ボーダー 移民と難民

著者 :
  • 集英社インターナショナル
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784797674026

作品紹介・あらすじ

ウクライナ難民で始まった話ではない。
ミャンマー、スリランカ、イラン、アフガニスタン、そしてアフリカの国々から……。
命からがら、日本にたどり着いた人たちを、
私たちは、どう受け入れてきたのか?

『エンド・オブ・ライフ』でYahoo!ニュース|本屋大賞2020年ノンフィクション本大賞を受賞した佐々涼子の受賞後第一作。

かつて日本語教師として在留外国人と接してきた作家が、人間の心の奥に潜むボーダー(境界)に迫る。
ウィシュマさん死亡事件で一躍注目を浴びた日本の入管・難民問題を、独自の視点で追ったノンフィクション。
難民の受け入れ、入管の改善のために四半世紀にわたり闘い続ける「難民弁護士」児玉晃一。
その奮闘の日々を、現在入管に収監されている在留外国人の取材とともに綴る。
構想から10年。ノンフィクションの旗手、佐々涼子の新たなるライフワーク。


(目次より抜粋)
i 泣き虫弁護士、入管と闘う
私たちを助けてくれるの?
断末魔
囚われの異邦人
馬でもロバでも
アフガニスタンから来た青年
国会前の攻防
ii 彼らは日本を目指した
サバイバル・ジャパニーズ
看取りの韓国人
フィリピンの卵
ハノイの夜
赤い花咲く頃
iii 難民たちのサンクチュアリ
クリスマスイブの仮放免者
難民たちのサンクチュアリ
リヴィのカレー
人の中へ



佐々涼子(ささ りょうこ)
ノンフィクション作家。1968年生まれ。神奈川県出身。早稲田大学法学部卒。日本語教師を経てフリーライターに。2012年、『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』(集英社)で第10回開高健ノンフィクション賞を受賞。2014年に上梓した『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』(早川書房)は、紀伊國屋書店キノベス! 第1位、ダ・ヴィンチBOOK OF THE YEAR第1位、新風賞特別賞など9冠。2020年の『エンド・オブ・ライフ』(集英社インターナショナル)は、Yahoo!ニュース|本屋大賞2020年ノンフィクション本大賞に輝いた。『エンジェルフライト』は、米倉涼子主演で連続ドラマ化、2023年春にアマゾンプライムビデオで配信予定。

感想・レビュー・書評

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  • 【まとめ】
    1 難民に人権のない国
    日本の難民認定率は極めて低い。2022年、日本で難民と認められたのはわずか74人。難民認定率は0.7パーセントだ。
    日本で難民として認められない人たちはどこへ行くのだろう。日本には、非正規滞在者を収容する出入国在留管理庁の施設、通称「入管」がある。ビザがもらえない場合、その人たちはしばしばそこに囚われるのだ。
    その後、ビザを与えられないまま入管から出されることを「仮放免」というが、たとえ仮放免で出てきたとしても、自由の身とはとても言えない。なにしろ働くことが許されず、社会保障もない。誰かの支援に頼らざるを得ず、本当に困った時も行政に手を貸してもらうこともできない。これでどうやって生きていけというのだろう。特に彼らが必要としているのは住居だ。たとえ友人や支援者の下に住まわせてもらうとしても、いつまでも置いてもらうのは難しいだろう。


    2 入管の実態
    バブル当時、日本では建設現場などに人が足りず、いくらでも仕事があった。観光ビザで入国してそのままオーバーステイとなっても黙認されていた。非正規滞在の外国人は、事実上日本の労働力の供給源だったのだ。
    1993年の法務省の調査で約29万9000人、実数では30万人超のオーバーステイ労働者がいたと思われる。
    しかし、この蜜月関係はバブルが弾けて終わりを迎える。警察の取り締まりが厳しくなり、不法滞在者として入管に入れられるケースが多くなっていった。

