ボーダー 移民と難民

  • 集英社インターナショナル (2022年11月25日発売)
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  • 本 ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784797674026

作品紹介・あらすじ

ウクライナ難民で始まった話ではない。
ミャンマー、スリランカ、イラン、アフガニスタン、そしてアフリカの国々から……。
命からがら、日本にたどり着いた人たちを、
私たちは、どう受け入れてきたのか?

『エンド・オブ・ライフ』でYahoo!ニュース|本屋大賞2020年ノンフィクション本大賞を受賞した佐々涼子の受賞後第一作。

かつて日本語教師として在留外国人と接してきた作家が、人間の心の奥に潜むボーダー(境界)に迫る。
ウィシュマさん死亡事件で一躍注目を浴びた日本の入管・難民問題を、独自の視点で追ったノンフィクション。
難民の受け入れ、入管の改善のために四半世紀にわたり闘い続ける「難民弁護士」児玉晃一。
その奮闘の日々を、現在入管に収監されている在留外国人の取材とともに綴る。
構想から10年。ノンフィクションの旗手、佐々涼子の新たなるライフワーク。


(目次より抜粋)
i 泣き虫弁護士、入管と闘う
私たちを助けてくれるの?
断末魔
囚われの異邦人
馬でもロバでも
アフガニスタンから来た青年
国会前の攻防
ii 彼らは日本を目指した
サバイバル・ジャパニーズ
看取りの韓国人
フィリピンの卵
ハノイの夜
赤い花咲く頃
iii 難民たちのサンクチュアリ
クリスマスイブの仮放免者
リヴィのカレー
人の中へ

佐々涼子(ささ りょうこ)
ノンフィクション作家。1968年生まれ。神奈川県出身。早稲田大学法学部卒。日本語教師を経てフリーライターに。2012年、『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』(集英社)で第10回開高健ノンフィクション賞を受賞。2014年に上梓した『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』(早川書房)は、紀伊國屋書店キノベス第1位、ダ・ヴィンチBOOK OF THE YEAR第1位、新風賞特別賞など9冠。2020年の『エンド・オブ・ライフ』(集英社インターナショナル)は、Yahoo!ニュース|本屋大賞2020年ノンフィクション本大賞に輝いた。『エンジェルフライト』は、米倉涼子主演で連続ドラマ化、2023年春にアマゾンプライムビデオで配信予定。

感想・レビュー・書評

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  • 佐々涼子さんの作品、ようやく3冊目の読了となりました。

    昨年の9月、悪性脳腫瘍の為にお亡くなりになられた佐々さん。
    直後から図書館での予約数が増え、ようやく手にすることができた一冊を久々の出張のカバンに入れて持って行きました。

    今の仕事で多くの外国人の方とも関わりがありますし、難民認定を受けた外国人とも今も関わりを持っています。
    私自身、品川の入管にも何度か行ったこともあります。

    ですが、本書にて知ることとなった入管の姿は私が想像だにしなかったものでした。

    佐々さんのルポタージュなので、徹底的な取材により書かれた作品です。
    すなわち、ここに描かれていることも事実。

    少子高齢化が加速度的に進む日本、我々が生きている時代に日本人の人口が増えることがないことは政府統計でもはっきりとしています。

    高齢化が進む中、国内の労働者数が足りなくなるのも自明の理であり、外国人の力を借りなければ立ち行かなくなるのも時間の問題。

    なんとなく、ビザのことや諸外国に比べ日本に難民が少ないことは知っているつもりでした。

    ただ、私が知っていたのは薄っぺらい表層のみだということを痛感させられました。

    私自身に何かが出来る訳ではありませんが、1人でも多くの人に手にして欲しいと思える作品でした。


    では本書の内容について。
    (´ρ`*)コホン

    日本の移民・難民問題を深く掘り下げた作品であり、日本社会が抱える重要な課題を浮き彫りにしています。
    この本を通じて、移民や難民の方々が直面する困難や、日本の入管施設内での問題を知ることができました。
    その中で描かれる外国人弁護士の奮闘や収容所での外国人の実態には、人間としての尊厳や平等に向き合う姿勢が感じられます。

    特に印象に残ったのは、佐々さんが描く「境界(ボーダー)」というテーマです。
    この境界は、私たちが心の中に持つ偏見や恐れと深く関連しています。
    移民や難民を「他者」として見てしまう心理は、恐怖や無理解が生むものであり、この境界を乗り越えることが、より多様性を受け入れる社会への第一歩であると感じました。

