二。
      この本、ほんとおもしろくて時々読み返してます。勉強したくなる本ですよねえ。
      2016/03/01
    • niwatokoさん
      よかった、わたし以外にもミーハーファンの方がいて(笑)! 
      一族になかなか著名な方が多くいらっしゃるようで、やっぱり頭のいい血筋なんだなあ...
      よかった、わたし以外にもミーハーファンの方がいて(笑)! 
      一族になかなか著名な方が多くいらっしゃるようで、やっぱり頭のいい血筋なんだなあとか、やっぱりご夫婦お似合い、とかうらやましいような気持ちで読んでました! 
      ほんとに高野さん、スットコに見えるのに、ものすごく頭よくてものすごく勉強しててすごいなあーと、ますますファンになります。
      2016/03/01
  • 世界の辺境は、日本の中世と似ているなんて言われても、さっぱりピンと来ないのですが、この本を読めば読むほど納得。辺境を旅し続け、最近ではソマリランドにハマっている高野さんが、日本中世史を専門とする清水克行さんと対談。次々に出てくる類似点にそんなに?ねぇそんなに?という感じなのですが、お互いの経験値・知識レベルが高く、ハイレベルの知識がぶつかり合い、相乗効果を生み出しているところを目の当たりにできるのも、この本の価値でしょう。
    信長とISが似ているとか言われても、一瞬「は?」と思いますが、そこにはここがこう似ている、戦乱期の民衆はカオスか専制の二択になるとか、ストンと腑に落ちていく説明がされていきます。それにしても高野さんの発想力や歴史知識も相当すごいはず。
    とにかく全体的な情報量が多いのに、読み進めるのも苦ではなく、スルスルと自分のものにできて(できたきになって)しまう一冊。
    お二人がなぜこの道を選んだのか、という話もあり、そのあたりも興味深く読めました。

  • ●室町時代の日本人と、現代のソマリ人があまりに似ていることに驚いた私は、俺があって清水さんご本人と直接お会いする機会を得た。
    ●室町時代、幕府法など公権力が定める方があった一方で、それとは別次元の、村落や地域社会や職人集団の中で通用する法習慣がありました。それらが互いに矛盾していることもあって、訴訟になると、人々は自らに都合の良い法を持ち出して、自分の正当性を視聴していたんです。
    ●アジア・アフリカなんて、何かトラブルがあると、必ず誰かが中に割って入ります。全く関係なくても。「俺の顔を立ててくれ」って言って仲裁する。
    ●室町時代、贈り物にしても価値や量が釣り合うと言うことに徹底的にこだわる。「折紙」と言う金額を記した目録みたいなもの。
    ●「信長公記」を読むと、信長って正義とか公平をものすごく重んじていますよね。その辺もイスラム主義に見ているんですよ。
    ●信長の頃。それまでは銭中心の経済だったんですけど。貨幣経済から米経済に戻ってしまった。
    ●江戸時代の日本は、金と銀と銭の参加体制になっていくので、中世よりは銭が使われる領域は狭まっています。基本は石高生で、年貢は米だけ。小額取引は銭、高額取引は金と銀。東日本が金で西日本が銀。金一両って今で言うと100,000円以上の価値があるので、日常的にはゼニが庶民の間では使われていたと言う感じ。
    ●頬のヒゲを伸ばすのは、中国人に憧れていたから。
    ●比叡山延暦寺の焼き討ちはやってくれて良かったと言う話。相当な量の古文書が残っていたはず、中世史の研究はとてもめんどくさいことになっていた。
    ●歴史学者っていうのは古文書を読んで理解できないといけないので、独学ではなかなか難しい。在野の歴史学者って今はもうありえない。
    ●なぜアフリカに日本の中古車が売られるのか。日本以外の国では、中古車の値段はそんなに下がらない。日本だけは持ち主が変わると価格が下落する。しかも丁寧に乗るから、質の良い中古車がタダ同然で手に入る。