    90年代半ば、入管では劣悪な環境の下、日常的に暴行が行われており、電話を取り次ぐにも「胸を揉ませろ」と迫るなど、職員による強制わいせつや強姦までが報告されていた。
    入管の施設には、難民として庇護を求めてきた人でも、非正規滞在者の子どもでも、どんな人でも、ビザを持っていなければ収容される可能性がある。それを「全件収容主義」という。入管は司法手続きなしで非正規滞在者を自由に捕らえることができ、無制限に収容できる。

    被収容者への医療についてはその体制の劣悪さが指摘されている。容態が悪くなった被収容者は監視カメラ付きの部屋に入れられて動静監視され、医師に見せるか否かの判断は職員に任される。入管では医療は治すことではなく、「収容と送還に耐えうるだけの健康を維持すること」が目的とされている。
    しかし、道で倒れているなら誰かが救護してくれる可能性があるが、隔絶された場所で医師も呼ばずに見殺しにするとしたら、重大な刑法犯罪ではないだろうか。

    「早く国へ帰れ」という意見もある。しかし実際には退去強制令書を受けた9割以上の人は送還に応じているのだ。被収容者の多くは、理由があって国に帰れず、過酷な長期収容に耐えている。帰れない理由は様々だ。国に帰れば迫害の恐れがあったり、日本に家族がいたり、人生の長い時間を日本で生活していて国籍国にはもう生活基盤がない人もいる。あるいは、非正規滞在者の子どもで帰るべき国を持たなかったり、日本で生まれて国籍国すらなく、事実上の無国籍状態の者もいる。帰れと言われても無理ではないか。そんな人をまるで罪人のように閉じ込めておくのだろうか。

    驚くのは、本来なら庇護されるべき難民でさえ入管に収容されているという事実だ。入管が難民と認めていないのだからあの人たちは難民ではない、と言う人たちに対して、児玉はこんな喩えで彼らの立場を説明する。
    「痛風の人は医師に診察される前から痛風なんですよ」
    つまり、医師に診断を受けて初めて病気になるのではなく、国が認めようが認めまいが、難民は難民なのだ。

    以前は、仮放免によって収容を解かれることも多かった。しかし2018年2月に入管は「仮放免の厳格化」の方針を決定、DV加害者や社会規範を守れずトラブルが見込まれる者など「社会生活適応困難者」も仮放免しないとしている。
    また、2021年2月19日、政府は「出入国管理及び難民認定法改正案(入管法改正案)」を閣議決定し、国会に提出した。この法案では、3回以上難民申請した者は申請中であろうと国に送り返すことができ、さらに送還忌避について刑法上の罪を作り、退去強制命令に背くと刑事罰に処すことができるとした。
    本案は一度見送られたが、その後修正を重ねつつ2024年6月に施行され、難民認定の申請が3回目以降の場合、「相当な理由」を示さなければ本国への強制送還が可能となった。

    入管問題調査会を立ち上げた高橋徹は言う。
    「(2000年代に入り)すごく良くなった時代があったんです。入管職員による強制わいせつの話も聞かなくなった。入管問題に携わる弁護士が入管に調査に入るようになった」
    また、支援者たちの地道な面会によって入管の中の様子が、外部に知られるようになった。それも功を奏したのだろうと言う。
    「手続きも変わりました。難民の仮滞在が認められるようになった。働きながら難民認定を待つことができるようになったんです。形式上はまだ生きているんじゃないでしょうか。制度が設けられて難民認定の手続きが丁寧になり、弁護士のチームもできたので、入管の中が落ち着いてきました」
    ところが、これによって仮滞在申請の濫用が相次いだ。
    「平和な時期は終わって、再び荒れ果ててしまいました。とにかく難民申請。働きたい人は難民申請という時期がありました。だからオーバーステイで働いて、捕まって収容されると、とにかく難民申請する。そうすると私たちとしても支援しにくいんですよ。嘘の物語を作っちゃう。同じ証拠書類をコピペしてたくさんの人が偽装して申請する。入管だって『またか』となる」
    「難民の手続きと、移民の手続き。両方に手を入れて健全化しないと制度は崩壊するんですよ。もともと単純労働で働くには技能実習制度しかない。入り口が厳しいんです。ふらっと働きに来るような人は、とりあえず難民申請して、その手続きの間、働こうって人もいるじゃないですか」
    「移民制度が健全であることと、難民制度が健全であること。その2つが揃ってそれぞれの制度が生きる。どちらかの蛇口が閉まれば、もう片方に流れるに決まっている。制度の青写真がまずい。移民制度と難民制度それぞれをまっとうに位置づけられるシステムにしないとダメということです」