    本書は決して重いテーマだけで構成されているわけではなく、具体的な事例や実際のインタビューを通じて、多くの人々の物語を描いています。
    そのため、読む人々にとっても非常に身近に感じる部分があるかもしれません。
    こうしたリアルな描写を通じて、移民・難民問題を他人事として捉えるのではなく、社会全体の課題として向き合う必要性を考えさせられました。

    また、佐々さん自身が日本語教師として多くの外国人と接した経験を持っていることから、彼女の視点は非常に独特であり、説得力がありました。
    彼女の作品からは、物事を表面的に捉えるのではなく、その背後にある人間的な物語や感情に思いを馳せる重要性が伝わってきます。

    『ボーダー 移民と難民』は、単なる社会問題を描いた本ではなく、私たち自身が持つ価値観や視点を問い直す機会を与えてくれる作品でした。
    この本を読むことで、移民や難民だけでなく、私たちが日常で接する「他者」とどう向き合うべきかを深く考えるきっかけになりました。
    このテーマは、これからの日本社会が取り組むべき重要な課題であり、多くの人に読んでほしいと感じました。

    <あらすじ>
    日本の移民・難民問題をテーマにしたノンフィクション作品です。この本では、ウィシュマさん死亡事件をきっかけに注目された日本の入管問題を中心に、移民や難民の受け入れに関する課題を深く掘り下げています。

    佐々さんはかつて日本語教師として在留外国人と接していた経験を活かし、人間の心の奥に潜む「境界(ボーダー)」に迫る内容を描いています。難民弁護士の奮闘や、収監されている外国人の実態を取材し、移民・難民の現状をリアルに描写しています。

    この作品は、移民や難民の人々が日本で直面する困難や、入管施設での劣悪な環境を通じて、日本社会の課題を浮き彫りにしています。興味があれば、ぜひ手に取ってみてください!

    本の概要
    ウクライナ難民で始まった話ではない。
    ミャンマー、スリランカ、イラン、アフガニスタン、そしてアフリカの国々から……。
    命からがら、日本にたどり着いた人たちを、
    私たちは、どう受け入れてきたのか?

    『エンド・オブ・ライフ』でYahoo!ニュース|本屋大賞2020年ノンフィクション本大賞を受賞した佐々涼子の受賞後第一作。

    かつて日本語教師として在留外国人と接してきた作家が、人間の心の奥に潜むボーダー(境界)に迫る。
    ウィシュマさん死亡事件で一躍注目を浴びた日本の入管・難民問題を、独自の視点で追ったノンフィクション。
    難民の受け入れ、入管の改善のために四半世紀にわたり闘い続ける「難民弁護士」児玉晃一。
    その奮闘の日々を、現在入管に収監されている在留外国人の取材とともに綴る。
    構想から10年。ノンフィクションの旗手、佐々涼子の新たなるライフワーク。


    (目次より抜粋)
    i 泣き虫弁護士、入管と闘う
    私たちを助けてくれるの?
    断末魔
    囚われの異邦人
    馬でもロバでも
    アフガニスタンから来た青年
    国会前の攻防
    ii 彼らは日本を目指した
    サバイバル・ジャパニーズ
    看取りの韓国人
    フィリピンの卵
    ハノイの夜
    赤い花咲く頃
    iii 難民たちのサンクチュアリ
    クリスマスイブの仮放免者
    リヴィのカレー
    人の中へ

    著者について
    佐々涼子(ささ りょうこ)
    ノンフィクション作家。1968年生まれ。神奈川県出身。早稲田大学法学部卒。日本語教師を経てフリーライターに。2012年、『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』(集英社)で第10回開高健ノンフィクション賞を受賞。2014年に上梓した『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』(早川書房)は、紀伊國屋書店キノベス第1位、ダ・ヴィンチBOOK OF THE YEAR第1位、新風賞特別賞など9冠。2020年の『エンド・オブ・ライフ』(集英社インターナショナル)は、Yahoo!ニュース|本屋大賞2020年ノンフィクション本大賞に輝いた。『エンジェルフライト』は、米倉涼子主演で連続ドラマ化、2023年春にアマゾンプライムビデオで配信予定。

    著者について
    佐々涼子さんは、日本のノンフィクション作家として知られています。彼女は1968年に神奈川県横浜市で生まれ、早稲田大学法学部を卒業後、専業主婦や日本語教師を経て、39歳でフリーライターとしての道を歩み始めました。

    代表作には『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』や『紙つなげ!彼らが本の紙を造っている』、『エンド・オブ・ライフ』などがあり、これらの作品で多くの賞を受賞しています。特に『エンジェルフライト』はドラマ化され、広く注目を集めました。

