大学自らの総合力: 理念とFDそしてSD

著者 :
  • 東信堂
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  • Amazon.co.jp ・本 (170ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784798900018

作品紹介・あらすじ

FDは教員の授業能力向上だけを、SDは職員の事務能力改善だけを意味しない。行政や社会の政策的要請に追われた対症療法的改革を超え、歴史が培った理念と建学の精神に立ち、大学の刷新に繋がるもの-それは全てFD・SDだ。それら創意と研究が生み出し、導き出した、大学自らの幅広い総合力こそが大学を救う。著者積年の思考を凝集した渾身の時論集。

感想・レビュー・書評

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  • 2010年に発行された寺崎昌男先生の本。
    夏休み中に大学人マインドを覚醒すべく再読したのだが、やっぱりいい!
    8章から成る小論と講演集は、大学とは何か?大学人は何をすべきかを端的に考えさせてくれる。今回響いた箇所は以下のとおり。
    ・大学はあらゆる近代教育制度の王冠である(5p)
    ・日本が求めるべき大学改革は(中略)、大学の内発的欲求による自主変革であるべきだ (18p)
    ・学部は最初、行政組織に適合するように作られ、歴史を経て、大学の基本的組織、教授集団から成る審議体、そして大学自治の中核として存立し発展した(36p)
    ・職員は大学・高等教育政策の動きを知っていなければ勤まらない(120p)
    ・職員は政策の現在と今後を見通し、場合によってはそれを利用し、ときには反論もしなければならない(123p)

  • 大学改革の歴史、FD・SDの取り組みについて。

    アメリカやドイツの大学教員論の蓄積は悔しいけど深いという部分がとてもおもしろい。
    アメリカやドイツの大学教員は、「研究か、教育か」ではなく、「研究も教育も」をかなり高度に求められており、それを数百年間かけて築き上げてきたそうです。

    では、大学教員の要件とはなにか。
    アメリカのアーネスト・ボイヤーの有名な(初めて知りました)スカラーシップ論によると、次の4つである。
    ひとつめは、discovery(発見)、すなわち研究。
    ふたつめは、integraton、すなわち総合。
    みっつめは、application、すなわち応用。
    よっつめは、teaching、すなわち教授。
    日本の大学教授の多くも、(1)ディスカバリーは学会などでやっているし、(4)ティーチングは近年では多くの教授が関心を注ぐようになってきている。
    しかし、アメリカやドイツでは、それだけでない。インテグレーションとアプリケーションもきちんと埋め込まれている。
    インテグレーションというのは、自分の専門を教えるだけではなく、近接領域、境界領域、他領域等々さまざまな領域のことを知らなければ、実は自分の領域のティーチングもできないということ。
    さらに、アプリケーションは、(理論を現場に応用するだけでなく)むしろ現場から研究テーマを発見し、さらに理論に磨きをかける理論と現場の往復運動ができること、をいう。(以上、46-49頁)

    その他にも、メモ。
    「規範というものは、基本的には、学生の内面に形成されるものです。その形成の重要な部分を担うのは、正課外の教育です。正課を教える大学教員の責務は、規範それ自体を教えることではなく、規範の基礎、成立根拠を、正確丁寧に教えることです」(70頁)。
    「『○○大学ならでは』というFDやSD」をどう考えるか」(77頁)。
    ・大学改革論としての大学アーカイブズ論(136頁)
    ・学生、職員、教員の大学アイデンティティ確認としての自校教育(125頁以降)

  • 多くの中規模の大学は、リベラルアーツを標榜している。またほとんど例外なくその意味を問われている。建学の精神や原点に立ち返り、しかし目の当たりにした学生を思いながらそれを考える。答えは抽象化せざるを得ず、「専門学の意味を自分自身の生き方との関係で問い直し、課題意識を持って学ぶ学生を育てる」というある大学の例もある。
    リベラルアーツを現代的に探究の実質化が改革の実際なのだろう。

    本書は結構血なまぐさいことにも言及している。
    教員評価は、研究業績はもとより、学生の授業アンケート、シラバス、テキスト、教員自身の教育目標を踏まえるよう、言っている。アメリカから学ぶべき。とのこと。

    大学教員の要件:discovery, integration, application(応用), teachig

    多様なFDの呼び名:Insitutional Development, Professional D, Managemnet D, Personal D

    研究支援は実は大事なFD。これは個人的に大発見だった。研究計画の盛り込めそうだ。pp.90

    大学リテラシー
    1.大学組織の特性研究:社会学から
    2.アイデンティティの共有:自校教育
    3.政策研究:3~10年、答申等を読み洞察する。
     発生・本質・特色を知悉する。

    最後に大学アーカイブスに触れられている。
    20代の頃は、よくわからず漠然と遠い存在と理解していた。
    職場が100周年を迎えるとき、文書を一つ一つ紐解き、
    学園史を編纂するスタッフの献身的な作業が必要だ。
    早い時期にその準備開始時期か来るだろう。
    壮大かつ重要な仕事な仕事だということが分かった。

    2011.12.10追記
    本学の歴史を振り返る時期が意外に早く来たので、本書を読み直してみた。
    とりわけ今回引用した2か所は重要な示唆だ。

  • 現在の大学には6文字、4文字の怪しげな学部名が多い。
    通常慣用している学部分類は、体系論や分類は、中世ヨーロッパ大学に起源を持ち、19世紀のドイツで整備された。法、文、理、工、商など。
    リベラルアーツの教育はきわめて重要。
    大学という業界の特殊性の1つは企業秘密がないこと。真似をして、良いところは取り入れて共有すれば学生にも大学にも利益になる。
    アメリカの大学は90%以上がアーカイブズを持っている。自分たちの大学はどんな人材を送り出しているのか、どういう活動を行ってコミュニティに貢献しているのかをドキュメントを整理し公開している。

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