    3 日本の労働を支える技能実習生
    難民に関して、その認定率の低さで悪名高き日本だが、移民についても、安倍晋三元首相は2018年の国会答弁で、「いわゆる移民政策を採用する意図はない」と発言している。日本政府は、移民を「入国のときにすでに永住が決まっている人」と解釈し、建前として日本に移民はいないことにしている。
    現実はまったく違う。実際は、特別永住者を除く在留外国人の3割にあたる80万人が永住資格を持っている。事実上、日本は移民を受け入れているのだ。

    現在、日本の労働力の主流となっているのが技能実習生だ。技能実習生は家族帯同を許されず、決まった年数で帰らなければならない。移住連の鳥井一平は数年ごとに帰ってもらう彼らを「ローテーション労働力」と名づけている。日本はこうやって、ずっと外国人労働者を使い捨てながら経済を回してきた。

    技能実習生制度は、最初は研修制度とそれに続く技能実習制度の二本立てだった。しかし研修制度の名の下に、雇用契約も結ばず安い賃金で長時間働かせる事例が相次いだことから問題となった。そこで法改正をして2009年、技能実習制度に一本化され、最長3年間、企業と雇用契約を結んで働かせることができるようになった。取材当時は、3年間での帰国が必須、延長は認められなかった。
    家族同伴が認められていない労働者が3年以上家族と別居ともなれば、人道上の問題として国際問題に発展する。だが移民は入れたくない。日本で子どもを産んで増えられても困る。だから当時は3年での帰国が条件となっていたのである。
    外国人技能実習生を指導する日本語学校校長の竹内靖はこう言う。
    「東京入管の方にこう言われたことがあります。『日本は純血主義を貫いているんだね。日本に住んでもらっていいのはハイレベルの人たちで、日本の国益にかなう人、つまり西洋人。アジア人は第三国だから帰っていただく』

    外国人技能実習制度は企業にとっての麻薬だ。最初は躊躇していた経営者も、一度その味を知ると、あと1本、あと1本と打つのをやめられなくなる。日本人とは比べものにならないほどよく働き、金を稼ぐことにギラギラしている。今や外国人労働者なくして地域経済は回っていかない。
    何としても安くて優秀な労働力の欲しい中小企業と、どれだけ働いてもいいから金を稼ぎたいという外国人のニーズがぴたりと合ってしまった。それが外国人技能実習制度の始まりだ。

    もしかすると日本人は、この国に来たいと思っている人が無尽蔵にいると勘違いしていたのではないか。定住は認められない、家族も帯同できない、使い捨ての外国人として扱われることがわかっていたら、日本でしか通用しない言語をわざわざ一から学んで日本に来るだろうか。しかもようやく日本語を覚えた人を、たった3年で帰していたのだ。
    それでも日本に来れば金持ちになれるうちはやってくる外国人もいるだろう。しかし日本だけがアジアで経済大国だった時代は終わることも、他国との間で働き手の争奪戦になることも、日本語教育の現場では早くから予測していた。


    4 日本を目指した人々
    フィリピンには技能実習生を送り出す教育施設がある。熱帯の森の中に作られている教育施設は、日本の建設現場での重労働に耐えられるよう、軍隊のような訓練所となっている。
    訓練生の実家がある集落には、水道も電気もない。雨が降ればぬかるむような場所だ。そこにあるのは絶対的な貧困だ。たとえ技能実習がどれだけ大変であっても、たった3年我慢しさえすれば、この生活から抜け出せるなら、喜んで軍隊式訓練にも耐えるだろう。実習生になれば、人生ゲームで一発逆転、ステージが上がる。自分が選んだわけでもなく、たまたま偶然生まれてきたにすぎない境遇を、たった3年の我慢で変えることができるのだ。