    彼女は2022年に悪性脳腫瘍と診断され、その後も執筆活動を続けながら闘病生活を送っていましたが、2024年に56歳で亡くなりました。

    彼女の作品は、命や人間の尊厳に深く向き合った内容が多く、多くの読者に感動を与えています。

    • かなさん
      出張のお供はこの作品でしたか!!
      佐々涼子さんの作品は何をとっても
      読みやすいしとっても考えさせられる内容ですよね…。
      先日ニュースで...
      出張のお供はこの作品でしたか!!
      佐々涼子さんの作品は何をとっても
      読みやすいしとっても考えさせられる内容ですよね…。
      先日ニュースで、ウィシュマさんの遺族が
      入管収容中の画像の提供をようやく受けたと報じられてました。
      でも、すべての画像じゃないんですよね…
      もう、すべて見せてほしい、まだ隠すことがあるんですか!!って
      思わずにいられませんでした。
      2025/04/05
    • かなさん
      あ、そうそう、
      最近、中島京子さんの「やさしい猫」を読みました。
      この作品も、テーマは入管のことを扱ってて
      ノンフィクションではないけ...
      あ、そうそう、
      最近、中島京子さんの「やさしい猫」を読みました。
      この作品も、テーマは入管のことを扱ってて
      ノンフィクションではないけれど
      おすすめですよ(*´∀`*)
      2025/04/05
    • ヒボさん
      レビューはまだなのかな?
      楽しみに待ってますね(*^^*)

      入管って、普通日本人って行くことないと思うんです。
      でも、いつ行っても人人人人...
      レビューはまだなのかな?
      楽しみに待ってますね(*^^*)

      入管って、普通日本人って行くことないと思うんです。
      でも、いつ行っても人人人人人人人…

      本書を読んで、恐怖すら感じました。
      2025/04/05
  • 【まとめ】
    1 難民に人権のない国
    日本の難民認定率は極めて低い。2022年、日本で難民と認められたのはわずか74人。難民認定率は0.7パーセントだ。
    日本で難民として認められない人たちはどこへ行くのだろう。日本には、非正規滞在者を収容する出入国在留管理庁の施設、通称「入管」がある。ビザがもらえない場合、その人たちはしばしばそこに囚われるのだ。
    その後、ビザを与えられないまま入管から出されることを「仮放免」というが、たとえ仮放免で出てきたとしても、自由の身とはとても言えない。なにしろ働くことが許されず、社会保障もない。誰かの支援に頼らざるを得ず、本当に困った時も行政に手を貸してもらうこともできない。これでどうやって生きていけというのだろう。特に彼らが必要としているのは住居だ。たとえ友人や支援者の下に住まわせてもらうとしても、いつまでも置いてもらうのは難しいだろう。


    2 入管の実態
    バブル当時、日本では建設現場などに人が足りず、いくらでも仕事があった。観光ビザで入国してそのままオーバーステイとなっても黙認されていた。非正規滞在の外国人は、事実上日本の労働力の供給源だったのだ。
    1993年の法務省の調査で約29万9000人、実数では30万人超のオーバーステイ労働者がいたと思われる。
    しかし、この蜜月関係はバブルが弾けて終わりを迎える。警察の取り締まりが厳しくなり、不法滞在者として入管に入れられるケースが多くなっていった。

    90年代半ば、入管では劣悪な環境の下、日常的に暴行が行われており、電話を取り次ぐにも「胸を揉ませろ」と迫るなど、職員による強制わいせつや強姦までが報告されていた。
    入管の施設には、難民として庇護を求めてきた人でも、非正規滞在者の子どもでも、どんな人でも、ビザを持っていなければ収容される可能性がある。それを「全件収容主義」という。入管は司法手続きなしで非正規滞在者を自由に捕らえることができ、無制限に収容できる。

    被収容者への医療についてはその体制の劣悪さが指摘されている。容態が悪くなった被収容者は監視カメラ付きの部屋に入れられて動静監視され、医師に見せるか否かの判断は職員に任される。入管では医療は治すことではなく、「収容と送還に耐えうるだけの健康を維持すること」が目的とされている。
    しかし、道で倒れているなら誰かが救護してくれる可能性があるが、隔絶された場所で医師も呼ばずに見殺しにするとしたら、重大な刑法犯罪ではないだろうか。

    「早く国へ帰れ」という意見もある。しかし実際には退去強制令書を受けた9割以上の人は送還に応じているのだ。被収容者の多くは、理由があって国に帰れず、過酷な長期収容に耐えている。帰れない理由は様々だ。国に帰れば迫害の恐れがあったり、日本に家族がいたり、人生の長い時間を日本で生活していて国籍国にはもう生活基盤がない人もいる。あるいは、非正規滞在者の子どもで帰るべき国を持たなかったり、日本で生まれて国籍国すらなく、事実上の無国籍状態の者もいる。帰れと言われても無理ではないか。そんな人をまるで罪人のように閉じ込めておくのだろうか。