  • この本の面白いところは、高野秀行、清水克行、まったく違う分野の二人がそれぞれにお互いの話を超・面白がっているところ。たぶん、読者の存在なんて忘れて、ああ言えばこう言う、そのネタ出せばこのネタ出す、相手の気づきが自分の気づきに、お互いに目から鱗が落ちまくっている興奮が伝わってくる本です。EテレのSWITCHインタビュー 達人たち、と似た形式ですが、得てして、強引に共通項探したり、なんとなくのプロフェッショナル的な姿勢を褒め合ったり、みたいな感じになるのに対して、この二人は圧倒的にディテール攻撃の応酬で、そこから大きな歴史観と社会観が浮かび上がってきます。「おわりに」のページで、清水克行が『「ジャン=リュック・ゴダール」と「白村江の戦い」と「スーフィー」と「キジムナー」と「角幡唯介」が、一冊の本で語られるということは空前絶後のことではなかろうか。本書は間違いなく「奇書」である。』と書いていますが、「奇書」というより「奇跡の書」に思えました。その奇跡のできっかけを作ったのが『謎の独立国家ソマリランド』を読んで、「ソマリの氏族と報復のシステムは、『喧嘩両成敗の誕生』で描かれている室町時代の日本社会とまったく同じ」とツイッターでつぶやいた映画評論家 柳下毅一郎。「世界の辺境」ソマリランドと「昔の日本」室町時代、時空を超えて、共鳴し合うのは特殊を特殊と思わず、理解しよとする二人の知的好奇心があればこそ。専門バカにならずにバカみたいに刺激し合う、これが学際領域の知性か、と感動しました。つまりは歴史も社会も人間のつくるもの、その人間のワンダーを大切にしあう素敵な本でした。『喧嘩両成敗の誕生』も読まなくちゃ!

  • 「以前、ある先輩の研究者と飲みながら話したことがあって、僕はそのとき「やっぱり延暦寺の文書が残っていたら、ずいぶん歴史像が変わったんじゃないか」と言ったんです。そうしたら、向こうは「そんなことを言うようじゃダメだ。今までの歴史学は、残っていない史料の中身まで想定して歴史像を描いてきたんだから、そいう先人たちの営みを信じなきゃいけない」と言われて」(p.176)

  • 面白かった!
    世界史にも日本史にも全く詳しくない上に、聞いてもすぐに頭から抜け落ちてしまうような残念な記憶力の持ち主である私ですが、ある種の専門家と専門家が、互いの知識をすり合わせて新たな知見を得ようとしている居酒屋の席に同席させてもらっている…といった感覚で非常に楽しめました。
    高野さんが「ミャンマーではこんなことが…」と話すと、清水さんが「日本でも室町時代…」と返す。清水さんが「こういった記録があって…」と話すと、清水さんが「そういえばタイでも…」と返す。こうした国と時代を超えたやりとりで、人の持つ共通性を感じられるし、それでも出てくる差異については、それを生み出すものを考えさせられ…と、実に興味深かったです。

  • いやもう、タイトルからして面白くないわけないよね!
    旅するノンフィクション作家と日本歴史家の対談集。
    高野氏の「恋するソマリア」を少し前に読んでいて面白かったのだけど、その話をしたわけでもない夫が、たまたま買って来たのがこの本。
    夫とは読書領域がほぼ重ならない。
    わずかに重なるところがこれかと。
    それもどうなのかと。
    まあそれはともかく、面白かった。
    二人とも言葉の選び方が上手いので、どちらも知識がなくてもすらすら読めて楽しめる。
    日本の歴史という縦糸と、国外情勢という横糸が上手い具合に織り上げられていくのは見ていて爽快。
    新しい知識が四方八方から飛んで来るのも気持ち良い。
    生類憐みの令が出された理由は衝撃だった…!
    また二人で対談して欲しいなー。

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著者プロフィール

1966年、東京都八王子市生まれ。ノンフィクション作家。早稲田大学探検部在籍時に書いた『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)をきっかけに文筆活動を開始。「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書く」がモットー。アジア、アフリカなどの辺境地をテーマとしたノンフィクションのほか、東京を舞台にしたエッセイや小説も多数発表している。

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