    ベトナムでは送り出し機関のことを「センター」と呼ぶ。技能実習から帰った人たちで、日系企業などに就職できない者は、とりあえずセンターで日本語教師になったり、事務や営業の仕事をしたりする。そして3年ほどそこで仕事を覚え、コネクションを作ると、今度は自分でセンターを興し、同胞を日本へ送り出すのだ。そうやって市内には、大小たくさんのセンターが雨後の筍のようにあちこちに生まれている。

    送り出し機関の日本語教育部門で働く佐々木は技能実習制度についてこう語る。
    「確かにひどい労働条件で働かせる会社は今でもあるかもしれません。でも、今はきちんとした会社が増えてきています。ベトナムから実習生を見ていると、ちょっと違うものが見えてくるんですよ」
    最近は、労働者をつなぎとめておくために、福利厚生がきちんとしているところが増えている。空調設備の整った工場で、労働基準法で定められた時間を過ごす。工場のラインをベトナム人だけで動かしているところもある。日本語はいらない。代々ベトナム人がリーダーとなり、そこに来る実習生に仕事を教える。彼らが来なくなったら、工場は即ストップしてしまう。技能実習生が逃げ出してしまうのは、残業代が少ないからだという。死にものぐるいで稼ぎに来ている彼らは、いくらでも残業がしたいのだ。
    「勘違いしてるんですよ。『経済大国の日本に働きに来られて嬉しいだろう?』『どんな仕事でも来たいだろう?』という態度の人がまだまだいる。賃金が安くて、重労働で、日本人が辞めていく仕事に、なぜ外国人だったら喜んで就くと思っているんでしょうね」

    働きたいのに働けない難民がいるのに、働いてほしいのに日本から逃げていく外国人労働者がいる。どこまで探っても日本の政策は、人に対する敬意がなく、ただちぐはぐなだけだった。

    貧しい人が何もせず手をこまねいて生きていたら、その生活からは絶対に抜け出せない。貧しさから這い上がるためには何かしらの元手が必要なのだ。もっとも技能実習に一攫千金の夢を抱くことができるのも、日本とベトナムに天と地ほどの格差があるからこそだ。
    だが現実はどうだろう。ベトナムは私が想像したよりずっと発展していた。ここ数年の急激な変化だ。周りを見渡してみれば、みなスマホを持ち、小綺麗な格好をして街を歩いている。ベトナムが実習生の供給源となるのは、見たところせいぜいあと4、5年だろう。10年後にベトナム人実習生は来ないという意見で、おおかたの日本語教師の見解は一致している。
    10年前は、実習生として地方の中国人や韓国人が来ていたが、今はほとんど来なくなった。
    ホーチミンやハノイなど都会に住むベトナム人も日本には来ない。ネパールの都市部も同様だ。これからはカンボジアだと言っている。
    カンボジアにも見限られたら次はアフリカだろうか?
    日本語教師の知り合いたちは、「その頃にはきっと日本人の若者が出稼ぎに行くようになるんじゃない?」とまじめな顔をして言っていた。日本語教師の予測はいつも経済学者より先を行く。

  • 知らなかった…では済まされないことが現実にある。
    自分の無知を痛感し、まず知らなければと思った。

    入管「出入国在留管理庁」で人生や生活を奪われ、まるで犯罪者扱い。
    難民であり犯罪者ではないのに施設の中に人権などないかのよう。
    命がボロ切れのように放置。
    これが日本なのか、目を逸らさずにはいられない。
    日本は先進国で法治国家だろうというのは建前だけか…と。
    「私の人生の最大の失敗は、日本に助けを求めたことです」
    このことばを言わせたのは、紛れもなく日本であるということが恥ずかしく情けない。
    政治家は、何も知らないのか、知ろうとする気もないのか、とさえ思えてくる。