    驚くのは、本来なら庇護されるべき難民でさえ入管に収容されているという事実だ。入管が難民と認めていないのだからあの人たちは難民ではない、と言う人たちに対して、児玉はこんな喩えで彼らの立場を説明する。
    「痛風の人は医師に診察される前から痛風なんですよ」
    つまり、医師に診断を受けて初めて病気になるのではなく、国が認めようが認めまいが、難民は難民なのだ。

    以前は、仮放免によって収容を解かれることも多かった。しかし2018年2月に入管は「仮放免の厳格化」の方針を決定、DV加害者や社会規範を守れずトラブルが見込まれる者など「社会生活適応困難者」も仮放免しないとしている。
    また、2021年2月19日、政府は「出入国管理及び難民認定法改正案(入管法改正案)」を閣議決定し、国会に提出した。この法案では、3回以上難民申請した者は申請中であろうと国に送り返すことができ、さらに送還忌避について刑法上の罪を作り、退去強制命令に背くと刑事罰に処すことができるとした。
    本案は一度見送られたが、その後修正を重ねつつ2024年6月に施行され、難民認定の申請が3回目以降の場合、「相当な理由」を示さなければ本国への強制送還が可能となった。

    入管問題調査会を立ち上げた高橋徹は言う。
    「(2000年代に入り)すごく良くなった時代があったんです。入管職員による強制わいせつの話も聞かなくなった。入管問題に携わる弁護士が入管に調査に入るようになった」
    また、支援者たちの地道な面会によって入管の中の様子が、外部に知られるようになった。それも功を奏したのだろうと言う。
    「手続きも変わりました。難民の仮滞在が認められるようになった。働きながら難民認定を待つことができるようになったんです。形式上はまだ生きているんじゃないでしょうか。制度が設けられて難民認定の手続きが丁寧になり、弁護士のチームもできたので、入管の中が落ち着いてきました」
    ところが、これによって仮滞在申請の濫用が相次いだ。
    「平和な時期は終わって、再び荒れ果ててしまいました。とにかく難民申請。働きたい人は難民申請という時期がありました。だからオーバーステイで働いて、捕まって収容されると、とにかく難民申請する。そうすると私たちとしても支援しにくいんですよ。嘘の物語を作っちゃう。同じ証拠書類をコピペしてたくさんの人が偽装して申請する。入管だって『またか』となる」
    「難民の手続きと、移民の手続き。両方に手を入れて健全化しないと制度は崩壊するんですよ。もともと単純労働で働くには技能実習制度しかない。入り口が厳しいんです。ふらっと働きに来るような人は、とりあえず難民申請して、その手続きの間、働こうって人もいるじゃないですか」
    「移民制度が健全であることと、難民制度が健全であること。その2つが揃ってそれぞれの制度が生きる。どちらかの蛇口が閉まれば、もう片方に流れるに決まっている。制度の青写真がまずい。移民制度と難民制度それぞれをまっとうに位置づけられるシステムにしないとダメということです」

    3 日本の労働を支える技能実習生
    難民に関して、その認定率の低さで悪名高き日本だが、移民についても、安倍晋三元首相は2018年の国会答弁で、「いわゆる移民政策を採用する意図はない」と発言している。日本政府は、移民を「入国のときにすでに永住が決まっている人」と解釈し、建前として日本に移民はいないことにしている。
    現実はまったく違う。実際は、特別永住者を除く在留外国人の3割にあたる80万人が永住資格を持っている。事実上、日本は移民を受け入れているのだ。

    現在、日本の労働力の主流となっているのが技能実習生だ。技能実習生は家族帯同を許されず、決まった年数で帰らなければならない。移住連の鳥井一平は数年ごとに帰ってもらう彼らを「ローテーション労働力」と名づけている。日本はこうやって、ずっと外国人労働者を使い捨てながら経済を回してきた。

    技能実習生制度は、最初は研修制度とそれに続く技能実習制度の二本立てだった。しかし研修制度の名の下に、雇用契約も結ばず安い賃金で長時間働かせる事例が相次いだことから問題となった。そこで法改正をして2009年、技能実習制度に一本化され、最長3年間、企業と雇用契約を結んで働かせることができるようになった。取材当時は、3年間での帰国が必須、延長は認められなかった。
    家族同伴が認められていない労働者が3年以上家族と別居ともなれば、人道上の問題として国際問題に発展する。だが移民は入れたくない。日本で子どもを産んで増えられても困る。だから当時は3年での帰国が条件となっていたのである。
    外国人技能実習生を指導する日本語学校校長の竹内靖はこう言う。
    「東京入管の方にこう言われたことがあります。『日本は純血主義を貫いているんだね。日本に住んでもらっていいのはハイレベルの人たちで、日本の国益にかなう人、つまり西洋人。アジア人は第三国だから帰っていただく』