    あとがきにもあったが、「今、私たちは平和を享受している。しかし、これからも戦禍に巻き込まれないと言い切れるだろうか。その時、私たちに手を差し伸べてくれる国が果たしてあるだろうか」に苦い気持ちになった。

    さらりと新聞を読んだ程度しか知らなかったことをかなり深く知ることができたが、これからの日本を考えると不安の方が多い。


  • 日本への移民と難民について、徹底した取材に基づいて詳細に描かれている作品…。移民と言えば、技能実習生…技能実習生がどんな経緯を辿って日本に来ているのか、今まで深く考えることはなかったなぁ…私の職場にも技能実習生はいるけれど、彼らがいなくなったら…今の仕事成り立たないだろうなって思うとこの作品を読んで大反省しました!!

    そして、ウィシュマさん死亡事件で日本の入管・難民問題をほんの少しだけ知っていた程度だったんだと愕然としました。ウィシュマさん死亡事件は明らかになった事件であって、こういった悲しいことは過去にも起きていたんだと…本当に怖くなりました。

    「国籍や在留資格に関係なく、すべての人が家族と一緒に暮らす、
    迫害の恐怖から逃れる、不当な身体拘束から解放される、
    あるいは、収容されていても適切な医療を受け、命を維持できる。
    いわば当たり前の世界が私の夢です。」と語る、児玉弁護士の言葉が胸に残っています。この社会にある、目に見えない「ボーダー」を取り払うため、私には何ができるだろうか…考えさせられる一冊になりました。佐々涼子さんの作品は、どれも心を打つものですが、この作品も読めて良かったと思いました。

  • これが「おもてなし」の国、日本で起きている現実だと思うと戦慄する。

    日本での難民申請者の弁護を長年続けている児玉弁護士の活動は、まさに地獄に仏。
    しかし、国際難民条約に加入している国でこんなひどいことがまかり通っていることが事態が異常だと言えよう。
    日本が難民条約に加入しているからこそ、そこに望みをつないでくる難民も多いはず。

    経済や政治的事情によって、弱い立場の人の命が左右されることがあってはならないと、強く感じると共に、一人でも多くの人にこの現状を知ってもらいたいと感じた。
    2024.1

  • 佐々涼子さんに聞く 苦しみ乗り越え 上を向く瞬間描く | K-Person | カナロコ by 神奈川新聞(2016年3月13日)
    https://www.kanaloco.jp/special/serial/k-person/entry-658.html

    ボーダー 移民と難民 | 集英社インターナショナル 公式サイト
    https://www.shueisha-int.co.jp/publish/ボーダー

  •  中島京子さん著『やさしい猫』を読んで、入管問題に興味を持った。興味を持って日々過ごしていたら、テレビや新聞、本など、入国問題を扱っているものが目につきはじめ、改めて自分が今までどれほど無関心だったかを日々感じている。

     著者もあとがきでこう書いている。
     
     ○「日本に難民は来ていない、ほとんどが偽装難民だ」といわれれば、そんなものかと聞き流し、思い返すこともなかった。つまり入管問題を作り出し、放置していたのは、他ならない、無関心な私自身だったのだ。今私たちは平和を享受している。しかし、これからも戦火に巻き込まれないと言い切れるだろうか。その時、私たちに手を出し差し伸べてくれる国が果たしてあるだろうか。

     日本は1981年に難民条約に加入している。しかし、難民として受け入れることはかなり珍しく、自国に帰すか、それを拒否する人は、入管収容所に長期に渡り閉じ込める。収容所では人権などなく、本当に日本人がそんなことをしているのか?と直ぐには信じられないような残酷な対応をしているという。

    (日本に助けを求めにきた外国人の話・本文より)
     ○俺は、日本は難民条約に入っていると信じていた。日本は先進国で法治国家だろうと。もしこれからも難民を受け入れる気がないなら、建前だけ掲げている人権国家の看板をおろし、難民条約から脱退してほしい。だって実際、この国は人権国家じゃないんだから。そうすれば間違って日本に助けを求める外国人も減るだろう。お互いハッピーじゃないか。俺も他国に助けを求められる。