    外国人技能実習制度は企業にとっての麻薬だ。最初は躊躇していた経営者も、一度その味を知ると、あと1本、あと1本と打つのをやめられなくなる。日本人とは比べものにならないほどよく働き、金を稼ぐことにギラギラしている。今や外国人労働者なくして地域経済は回っていかない。
    何としても安くて優秀な労働力の欲しい中小企業と、どれだけ働いてもいいから金を稼ぎたいという外国人のニーズがぴたりと合ってしまった。それが外国人技能実習制度の始まりだ。

    もしかすると日本人は、この国に来たいと思っている人が無尽蔵にいると勘違いしていたのではないか。定住は認められない、家族も帯同できない、使い捨ての外国人として扱われることがわかっていたら、日本でしか通用しない言語をわざわざ一から学んで日本に来るだろうか。しかもようやく日本語を覚えた人を、たった3年で帰していたのだ。
    それでも日本に来れば金持ちになれるうちはやってくる外国人もいるだろう。しかし日本だけがアジアで経済大国だった時代は終わることも、他国との間で働き手の争奪戦になることも、日本語教育の現場では早くから予測していた。


    4 日本を目指した人々
    フィリピンには技能実習生を送り出す教育施設がある。熱帯の森の中に作られている教育施設は、日本の建設現場での重労働に耐えられるよう、軍隊のような訓練所となっている。
    訓練生の実家がある集落には、水道も電気もない。雨が降ればぬかるむような場所だ。そこにあるのは絶対的な貧困だ。たとえ技能実習がどれだけ大変であっても、たった3年我慢しさえすれば、この生活から抜け出せるなら、喜んで軍隊式訓練にも耐えるだろう。実習生になれば、人生ゲームで一発逆転、ステージが上がる。自分が選んだわけでもなく、たまたま偶然生まれてきたにすぎない境遇を、たった3年の我慢で変えることができるのだ。

    ベトナムでは送り出し機関のことを「センター」と呼ぶ。技能実習から帰った人たちで、日系企業などに就職できない者は、とりあえずセンターで日本語教師になったり、事務や営業の仕事をしたりする。そして3年ほどそこで仕事を覚え、コネクションを作ると、今度は自分でセンターを興し、同胞を日本へ送り出すのだ。そうやって市内には、大小たくさんのセンターが雨後の筍のようにあちこちに生まれている。

    送り出し機関の日本語教育部門で働く佐々木は技能実習制度についてこう語る。
    「確かにひどい労働条件で働かせる会社は今でもあるかもしれません。でも、今はきちんとした会社が増えてきています。ベトナムから実習生を見ていると、ちょっと違うものが見えてくるんですよ」
    最近は、労働者をつなぎとめておくために、福利厚生がきちんとしているところが増えている。空調設備の整った工場で、労働基準法で定められた時間を過ごす。工場のラインをベトナム人だけで動かしているところもある。日本語はいらない。代々ベトナム人がリーダーとなり、そこに来る実習生に仕事を教える。彼らが来なくなったら、工場は即ストップしてしまう。技能実習生が逃げ出してしまうのは、残業代が少ないからだという。死にものぐるいで稼ぎに来ている彼らは、いくらでも残業がしたいのだ。
    「勘違いしてるんですよ。『経済大国の日本に働きに来られて嬉しいだろう?』『どんな仕事でも来たいだろう?』という態度の人がまだまだいる。賃金が安くて、重労働で、日本人が辞めていく仕事に、なぜ外国人だったら喜んで就くと思っているんでしょうね」

    働きたいのに働けない難民がいるのに、働いてほしいのに日本から逃げていく外国人労働者がいる。どこまで探っても日本の政策は、人に対する敬意がなく、ただちぐはぐなだけだった。

    貧しい人が何もせず手をこまねいて生きていたら、その生活からは絶対に抜け出せない。貧しさから這い上がるためには何かしらの元手が必要なのだ。もっとも技能実習に一攫千金の夢を抱くことができるのも、日本とベトナムに天と地ほどの格差があるからこそだ。
    だが現実はどうだろう。ベトナムは私が想像したよりずっと発展していた。ここ数年の急激な変化だ。周りを見渡してみれば、みなスマホを持ち、小綺麗な格好をして街を歩いている。ベトナムが実習生の供給源となるのは、見たところせいぜいあと4、5年だろう。10年後にベトナム人実習生は来ないという意見で、おおかたの日本語教師の見解は一致している。
    10年前は、実習生として地方の中国人や韓国人が来ていたが、今はほとんど来なくなった。
    ホーチミンやハノイなど都会に住むベトナム人も日本には来ない。ネパールの都市部も同様だ。これからはカンボジアだと言っている。
    カンボジアにも見限られたら次はアフリカだろうか?
    日本語教師の知り合いたちは、「その頃にはきっと日本人の若者が出稼ぎに行くようになるんじゃない?」とまじめな顔をして言っていた。日本語教師の予測はいつも経済学者より先を行く。