     こんな状況を看過している国のトップを私はとてもじゃないが信用できない。現在、歴代の総理大臣を思い浮かべて、え?あの人もあの人も、何もしてこなかったのかと愕然とする。日本人であることが、恥ずかしく、罪深く感じた。

     佐々さんはもともと日本語教師をしていて、その関係で、第二章は、日本語教師の視点で外国人技能実習制度について詳しく書かれている。個人的にはこの章が一番よく書かれていると感じた。

     この章で、衝撃を受けた。日本の国力は下がっており、近い将来、日本に出稼ぎに来るメリットがなくなり、実習生が来なくなるだろう。そして後々、日本人が外国に出稼ぎに行くことになるかもしれない。というのだ。日本に実習に来ている、または行こうと用意してくれている外国人に日本語を教えている人達がそう見ているのだ。生の感想だろう。

     入管問題をもっと知りたいとこの本を手に取ったが、取材した個々の案件の事が主だったので、全体像はまだよく掴めなかった。これからも関心を持ちつづけていきたい。

  • “私たちは、日本にとって役に立つ人間になろうと努力してきました”

    名古屋入管で、治療の必要を訴えたのに嘘つき呼ばわりされて、放置されて、亡くなった女性の事件で注目を浴びた、入管。出入国在留管理庁。

    在留資格が何らかの事情で、途絶えてしまった。すると、入管に“入れられて”しまう。環境は劣悪で、空を見ることもほとんどなく、ぎゅうぎゅうに狭い部屋に詰め込まれる。そして「国へ帰る」と言うように仕向けられる。犯罪を犯したわけじゃない外国人が、そんな扱いを受けている。

    日本は難民を受け入れます、という難民条約に入っている。でも、難民として受け入れる数はものすごく少ない。

    また、移民もしかり。日本は移民を受け入れない、としている。しかし安い労働力は欲しい。そのため、貧しい国の人は日本の素晴らしい技術を教わりにくるといいよ、という『外国人技能実習生』という制度がある。一定の期間だけなら、日本にいてもいいよ、でも、国に帰ってね、という制度だ。

    “日本は難民条約に入っていると信じていた。もしこれからも難民を受け入れる気がないなら、人権国家の看板を下ろし難民条約から脱退してほしい。だって実際にこの国は人権国家じゃないんだから。そうすれば間違って日本に助けを求める外国人も減るだろう。お互いにハッピーじゃないか。そうすれば、他国に助けを求められる”

    私も無知だったし、無関心だった。私の周りでもそうかもしれない。日本が好きで、日本に来てくれた外国人に対して、日本政府がこんなに非人道的な対応をしてる事を、知らなかった。日本に来た外国人に、こんな絶望の気持ちを抱かせているなんて、知らなかった。ニュースなんかでは知り得ない話を、著者は丁寧に取材して、熱く書いてくれている。

    表紙の、ずっしりと重そうな、丸々とした赤ちゃん。この子は、鎌倉の『アルペなんみんセンター』で生まれた。命からがら、国から逃げてきて、日本に保護を求めたのに、手を差し伸べてもらえなかった外国人を保護する目的で設立された施設。ここでは、たくさんの地域のボランティアで賄われている。

    日本政府には、冷たくあしらわれるけど、個人や地域では、手を差し伸べる。この違いはなんだろうか。

    “私たちは今、人間としての心のあり方を問われている。今後、少子高齢化多死社会を迎え、外国人を受け入れない選択肢は無い。ならば、どうやって共に暮らしていくのか、未来が私たちの手にかかっている”

    この本を読み進めるのが、とても辛かった。これは、ごく一部の話だ、とはたぶん言えないだろう。でも、このことを知ることで、この後の未来を変えようとすることができる。まずは、知ることだ。今、たくさんの人に読んで欲しいと思う。