  • 知らなかった…では済まされないことが現実にある。
    自分の無知を痛感し、まず知らなければと思った。

    入管「出入国在留管理庁」で人生や生活を奪われ、まるで犯罪者扱い。
    難民であり犯罪者ではないのに施設の中に人権などないかのよう。
    命がボロ切れのように放置。
    これが日本なのか、目を逸らさずにはいられない。
    日本は先進国で法治国家だろうというのは建前だけか…と。
    「私の人生の最大の失敗は、日本に助けを求めたことです」
    このことばを言わせたのは、紛れもなく日本であるということが恥ずかしく情けない。
    政治家は、何も知らないのか、知ろうとする気もないのか、とさえ思えてくる。

    あとがきにもあったが、「今、私たちは平和を享受している。しかし、これからも戦禍に巻き込まれないと言い切れるだろうか。その時、私たちに手を差し伸べてくれる国が果たしてあるだろうか」に苦い気持ちになった。

    さらりと新聞を読んだ程度しか知らなかったことをかなり深く知ることができたが、これからの日本を考えると不安の方が多い。


  • 日本への移民と難民について、徹底した取材に基づいて詳細に描かれている作品…。移民と言えば、技能実習生…技能実習生がどんな経緯を辿って日本に来ているのか、今まで深く考えることはなかったなぁ…私の職場にも技能実習生はいるけれど、彼らがいなくなったら…今の仕事成り立たないだろうなって思うとこの作品を読んで大反省しました!!

    そして、ウィシュマさん死亡事件で日本の入管・難民問題をほんの少しだけ知っていた程度だったんだと愕然としました。ウィシュマさん死亡事件は明らかになった事件であって、こういった悲しいことは過去にも起きていたんだと…本当に怖くなりました。

    「国籍や在留資格に関係なく、すべての人が家族と一緒に暮らす、
    迫害の恐怖から逃れる、不当な身体拘束から解放される、
    あるいは、収容されていても適切な医療を受け、命を維持できる。
    いわば当たり前の世界が私の夢です。」と語る、児玉弁護士の言葉が胸に残っています。この社会にある、目に見えない「ボーダー」を取り払うため、私には何ができるだろうか…考えさせられる一冊になりました。佐々涼子さんの作品は、どれも心を打つものですが、この作品も読めて良かったと思いました。

  • 初めて読んだ「エンド・オブ・ライフ」が衝撃だった
    そして「夜明けを待つ」も深い感動を……
    その作家が先月、56歳という若さで逝ってしまわれた!
    ニュースにショック

    これは友人が送ってくれた
    中島京子の「やさしい猫」を読んだ後、読みたいと思っていたものだ

    〈そして「ウクライナ難民で始まった話ではない。
    ミャンマー、スリランカ、イラン、アフガニスタン、そしてアフリカの国々から……。
    命からがら、日本にたどり着いた人たちを、
    私たちは、どう受け入れてきたのか? 〉

    広範囲な取材に胸が熱くなる
    私たちってこんなにひどい国民なんですね
    知らないでは済まされないですよね

    佐々涼子さんの痛切な願いをしっかり受け止めたいと思います
    ありがとうございました

    ≪ 駆け回り ただ伝えたい 真実を ≫

  • これが「おもてなし」の国、日本で起きている現実だと思うと戦慄する。

    日本での難民申請者の弁護を長年続けている児玉弁護士の活動は、まさに地獄に仏。
    しかし、国際難民条約に加入している国でこんなひどいことがまかり通っていることが事態が異常だと言えよう。
    日本が難民条約に加入しているからこそ、そこに望みをつないでくる難民も多いはず。

    経済や政治的事情によって、弱い立場の人の命が左右されることがあってはならないと、強く感じると共に、一人でも多くの人にこの現状を知ってもらいたいと感じた。
    2024.1

  • 祖国で身の危険を感じ、命からがらたどり着いた日本。ここで働きたい、と夢を持ってやってきた日本。しかし待っていたのは、入管に拘留され、まるで犯罪者のように自由を拘束される日々だった。
    本当に現代の日本でこんな状況に追い込まれている人たちがいるのか。
    入管の実態のあまりのひどさに衝撃を受け、それを全く知らなかった自分にも恥ずかしさを覚える。

    どうしてこんなことがまかり通っているのか。
    人手不足のバブル期、観光ビザで入国し、オーバーステイで働く外国人が多かったが、国は黙認状態だったという。しかし、バブル崩壊後、彼らは急に不法滞在者として入管に収容されることになる。祖国に帰ると命の保証のない人、日本で生まれ、日本でしか生活していない子供もいたが、強制送還命令が出ると問答無用で祖国に帰らないといけない。

    例え不法滞在であっても、人権を無視するような劣悪な環境で、犯罪者のように拘束されることはあってはならない。それに、難民として日本にやって来た人たちは、たとえ手続きが整っていなくても、改めて難民申請を受けて認定すればよいではないか。しかし、政府は外国人を永住的に受け入れることに消極的だ。難民認定率は1%前後で、特にアジア圏の人たちには対応が厳しいとされる。
    2000年代、難民の仮滞在が認められ、働きながら難民認定を待つことができるようになった時期があった。しかし、働きたい人はとりあえず難民申請する、という制度濫用が相次ぎ、それもなくなった。

    2021年2月19日、政府は「出入国管理及び難民認定法改正案(入管法改正案)」を閣議決定し、国会へ提出した。これは、三回以上難民申請した者は申請中であろうと国に送り返すことができ、送還を拒否すると刑法上罪になるというものである。草の根の反対活動により、法案の採決は見送られたが、今後いつ再燃するかわからない。
    こんな改正案が審議されていたことについて、全く知らなかった。というか、知ろうともしていなかった。入管で治療も受けられず亡くなった方がいたことはニュースで知っていたが、それは一部の職員の問題なのだと思おうとしていた。

    移民・難民を受け入れようとしない日本。一方で、日本は少子高齢化による働き手不足で、外国人労働者がいないと回っていかない状況でもある。
    以前日本語教師として働いた経験のある著者は、技能実習生向けの日本語学校や、日本への送り出し機関などを取材する。そこでは、かつて一獲千金を狙って日本にやって来た若者たちが、給料や待遇が良くない日本に見切りをつけ、より良い国へと向かう現状があった。
    働きたいのに働かせてもらえない人がいるにもかかわらず、看護や介護など、働き手不足で現場が疲弊している現実もある。日本の政策はちぐはぐだ、と著者はいう。

    そうはいっても、自分は移民や難民を積極的に受け入れることに賛成なのか、自分の中に外国人労働者への偏見が全くないのか、と言われればはっきりとうなずくことができない。最近はホテルでもスーパーでも外国人従業員が多いが、日本人の従業員がいるとほっとしている自分もいる。
    著者自身も自分の中に偏見があることを認める。だからこそ、まずは彼らについて知らないといけないし、「いつも自分の心を点検して、夏の庭の雑草を抜くようにして、こまめに偏見を取り除いていくしかない」のだ。

    本書では、プロローグとエピローグに、鎌倉にある「アルペなんみんセンター」が登場する。そこで生まれたばかりの赤ちゃんを抱いた著者の思いが本書のすべてを物語っている。
    「人はどこに生まれてくるかを選べない。だが、恣意的に人間の引いた国境線など、この小さな命に何の意味があるというのだろう。私たちは、みな裸のままで生まれてくる。それをこちら側とあちら側で区別するものは、人間が頭の中で作った境界(ボーダー)に過ぎない。」

    • kuma0504さん
      2023年入管法の改悪でまた、「難民認定3回目以降の申請者は強制送還を可能にする」ということになりました。ホントひどいです。
      2023年入管法の改悪でまた、「難民認定3回目以降の申請者は強制送還を可能にする」ということになりました。ホントひどいです。
      2025/01/27
    • b-matatabiさん
      kuma0504さん
      現代は、ネットでちょっと検索すれば瞬時にいろいろな情報を得ることができるのに、関心をもっていないとまったく情報を入手...
      kuma0504さん
      現代は、ネットでちょっと検索すれば瞬時にいろいろな情報を得ることができるのに、関心をもっていないとまったく情報を入手することができないんだな、とこの本を読んで思いました。
      色々な本を読んで、まずは関心の範囲を広げる、ということが大事なのですね。
      2025/01/27
  • 佐々涼子さんに聞く 苦しみ乗り越え 上を向く瞬間描く | K-Person | カナロコ by 神奈川新聞(2016年3月13日)
    https://www.kanaloco.jp/special/serial/k-person/entry-658.html