    • ひゃっほうさん
      しらい弁当さん、こんにちは。
      私も関心のあるテーマです。読んでみたいと思いました!素晴らしいレビューをありがとうございます。
      以前、ブレイデ...
      しらい弁当さん、こんにちは。
      私も関心のあるテーマです。読んでみたいと思いました!素晴らしいレビューをありがとうございます。
      以前、ブレイディみかこさんの著作の中で人種差別について触れた際「人間は知らないものを怖いと感じる」と書かれていました。そこから拒絶や批判が生まれ、差別につながると。
      どんなことでもまずは知ることが大切ですよね。
      2023/07/15
  • 心が痛い。
    読んでいてこんなに心が痛むノンフィクションは、他にない。
    罪悪感といたたまれなさに、何度も読むのを止めようと思った。

    日本には「入国管理局」の名の下に、平然と人権を蹂躙して「正義」を標榜する機関がある。どんなに証拠を積み上げても、難民として認定することを拒んでいるという事実がある。難民認定にも人種・国籍の差別がある。そしてそのことを、日本人のほとんどが知らない。知ろうとしていない。ウクライナ避難民受け入れの美談に酔って、「日本は良い国だ」という偏向報道の歪みのままに、日本礼賛に旗振りをしている。

    吐き気がする。
    自分自身の無知と無関心の罪深さに狼狽えるばかりだ。
    本書の終わり近くでは、鎌倉市の方々や市行政の方々の、温かい支援や難民支援に向けた国への働きかけのことが紹介されている。けれど、結局はそれも「善意」のレベルで止まっていて、国を変えるための「政治」には繋げられていない。子ども食堂に感じるのと同質のものを、ここにも感じる。

    ささやかな善意の積み重ねは不可欠だ。それを否定するつもりは微塵ない。自分自身もそうして動いている人間の1人だ。
    けれど、それは結局、隙間埋めにしかならない。大きく壁がくずれているところにいくらパテを塗ったって、風は入るし水は漏れるし、いつかは建物自体が崩れ落ちる。

    佐々さんの本を読むと、いつも、何かしなければという責め立てられるような思いに駆られる。
    何ができるのか?どこから始めればいいのか?
    答えはないけれど、まずは動こうと思う。
    読者の責任はそこにある。

  • すごいと読むたびに思うノンフィクションの書き手(ご自分の身を削りながらお書きになっているのだろう)佐々涼子さんが、日本の難民、移民、技能実習生について取材されたもの。
    この問題についてはいつも自分に何ができるのだろうかと考えさせられる。児玉晃一弁護士、お名前はよく拝見していたが、この本を通じて身近に感じられたので、ご活躍を今後も追っていきたい(この問題での「ご活躍」の場があるのが良いのか悪いのかは別にして)。

  • 難民の受け入れ、入管の改善のために四半世紀に渡り闘い続ける「難民弁護士」の奮闘の日々を、現在入管に収監されている在留外国人の取材と共に綴られています。

    先日、中島京子著「やさしい猫」で日本の信じがたい人権侵害・悪法について知り、かなり衝撃を受けたところ。
    ウクライナ難民で始まった話ではない。日本でも受け入れられていますが、日本の難民認定率は1%にも満たない低さ!!
    果たして受け入れたその後は…?
    ウクライナ以外の国からの難民希望者の対応は…?
    本書は、日本であまり知られていないその現実について綴られています。

    無知・無関心は大きな罪を作り出す。
    入管では、もし家庭や介護施設であれば犯罪になるようなことが罷り通っている。司法手続きなしで非正規滞在者を自由に捕らえることができ、無制限に収容できる。
    入管法改正法案は更にひどい…。
    助けを求め、希望を持って日本という国に渡ってきた人たちに申し訳なさすぎて言葉にならない。

    いつか自分達が外国に助けを求めたとして、まるで犯罪人のように扱われ自由もなく、同じように扱われることをどう考えるのか。
    人権侵害も甚だしい。
    かつての「ハンセン病患者隔離」のように、ひっそりと人生を狂わされている人がいる。

    『私たちを助けてくれるの?』

    少女の声が頭から離れない。
    本書は是非多くの人に読んで知って頂きたいと思います。

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著者プロフィール

ノンフィクション作家。著書に『エンジェルフライト』『紙つなげ!』など。

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