    ボーダー 移民と難民 | 集英社インターナショナル 公式サイト
    https://www.shueisha-int.co.jp/publish/ボーダー

  • 昨年亡くなられた佐々涼子さんの渾身の一冊。
    大学の同窓生だった児玉晃一弁護士から入管収容の実態を聴いた佐々さんは、自らも難民への取材を始めた。その記録が前半に載せてある。
    「入管はなぜ難民を追い返そうとするのか」
    迫害の危険性や紛争、暴力など、状況が悪化し移動せざるを得なかった人々だ。難民認定もされず入管にとどめ置かれ、強制送還されないかと恐れ慄く。
    映画「ヒューマン・フロー(大地漂流)」で、ゴムボートに乗る大勢の人々を写した場面が思い出された。
    難民となる人々の数は毎年増加の一途を辿っている。受け入れ国の中で、日本の難民認定率の低さを知り唖然とした。
     (2021年 日本は74人で0.7%)

    後半は移民のなかの「外国人技能実習生」を取り上げる。ここ数年のうちに中国や韓国から来る実習生は減少し、ベトナム人が増加している。
    現地の「送り出し機関」について初めて知った。日本語教師を経てライターになった佐々さんは、国内外の日本語学校を訪れている。日常会話でなく職場で上手く立ち回るための「言葉」を教えられた実習生は、やって来た日本で使い勝手のいい労働力として自由を奪われ"管理"される。
    コロナで入国を制限されたり円安のために日本で働く意味が無くなりつつある。「働きたいのに働けない難民がいる一方で、働いてほしいのに日本から逃げていく外国人労働者がいる」ことをわかっていない政治家たち。日本の行く末を懸念するのは当然だと思う。

    入管から仮放免された難民を支援する
    「アルペなんみんセンター」が鎌倉に出来た。
    近隣住民やイエズス会から反対の声は上がらなかったという。ボーダーを越えた人と人との関わりに、取材を決して諦めなかった佐々さんの思いを見た気がした。

    心よりご冥福をお祈りいたします。

  •  中島京子さん著『やさしい猫』を読んで、入管問題に興味を持った。興味を持って日々過ごしていたら、テレビや新聞、本など、入国問題を扱っているものが目につきはじめ、改めて自分が今までどれほど無関心だったかを日々感じている。

     著者もあとがきでこう書いている。
     
     ○「日本に難民は来ていない、ほとんどが偽装難民だ」といわれれば、そんなものかと聞き流し、思い返すこともなかった。つまり入管問題を作り出し、放置していたのは、他ならない、無関心な私自身だったのだ。今私たちは平和を享受している。しかし、これからも戦火に巻き込まれないと言い切れるだろうか。その時、私たちに手を出し差し伸べてくれる国が果たしてあるだろうか。

     日本は1981年に難民条約に加入している。しかし、難民として受け入れることはかなり珍しく、自国に帰すか、それを拒否する人は、入管収容所に長期に渡り閉じ込める。収容所では人権などなく、本当に日本人がそんなことをしているのか?と直ぐには信じられないような残酷な対応をしているという。

    (日本に助けを求めにきた外国人の話・本文より)
     ○俺は、日本は難民条約に入っていると信じていた。日本は先進国で法治国家だろうと。もしこれからも難民を受け入れる気がないなら、建前だけ掲げている人権国家の看板をおろし、難民条約から脱退してほしい。だって実際、この国は人権国家じゃないんだから。そうすれば間違って日本に助けを求める外国人も減るだろう。お互いハッピーじゃないか。俺も他国に助けを求められる。

     こんな状況を看過している国のトップを私はとてもじゃないが信用できない。現在、歴代の総理大臣を思い浮かべて、え?あの人もあの人も、何もしてこなかったのかと愕然とする。日本人であることが、恥ずかしく、罪深く感じた。

     佐々さんはもともと日本語教師をしていて、その関係で、第二章は、日本語教師の視点で外国人技能実習制度について詳しく書かれている。個人的にはこの章が一番よく書かれていると感じた。

     この章で、衝撃を受けた。日本の国力は下がっており、近い将来、日本に出稼ぎに来るメリットがなくなり、実習生が来なくなるだろう。そして後々、日本人が外国に出稼ぎに行くことになるかもしれない。というのだ。日本に実習に来ている、または行こうと用意してくれている外国人に日本語を教えている人達がそう見ているのだ。生の感想だろう。

     入管問題をもっと知りたいとこの本を手に取ったが、取材した個々の案件の事が主だったので、全体像はまだよく掴めなかった。これからも関心を持ちつづけていきたい。

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著者プロフィール

ノンフィクション作家。著書に『エンジェルフライト』『紙つなげ!』など。

佐々涼子の作品

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